博士の風変わりな研究と飯のタネ(40)

「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! いやぁ! 実に楽しいと思うのだがね! 移動島! 超大型戦艦! そして何よりも機動鎧!! 扱う面子もまさに最上級!! これほどの戦闘をお目にかかる機会は滅多に無いと思うのだがね! いや! 寧ろこの“アクア・ルート”以外では有り得ない状況だといえると思うのだがね! ああぁ! やはりこの町に来て良かった!!」

 まるで悪役のような高笑いを上げながら、Dr・フェネクスは目の前に浮かぶ複数の画面に目を走らせた。

 Dr・フェネクスが居るのは、愛機“パーフェクト・パープル”のコックピットだった。 内部は一面に外の様子が投影されており、形と色をなして見えるのはソファーが一脚だけだった。 そのソファーにどっかりと座り足を組むDr・フェネクスの目の前には、複数のモニターが展開されていた。そこに写っているのは、今“アクア・ルート”中で行われている様々な賞金首争奪戦の様子だ。

「英児が出ないのが残念仕切りだと思うのだがね! しかしそれを補って余りある兵器! メンツだと思うのだがね! レニス王国近衛騎士団が出張ってきたのもそそられるモノがあると思うのだがね! 一人一人が超一級の戦士であり戦略家である近衛騎士団が湯水のように投入されているこの状況!!まさにマニア垂涎! 此れを見ずに戦いは語れないと思うのだがね!! ああ! 堪らないと思うのだがね! この映像だけでご飯四杯! いや! ご飯八合は行けると思うのだがね!!」

「Dr。 お楽しみの所申し訳有りませんが、ご報告が御座います。宜しいでしょうか?」

「うむ。聞こうと思うのだがね。」

 突然真後ろに現れた執事の言葉に、其方を見ようともせず続きを促すDr・フェネクス。 執事はDr・フェネクスが自分の方を見ていないにも拘らず恭しく一礼すると、手元の資料を見ながら報告を始めた。もっとも執事はプログラムである訳だから、そんなプリント状の物を見る必要は無い。と言うより、執事の外見は映像データでしかない訳だから、無駄と言えば無駄な処理な訳だが。

「賞金首“アッシュ”がこのアクア・ルートに来るまでの足取りを追ってみたのですが、此れがまあ・・・なんと言いますか・・・。」

 言いよどむ執事に、Dr・フェネクスは始めて関心を持ったようにモニターから目を外すと、其方を振り返った。

「何か面白い事が分かったようだと思うのだがね?」

「面白いといえば面白いのですが・・・。」

 なんとも言えない微妙そうな表情を作る執事に、Dr・フェネクスは「続けて欲しいと思うのだがね。」と続きを促した。

「は。なんとも冗談のような話なのですが。 例の高額賞金をかけた主が分かりまして。その人物と言うのが・・・“ガルダリア”の王女なようでして・・・。」

「・・・・・・は?」

 暫し黙って硬直した後、思わずと言った様子で呟くDr・フェネクス。

 “ガルダリア”。正確には“神聖ガルダリア王国”と言う名のその国は、広大な国土と肥沃な土地を元に、大量の食料を生産する国として世界に名を轟かせる大国である。 技術向上の代償として、または元々食料が作れる環境ではない、などの理由から、食料を海外からの輸入に頼る国が多いこの世界において、食糧生産能力の高さは、そのまま外貨獲得能力であるといって良い。 そんな中、ガルダリアは様々な食料ニーズに応えた、例えば安価な量産品から超高級食材までと言う豊富な品揃えを持って、此方の世界における石油産出国のような莫大な富を得ていた。

「それが・・・ですね。どうも賞金首はガルダリアの“ゲート”を通って“アクア・ルート”に来たらしいのですが・・・道々、お忍びで森を散歩している王女と鉢合わせしたそうでして。 そのとき、怪我をして困っていた王女を賞金首が手当てをしたのだそうです。」

「ふむ・・・。と言うことは。 本当に例のおまじないの延長線上的な意味で金を掛けられた。と言うことに成ると思うのだがね・・・?」

「額的に俄かには信じられませんでしたが、その線かと。」

 Dr・フェネクスは「ふむ。」と呟くと、暫く考え込むように目を閉じて眉をしかめた。 そして、唐突にやたらと楽しそうな顔で高笑いをあげ始めた。

「ハーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! まさかそこまでベタな展開だとは思わなかったのだがね! 御姫様を助けた王子様に賞金がかかって追い回されるようでは始末に追えないと思うのだがね! それで?ほかには何がどうなっているのかね? キモの事だからここまで程度のことならば顔色一つ変えずに報告するだろう? と言うことはこの先にはまだ私のツボを付いてくるような面白い事があるのだと思うのだがね?!」

「ご推察感服いたします。」

 執事は深々と御辞儀をすると、再び手元の資料に目を落とした。

「本日この後、午後三時。“神聖ガルダリア王国”の使節団がレニス王との謁見のため、レニスに入る予定になっております。無論のこと、移動には“アクア・ルート”の“ゲート”が使われる事になっています。」

 眉をひそめながら報告する執事の報告を聞き、Dr・フェネクスは待ってくれと言うように手を上げると、真剣な表情を執事に向けた。

「まさかとは思うのだがね。その使節団のに、王女が居たりするのではないかと思うのだがね?」

「お察しの通りです。」

 執事のその返事を聞いた瞬間、Dr・フェネクスはその外見にそぐわぬ実に邪悪な笑みを浮かべると、まるで何かを企んでいるような低い笑い声を上げ始めた。

「今日は実に実に良き日だと思うのだがね・・・! まさに神に感謝したく成ると思うのだがね・・・! もっとも本当にして良い物かどうかは分からないのだがね・・・。」

 Dr・フェネクスは暫くブツブツと呟くと、パンッと一回手を叩き、晴れ晴れとした笑顔で顔を上げた。

「執事君。そうと分かれば一つ二つ仕掛けをしようと思うのだがね。 戦闘中の連中には悪いと思うのだがね。美味しい所を総取りしたくなってしまったのだがね!」

 含みの有る、外見にそぐわない無邪気な邪悪さを湛えた笑顔でそう宣言するDr・フェネクスに、執事は先ほどまでの冴えない表情を消し去り、柔和な笑顔をで深々と頭を垂れた。

「は。全てDrの悪巧み通りに。」

レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(6)

「例のサンプル。ご推察通りの品でした。」

 車椅子に座ったその女性は、どこか焦点のはっきりしない目を泳がせながら、目の前の執務机に座るアルベルトに報告を続けた。

「“テラ”時間、3042年2月3日に“アルビオル・D・グッドフォース”博士が召喚に成功した“天使”。その体組織の一部。“羽”であることを確認しました。」

 がらがらに掠れた、振り絞るような声にも拘らず、女性はうっすらと笑みすら浮かべて、何か見えないものでも目で追っている様にゆるゆると視線と首を泳がせていた。

 そんな女性の態度を気にした様子も無く。寧ろ一瞥もくれることなくキーボードを叩いていた指を止め、アルベルトは深い溜息をついた。

 車椅子の女性。彼女の名は、“レブラフラ・クイルドレイ”。 近衛騎士団 四番隊隊長にして、“邪眼の”レブラフラと呼ばれる、齢600を越える大魔女だ。

 光を吸収するように黒い瞳と、同じ色の長いウエーブのかかった髪。そして、病的なまでに白い肌をした彼女は、一見すると実に美しい女性だった。年齢不詳のその外見は実に魅力的であったが、暫く眺めていると、何故か背筋が冷えるような錯覚に陥る。そう言う類の、ある種幽鬼じみたこの女性は、アルベルトの数少ない側近。腹心の一人だった。

「やはりか・・・当たって欲しくない“ご推察”だったんだがなぁ。」

 首を振りこめかみを押さえながら立ち上がると、アルベルトはとても13歳と言う年齢にはそぐわない態度で舌打ちをした。

「わたくしには理解致しかねます。あのように貴重な希少な物を使って“絵の具”を作るとは。」

 ゆるゆると視線を泳がせながらそう言うレブラフラに、アルベルトは「俺もそう思うがな」と頷いた。

「アルビオル・D・グッドフォース。道楽な猫人で、興味を持ったら突き進むタイプ。その男が召喚に成功し、その後“絵の具”を作るために同人が何らかの手段で召喚した天使を捕獲、殺害した事件。俗に“リゴドアバレー・天使解体事件”。 そのとき作られたっつー“エンジェルホワイト”って“絵の具”。知ってるな?」

「は。 例のサンプルの事かと。」

「そうだ。 恐らくな。 お前に解析を頼んだサンプルは、“マブレー・クワリフ”作・絵画“廃頽”に使用されていた絵の具だ。」

 アルベルトの言葉に、レブラフラは感心したような、面白い事でも見つけたような声を出した。

「リゴドアバレーの件は、確か今だに不可解な点が多いと聞きます。曰く。何故天使を捕まえられたのか。何故絵の具にしたのか。そして、術式自体はそう難しくも無いとはいえ、なぜ天使を、“医者であるアルビオル博士が”召喚したのか。」

「それに付け加えて、作った絵の具はどこに消えたのか。」

 アルベルトはそう言うと、自分の机の引き出しに手を書け、一枚の白紙を引き出した。机の上にそれを置くと、いつの間にか真っ赤な液体塗れになっている人差し指をそれに押し当てる。

「天使召喚は行われたものの、暴れないうちに絵の具なんかにされた事件だ。約40年前の事件だが、今でも時々騒がれるからな。」

「謎が謎のまま四十年前に消えた絵の具が、画家の手で使われていた。と、言う事ですか。」

「そう。そう言うことだ。」

「今この時期にわたくしにこのサンプルを調べさせたと言う事は。なにか有るのですか?」

 紙の上に押し当てられた指に付いた真っ赤な液体。自身の血が徐々に紙に吸い込まれていくのを眺めながら、アルベルトは不機嫌そうに眉をしかめた。

「あって欲しくないんだがな。 マブレー・クワリフって男は、なかなか腕の良い絵師なんだが、数ヶ月前白い絵の具を持った人物が、“此れを使って絵を描いてくれ”と依頼して来たらしい。 今まで見た事も無いような白に、マブレーは1も2も無く飛びつき、“廃頽”を僅か一週間で書き上げた。完成したそれは暫くマブレーの仕事部屋に飾られた後、依頼人の手に渡った。」

 紙の中央に、十センチほどの血で出来た円が形作られた所で、アルベルトは紙から指を離した。

「そのさらに一週間後。マブレーは何ものかに“頭だけ齧りとられて”殺された。遺体が見つかったのは、公園のブランコだったらしい。」

「“廃頽”は今どこに?」

「それがな。どう言う訳か“天使を召喚する”とか言い出した国に向かって運ばれてる。それも堂々と。客船の美術館に展示されてな。」

 アルベルトの言葉を聴きながら、レブラフラは楽しそうにくつくつと笑いをこぼす。

「きな臭い。気に入らない。調べて来い。」

 心底楽しそうに宙に目を泳がせながら呟くレブラフラ。

「そうだ。それが俺の命令だ。お前はマブレーに絵を描かせた奴を徹底的に調べろ。根掘り葉掘り。全てだ。」

 アルベルトは自分後の染みた紙をレブラフラに突きつける。レブラフラはその紙に視線全く動かさないにも関わらず、正確にそれを受け取る。

「絵自体の方には別の奴を付ける。お前は四番隊を使って、手段問わず仕事を片付けろ。良いな。」

 十三歳の少年の言葉に、齢600を越える美しい大魔女は、実に楽しそうにくつくつと笑い声を上げると、その車椅子が示すように体が動かないのか首だけをコクリと動かした。

「はい。お師匠様の命とあれば。」

リンク品

 レニス王国と言う国は、戦闘国家である。

 その戦闘国家っぷりは、先の大戦で活躍した“英雄”を“王”にしてしまうほど徹底している。

 現国王“レニス・スタッカート”は、一中隊を指揮していただけの兵隊であった。 が、その実力は人間と言うか。なんかもう生き物とかの範疇をぶっちぎりで突き破っていた。

 太古龍を拳撃で手なづけ、様々な精霊から授けられた聖剣を十本ほど背負い、命令書を読み違え敵軍に特攻し壊滅させ、“天空の搭”と呼ばれる古代遺跡(ダンジョン)を圧し折り、最終的には単身“魔王”を切り伏せてしまった。

 

 そんな、ある意味人間失格っぽい“王”は今・・・謁見室に無理矢理設置したコタツに当たりながら、聖剣でリンゴを剥いていた。

「あ・・・れが・・・王なのか・・・?」

 鬼気迫るほどの真顔でリンゴを剥いているレニス王を、デンノスケはドアの隙間から覗き込んでいた。レニス王が発する異常なまでの真剣さに呆れてか、デンノスケの額には脂汗が浮かんでいた。

「機動鎧の試乗してもらいたいところにゃんだけど、この街今物騒だから余所でやるにゃ。」 そう言って歩き出したアンブレラについていって、暫く。デンノスケとバルは、何故かレニス王国の首都“アーディガルド”にある、王城にやってきていた。

「で、なんで国王に会いに来たんだ。って言うか何で簡単に通されるんだよ・・・。」

 王制を執る国において、王とは神に与えられた絶対の地位とされることが多い。

「まー。人間社会はコネも実力のうちってことかにゃー。」

 にゃっはっは。と、機嫌良さそうに笑うアンブレラ。

「まーまー。そんなことより速く中に入る事にするのにゃー。」

「ま、まて! まだ心の準備が・・・!」

 謁見室の入り口付近で躊躇ってるデンノスケを無視して、アンブレラは元気良くドアを開けた。

「にゃっほー。レニス。ひさしぶりだにゃ〜。」

 部屋に入るなり、アンブレラは気軽な感じでひらひらと手を振りながらレニス王に声を掛けた。とても一国の王を相手にしている態度には見えない。 が、レニス王は怒る訳でも気分を害した風でもなく、フツーに友人が自分のアパートに尋ねてきたかのようなリアクションで顔を上げた。無論、表情は鉄仮面のようにピクリとも動かない真顔である。

「ん? レインブーツか。遊びに来たのか?」

「いんにゃ〜。ちょっと近衛騎士団の訓練施設借りようかとおもってにゃー。」

「何をするんだ?」

「機動鎧の熟練運転だにゃー。新人さんにテストさせてあげたいんだにゃ。」

「そうか。良いぞ。好きに使え。 今リンゴが剥けたんだが。食べていくか?」

 訓練施設よりもリンゴが大事。そう言わんばかりに、熟練運転と言う言葉に特に反応しないレニス王であった。

「にゃー。つれがいるんにゃけどにゃ。」

「例の異界の勇者殿か。」

 レニス王の言葉に、デンノスケは一瞬身を硬くした。どうしてこの国の連中は悉く自分の事を知っているのか。

「確かこっちの世界の探索に来ているのだったな。」

「そうにゃ。 レニス王国は色々集まる貨物駅みたいなもんにゃ。人も情報も集まり易いからにゃ。そう言う意味では、あの二人にはもってこいの場所にゃ。」

「そうか。 とりあえず、入ってもらわねば話が進まん。」

 レニス王はむっくりと立ち上がると、ドアをガチャリと開け、顔を廊下側に突き出した。

「な?!」

 突然現れた王の顔に硬直するデンノスケ。と、特にリアクションの無いバルを確認すると、レニス王は首だけ突き出した体制のまま口を開いた。

「私は“レニス・スタッカート”。冒険者だったんだが、色々あって兵隊になり、今はレニス王国国王を生業にしている。 君達の事は少し前にフェネクスに色々聞いている。 他の国に行って、自分達が守護するものの脅威に成るか否かを調べるのが仕事だとかなんだとか。大変そうだな。」

 何度か頷くと、レニス王はドアを開け、全く変化しない真顔のまま、だだっ広い部屋の中央に設置されたコタツを指差した。

「立ち話もなんだ。とりあえずコタツに当たって、リンゴでも食べながら話そう。 君達の役目にも興味がある。聞かせてくれれば、この国の事に付いて話そう。どう言う訳か私が尋ねると大体の情報は部下が調べて来てくれるのでな。理由は良く分からんのだが。」

 本気なのか冗談なのか。その全く変化しない鉄面皮からは全く判断が付かなかった。

 それまで特にリアクションの無かったバルだったが、少し眉間に皺を寄せると、デンノスケの耳元で囁いた。

「変わった王なのか?」

「ああ。どこから突っ込んで良いのか分からないレベルだ・・・!」

 何となく、この国の人間については大体分かってきたデンノスケだった。

お正月だよ何人か集合。

「明けましておめでとう御座いまーす。 お年玉下さいよ宰相閣下。」

「マービット。テメー幾つになってんだゴラ。おい。ああ?!」

「おい、そこの国王。醤油取れ、醤油。もち焼けたから。」

「うむ。」

「なに国王顎で使ってんだハウザー!! つーかなんでてめーら俺の執務室に七輪持ち込んでんだおい! 書類が焼けるだろうが!!」

「はっはっは。師走は忙しくて更新も間々成らなかった管理人が、苦肉の策で生きていることだけは伝えようと立てた企画だと思うのだがね。 多少の犠牲は止むを得ないと思う訳なのだがね。」

「なに忍び込んでんだ鳥! つーかお前か!! ウチの女性職員にウサ耳付けて逃げていったガキって! シバキ倒すぞ!」

「一話書き終わっていない(一月三日十五時二十九分現在)にも関わらず番外編を挟むのは、なかなか勇気がいると思うのだがね。」

「しらねー!! 出て行けお前ら! 俺には正月もクリスマスも無いんだよ!!」

「うはー。切ないっすねー宰相閣下。閣下の年ならお年玉貰って遊んでる頃合いッスよ。いま。俺も今そんな感じっすし。」

「どっかのボケどもが働かないせいで俺に仕事がまわって来るんだよダボが!! つーかお前はお年玉なんて貰うな!! いくつか!!」

「永遠の高校生っす〜。」

「笑顔を見せるな!! はらたつわ〜まじで!!」

「この間マービットが学生服を着て学校に入っていくのを見たぞ。王として止めるべきかと思ったが・・・。」

「止めろ。止めろ!! 何考えてんだマービット! ていうかなんでそんなシーンに居合わせた! また城抜け出したなこの痴呆王!!」

「面白そうだったから私も入った。」

「入るなぁぁぁあああ!! 何考えてんだおいおいおいぃぃ!!」

「たのしかったっすね〜。」

「うむ。 う・・・むぐっ・・・!」

「ああ? どうした国王。 ・・・コイツ餅のどに詰まらせたぞ。」

「喉に餅を詰まらせる国王。庶民派だと思うのだがね。」

「ぎゃぁぁぁ!! 何やってんだよレニス!! マジ顔青くなんてんぞどうすんだこれ!!」

「背中叩け背中。」

「ハウザーは止めろ! 折れたらどうするんだ!背骨とか!」

「お前俺の事なんだと思ってんだ。そのぐらい後から加減(ボキ)あ。」

「王様がヤバイ顔色なのに超無表情でのた打ち回ってるっす〜!!」

「オオ! これはなかなかお目にかかれない光景だと思うのだがね! 是非私の自分史に」

「書くな!! 水水水!!」

「酒しかないと思うのだがね。」

「良いから飲ませろぉぉ!!」

「・・・っ! ・・・ぐっ・・・! 死ぬかと思った・・・。」

「死なれてたまるか! どう発表していいか困るわ!!」

「私が死んだら・・・そのことは三年は伏せて置いてくれ・・・。」

「なに重い表情で言ってんだよこのボケ・・・。」

「所で。今年は猪の年だと英児が言っていたと思うのだがね。」

「おお。干支とか言ったか。うちの二番隊の連中もそんなこと言ってたな。」

「猪か。そうなると今年はハウザーの年と言う訳か。」

「猪武士っすからね〜。」

「うむ。まさに“白銀の重戦車”の二つ名に相応しい突撃っぷりだと思うのだがね。」

「戦術って言葉の意味を考えとらんのだろ。」

「考えてるぞ。一応。」

「どんなよ。」

「俺が一人で殲滅させればソレで終わるだろうが。」

「・・・出来るから恐ろしいと思うのだがね。」

「・・・隊長は鬼神っす。」

「って、寛いでんじゃねぇぇぇ!!!」

 

 この後数時間、城の中で命を懸けた鬼ごっこが開催される。が、ソレは別の話。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(39)

 閉じこもる賞金首。それを狙って戦う賞金稼ぎ。 ココまでならば、まだ若いループでも何度か見たことの有る、在り来たりな風景と言えなくも無かった。 ただ、賞金首が閉じこもっているのが通話ボックスで、戦っている賞金稼ぎが“冒険屋”“海賊”“傭兵”“戦士団”となれば、話は別だ。

「無茶苦茶だぁ・・・。だから僕嫌だったんだ。本当なら今頃宿屋でテレビ見ながらアイス食べてるはずだったのにぃ〜。」

 しゃがみ込み、頭を抱えてぼやくループ。若干十九歳。エルフとしてはまだまだ義務教育も終らない年齢である彼の思考は、限りなく小学生のそれに近いのであった。

「もう帰っちゃおうかなぁ本当に。 どうせ僕誰の目にも映ってないんだから帰っちゃってもばれないよねぇ〜。これ。なんか適当に戦闘が激しくて間に入れませんでしたーとか言って置けば平気なんじゃないかな・・・。」

 とは言いつつも。そう言うわけにも行かない事を重々承知なループだった。本当に帰ろうものなら、シュナになにをされるか分からないのだ。 とりあえず少し様子を見ようと物陰に身体を隠しつつ、盗み見る事にする。

 案の定、シュナ、英児、ジェーンの三人は、今にもブチ切れんばかりの表情でライエルの機動鎧を睨みつけていた。 ライエルの事は、ループも資料で読んだ事があった。“七海殺戮海賊団”の機動鎧乗りで、元は正規軍に所属していた騎士だったという。 基本的に直接かかわりのない事は面倒臭がって調べも覚えもしないループでさえ、名前を知っている有名人である。あの三人がライエルの事を知らないはずが無い訳だが、全く物怖じした様子も無く、歯を剥いて睨みつけている。恐らく、相手が誰だろうと、もう関係無くなっているのだろう。

 三人とも苛立たしげな表情を隠そうともしない中、ジェーンが口を開いた。

「野郎ふざけやがって・・・! 目にはモノアイ、歯には掘削機だ!!」

 言いながら帽子を深く被り直すと、上着の胸部分に止めてある弾丸を外し、拳銃に装填する。

 一発だけ弾を込めた拳銃の銃口を空に向けると、ジェーンはボソリと呟き、引き金を引く。

「サモン。“デュエン”。」

 打ち出された弾丸は一直線に空に向かって昇って行き・・・周りのビルを追い抜いた当たり。ちょうど上空200mほどで、突然爆ぜた。その瞬間、地面と平行に巨大な円形魔法陣が弾丸を中心に、水にインクを垂らしたように広がった。一瞬で展開されたその魔法陣は、見るモノが見ればすぐにソレと分かる召喚魔法陣だ。そして、魔法陣が展開しきったのとほぼ同時に。黒い塊が魔法陣から地面に向かって落下してくる。

 かなりの落下速度だったせいか、落下中には何か判別の付かなかったソレは、ジェーンの真後ろ付近に着地して、ようやくその正体を現した。 人型の、黒い機動鎧である。

 跪き、頭部もうつむいているためはっきりとは言えないが、全長は10〜12m。機動鎧としては中型程度に分類されるソレは、まるでテンガロンハットを被ったような頭部形状をしていた。一見するとマントにも見えるが、上半身を覆っている布状のものは、恐らくポンチョか何かだろう。なにかの幾何学模様が刻み込まれているのを見る当たり、ソレもただのポンチョには見えない。

「“デュエン”ウェイクアップ。」

 消して大きくは無いジェーンの言葉に、人型鎧の目に緑色の光が灯る。ユックリとした挙動で立ち上がると、良く見えなかった脚部が露になった。カウボーイが乗馬の際、脚を保護するために付ける脚用の革鎧状のもので覆われたソレは、スラリとしていて長い。腰にはやはり、左右一丁ずつ、二丁のリボルバー拳銃がマウントされていた。

「機動鎧出してきたっ・・・!」

 ループは自分の身体から、サーっと血の気が引けて行く感覚に襲われていた。この展開から考えるに、絶対にシュナは黙っていないだろう。

 案の定、シュナは真横で機動鎧を召喚されたと言うのに見向きもせず、据わった目でライエルの“刀翼”を睨みつけたまま声を張り上げる。

「ナップ!! 聞えてるでしょ!! “カルテット”出すわよ!」

 シュナの声を合図にしたように、突然地面が揺れ始める。かなりの振動と共に聞えてくるのは、甲高いドリルのような金属音だ。 徐々に大きくなってくる音と揺れは、数秒後にシュナの真後ろにその元凶が現れると同時に消え去った。

 地面から空中に勢い良く飛び出したのは、高速回転をしている、黄金の楔形だった。全長15mはあろうかと言うその物体は中空で突然膨らみ、弾けた。 が、はじけたように見えたソレは、布のように閃くと、その面積を急激に小さく変化させた。金色の布の中から現れたのは、ジェーンのソレと同じ位のサイズの、金色の機動鎧だった。 どうやら身体を覆っていたのはマントだったらしく、今は適当なサイズに縮み、機体の背中ではためいていた。

 まるで体重が一切無いような優雅な仕草で、シュナの後方に着地する金色の機動鎧。細身の真っ黒なマネキンに、軽鎧を着込ませたようなその機動鎧の装甲には、様々な金細工のような宝飾が施されていた。 戦闘兵器よりも寧ろ、美術品のようにすら見える機体の腰には、丁度ループが使っているのと同じ様な双剣がマウントされている。

「ああ・・・。面倒臭いなぁ・・・。」

 心底面相臭そうにそう吐き出すループ。自分達の機動鎧が出てきた以上、もうループには逃げるという選択肢は無くなっているのだ。

「厄介なんだよなぁ〜・・・。」

 諦めたようにそう呟いた次の瞬間、ループの目に映る景色はまるで別の光景になっていた。 と言っても、居る場所は先ほどとさして変わりはしない。 ループが今見ているのは、金色の機動鎧。“カルテット”の視界なのだ。 召喚術が発達により、一部の機動鎧は入り口を無くし、操縦者を直にコックピットへ召喚する形を採用していた。 Dr・フェネクスの作品であるこの機動鎧。正式名称“ゴールド・カルテット”は、召喚と、乗り手と機動鎧のシンクロをほぼ同時に一瞬で完了してしまえるという特徴を持っていた。

「とにかくあの鳥とアホ冒険屋とバカ傭兵より速く賞金首捕まえるのよ! 分かった?!」

「わかったよー。やるよぉ〜。」

 耳元で聞えるシュナの声に、情けない声で答えるループ。 機動鎧は普通、乗り手と魔術師が二人で乗る事が多い。魔法技術の塊である機動鎧に魔力を供給と、出力調整や必要なマジック選定などのエンジニアとして、魔術師は必要不可欠なのである。 特に魔力の供給源としての要素は強い。なにせ魔力は戦闘可能時間とイコールなのだ。 この“ゴールド・カルテット”には、シュナ、ナップ、“パペッター”と、三人の魔術師が乗り込むように設計されていた。つまり、三人分の魔力を使って動いているのだ。 これには単に使用できる魔力が三人分になるという以外にも、様々な利点があったいるするのだが・・・。

「三人とも乗ってたら、手抜けないし逃げられないよぅ〜。」

 今のループにとっては不利なことしかない様子である。

「さー! “カルテット”出したからには負けられないわよ!」

 異様にやる気満々なシュナの言葉に、思わず溜息を吐き出しうつむくループ。もっとも、今実際に動いているのはループの身体ではなく、“カルテット”なのだが。今ループの身体は“カルテット”の内部にあり、行動は全てカルテットが行っている。“シンクロ”などと呼ばれる、一番ポピュラーな操縦法の一つだ。

 と、うつむいたループの目に、妙なモノが飛び込んできた。

「あれ? どうしたんですか? 英児さん。」

 外部スピーカーを作動させ声を掛けた先には、全身を細かく震わせながら、剣を支えに膝ま付く英児の姿があったのだ。

「くそ・・・! 俺としたことが油断したぜ・・・。」

 やたらと熱が篭った英児の声に、思わず息を呑むループ。鬼気迫るようなオーラを放ちながらも、英児は身体に力が入らない様子だった。

「どうしたんだ?」

 まだ機動鎧に乗り込まず、英児の横に居たジェーンが訝しげに尋ねる。

「飯が・・・。」

「ああ?」

「ここ何日か飯喰ってないのがここに来て効いた・・・! 腹が空き過ぎて動けねぇ・・・・!」

 妙に力強くそう言うと、英児はまるで糸が切れたようにがっくりと倒れこむと、「ぐっ・・・!」と呟き、そのままピクリとも動かなくなってしまった。どうやら腹の空き過ぎで気絶してしまった様子である。

「・・・・・・マジで?」

 額に脂汗を浮かべ、信じられないものを見る目で英児を見るループ。

「・・・あほか・・・。」

 納得したように頷くジェーンの言葉は、その場にいた全員の総合見解だったという。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(38)

 ジェーンの戦い方は、実にシンプルだった。衣服に張り巡らせた肉体強化魔法陣を発動させた後、ただの弾丸として打っていた弾に、“振動粉砕”と“貫通”系統の付加魔法を施して撃つ。当たり前の戦術の部類に入る行動だが、相手が相手だけに、「何コイツ本気になっちゃってるの?」的なことを思われるのが癪だったので、使わなかった手段でもあった。他の事は兎も角として、自分の得意分野でごり押すと言うのが気に喰わなかったのだ。そんなこと気にしなくてもとっくにごり押し戦術になっているのだが、そんな些細な事には気が付かないのがジェーンと言う冒険屋なのだ。

 英児の戦い方も、実にシンプルだった。尋常では考えられない防御力と剣風をも巻き起こす強力を生む代わりに、足回りを犠牲にした“アーマー・オブ・ディープレッド”。その足の遅さを補おうための“乗り物”。獅子型のゴーレム“ヒートレッド”を呼び出し、それに乗り戦った。人馬一体の例え通りと言うかなんと言うか。“ヒートレッド”の防御制御系は、“アーマー・オブ・ディープレッド”のそれと連結していた。難しい話を省いてつまる所、防御力破壊力はそのままに、やたら小回りの効く素早い獅子に跨っている。といったところか。そんな便利なものがあるなら初めから使えと言いたい所だが、相手が相手だけに、「何コイツ本気になっちゃってるの?」的なことを思われるのが癪だったので、使わなかったのだ。

 

 箍が外れたジェーンは、自分の弾丸がきちんと通用するのを確かめると、2丁のリボルバーにそれぞれ一発ずつの魔力結晶弾頭弾を込めた。その間にも、周りの“人形”を蹴り壊す事を忘れない。

 数体の“人形”の胸部分を蹴り壊しながら、背中から襲い掛かってきた人形の頭をジャンプして踏みつけ、上空に跳躍した。

 中空に踊る自分に注目する人形たちを眺めながら、ジェーンは腕をクロスして拳銃を構えた。そして、まるで蛇の威嚇音の様な高速詠唱の後、呟く。

「“ピンホールグラビティー”」

 それと同時に銃口から吐き出された二発の魔力結晶弾頭は、人形たちの中に飛び込んで行くと、それまで並行に進んでいたにも関わらず、突然進行方向を直角に変えてかち合った。 人形たちの、丁度胸の辺りほどの高さで弾丸同士がかち合った瞬間、突然嵐のような暴風が巻き起こった。 銃弾がかち合ったその場所は、空間に穴でも開いたかのように黒く染まり、その黒に吹き込むように。いや、吸い込まれるように風が吹き荒れたのだ。

 やや後方からそれを見て取った“パペッター”は、急いで“人形”たちにその場から離れるよう指示を出したが、殆ど無駄だった。 人形たちはまるで吸い込まれるようにその黒い穴に吸い込まれ、逃げようとするものも引力に吸い寄せられるように吸い込まれていくのだ。

「ちょっと! 何なのよあれ?!」

 あまりの轟音に振り返り、シュナは叫び声のような声を上げた。風の影響が、50m以上離れた位置にいるシュナにも有るらしく、髪や衣服がたなびいている。

「ああ。ありゃジェーンの“ピンホールグラビティー”だ。」

「“ピンホールグラビティー”? 針穴の重力?」

 不思議そうに聞き返すシュナに、英児は腕を組んで「そうだ。」と頷いた。どうやら“ヒートレッド”の制御には手を要しないらしく、ずっと手放しで戦っていたりした。

「魔力結晶弾頭二発の魔力をフルに使って異常重力。要するにブラックホールみたいなもんを形成して、周りの物をごっそり吸い込むんだよ。」

「でたらめね・・・。」

 眉をひそめるシュナに、英児はブスッとした様子で声を掛ける。

「おお。デタラメだ。この後がな。」

「この後?」

「“ピンホールグラビティー”の異常重力は長時間持続しない。魔力が切れるのと同時に蒸発するように効果は消える。つまり・・・」

「吸い込まれたものも高速で元の大きさに・・・要するに大爆発?」

「だな。」

 頷きながら、身を屈め剣を地面に刺す英児。

 近距離で“ピンホールグラビティー”の影響をいけている“パペッター”は、まるで台風のような暴風をまともに食らっていた。なんとか周りの人形たちをかき集めて自分の身体を地面に繋ぎとめようと、折り重なるように覆いかぶさせ、地面に手足を突き刺させてはいたが、次々に吸い込まれ続けていた。

 そんな様子を、ジェーンは空中で空間固定魔法で足元を固めて眺めつつ、口の端を吊り上げていた。

 銃をホルスターにしまい、空いた片手でテンガロンハットを押さえ、片手を顔の横に持ってきて、指をぱちんと鳴らす。

 それと同時に、それまで猛烈な吸引力を誇っていた黒い穴が吸引を止めた。そして・・・。大爆発。

 20〜30m範囲のものを傍若無人に吸引していた穴が、今度は凄まじい爆風をと轟音を放って爆発したのだ。今まで散々吸引した人形の残骸を、まるで散弾のようにばら撒き、半径60〜70mを蹂躙する。

 吸引力には耐えていた路面や街路樹、付近の建物のガラス窓なども、流石にこれには耐えられなかったらしく次々に捲れ返り、吹き飛ばされていく。 丁度道路の中央辺りで魔法が展開されたのが良かったのか、建物自体には窓ガラスが割れる程度の損害しか出なかったのは幸いだったといえるかもしれない。

「無茶苦茶だわ・・・! 頭悪いんじゃないのあのコスプレ女!!」

 暴風と爆風を、何とか捕まえた街路樹にしがみ付いて凌ぎきったシュナは、杖で身体を支えて立ち上がると、苛立たしそうに喚いた。 吹き飛ばされてきた“人形”の破片やらなんやらで、服や髪の毛はぼろぼろだ。

「近くにいる自分が悪いのよ。」

 喚いているシュナを一笑しつつ、ジェーンは空中に固定した足場を解除すると、ストンと地面に降り立った。 爆発の近くにいたはずだったが、特に被害は被っていない。あらかじめ自分だけシールドを張っていたのである。自分でやっただけあって、何をどのタイミングでどう防ぐのかが分かる分、守るに易しと言うわけだ。

「さーて。これでようやくすっきりしたじゃない? これでやり易くなったわね。」

 言いながら、ジェーンはぐるりと周りを見回した。あれだけ居た“人形”が、殆ど全て全壊か半壊。少なくとも、戦える状態ではなくなっていた。

 そんな“人形”の残骸が転がる中。真っ黒なローブで全身を隠した人物。“パペッター”も、同じ様に転がっていた。爆風と散弾をまともに喰らったらしく、周囲に転がった“人形”の残骸と同様、無残にもピクリとも動かなかった。

「自分の周りに配置してた人形が、爆発のせいで逆に凶器になっちゃった。って?」

 言いながら、ジェーンは転がった“パペッター”に銃口を向けた。慈愛に満ちた天使のような微笑を湛えた表情ながら、やっている事はその真逆だ。

「“パペッター”!!」

 慌てて立ち上がり、“パペッター”を援護しようと動くシュナ。だが。

「コッチがお留守だぜ? ええ?! おい!!」

 突然の声に驚き、振り返るシュナ。そこには、大上段に剣を振りかぶった英児の姿があった。

「もらったぁぁぁ!!」

 渾身の力を込めて剣風を放とうと、迸るほどの感情とともに声を上げた英児だったが、剣が振られる事はなかった。

「んなぁっ?!」

 突然、英児の剣が横合いから何かに殴りつけられたような衝撃に襲われ、甲高い金属音とともに弾かれた。振り下ろす事に集中していた英児はバランスを崩し、たまらずタタラを踏む。

「ん?」

 英児の奇妙な声に、ジェーンは英児のほうに顔を向ける。と、同時に、素早く後にバックステップ。数瞬前までジェーンのいた場所は、カマイタチのような剣風に切り刻まれていた。

 英児もジェーンも、すぐさま周りを見回すが、自分達以外の人影は確認できない。と、ジェーンがハッとしたような表情に成り、英児に声を飛ばした。

「! ループだ! 迷彩で透明化してる!」

 その言葉に、舌打ちする英児。ループの装備は消音、熱光学迷彩。真昼間の公園でサイレントキルをやってのけるほどの腕だ。と言う、噂を思い出し、英児はさらに顔をしかめた。

「隠れてやがったか。大した腕だが、そう簡単にこの俺の“アーマー・オブ・ディープレッド”は貫けねぇぜ!!」

「言ってろ。 面倒臭いわね。すっかり忘れてたわ・・・。」

 眉をしかめ、テンガロンハットを直すジェーン。“パペッター”の方に顔を向ければ、案の定居なくなっている事に溜息を一つ吐き出す。

「素早い事・・・。」

 と。そのときだった。一機の鳥型の機動鎧が低空飛行で、ジェーン、英児、シュナの三人が戦っている場所を目指し、接近してきたのだ。

 僅かな機動音を敏感に察知した三人は、それぞれ表情を引き締め、身構えた。自分達以外の賞金稼ぎが現れたと察知したのだ。

 が。機動鎧は三人の事を避けるように迂回すると、賞金首、アッシュが閉じこもっている通話ボックス上空でホバリングを始めたではないか。

 咄嗟に動こうとする三人だったが、唐突に機動鎧から響いた声に、凍りついた。

「あ! 居た居た。君が賞金首さんだよね?! ぼくの名前は、ライエル。いまぼくのウチ、お金なくて大変なんだ。だから、君を捕まえてお金稼がなくちゃいけないんだって、シャムリース君が言ってたんだ!」

 一様に眉間に皺を寄せ、同じ様な表情を作るジェーン、英児、シュナの三人。要するに切れかかっているのだ。

「だから、これから君を捕まえるねっ!」

 機動鎧からその台詞が響いた瞬間、三人の声がハモった。

『舐めてんのかテメー!!』

 奇しくも、三人の心は同じであった。人が必死にやりあってンのに何参加しないで首掻っ攫おうとしてんだ。 基本的に三人とも自己中であった。自分が苦労しているのに他人がそれを何の苦労もせず持っていこうとするのを我慢できない性なのだ。

「って言うか、僕の立場は・・・?」

 移動鎧に向かって叫ぶ三人を眺めつつ、木陰に隠れ、ぼやくループだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

みかんばこ

 

 

「・・・なにをしているのか聞きたいところだと思うのだがね。」

「はこ。」

「うむ。」

「あったかい。」

「ふむ。たしかにダンボール製のミカン箱は暖かいとは思うのだがね。この真夏の日差しの中、わざわざ我が家である港沿いの大型倉庫屋上でその中に篭っているというのは、聊か場違いな気がすると思うのだがね・・・?」

「あー。」

「ふむ。“熱い時にカレーを。寒いときにアイスを無償に食べたくなるのと同じ様なものだ”。と。」

「ん。」

「ふむ。それはわかったのだがね。何故私まで段ボール箱に入っているのだろうね?」

「あったかい。」

「暖かいね。」

「ん。」

「・・・はっはっは! まあ、凍えるのよりは幾分かましだとは思うのだがねぇ。」

「ん。」

リンク品

 アンブレラはテクテクと歩き出すと、壁の一部に手を触れた。すぐに大仰な音が響き、倉庫の壁の一部が動き出した。

 どうやらしきりになっていたらしいそれが上がりきると、今いる倉庫の広さと同じ面積ほどの部屋が現れた。

 そこには、足から頭部まで、15mはあろうかと言う大型の鳥型機動鎧だった。広げられた両翼は、優に20m以上はあるだろうか。 一番に目を引くのは、その背に取り付けられた二門の大砲だった。機体の身の丈ほどもある長い砲身を背負ったその姿は、ある種威圧的ですらあった。

「超高高度からの砲撃と、情報支援を目的に作った機体にゃ。まー、デンノスケの機体にくっ付いてる魔法と同じ様な防御機構が取り付けてあるわけにゃけど、こいつは見た目どおり空を飛ぶ事も可能にゃ。 デカイ面積がある翼には、ビルヅの能力を援護する術式が組み込んであるにゃ。相当遠くにいる相手の思考やらも聞えるはずにゃ。 他にもレーダー系なんかの索敵機器も万全完備してるにゃ。 ハッキングやらもこなせるように作ってあるンにゃけど、自分も無防備になるから、その辺を使うようになるのは馴れてからかにゃー。
兵装は見ての通り、カノンが二門。こいつは実弾と魔法、両方こなせるように特注で作ってあるにゃ。特注過ぎて専用弾頭にゃンだけど、その辺はタダで譲るから安心するにゃー。他の武装は、定番のクローと、“氷の炎”だにゃ。」

 アンブレラの口上を分かっているのか分かっていないのか微妙な顔で聞きながら頷くデンノスケだったが、“氷の炎”と言う単語に眉をひそめた。

「なぁ。氷の炎ってなんだ?」

「にゃー。金のかからないミサイルにゃんだけれども、って、にゃーぁ、ミサイルわからにゃいか! 困ったにゃー。」

 困ったといいつつ、全く困っていないような様子で、アンブレラはシルクハットを脱ぐ。端を両手で持って、ブンブンと振ると・・・。なかからミサイルランチャーが現れ、地面にドカンと落ちた。無論、シルクハットから出てくるのは、ミサイルランチャーのサイズは明らかに大きい。

「・・・四次元シルクハット?」

「そんなようなもんにゃ。」

 もはや言葉も無い様子のデンノスケであった。

「じゃ、ミサイルの説明にゃ。様は鉄の塊に色々細工して爆発物やら相手を追っかける装置つけて、ロケット花火見たく打ち出すものの事何にゃけど〜・・・。」

 ミサイルランチャーを担ぎ上げたアンブレラは、獲物を探すようにあたりをキョロキョロと見回した。と。 ちょうど近くにあった窓の外に、ダルそうに歩く人影を発見した。

「ちょうど良かったにゃ。奴に手伝ってもらうにゃ。」

 そう言うと、アンブレラは窓から顔を出し、人影に声を掛けた。

「久しぶりにゃー。相変わらず血ー吸ってるかにゃ〜?」

「おー。アンブレラー。 つーか、血ー吸うとか言うなよ。俺ぁーパックした加熱処理品しか飲まない現代っ子吸血鬼なのよ?」

 実にだらしない様子で歩いてくる吸血鬼青年に、アンブレラは笑いながら返す。

「にゃっはっはっは! まあ細かい事を気にする奴は長生きできにゃいと言うからにゃ! そうそう。ちょっと頼みがあるにゃ。」

「あによ。」

「ちょっと走ってほしいにゃ。」

「は?」

 と、青年が言ったか言わないかの刹那。ミサイルランチャーが火を噴いた。 発射されてから爆発するまで、実に様々なドラマがあった。 追跡するミサイル。必死で逃げる吸血鬼青年。唖然とするデンノスケ。特にリアクションの無いバル。大爆笑のアンブレラ。

 結局、海に逃げ込んだ吸血鬼青年だったが、すぐ後ろについてきたミサイルが大爆発。派手な水柱を上げたものの、アンブレラたちの位置からでは吸血鬼青年の安否は分からなかった。

「と、まあ、コレがミサイルにゃ。コレと同じ様なことを、空気中の水分を使ってヤルノが氷の炎にゃ。氷で本体を作って、中を水素と酸素の混合物で満たし、炎で派手に推進させる。追跡系統の魔術式も組み込めるから、バッチリミサイルって訳にゃ。 氷の炎の大きさは、バルのさじ加減で調節できるにゃ。翼に魔方陣つけてある関係上、大きさは制限されるけどにゃ。大体、最大10mから、最低50cmってところかにゃー。」

「・・・どこから突っ込もう・・・。」

 頭痛に、思わず頭を抱えるデンノスケだったという。

「にゃっはっは! 細かい事は気にしにゃーい。 さて、バル。気に入ったかにゃ?」

 さっきまでバルの居た場所に顔を向けるアンブレラだったが、いつの間にかバルの姿はそこにはいなかった。 ふと、アンブレラは鳥型機動鎧のほうに顔を向けてみた。するとそこには、何事か頷きながら機体をペシペシと叩いているバルの姿が。

「気に入っては居るみたいだな。」

「よかったにゃー。」

 満足そうに微笑むアンブレラ。もっとも、猫人の表情は、人間には多少分かり辛いのだが。

「じゃ、早速機体に名前をつけてやってほしいにゃ。」

「名前? 俺たちが付けて良いもんなのか?」

「何時もならにゃーがつけるんにゃけど、今回は特別にゃー。 それに、バルのは兎も角、デンノスケの機体には人格もあるからにゃ。名前付けてやら無いと大変にゃ。」

 アンブレラの言葉に、硬直するデンノスケ。

「じ、人格・・・?」

「機動鎧の起動を円滑にするために、添付してある全人工精霊の統合意識があるんだにゃ。 バルのはビルヅが統括するからつけてないんにゃけど、デンノスケのにはバッチリ人格ついてるにゃ。」

「そ、その人格って、性別あるのか・・・?」

「いちおうとっつき易いように、女の子にゃんだけど。」

 アンブレラの、イタズラの成功を確信した様な笑みに、思わず頭を抱えるデンノスケだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(37)

「降下した連中、首見つけたそうです! 場所は、アクア・ルートセントラルステーション近く!」

 通信士の声に、“ジェノサイド・ホエール”のブリッジは沸きかえった。 賞金首を捕まえなくては、ご飯が食べられない。そんな緊迫した状況で届いたその報告は、ミリーを筆頭に、手下の殆どが諸手を上げて喜ばせるに十分なものだった。

「よっくやったのだー! つーかアクア・ルートセントなんとかってなんなのだ?」

 首を捻るミリーに、砲手席に座っている手下が「あー、はいはい。」と答える。

「鉄道の駅だよ。漢字で言うと“海道中央駅”?」

 実も蓋も無い訳し方である。

「あ〜ん。ナルナル。この間アイス喰いに言った所なのだ?」

「そうそうそうそう。あそこあそこ。」

 手下の言葉に、「あーあーあー。」と、妙に納得した様子のミリーだった。

 アクア・ルートセントラルステーションは、鉄道の駅であり、そこらから様々な路線に乗り換えられる、鉄道交通の要所であった。 アクア・ルートのちょうど中央付近に位置することと、その周囲に多数のオフィスや商店が立ち並ぶことから、アクア・ルートの心臓部とも言われる駅なのである。

「丁度、駅前の大通りから百メートルくらい行った、交差点の通話ボックスに引篭もってたそうです。」

「あーあー。テレビで見たことあるのだ。あのデッカイ十字路なのだ? 六車線道路の十字路。で、土日曜祝日になると歩行者天国になる。」

「そうです。時々テレビで出てるあの交差点ですよ。」

 周りに比較的商店が多く、人が集まり易い位置にあるその交差点は、ミリーが言った様に休日などに歩行者天国。つまり、自動車通行止めの大通りになる事で有名な一帯であった。車が止められている間、出店やストリートパフォーマンスなどが行われるのである。 つまる所、英児やジェーン、“二十日鼠”が暴れても平気な広さが十分にあるということだ。

「それで。首はなんでそんな場所の、それも通話ボックスの中に引篭もっているんだ?」

 それまでジーっと様子を見ていたシャムリースが、ボソリと呟いた。 けして大きくは無いが、やたらと良く響くその声に、ブリッジにいた人間全員の動きが止まった。

「ええ。それが、なんでも他の賞金稼ぎに追い詰められてたらしくて。 “魔弾”
と“二十日鼠”と新田 英児だそうです。」

 暫しの沈黙。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

「マジですかー!!」

「おかーさーん!!」

「なんでお邪魔虫がいるのだぁぁぁ!!」

 各々思い思いの叫び声を上げるミリーと手下たち。全員、今上がったメンツの事を少なからず知っているのだ。

「不味いな。 ココで賞金首を捕まえないと本当に食料庫が空になる。 降下した全員、その場所に集まっているのだろうな?」

 呻き喚く手下と船長を尻目に、一人冷静に声を出すシャムシール。その声に、すぐさま機動鎧の管制係が返事を返す。

「さっき報告した通り、高エネルギー反応と首をレーダーで捉えてからすぐ、近衛騎士団一番隊に遭遇。散開して逃げたものの、三機攻撃を受けて戦闘不能。“ジェノサイド・ホエール”に帰還しています。残りの連中は完全に分断されて、散り散りに逃げ回っているのが現状で、近衛騎士団をまいたライエルさん一人が首と接触している状態です。」

「やはりただの賞金稼ぎだと言っても通じないか。当然だろうがな。しかし突然攻撃してくるというのはやはり妙だ。ここは“アクア・ルート”だぞ。」

 滅多に表情を変えないシャムシールだったが、このときは珍しく眉を動かし、多少なりとも不満そうな雰囲気を漂わせていた。

 アクア・ルートは、見た目こそ綺麗で、犯罪組織もなく、人も多い街ではあった。が、物流の要であり、多数の企業が立ち並び、レニス王国の一都市である街である。一筋縄ではいかない。

 アクア・ルートが武器の持ち込みや機動鎧の乗り入れを許可しているのは、“そう言った危ないものを公的に運搬できる港”だからなのだ。 普通なら密輸するしかないような兵器を運用する傭兵や冒険者に大手を振って往来できる場所を与えてやり、企業には他国ならば非合法すれすれの物を当たり前のように持ち込み輸送できる場所を与えてやる。 そうする事で、アクア・ルートには信じられないような金と人が流れ込む。

「故に、多少のイザコザは目を瞑り、度が過ぎると判断すれば徹底鎮圧をかける。 今回の騒ぎは既に鎮圧対象か。空の上に居ると地上がどうなっているのかイマイチ分からん。」

 実際、シャムリースは地上で何が起こっているのかあまり把握していなかった。どうせ、賞金首を捕まえたら速攻でトンズラを決め込むつもりだったのだ。既に数組の賞金稼ぎが小競り合いを始めているとは聞いていたものの、“魔弾”や英児のようなビッグネームが出張って、市街戦のような戦いをくり広げているとは思いもしなかった。

「目の前の移動島に気を取られすぎたか。不味い事になるなこれは。」

 機動鎧が散り散りにされたという事は、つまる所近衛騎士団も機動鎧を持ち出したという事になる。 そんな状況だと、何時までも上空に“ジェノサイド・ホエール”が居ると言う状況を、近衛騎士団は許してくれないだろう。攻撃されるとまでは言わないが、退去は確実だろう。

 さて、どうしたものか・・・。と、思った所で、シャムリースは考えるのをやめた。海賊ならどーんと行け。両親共に海賊であるシャムシールが、幼い頃より口をすっぱくして教えられてきたことである。

「こうなったらスピード勝負だ。速度、進路そのまま! このまま海に向けて進みつつ、機動鎧が首を回収して戻ってきたのと同時に潜行! 全速でアクア・ルートの領地を出て、他の港で賞金首を換金する!」

『イエス・サー!』

 てんでバラバラに叫びまくっていた手下たちの声が、シャムリースの指示を受けて一瞬でそろう。まとまりが無さそうに見えつつも、そこは船乗りだ。

「しっかし厄介な事になったのだー。なーんだって滅多にうごかねーような近衛まででしゃばってるのだ〜? 陸の連中はしゃぎすぎてんじゃねーのだ?」

 不機嫌そうにブーたれた顔をしながら毒付くミリー。その様子に、シャムリースは何時もの無表情に戻った顔を向けた。

「かもしれません。」

「ただでさえ“魔弾”やら“二十日鼠”が居るのだ? 邪魔されねーわけねーのだ。ダーリンがいくら凄腕でも連中にはてこずる筈なのだ。首尾良く首をゲットしたとして、問題は・・・。」

 むーっ。と、難しそうに唸り、眉をひそめるミリー。因みに、ダーリンと言うのは、誰あろうライエル・ザ・“ホークアイ”のことである。見た目こそミリーが年下の年の差カップルでは有るが、実年齢的にはどっこいどっこいだったりするのだった。

「近衛騎士団の動きが気になるのだ。軍警察やらなんやらはどうでもいいから、近衛騎士団の現在地だけ、アクア・ルートの地図に乗っけて。すぐ出すのだ。」

 ミリーの指示に、オペレーターの一人がすぐさま「ういっす。」と返事をする。

「細かくやる必要は無いのだ。大まかな分布だけでいいから急ぐのだ〜。」

「分かってます。画像重ねるだけなんで。 っと、出来ましたーん。」

 ぽちっとな。と言う言葉と同時に、ミリーの目の前に画面が展開された。ご所望通りの、アクア・ルートの立体地図に、蒼い点で近衛騎士の居場所を示した図である。

 その図を見たとたん、ミリーは「こりゃまじーのだぁ〜・・・。」と、苦虫を噛み潰したような顔になった。 すぐ横に居たシャムリースも、図を覗き込み、声だけで呻いた。

「近衛騎士団の連中、街の外側から中央に追い込むように動いているようですね。 今くびが居る辺りは、ちょうど台風の目のようです。」

「洒落にならねーのだ〜! 邪魔されるのは確実だわ、首ゲットして逃げ帰っても周りは近衛騎士と軍警察の群れなのだぁぁぁ!!!」

 ミリーの前の図では、弓形の海岸沿いに細長い形に広がるアクア・ルートの外側から、まるでじわじわと真綿で締め付けるように中央に向かって侵食して行く青い点が表示されいた。 完全包囲の体勢を作ってから、踏み潰すように蹂躙して行く。レニス王国王立近衛騎士団の、得意な戦術の一つである。

「多少無理してでも反転して、ダーリンを・・・あー! でも移動島がじゃまなのだー!!」

「っと、移動島から手紙が来ました!」

「見せるのだー!!」

 もはや金切り声のような声を上げるミリー。 ミリーが叫んだり暴れたりするのは何時もの事なので、特に動揺する様子もなく手下は迅速にミリーの前に画像を展開させた。

 現れた文章は、実に丁寧な書体の文章だった。どうやら手書きらしく、実に丁寧で温もりのある文字が並ぶ。

「つーか、達筆すぎてよめねーのだぁぁぁ!! あれなのだ?! 武士道?! サムライなのだぁ?! こう言うのはブロック体のワープロ文字で送るのが親切ってもんなのだ!! シャムリース! 翻訳!」

「は。」

 画面をしばらく眺め、シャムシールは口を開いた。こう言う文章をそのまま読んで伝えても、ミリーが混乱するだけと心得ているため、一度読んで噛み砕いてから内容を説明するためである。

「要するに、“てめーらが首とグルだって垂れ込みあったから、大人しく全員一回集まれや。どうせガセだろうから、すぐ済ませてやっからよ。”と言うことらしいです。」

「ジョーだんじゃねぇぇぇっつーのだぁぁぁ!!」

 最近の切れ易い若者宜しく、ガトリング砲を乱射するミリー。無論、空砲では有るが。

「そんなことしてる間に賞金首掻っ攫われるのだぁぁぁ!!!」

「向こうとしては大事にせず街の上から出してやろうという善意なのでしょうね。」

「ふざけるんじゃねーのだ! こちとら明日のおまんまにも困る有様なのだ?! 目の前の金つかまねー訳にはいかねーのだ!」

 そう言って乱暴に立ち上がると、ミリーは目の前の手摺を、ガトリング砲に改造した腕で殴りつけ、手下たちの注目を集めた。

「聞ーての通りなのだぁぁ! 近衛騎士団がなんか言ってきてるけど、聞いてたら飯にありつけねーのだ! 全力で無視して、実力行使に出られる前にケツ巻くって逃げ出すのだ! 一回逃げ出しちまえばこっちのもんなのだ! てめーら!! 今日は豪華にバーベキューと行くとするのだぁぁぁ!!」

『いえぇぇぇ!!!』

 異様な熱気に包まれるミリーと部下たちを見渡し、溜息を付くシャムシール。 そう簡単には行かないだろうな。とは予想しつつも。これがミリーのやり方である事を良く心得ている副官は、この後、いかにミリーの気に入る形で事を終らせられるかについて、考え始めるのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(36)

 都会と呼ばれるような環境からかけ離れた、所謂テレビも上下水道も魔力線も無い様な、所謂ファンタジーの典型のような田舎町から出てきたアッシュ少年にとって、今現在自分が置かれた状況は、恐怖そのものだった。

 何ゆえか追いかけてくる、武装した人々。彼等が口にしていた言葉から察するに、何故か自分には賞金がかけられているらしいのだ。しかも、目の玉が飛び出るほど高額の賞金であるらしい。

 無論、賞金をかけられるような事をした覚えは微塵も無い。一瞬、悪魔族が嫌われているからかとも思ったが、逃げている最中、自分と同じ悪魔族がコインランドリーで全裸に成って洗濯が終るのを待っているのを見かけたので、そう言うわけでも無さそうだと分かった。と言うか何故彼は全裸だったのだろう。やはり着る物を全て洗ったのだろうか。

 兎も角、理由はトモアレ、追われているからには捕まる訳には行かなかった。なにせ、追って来る人々と来たら、全員が全員恐ろしそうな得物やら武装やらをしているのだ。中には機動鎧などと言う、あからさまな戦争兵器まで持ち出す人まで居る始末である。

 最初こそ適当に捕まったほうが逆に安全なのではないか? きっと賞金をかけられたのだって何かの間違えなのだし、誤解を解くにしてもその方が良いのではないか。 などとも思ったものだったが、真っ赤な鎧を着た気合い気合いと連呼している人が現れた辺りから、完全に気が変わった。生かして捕まえてもらえそうに無い。と、判断したためである。

 何よりアッシュを恐怖に陥れたのは、自分を追って来る面子の豪華さであった。 “魔弾の”ジェーン。“要塞落としの”ガルシャラ・カーマイン。“二十日鼠”。よく見ればあの赤い鎧も、新田 英児。名うての傭兵ではないか。

 アクア・ルートに来るまでの道すがら、噂に聞いた冒険者や戦争屋、傭兵達である。アッシュが野球少年ならば、彼等はメジャーリーガー。三段も四段も格が違う相手である。 そんな人々を相手にアッシュが逃げ切れてきたのは、彼等が互いに戦ってくれているお陰であった。

 アッシュを追ってきた人々はことごとく、自分の仲間以外の人と争い、互いの足を引っ張り合いをし始めた。 アッシュはその隙にコレ幸いと逃げ出してきたのだ。が、今回はそうもいかないようだった。

 今アッシュが居るのは、道路沿いの通話ボックスのなかだった。透明なガラス系素材で出来た縦長の人一人入るのがやっとの個室に閉じこもり・・・周囲を途轍もない数の人形に囲まれていた。

 ジェーンと英児の戦いに、“二十日鼠”が横槍を入れたとこらへんのことである。 「このまま無防備でいたら確実に巻き添えで吹き飛ばされる」と本能的に感じたアッシュは、とりあえず人並みに使えた障壁魔法を近くの通話ボックスに施し、中に閉じこもったのである。 種族的に尋常よりも魔力の高いアッシュの張った障壁である。その尋常じゃない防御力のお陰でなんとかとばっちりを食わずに済んだものの・・・。今ではそのせいで、外に出るに出られない状況に陥ってしまった。といった所な訳だ。

「せ、選択ミスでした・・・! せめて逃げ込んだ先が車なら、移動できたんですが・・・!」

 実際にはアッシュは車の運転など出来ないから、何に逃げ込んでも一緒なのだが。黒尽くめの集団に囲まれてバチバチ叩かれている今の心理状態では、そこまで頭が回らないようである。

「とにかく、今下手に外に出たら命が危ないですよね・・・。じっとしていた方が良さそうです・・・。」

 半泣きでボックスの中央に体育座りするアッシュ。 壁に寄ると人形が沢山で怖いのだ。

 と。座り込んでいたアッシュの耳に、甲高い金属音のような音が入ってきた。アッシュの表情が、一気にこわばった。この手の音を出すのは、飛行物体。それも・・・空戦に対応した飛行できる機動鎧と相場が決まっているのだ。

 慌てて顔を上げたアッシュの目に飛び込んできたのは、予想通り、機動鎧だった。

「刀状の翼の鳥獣型鎧に・・・眼帯髑髏・・・? “七海殺戮海賊団”の“刀翼”?! ってことは、ライエル・ザ・“ホークアイ”?!」

 頭を抱えて悲鳴のような声を上げるアッシュ。悲鳴のような、と言うか、寧ろ悲鳴といって良いだろう絶叫である。

 ライエル・ザ・“ホークアイ”と、“刀翼”。この二つの言葉は、語り草になるほど有名な名である。

 元々ある小国の騎士であったライエルは、先の大戦で一騎当千の戦果を上げたにも拘らず、終結後、地位を捨て、一人の女性と駆け落ちをしたのである。その女性とは、勿論“七海殺戮海賊団”団長“ガトリング”ミリーその人である。

 レニス王国のような超大国であるならば兎も角、普通の国にとって、一騎当千とも成りえる兵は貴重も貴重。国防の要とも言える。通常ではありえない戦力であり、無ければ戦が成り立たないと行っても良い人外魔境の兵は、例え一人でも惜しいものである。 当然その国は何とかしてライエルを手元に戻そうと、あの手この手。最終的には、武力までも投入した。 ライエルを欲したのは、その小国だけではない。他の国々も、“機動鎧”と言う戦争の花形を、まるで天使か悪魔の如く使いこなすライエルを、様々な手で手に入れようとした。

 しかし、ライエルは己の判断力と、たった一機の機動鎧だけでそれら全てを払いのけたのである。今ではどの国も、ライエルに手を出そうとは考えないほどだ。

 その、“たった一機の機動鎧”こそ、鷹型機動鎧“刀翼(touyoku)”なのだ。 兎人の使う、刀と同じ技術で作り上げられた刃の翼に、装甲全てに張り巡らされた飛行魔術式。常人では、例え人工精霊によるサポートがあったとしても制御の難しい“空中高速格闘戦”と言うコンセプトの機体。それをライエルは自分の腕だけで完璧に制御し、通常の人型機動鎧では付いてこれないほどの高速で運用するのだ。

 “七海殺戮海賊団”が今日も捕まらず悠々と空を渡っているのは、ライエルが居たからだ。 本当ならば厄介者とされるような、国からマークされている側の人間であるはずの男を刺して、そう言わしめる。 ライエル・ザ・“ホークアイ”。それが、“ホークアイ(鷹の目)”の二つ名を持つ彼の実力だった。

「ま、まさか・・・。海賊の人まで、ボクを捕まえようとしてるなんてことは・・・。」

 半泣き半笑い顔で、口元を引きつらせるアッシュ。が、この淡い期待は、一瞬で裏切られた。

 ビルの間を縫うように飛行し、英児やジェーンが戦闘している場所を避けるように接近してくる“刀翼”。魔法で浮いているため、さほど派手な飛行音はせず、小さな金属音がするだけでは合ったが、流石に全長6メートルを越える巨大な鳥の出現に、戦闘の手も止まった様子であった。

「あ! 居た居た。君が賞金首さんだよね?!」

 “刀翼”から、声が響いてきた。アッシュは直接あった事も、声を聞いた事も無かったが、恐らくこの声の主こそ、ライエルだろう。

「ぼくの名前は、ライエル。いまぼくのウチ、お金なくて大変なんだ。だから、君を捕まえてお金稼がなくちゃいけないんだって、シャムリース君が言ってたんだ!」

 まるで子供のような無邪気な口調である。が、声を発しているのが“刀翼”であるが故に、逆に恐怖を煽り立てた。

「だから、これから君を捕まえるねっ!」

 なぜか少し照れたようなその声を聞き、アッシュは全身後が滝のように落下していく錯覚に陥った。 こんな事を言われて、他の人たちが黙っている訳が無い。 きっと、そう。

「れ、レッツパーティー・・・?」

 我知らずそんな単語を呟き、ああ。もうなんか。ある意味パーティーに成るんだろうなー。と、軽い絶望と共に思うアッシュであった。