博士の風変わりな研究と飯のタネ(15)

「さてさて。五人とも出て行ったことだし、私はそそくさと自分の仕事をする事にしようと思うのだがね。」

 うむうむと頷きながら、Dr・フェネクスはぱちりと指を鳴らした。それを合図に、彼が座っている周りの床が抜け、下から大掛かりなモニターがせり上がって来る。

 Dr・フェネクスはその様子を満足げに眺めながら、自分の仕事机の上に乗せていた猫耳付きのカチューシャをガシーンと装着する。

「“猫耳型思考感応装置”。 通常のイメージフィードバック装置を改良! 猫耳を模する事で性能を約3倍にする事に成功したのだよ。角をつけて赤くするのと同じ倍率と言うのが、実に素晴らしいと思うのだがね。」

 そんなどうでも良い事をのたまいながら、脚を組み、頬杖を突くDr・フェネクス。絵的には激しく悪役っぽいが、言っていることと装備がからっきしである。

 巨大モニターは一度点滅すると、まるでパソコンのデスクトップのような画面を映し出した。 そしてそれは、まるで、と言うか、そのままデスクトップなのだった。

 魔法文明と科学文明が発展したこの世界には、電子回路と魔法回路を併用したコンピューターがあった。 通話用のケーブルや専用ケーブルを使用したインターネットまである。 いまDr・フェネクスが準備しているのは、彼専用のスーパーコンピュータなのだった。 Dr・フェネクスが今装備しているカチューシャで思考を読み取り入力する事により、その入力スピードと量は、驚くべきものになるのだった。

「このアクアルートはいたる所に監視カメラなどがあるからね。ハッキングすれば、居ながらにして様々なことが出来ると言う寸法だね。 街に転がっている工事用機械もコンピュータ制御だからね。此方も利用させてもらおう。壊してしまうかもしれないが、働くお父さんお母さんお兄さんお姉さんには諦めてもらうしかないね。私の楽しみのためである訳だしね。」

 無茶苦茶な事を言いながら、眼鏡を掛けなおすDr・フェネクス。 そんな彼の前のモニターのなかに、突然人の姿が浮かび上がる。 まるで執事のような服に身を包んだその男は恭しく頭を下げると、ゆったりと落ち着いた笑顔を浮かべた。

「御久しぶりです。Dr。 このごろ私が呼び出されて居ない所を見ますと、どうやら篭りきりで研究をされていた御様子。 偏った食生活などされていませんか?」

「久しぶりだね執事君。 いやいや。偏った食事と言うが、白米だけの生活で恐ろしい力を発揮する人物も居るこの世の中だよ。それも悪くはないと思うのだがね?」

「ジェーン様のことですか。しかし彼女は特殊も特殊。 数千年もお世話をさせて頂いてきたわたくしの経験から言って、Drがそのような事を仰られる時は、何も召し上がっていらっしゃらない時と判断せざるを得ないのですが?」

「はっはっはっは! 見抜かれているね! まあ、その事についてはあとでしかられる事にして、仕事をしなくてはならなくてね。サポートを頼みたいのだがね。」

「は。すぐに準備を整えましょう。この街の大半のカメラと工事機械に流したウィルスは健在なようですので、すぐさまお仕事を始めていただけるものと思います。」

 とたんに、モニター上から執事が消え、画面が目まぐるしく動き出す。 倉庫街、道路、店の中。ありとあらゆる映像が次々と映し出されたはきえていく。

「さてさて。今日は情報化社会での冒険者の渡り方と言うのを、ご覧に入れようと思うのだがね。」

 ニヤリと笑うDr・フェネクス。が、頭の猫耳カチューシャが全てを台無しにしている事は・・・言うまでも無い。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(14)

 六発装填型回転式拳銃。二対一体にして、ジェーンが魔術師としての全知識と経験、技術をつぎ込んで作り上げた逸品。 銘“オルトロス”。

 炸薬、魔力炸薬は勿論、液化、気化、固形、ありとあらゆる炸薬と打ち出し方式に対応し、有効射程は最大2400mと言う、常識を逸脱した“魔術師の工芸品”である。

 勿論弾頭も、様々なものに対応している。魔力結晶、通常弾頭、水銀、貫通、炸裂、魔法添付式・・・。必要ならば弾丸を打ち出すその瞬間に魔方陣を書き込むことすら可能。 拳銃を使う魔法使いにとって、コレほど便利で高性能な・・・扱い切れないほどの性能の銃は無いだろう。

 

「何発打たせる気だよあのトンチキ・・・。」

 壁に背を預けながら、弾丸を込めるジェーン。 テンガロンハットを目深に被りなおしながら、只管にダルそうな顔で毒付いている。

 あのトンチキと言うのは、無論英児の事であった。 手数の多さと回避力にものを言わせるジェーンに対し、英児の戦術は鉄壁と一撃必殺。 決着が付く時は一瞬だが、長引けば永遠に続いていくパターンの典型ともいえる組み合わせだったりした。 普通の人間同士であれば一発のダメージが致命傷に成ったりするのだが、御互いプロである。そうそう簡単に傷は負わないし、負ったとしてもいくらでも回復方法を用意してあるのだ。

「このまま行くと共倒れか。 ・・・それは、だめ・・・あたしは・・・。」

 急に無表情になったかと思うと、片言のようなたどたどしさでブツブツと何事か呟き始めるジェーン。 が。ゴカァン! と、後頭部を寄りかかっていた壁に叩き付けると、全身から気だるさを放ち始める。

「あぶねぇ〜・・・。 まじあぶねぇ〜。クッソ。こんな時にこんなことしてる暇ねーんだってのに。 こっちがあぶねーよ全く。」

 ダルそうでありながらイライラしている感じが滲み出ているという、実に器用な顔をするジェーン。

「あっちまだ本気出してないみたいだしなぁ。 こっちも拳銃一丁しか使ってないけどさ・・・。」

 と、一人呟いていたジェーンの耳に、ベシャッ と言う間抜けた音が入ってきた。見れば、アッシュが何も無い所でこけているではないか。

「あのクビがツカマらねーのは、ぜってー賞金稼ぎ同士が潰しあうからだ・・・。」

 

「相変わらずやりやがるぜジェーンの奴・・・!」

 壁に背を預けながら、英児は楽しそうに呟いた。自慢の装甲と剣のコンディションを見、満足げに頷く。

 英児の装備のエネルギー源は、英児自身の感情の高ぶりだった。 いまのように装備に魔力が満ち満ちているということは、それだけいま興奮状態にあると言うことである。

「御互い壁越しでもあっちは魔術師だからな。 こっちの動きは見られてるだろうし。落ち着いちゃいらんねーってのは・・・ちと辛いか。」

 コキコキと首を鳴らしながら、英児は今の状況を分析し始めた。

「御互い本気もなにもだしちゃいねぇ。当たり前か。クビ巻き込んだらお終いだからな。別に潰しあいしてるわけでもねーンだし。 問題はどうやって・・・いや・・・なぜ・・・。」

 呟く英児の声が、徐々に小さくなっていく。 それに呼応するように、装甲のアカがどんどんとその色を失っていく。 と。「チッ!」と、英児は舌を鳴らすと、「うおぉぉぉぉ!!」 と、一声空に向かって吼えた。 すると、次の瞬間には装甲がその色を燃える様な鮮烈な赤に染まりあがる。

「くそ・・・! いまはそんあこと悩んでる場合じゃねーってンだよ!! 熱く! 熱く!! 熱くだチクショウ!!」

“もといた世界では冷静沈着と言われていた自分”を鼓舞して、無理矢理に感情を高ぶらせる英児。

「もう良い。次で決めてやらぁー。様子見なんて俺じゃねぇ。一発派手に決めて、きっちりクビもとっつかまえる!」

 と。一人気合をしれていた英児の耳に、ベシャッ と言う間抜けた音が入ってきた。見れば、アッシュが何も無い所でこけているではないか。

「野郎が捕まってねぇーのは、賞金稼ぎが潰しあうからか・・・。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン

 もう何年も前になる。

 ジェーンはどこにでも居る、ストリートチルドレンだった。

 都市国家であるレニスでは、そう言った子供たちを引き取り、養育する施設があった。 キチンとした制度も環境もありながら、ジェーンはそれを拒んだ。

 理由があったわけではない。 飼いならせれるのが嫌だったのかなんだったのか。幼心に、あそこに行くのだけは嫌だと思っていた。

 パンを盗み、着るものを盗み、飲み物を盗む生活を、ジェーンは当たり前のようにしてきた。 盗み方すら、先輩ストリートチルドレンから盗んだのだ。

 徹底的に盗み、したい事をして、好きなように生きていたジェーンが、Dr・フェネクスに出会ったのは。彼女が5歳かそこらのときである。

 

「ふむ。ものとりかね?」

「そう。 たべものおいてけ。」

「断るね。 私も久しぶりの食事なのでね。 まあ、どうしても欲しいというならば、おすそ分けしないでも無いが。」

「わけるな。 ぜんぶとるから。」

「施しは受けないと言うことかね?」

「? もらうのはきらい。 じぶんのぶんは、ちからずくでうばう。」

「はっはっはっは! なかなか豪胆な少女だね君は! よかろう。ならば私も遠慮はしない。奪われないために、君に失礼の無い様お相手しよう! しかし、いま私から奪える食料はたかが知れているよ。 君が勝ったあかつきに奪い取れるであろう食料も、実に微々たる物だ。どうだろう? 私はこれから研究室へ帰るのだが、その私の後を付け、大量の食料を視認した後私を倒すというのは。」

「・・・? んん?」

「要するに、私の家で私を倒した方が、御腹が一杯になるということだね。」

「・・・・・・。」

「警戒しているのかね? 無理もないね。君は僕が冒険者であることを知っているようだね?」

「ずっとあとをついていった。」

「冒険者協会の建物から出てここまで、ずっとだったね。 いやいや。中々気がつきにくい隠れ方をしたものだね。感心したよ。 そして、安易に私のテリトリーに入ろうとしないのも、良い判断だね。  ふむ。 君は、労働に興味が有るかね?」

「ろうどう?」

「私のうちに来て私を手伝ってくれ、と言う意味なのだがね。 こう見えて私は研究者だね。 色々と仕事が多いのだよ。 勿論、労働に見合った対価はお支払いするつもりなのだがね。 なんなら、通勤し易いように住居も貸そう。悪くない条件だと思うのだがね?」

「・・・? んん?」

「つまり、君の“力”で私を手伝い、“報酬”を“ぶん取り”たまえ。と、言う意味なのだがね。」

「ちからで、ぶんどる。」

「そうだね。」

「やる。」

「ふむ! 契約成立だね。 案内しよう。付いて来てくれるかね?」

 

 こうして、二人の妙な共同生活は始まった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(13)

 アクアルートの、撃ち捨てられた倉庫街。 その中の一つ。“Dr・フェネクス研究所 兼 個人冒険小屋”に、その面子はたむろっていた。

 “ガルシャラ・カーマイン”“テト・ウルフ”の冒険者コンビ。 そして、“ループループ”“シュナ・ブリット”“パペッター(人形遣い)”そして、いまはループの膝の上で眠りこけている“ナップ・ラグタイム”の、戦士団4人組みだ。

 この六人は、それぞれテーブルを挟んでソファーに座っていた。

 ついさっきまで戦っていたのだから、御互いリラックスできる訳も無く、何となく殺気立った雰囲気を互いに放ちあっていた。 テトとシュナなどは、お互いにガンを飛ばしあっているほどだった。

「・・・で、呼び集めてどうするつもりだ? Dr。」

 にらみ合うのに疲れたかのように溜息を吐くと、ガルシャラは長テーブルのお誕生日席に陣取り足を組んでいるDr・フェネクスに顔を向けた。 賞金首を取り合って争っていた六人を止め、この場に集めた人物。 それは誰有ろう、Dr・フェネクスだったのだ。

「はっはっは。 友人同士が戦っている様と言うのは、見ていて胆が冷えてしまってね。止めに入ったのだよ。 それに、目的もあったしね。」

 Dr・フェネクスは懐からシガレットケースを取り出すと、中から葉巻を取り出し、咥える。

「その前に聞いておきたいのだが、君たちの目的はなんだね? ああ、と言っても、金が手に入ったら何をしたいのか、と言う意味なのだがね。」

「・・・・・・ああ。なるほど・・・。」

 何か合点がいったのか、大きく頷くガルシャラ。 かけたサングラスを押し上げると、リラックスしたようにソファーに深く座りなおす。

「少しミスをしてしまって、食堂の親父に車を取り上げられてな。 取り返すのに大急ぎで20ほど用立てないといけなくなったんだ。」

「って。ちょっと! あんた達たった20のために首かろうとしてたの?! 頭可笑しいんじゃない?!」

 馬鹿にしような怒ったようなシュナの売り言葉を、テトは言い値で買う事にしたようだった。 こめかみに血管を浮かび上がらせると、限界までメンチを切ってテーブルにドカンと足を乗せる。

「うっせぇ! 財布落としたんだから仕方ねーだろーが!!」

「はぁ?! 財布落としたぁ?! アンタそれでも冒険者なの?! 自己管理ぐらいしっかりしなさいよね!!」

「金なんざ落としたって稼げるから良いんだよ!! 生憎俺等はテメーらより稼ぎもいいしなぁ! 腕が良いからぁ?!」

「な、何ですってぇ?! この白髪チビ!!」

「誰がチビだ!! 焼くぞこら!! 俺は普通だっつーの! ガルシャラがでかすぎるからそう見えるんだよ!!」

「はっ! 私よりちっこいくせに良く言うわ〜!」

「うっせぇばーか! じゃあ、テメーらは何でこの首追っかけてんだよ!! テメーらがただ賞金首追ってるっつったって説得力ねーぞ?!」

「う・・・!」

 テトの突っ込みに、思わず硬直するシュナ。 彼等4人組み。“二十日鼠”は、2ヶ月前に行われた小規模な国家間戦闘に傭兵として参加していた。 狭い業界である。誰がどちら側についたかと言うのは、簡単に調べられる情報だ。 “二十日鼠”はその戦闘では勝利側に所属していたため、相当の報酬を手に入れているはずなのである。 それこそ、一年以上は遊んで暮らせる額を手に入れたはずである。 故に、いまここで3万程度の賞金首を血眼になって追っているというのは、リスク的にも金銭的にも、考え難い状況なのだ。

「そ、それは・・・。」

「さいしょにあのしょうきんくびをつかまえたひとが、るーぷおにいちゃんと、おかいものにいけるんだよぉ〜!」

 ビクゥッ。 突然起き上がり、元気良く宣言したナップの言葉に、凍りつくシュナ。ちなみに、ナップは猫人と人間のハーフであった。 手や足は毛皮に覆われ、その毛皮は顔の頬まで来ていた。耳は、お約束のように猫耳で、目も猫のそれだった。 言うなれば、リアル肉球猫耳っ子といったところか。 身長は一メートルちょっと。猫人の平均身長が140〜160cmであることを考えると、ちょうどお子様最高潮といった所だろう。

「な、なな、なにいってるのよ、ナップ?!」

 動揺して声を裏返しながらあとずさるシュナの様子に、ナップは不思議そうに首を傾げる。

「だって、やどやさんでおやくそくしたもんっ! さいしょにしょーきんくびをつかまえたこが、るーぷおにいちゃんと、ふたりっきりでおでかけなんだもん!」

 ぱたぱたと手を動かして主張するナップに呼応するように、パペッターもコクコクと頷く。もっとも真っ黒なローズに包まれたその動作は、少し解り辛いものな訳だが。

な、そ、だから、あれはその・・・!」

 ループは、挙動不審に成るシュナを眺めながら、キョトンとした顔で小首をかしげていた。 どうやらこの状況を理解していないらしい。

「・・・なぁ、Dr。たしかパペッターって女性だったよな?」

「うむ。なかなかの美人だったと思ったね。 彼女は気を許した相手の前で無いと、顔を晒さないようでね。」

「・・・う〜ん。 ループのヤローを五〜六十発ぶっ飛ばしてやりてー衝動に駆られるのは俺だけか・・・。」

 ラブコメってンじゃねーよ。そんな目で4人を睨みつけるDr・フェンクス、ガルシャラと、テトの三人なのでした。

「兎に角だよ。 ガルシャラ達の目的は“僅かな金”。 ループ達の目的は“賞金首を自分達が捕まえること”。 私の目的は、“賞金首を追う者達の攻防を見物すること”。ならば、利害は一致していると思うのだがね。」

「俺たちが周りの賞金稼ぎを足止め、“二十日鼠”の面子がクビを掴む。 Drは、周りの状況を六人全員に伝える。要するにナビゲーターになるって訳だ。」

「その通り! この条件ならば全員が満足する結果が得られると思うのだがね!」

 ぱちりと指を鳴らし、満足そうに葉巻の先を噛み切るDr・フェネクス。指先に魔法の炎を灯すと、その葉巻に火を入れる。

「そうだな。悪くない条件だ・・・。 どう思う? テト。」

「考えるのはガルシャラの仕事だろー。 俺は何でもいい。」

「じゃ、決まりだな。 俺達はOKだ。 その条件でやらして貰おう。」

「おお! 乗ってくれるかね! コレは実に有意義な時間が過ごせそうだね!」

 ガルシャラの言葉に、実に嬉しそうな笑顔を作った。

「で、“二十日鼠”の連中は・・・。」

「わたしがループおにいちゃんと、あいすたべにいくんだもん!」

「だ、だから! そんな話をしてるんじゃなくて・・・!」

「(こくこく)」

「全然話が見えないんだけど〜・・・?」

「・・・。 とりあえず、あの惨状が一段落付いてから話した方が良さそうだと思うのだがね。」

 未だにラブコメっている4人を前に、“とりあえず殴りたい”オーラを放ちまくる三人であった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 Drレポート

Q、まずはお名前を。

「私には名前が無いのだがね。 色々な悪魔が混ざっているせいか、コレと言って特徴も無いしね。 元々はフェネクスだから、Dr・フェネクス、プロフェッサー・F、などと呼ばれているよ。」

 

Q、ご職業は?

「冒険者だね。冒険者。 ああ! 実にスリリングでよい仕事だと思うよ! 本当ならば私もガルシャラ達の様に“冒険屋”を名乗りたいのだが、彼等ほど卓越しては居ないからね。 細々と冒険をする者として暮らしているのだよ。 実は冒険者と言うのは、スリルの割りに収入が余り宜しくなくてねぇ。 命がけの仕事の割りに貰いは傭兵ほど良くないのだが、まあ、それでも食い扶持と研究費用、研究対象には困らないからね。私には最適の仕事だと思っているよ。」

 

Q、ご専門は?

「魔法も使うし、腕力にも少々自信があるね。 こんななりなのだがね。はは。 まあ、様々な悪魔の特性を得ているが故に、専門になることは無いと言って良いよ。全てがそれなり・・・。 まあ、いまは趣味として兵器を作っているね。 魔剣や機動鎧。パワードスーツなどなど・・・。 最近作ったもので自信があるモノとしては、“クマ耳型人体リミッター解除装置”だね。 コレは脳がかける人体活動のリミッターを解除する、いわば火事場のクソ力を強制的に引き出すための道具でね。是非、純朴な田舎の少女につけてもらいたいのだよ!」

 

Q、得意技(戦闘系)など一つ。

「私は専用の隔離世を持っていてね。言うなれば私専用の別次元といった所か。そこに相手を引きずりこみ、そこに用意して有る無尽蔵の“私の魔力結晶”を使って戦う・・・といったところかね。 結界世界“紫の結晶原”。それが技の名前であり、その世界の名前だね。」

 

Q、悪魔的には、神様とか怨んじゃったり?

「そうでもないねぇ。私は元天使だったのだが・・・いや、ただのフェネクスの時の話なのだがね? その気になれば私なぞ、一瞬で消す事も出来ただろうに。それをしなかった。神とは慈悲深いね。 いや。もしかしたら、私は堕天する事になっていたのかもしれないね。悪魔になるために。 これは想像なのだが、我等悪魔は必要なものなのかもしれないね。人をたぶらかし、貶め、打ち破られる存在として。つまりヤラレ役だね。ま、私の勝手な想像だよ。忘れてくれたまえ。」

 

Q、魂喰ったりします?

「しないね。 いつも言ってるのだがね。私は別に“悪魔の契約”と言う奴や、取引をしなくても、食料と水があれば生きていけるのでね。まあ、無くても死なないのだがね。不死だけに。 もっとも、契約や取引に関してはすることは有るね。魂や何かを奪うためのものではなく、格好をつけるために。 いやいや! 悪魔で有る私が契約と言う言葉を口にするのは、なかなかにかっこいいとは思わないかね?!」

 

Q、最後に、何か言いたい事があれば・・・。

「ふむ。失せ物、荒事、悩み事。 困った事があったら冒険者協会に足を運ぶと言い。きっと、役に立つ人物を紹介される事だろう! そしてもし、そこで私が紹介されたなら。そのときはこの私。全精力と情熱を持って、その依頼をに取り組もう! もっとも。解決できるかどうかは・・・神のみぞ知る。なのだがね?」

 

ご協力有り難う御座いました。

「大したことでは無いよ。私も実に有意義な時間を過ごさせていただいたね。 さて。では約束どおり、君の名前を聞かせていただけるかね?」

“マービット・ケンブリッジ”。 うちの隊長の命令で、貴方を調べに来ました。 危険は無いようだ、と、報告させてもらいます。

「ほうほう。彼かね。今度は是非、直接お会いしたいと伝えて欲しいのだがね。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(12)

 六発装填のリボルバーでありながら、ジェーンが操るその銃は、まるで機関銃のように弾を吐き出し続けていた。 長袖の袖口に仕込んだ仕掛けによる弾丸装填と、まるで機械のような正確さで動く指が、その速射を可能にしている。

 常人では不可能な指の動きだが、並外れた訓練量と魔法による強化でもって、ジェーンはその人外の技を立て続けに行っていた。

 一方、それを避け続ける英児の能力も、目を見張るモノが有った。 彼のパワードスーツ“アーマー・オブ・ディープレッド”は、複数の魔方陣と添付魔法を詰め込んだ、“着る強化魔法”とも呼ばれる類の代物である。 施された装甲には、対衝撃、対刃、対熱、対寒、対精神魔法、対干渉魔法。その他ありとあらゆる、考えうる限りの防御魔法と。行動補助、反射神経鋭敏化、筋力補正、集中力維持など、同じくありとあらゆる補助魔法が組み込まれていた。 とは言うものの、所詮はただの強化服。使うモノに実力が無ければ宝の持ち腐れである。 その点については、英児の実力はまさしく超一流であった。

 マスター&スレイブ方式と言う、着用者の動きをリアルタイムでトレースしながら、オーガ並のパワフルさを持って再現すると言う“アーマー・オブ・ディープレッド”の特徴をフルに生かし、ビルの壁面や魔力灯を足場にした三次元の動きでジェーンの弾丸全てを避けきっている。着地の瞬間や誘い込み、兆弾すら利用して弾丸を叩き込もうとするジェーン。その技術は化け物並だったが、英児もまた化け物だった。絶対に避けられないたんミングで打ち込まれた弾丸すら、英児は手にした剣で全て叩き落して見せたのだ。 無論。こんな芸当はいくらパワードスーツを着ていたからと言って、出来るものでは無い。

 二人が戦っていたのは、アクアルートの中心街から離れた、建設中のビルが立ち並ぶ区画であった。戦っている理由は簡単。 賞金首を巡って争っているのだ。

 御互い、面倒臭い相手に会った。と、内心毒付いていた。 何しろ御互いこうと決めたら一歩も引かずに突っ走る性格である。 互いにDr・フェネクスを通じでの知人同士、相手の腕が尋常でない事も分かっていた。 正直戦いたくなかったが、そうも行かない。ここで相手を倒しておいた方が、あのちょろちょろ動き回る賞金首を捕まえるのには都合がいいのだ。

 英児が剣で衝撃波を飛ばせば、ジェーンは魔力結晶弾頭の特殊弾で持ってそれを迎撃し、また、それが逆に成る事もあった。高熱量の高速弾として、音速を超える速度で打ち出されるジェーンの魔力結晶弾頭だったが、英児はそれすら剣で叩き落して見せた。 だからと言って、接近戦主体の英児にとって、名うての拳銃使いであるジェーンは消して戦い易い相手ではない。 近づこうとすれば牽制され、隠れようとすれば出し抜かれかねない。 かと言って、ジェーンが有利な訳でもなかった。普通の金属弾頭では傷一つ付けられない英児の“アーマー・オブ・ディープレッド”相手では、自慢の魔力結晶弾頭を使わざるを得ない。しかし、相手はそれを叩き落しすらするのだ。

 近づけば英児の勝ち。 隙ができればジェーンの勝ち。 そんな図式である。

 この戦いは長引く・・・。 そう覚悟した二人は、肝心のターゲットに目を向けた。ターゲットはこの場から何とか逃げようとするものの、二人の戦闘が激しすぎるためか、足が竦んで上手く逃げられない様子だった。タダでさえ激しい爆風や魔法の余波に呷られて、ワタワタとしていた。

「う、うわぁ〜!」そんな情けない声と共に、何も無い所で可愛らしくぺちっと転ぶターゲットこと、アッシュ。 どうやら自分の足に躓いたようだった。

「うう・・・いたいですぅ〜。」

『まじかよコイツ・・・。』

 目を潤ませながらぶつけたらしい鼻の頭を抑えるアッシュに、戦いながらも思わず異口同音に呟くジェーンと英児だった。

レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(1)

 その日も、アルベルトは自分の上司・・・と言うか。国王の首を締め上げていた。

「だからぁ!! 何度言ったら解るんだこのオオボケ! あれほど! 駄菓子屋には!行くなと! 言っただろうが!! せめて仮装していけ! 王冠を被ったまま行くな!!」

 自分の国の王を王座から引き摺り下ろし、締め上げるアルベルトを止める者は居なかった。勿論王座があるだけに、そこは王の執務室、兼謁見室だったりする。周りには当然のように警備の近衛騎士達が居るのだが、アルベルトの行動を咎めるどころか、どこと無く「もっとやれ」的な空気をかもし出していた。

「出ていない。 今日はずっと、ここに居た。」

 ガクガクと前後に揺すられながら、国王。“レニス・スタッカート”は、完全な無表情で言った。 言葉と表情からは何も察する事は出来無いが、その視線がアルベルトの顔から完全に外れているあたり、言い訳をしている意味も殆どないように見えた。

「お前、口の周りにチョコソース付けて何言ってんだ?! そんなジャンクなもんこの城にあるか?!」

「ある。 私の引き出しに・・・。」

「溜め込んでた菓子なら全部喰っただろう?! 昨日!!」

「な・・・!」

 一言発し、打ちひしがれたように倒れ付すレニス王。ちなみに、顔は無表情だ。

「解ったか! お前の口の周りのチョコソースは、外出して付いてきた以外ありえないんだよ!」

「そ、ソースせんべいが私を呼んだんだ・・・。」

「呼ぶか! ボケ! つか、警備兵に幻術をかけるな! カッワいそうに、ぶっ倒れてたんだぞ! あの二人!」

 アルベルトに指差され、激しく首を縦に振る近衛騎士二人。

「む。 今度何かお菓子を進呈しよう。」

「せんで良い!! 大人しくしてろ!」

「む。」

 アルベルトは「全く・・・。」と呟くと、近衛騎士に絶対に目を放さない様きっつーく厳命し、国王執務室を後にするの。

 宰相。“アルベルト・ストラルフ”十三歳。 八歳にして英雄と呼ばれた男の、現在の日課だった。

 

 

「御公務が終わって早々申し訳有りませんが、ご報告が有ります。」

 国王執務室から出てから数分。トボトボと歩いていたアルベルトを呼び止めたのは、王立近衛騎士団 騎士団長“ハウザー・ブラックマン”だった。

「おう。ハウザー。 ・・・っつか。でテメーが敬語使うなんて珍しいな。 悪いもんでも喰ったのか?頼みごとか?」

 大男であるハウザーを見上げながら、身長120cm弱のアルベルトは、不快そうに溜息を吐いた。

「うっせー。相変わらずクソ生意気なガキだなふったく。」

 まるでチンピラのような口調で毒付くハウザー。 コレが近衛騎士団の団長だと言うのだから驚きだ。

 ハウザーは人族でありながら、身長二mを越える大男だった。顔立ちは整っており、常に鋭く研ぎ澄まされた目と引き締まった口元。均整の取れた鎧の如き肉体が、その実力すらも見せ付けるように存在感を放ってる。まとう雰囲気は、二十八歳と言う年齢相応な若々しさと、団長と呼ばれるもの独特の落ち着きを兼ね備えていた。

 一方アルベルトは、同じく歳相応。いや。それより少し幼くすら見える外見をしていた。顔立ち的にはやんちゃっ子風でつりあがった目が特徴だったが、そのスポーティーな見た目とは不相応に彼は実に優秀な魔術師であり、魔法技師であった。

「クソ生意気でもなけりゃ宰相なんざやってられねーンだよ。 つか、お前変われよ。」

「ふざけろ。んなタルイ仕事してられっかってンだアホ。俺は騎士だぞ。民を守ることだけが仕事なんだよ。」

 大凡その顔からつむぎ出されているとは思えないような言葉遣いで言いながら、ハウザーは「そんなこたーどうでも良いんだよ」と、本題を切り出した。

「アクアルートでひともんちゃく起こってるみてーだ。」

「あそこで騒ぎがあるのは何時もの事だろ。」

「あの悪魔と“ガルシャラ・カーマイン”、“ループ・ループ”。他にももろもろあぶねー連中がたむろしてやがる。 あそこは俺の領地(シマ)でもある。好き勝手さてやるのはかまわねーが、それにしちゃーちーと面子が悪すぎる。」

「・・・。」

 ハウザーが挙げた名前に、思わず頭を抱えるアルベルト。 しばし考え込むと、おもむろに顔を上げ、ハウザーを睨みつける。

「ハウザー。お前、いまの自分の立場わかってるか? 昔の、たった二人しか隊員が居ない超弱小小隊の隊長じゃねぇ。 国王の城を守護する、近衛騎士団の騎士団長だ。 お前の下には、二百数十人の直属部下が居る。 テメーの我が侭で好き勝手出来る立場じゃねぇ。」

 アルベルトの言葉に、それまで殆ど変化が無かったハウザーの顔が、まるで怒りが爆発する寸前のように歪む。

「城も王も関係有るか。寝言は寝て言えボケが。 俺たち騎士は、俺たちに飯を分け与えてくれる民を守る。だからこそ様付けされるほど尊敬してくれる奴も居る。 民が作り、俺達はその恩恵を受けて守る。 それを忘れて・・・」

 ハウザーは拳を振り上げると、それを思い切り横に振りぬく。 グオン と言う轟音と共に、その拳が壁面にめり込む。

「騎士を名乗れるかってんだボケがぁ!! 人は石垣!人は城!! 騎士が守るべきが城だとしても、民を守る事が最優先なのには何の変わりもねぇ!!」

「興奮すんなよ・・・。 確かにその面子じゃこっちも何もせんわけにゃいかん。対応もそこに駐屯してる騎士だけじゃ力不足だろ。行ってやってくれ。」

「いわれねーでも行く。」

「だろうな・・・。 じゃ、何の用があって呼び止めたんだよ?」

「そのアクアルートに行くために俺等の詰め所を出たら、国王を拾った。ついでだったからフンじばって引きずってきた。引き取れ。」

 言いながら、ずっと手に持っていたロープを手繰り寄せるハウザー。その先には、ロープで雁字搦めにされながらも、満足そうに紐引きアメを舐めているレニス国王の姿が。

「・・・。」

 宰相。“アルベルト・ストラルフ”十三歳。上司にも部下にも恵まれない男であった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「おい。とり。」

「ふむ。鳥と呼ばれることは珍しくないのだが、君に言われると新鮮だね。」

「なんでであたしをひろった。」

「ふむ。猫やテレビではあるまいし拾ったりはしていないのだがね。」

「なんであたしをやしなう。」

「ふむ。別に養っているつもりは無いのだがね。第一、この食事を作ったのは君だったと思ったのだがね。」

「そういうことをいってるんじゃない。」

「ふむ。では、こう言う答えなら満足なのかね? 私は君に私の研究を手伝ってもらっている。言わば君は私のために労働しているのだよ。 故に私は、それに見合った対価を君に支払わねばならない。本来なら相応の額の金を払うのが筋なのだがね。ある程度金が溜まると、私はどうしても研究に使いたくなってしまってね。仕方が無いから、君に衣食住を提供している。 と。」

「ぶ〜。」

「納得いかないかね?」

「あたしはべつになにもはたらいてない。」

「ふむ。そう思うのかね? 私にとっては君が居てくれるだけで随分と助かるのだがね。」

「なにに?」

「さぁ。何にだろうね。なんと言えばいいのだろうね。どうも私は語彙が少なくていけないね。 そう。強いて言えば、一人ぼっちな私にとって、傍らに居てくれて日々成長していく君の存在は、無くてはならないものに成っているのだよ。」

「きもい。」

「はっはっはっはっは! 君は賢いね! 本当に成長が楽しみだよ!」

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前の英児とDr

「君の感情の起伏は、常人のそれを大幅に上回っている。神懸って居ると行っていいだろう。この世界には心の起伏、つまり強い感情を媒介に魔力を精製する装置があってね・・・。まあ、噛み砕いて言えば怒ったり悔しかったりするだけで兵器を動かせるわけなのだがね。 君はたった一人で、数十人かがリで動かすような兵器を運用したり、机上の空論だった強化服を機動運用する事が出来るわけだね。」

「ほぉ〜・・・。 どうもこっちに来てから妙な事ばっかりだと思ってたが・・・。要するに俺に近づかれて、その手の機械はオーバーフローしてたってわけだ。」

「そうだね。 まあ、感情を魔力に変換する装置は特殊なものでね。九割九分軍事目的のモノなのだがね。 おもに魔法が使えなかったり、魔力が無い種族の騎士などが強化服を運用する時に使うのだがね。」

「で、俺にはデカイ規模の装置が動かせる才能が有るってわけか?」

「その通りだね。」

「はっはっはっは! こっち来てから面白い事ばっかりだなぁ、おい! 向こうでの生活も惜しいけどよ。こんな面白いところから向こうに帰る気になんざさらさらならねぇぜ・・・!」

「親御さんが悲しまないかね?」

「親なんざいねーよ。気が付いたら一人だった。所謂孤児って奴さね・・・。だが、だからこそここに居られる。 プロフェッサー・F。俺に鎧を作ってくれ。飛び切りの奴だ。」

「構わないよ。しかし、悪魔との契約には条件があるものでね。」

「ほう?」

「たまにここに来て整備を受けて行き給え。そしてその時には、必ず昼食か夕食に付き合ってもらうよ。」

「ああ? それと?」

「それだけなのだがね。」

「・・・いいのかよそんなモンで。悪魔としてはよ。」

「君が鎧を持ってなにをするか興味がある。それに、君と話すのはとても楽しい。君の世界には暫く行っていなかったからね。 それに、なんと言ったかね。ヒーローと言ったか。向こうの特撮と言うのもなかなか興味深そうだシね。」

「ああ。いいぞヒーローは。男の憧れが目一杯つまってるからな。」

「ああ! 激しく興味深いね! どれ。どんなモノが有るのか、聞かせてくれないかね?」

「甘いなプロフェッサー。ヒーローは知識じゃねぇ。魂で感じるものだ。目で見て。耳で聞いて。初めてその生き様が心を打つんだ。 口伝えで知ろうとするなんざ愚の骨頂よ。」

「お、おおぅ・・・! 確かに・・・! それはこの世界のヒーローにも言えること・・・! 知識ではなく文章でもなく頭で理解するものでもなく、、魂に響く存在。それぞヒーロー・・・! 有り難う。君のお陰で目が覚めたよ・・・! 礼と言ってはなんだが、いまこの感動の全てをつぎ込み、君の鎧をつろう・・・!」

「ぷ、プロフェッサー・・・!」

「英児・・・!」

「・・・・・・アンタたちウザインだけど・・・。」

「おや。居たのかねジェーン。 全く眼中に無かったよ。

「男同士の絆を確かめ合ってる時に口挟むな〜。」

「最初の話題はどこいったんだよ・・・。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(11)

「化け物って言うのは・・・! こう言う人たちの事を言うんですねっ・・・!」

 “二十日鼠”と言う4人組みの戦士団の団長にして、若干19歳の青年“ループ・ループ”は、得物である刀を逆手に持ちながら額の汗を拭った。

 若干疲れが見えてきたループの前に立つのは、肩まで届く白髪を炎になびかせる少年の姿だった。 と、は言っても、少年と言うのは見た目の評価である。実年齢は二十代後半である。ヒューマン。要するに普通の人間であるからして、その外見は不釣合いといわざるを得まい。 この外見だけ少年の名前は、“テト・ウルフ”。 超が付く凄腕の冒険屋として有名な男である。

 ループは今、その超凄腕冒険者と戦っている真っ最中だった。 噂を信じちゃいけないよ。そんな言葉が頭を過る。 あの言葉は当たりだ。だって噂より手に負えないんだもん。 ハイエルフであるせいか、見た目より若干幼い精神年齢のループは、顔には出さないものの非情に困惑していた。 ちなみに。精神よりも肉体の方が先に成熟するハイエルフである彼は、人間で言えば15〜6最程度の精神年齢である。

「ていうか、何で戦う事になったんだっけ・・・?」

 問題はそこである。

 “二十日鼠”と言う、父がリーダーをしていた戦士団を次いだのが、もう五年ほど前になる。 エルフでありながら筋骨隆々、下手をするとティターンにも間違えられたループの父は、ひょんなことから隠居生活に入ってしまったのだ。 急にやめるわけにも行かん。と言う、父の無茶な押し付けのせいで、当時軍学校の学生だったループにリーダーの座がゆだねられたのだった。

 父の仲間たちの事を知っていたループは、「土下座して勘弁してもらおう」と言う、非情に消極的な決意を胸に“二十日鼠”の集会場に向かい・・・凍りついた。 そこに居たのは、父の仲間たち。の、“娘さんたち”だったのだ。

 彼女等の強烈な“押し”に合い、ループは強制的に“二十日鼠”を受け継ぎ、リーダーとして奔走するようになったのだ。

 戦士団とは要するに、雇われ戦士である。傭兵との違いは、“戦争”を専門にしていない所。 戦士団は、闘技場から賞金首まで、手広くカバーしているのだ。

あの賞金首ポスターがいけなかったんだよぁ〜・・・。」

 溜息を付くように吐き出すループ。 彼が言っている賞金首と言うのは、無論“アッシュ”の事である。

 “二十日鼠”が定宿にしている酒場に、そのポスターが張り出されていたのだ。 彼以外のメンバーはそのポスターの前に集まりボソボソと話し合いを始めると、そそくさとアッシュ探索を始めたのである。 半ば引きずられる形で付き合わされたループであったが、まあ、金は有って困るものではない。 探索を続けるうち、自分達以外にもその首を追っている人たちが居る事がわかってきた。そして、ついに同じアッシュ狙いの冒険者に出くわした瞬間・・・悲劇が起こった。

 邪魔者は排除とばかりに、ループ以外の三人が相手に襲い掛かったのだ。なぜか三人とも焦ったような表所をしていた事を、アッシュは覚えていた。

 仕方なく攻撃の手に加わるループだったが、今まで築き上げてきた自信と自負を徹底的にぶち壊された気分だった。 ドラゴンも倒した必殺剣を素手で止められ、仲間達とのコンビネーションを簡単に見切られ、今は魔法使いに打撃戦で押されているのだ。 人形使いと強化魔法使いである仲間とも分断され、今は炎使いの幼馴染と共闘状態である。

「おいおいおいおい!! こんなもんだとか抜かすんじゃねーだろうなぁ?!ああ?! テメーツエーっつーからガルシャラにあっち任せてきたんだろうが?! ふざけてッと一瞬で五体ばらすぞボケェ!!」

 まるでヤクザか何かのような怒号を飛ばすテトに、思わず怯むループ。外見だけとは言え少年に怒鳴られてビビルと言うのも情けないモノがある。

「ちょっと・・・! なにビビッてるのよ! しゃきっとしなさい!」

 呪文を構築しながら、ループに檄を飛ばす少女。炎使いと呼ばれる、火炎属性の魔術師である彼女の名は“シュナ”と言った。 ループの幼馴染で、“二十日鼠”の一員である。

「そ、そんな事言っても・・・! 相手はテト・ウルフだよ? 超至近距離魔法を使わせたら右に出るモノがいないって言う!」

 へたれ度全開で訴えるループ。 鎧を纏わず、ライダースーツのような強化服に身を包み、逆手に刀を構える姿こそ勇ましいものの、心の中は卑屈なのだった。

「頼りないわねぇー! あんただってもう素人じゃないんでしょ?! 少しは自信持ちなさいよ!」

 膨れるシュナ。 胴衣のような服を着て、荘厳さすらある大型ロッドを装備した彼女は、あくまで交戦の構えらしい。

「も〜。なんであの賞金首に拘るのさぁ〜。 諦めようよ〜。」

「何言ってるの?! 諦められるわけ無いじゃない! あの首を誰が一番最初に捕まえるか勝負してるんだから!」

「はた迷惑な・・・。で?勝ったら良い事あるの?」

「そうよ。勝ったら明日の買出しにループとふた・・・。」

「ふた?」

「・・・と、兎に角! あの人を倒すの!」

「ん〜?」

 今一釈然としないまま、剣を構えなおすループ。

「相談は終ったか? じゃ、こっからちっとは楽しませろよ?!」

 言い放つと、大きめなローブを翻すテト。 ジーンズにシルバーレザーのコートと言う出で立ちから、一見魔法使いには見えないものの、その実力は折り紙付きである。

 三人がそれぞれの構えを取った、そのときだった。

 頭上から、少年特有の甲高い、それで居て妙に大人びた高笑いが聞えてきたのだった。