博士の風変わりな研究と飯のタネ(37)

「降下した連中、首見つけたそうです! 場所は、アクア・ルートセントラルステーション近く!」

 通信士の声に、“ジェノサイド・ホエール”のブリッジは沸きかえった。 賞金首を捕まえなくては、ご飯が食べられない。そんな緊迫した状況で届いたその報告は、ミリーを筆頭に、手下の殆どが諸手を上げて喜ばせるに十分なものだった。

「よっくやったのだー! つーかアクア・ルートセントなんとかってなんなのだ?」

 首を捻るミリーに、砲手席に座っている手下が「あー、はいはい。」と答える。

「鉄道の駅だよ。漢字で言うと“海道中央駅”?」

 実も蓋も無い訳し方である。

「あ〜ん。ナルナル。この間アイス喰いに言った所なのだ?」

「そうそうそうそう。あそこあそこ。」

 手下の言葉に、「あーあーあー。」と、妙に納得した様子のミリーだった。

 アクア・ルートセントラルステーションは、鉄道の駅であり、そこらから様々な路線に乗り換えられる、鉄道交通の要所であった。 アクア・ルートのちょうど中央付近に位置することと、その周囲に多数のオフィスや商店が立ち並ぶことから、アクア・ルートの心臓部とも言われる駅なのである。

「丁度、駅前の大通りから百メートルくらい行った、交差点の通話ボックスに引篭もってたそうです。」

「あーあー。テレビで見たことあるのだ。あのデッカイ十字路なのだ? 六車線道路の十字路。で、土日曜祝日になると歩行者天国になる。」

「そうです。時々テレビで出てるあの交差点ですよ。」

 周りに比較的商店が多く、人が集まり易い位置にあるその交差点は、ミリーが言った様に休日などに歩行者天国。つまり、自動車通行止めの大通りになる事で有名な一帯であった。車が止められている間、出店やストリートパフォーマンスなどが行われるのである。 つまる所、英児やジェーン、“二十日鼠”が暴れても平気な広さが十分にあるということだ。

「それで。首はなんでそんな場所の、それも通話ボックスの中に引篭もっているんだ?」

 それまでジーっと様子を見ていたシャムリースが、ボソリと呟いた。 けして大きくは無いが、やたらと良く響くその声に、ブリッジにいた人間全員の動きが止まった。

「ええ。それが、なんでも他の賞金稼ぎに追い詰められてたらしくて。 “魔弾”
と“二十日鼠”と新田 英児だそうです。」

 暫しの沈黙。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

「マジですかー!!」

「おかーさーん!!」

「なんでお邪魔虫がいるのだぁぁぁ!!」

 各々思い思いの叫び声を上げるミリーと手下たち。全員、今上がったメンツの事を少なからず知っているのだ。

「不味いな。 ココで賞金首を捕まえないと本当に食料庫が空になる。 降下した全員、その場所に集まっているのだろうな?」

 呻き喚く手下と船長を尻目に、一人冷静に声を出すシャムシール。その声に、すぐさま機動鎧の管制係が返事を返す。

「さっき報告した通り、高エネルギー反応と首をレーダーで捉えてからすぐ、近衛騎士団一番隊に遭遇。散開して逃げたものの、三機攻撃を受けて戦闘不能。“ジェノサイド・ホエール”に帰還しています。残りの連中は完全に分断されて、散り散りに逃げ回っているのが現状で、近衛騎士団をまいたライエルさん一人が首と接触している状態です。」

「やはりただの賞金稼ぎだと言っても通じないか。当然だろうがな。しかし突然攻撃してくるというのはやはり妙だ。ここは“アクア・ルート”だぞ。」

 滅多に表情を変えないシャムシールだったが、このときは珍しく眉を動かし、多少なりとも不満そうな雰囲気を漂わせていた。

 アクア・ルートは、見た目こそ綺麗で、犯罪組織もなく、人も多い街ではあった。が、物流の要であり、多数の企業が立ち並び、レニス王国の一都市である街である。一筋縄ではいかない。

 アクア・ルートが武器の持ち込みや機動鎧の乗り入れを許可しているのは、“そう言った危ないものを公的に運搬できる港”だからなのだ。 普通なら密輸するしかないような兵器を運用する傭兵や冒険者に大手を振って往来できる場所を与えてやり、企業には他国ならば非合法すれすれの物を当たり前のように持ち込み輸送できる場所を与えてやる。 そうする事で、アクア・ルートには信じられないような金と人が流れ込む。

「故に、多少のイザコザは目を瞑り、度が過ぎると判断すれば徹底鎮圧をかける。 今回の騒ぎは既に鎮圧対象か。空の上に居ると地上がどうなっているのかイマイチ分からん。」

 実際、シャムリースは地上で何が起こっているのかあまり把握していなかった。どうせ、賞金首を捕まえたら速攻でトンズラを決め込むつもりだったのだ。既に数組の賞金稼ぎが小競り合いを始めているとは聞いていたものの、“魔弾”や英児のようなビッグネームが出張って、市街戦のような戦いをくり広げているとは思いもしなかった。

「目の前の移動島に気を取られすぎたか。不味い事になるなこれは。」

 機動鎧が散り散りにされたという事は、つまる所近衛騎士団も機動鎧を持ち出したという事になる。 そんな状況だと、何時までも上空に“ジェノサイド・ホエール”が居ると言う状況を、近衛騎士団は許してくれないだろう。攻撃されるとまでは言わないが、退去は確実だろう。

 さて、どうしたものか・・・。と、思った所で、シャムリースは考えるのをやめた。海賊ならどーんと行け。両親共に海賊であるシャムシールが、幼い頃より口をすっぱくして教えられてきたことである。

「こうなったらスピード勝負だ。速度、進路そのまま! このまま海に向けて進みつつ、機動鎧が首を回収して戻ってきたのと同時に潜行! 全速でアクア・ルートの領地を出て、他の港で賞金首を換金する!」

『イエス・サー!』

 てんでバラバラに叫びまくっていた手下たちの声が、シャムリースの指示を受けて一瞬でそろう。まとまりが無さそうに見えつつも、そこは船乗りだ。

「しっかし厄介な事になったのだー。なーんだって滅多にうごかねーような近衛まででしゃばってるのだ〜? 陸の連中はしゃぎすぎてんじゃねーのだ?」

 不機嫌そうにブーたれた顔をしながら毒付くミリー。その様子に、シャムリースは何時もの無表情に戻った顔を向けた。

「かもしれません。」

「ただでさえ“魔弾”やら“二十日鼠”が居るのだ? 邪魔されねーわけねーのだ。ダーリンがいくら凄腕でも連中にはてこずる筈なのだ。首尾良く首をゲットしたとして、問題は・・・。」

 むーっ。と、難しそうに唸り、眉をひそめるミリー。因みに、ダーリンと言うのは、誰あろうライエル・ザ・“ホークアイ”のことである。見た目こそミリーが年下の年の差カップルでは有るが、実年齢的にはどっこいどっこいだったりするのだった。

「近衛騎士団の動きが気になるのだ。軍警察やらなんやらはどうでもいいから、近衛騎士団の現在地だけ、アクア・ルートの地図に乗っけて。すぐ出すのだ。」

 ミリーの指示に、オペレーターの一人がすぐさま「ういっす。」と返事をする。

「細かくやる必要は無いのだ。大まかな分布だけでいいから急ぐのだ〜。」

「分かってます。画像重ねるだけなんで。 っと、出来ましたーん。」

 ぽちっとな。と言う言葉と同時に、ミリーの目の前に画面が展開された。ご所望通りの、アクア・ルートの立体地図に、蒼い点で近衛騎士の居場所を示した図である。

 その図を見たとたん、ミリーは「こりゃまじーのだぁ〜・・・。」と、苦虫を噛み潰したような顔になった。 すぐ横に居たシャムリースも、図を覗き込み、声だけで呻いた。

「近衛騎士団の連中、街の外側から中央に追い込むように動いているようですね。 今くびが居る辺りは、ちょうど台風の目のようです。」

「洒落にならねーのだ〜! 邪魔されるのは確実だわ、首ゲットして逃げ帰っても周りは近衛騎士と軍警察の群れなのだぁぁぁ!!!」

 ミリーの前の図では、弓形の海岸沿いに細長い形に広がるアクア・ルートの外側から、まるでじわじわと真綿で締め付けるように中央に向かって侵食して行く青い点が表示されいた。 完全包囲の体勢を作ってから、踏み潰すように蹂躙して行く。レニス王国王立近衛騎士団の、得意な戦術の一つである。

「多少無理してでも反転して、ダーリンを・・・あー! でも移動島がじゃまなのだー!!」

「っと、移動島から手紙が来ました!」

「見せるのだー!!」

 もはや金切り声のような声を上げるミリー。 ミリーが叫んだり暴れたりするのは何時もの事なので、特に動揺する様子もなく手下は迅速にミリーの前に画像を展開させた。

 現れた文章は、実に丁寧な書体の文章だった。どうやら手書きらしく、実に丁寧で温もりのある文字が並ぶ。

「つーか、達筆すぎてよめねーのだぁぁぁ!! あれなのだ?! 武士道?! サムライなのだぁ?! こう言うのはブロック体のワープロ文字で送るのが親切ってもんなのだ!! シャムリース! 翻訳!」

「は。」

 画面をしばらく眺め、シャムシールは口を開いた。こう言う文章をそのまま読んで伝えても、ミリーが混乱するだけと心得ているため、一度読んで噛み砕いてから内容を説明するためである。

「要するに、“てめーらが首とグルだって垂れ込みあったから、大人しく全員一回集まれや。どうせガセだろうから、すぐ済ませてやっからよ。”と言うことらしいです。」

「ジョーだんじゃねぇぇぇっつーのだぁぁぁ!!」

 最近の切れ易い若者宜しく、ガトリング砲を乱射するミリー。無論、空砲では有るが。

「そんなことしてる間に賞金首掻っ攫われるのだぁぁぁ!!!」

「向こうとしては大事にせず街の上から出してやろうという善意なのでしょうね。」

「ふざけるんじゃねーのだ! こちとら明日のおまんまにも困る有様なのだ?! 目の前の金つかまねー訳にはいかねーのだ!」

 そう言って乱暴に立ち上がると、ミリーは目の前の手摺を、ガトリング砲に改造した腕で殴りつけ、手下たちの注目を集めた。

「聞ーての通りなのだぁぁ! 近衛騎士団がなんか言ってきてるけど、聞いてたら飯にありつけねーのだ! 全力で無視して、実力行使に出られる前にケツ巻くって逃げ出すのだ! 一回逃げ出しちまえばこっちのもんなのだ! てめーら!! 今日は豪華にバーベキューと行くとするのだぁぁぁ!!」

『いえぇぇぇ!!!』

 異様な熱気に包まれるミリーと部下たちを見渡し、溜息を付くシャムシール。 そう簡単には行かないだろうな。とは予想しつつも。これがミリーのやり方である事を良く心得ている副官は、この後、いかにミリーの気に入る形で事を終らせられるかについて、考え始めるのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(36)

 都会と呼ばれるような環境からかけ離れた、所謂テレビも上下水道も魔力線も無い様な、所謂ファンタジーの典型のような田舎町から出てきたアッシュ少年にとって、今現在自分が置かれた状況は、恐怖そのものだった。

 何ゆえか追いかけてくる、武装した人々。彼等が口にしていた言葉から察するに、何故か自分には賞金がかけられているらしいのだ。しかも、目の玉が飛び出るほど高額の賞金であるらしい。

 無論、賞金をかけられるような事をした覚えは微塵も無い。一瞬、悪魔族が嫌われているからかとも思ったが、逃げている最中、自分と同じ悪魔族がコインランドリーで全裸に成って洗濯が終るのを待っているのを見かけたので、そう言うわけでも無さそうだと分かった。と言うか何故彼は全裸だったのだろう。やはり着る物を全て洗ったのだろうか。

 兎も角、理由はトモアレ、追われているからには捕まる訳には行かなかった。なにせ、追って来る人々と来たら、全員が全員恐ろしそうな得物やら武装やらをしているのだ。中には機動鎧などと言う、あからさまな戦争兵器まで持ち出す人まで居る始末である。

 最初こそ適当に捕まったほうが逆に安全なのではないか? きっと賞金をかけられたのだって何かの間違えなのだし、誤解を解くにしてもその方が良いのではないか。 などとも思ったものだったが、真っ赤な鎧を着た気合い気合いと連呼している人が現れた辺りから、完全に気が変わった。生かして捕まえてもらえそうに無い。と、判断したためである。

 何よりアッシュを恐怖に陥れたのは、自分を追って来る面子の豪華さであった。 “魔弾の”ジェーン。“要塞落としの”ガルシャラ・カーマイン。“二十日鼠”。よく見ればあの赤い鎧も、新田 英児。名うての傭兵ではないか。

 アクア・ルートに来るまでの道すがら、噂に聞いた冒険者や戦争屋、傭兵達である。アッシュが野球少年ならば、彼等はメジャーリーガー。三段も四段も格が違う相手である。 そんな人々を相手にアッシュが逃げ切れてきたのは、彼等が互いに戦ってくれているお陰であった。

 アッシュを追ってきた人々はことごとく、自分の仲間以外の人と争い、互いの足を引っ張り合いをし始めた。 アッシュはその隙にコレ幸いと逃げ出してきたのだ。が、今回はそうもいかないようだった。

 今アッシュが居るのは、道路沿いの通話ボックスのなかだった。透明なガラス系素材で出来た縦長の人一人入るのがやっとの個室に閉じこもり・・・周囲を途轍もない数の人形に囲まれていた。

 ジェーンと英児の戦いに、“二十日鼠”が横槍を入れたとこらへんのことである。 「このまま無防備でいたら確実に巻き添えで吹き飛ばされる」と本能的に感じたアッシュは、とりあえず人並みに使えた障壁魔法を近くの通話ボックスに施し、中に閉じこもったのである。 種族的に尋常よりも魔力の高いアッシュの張った障壁である。その尋常じゃない防御力のお陰でなんとかとばっちりを食わずに済んだものの・・・。今ではそのせいで、外に出るに出られない状況に陥ってしまった。といった所な訳だ。

「せ、選択ミスでした・・・! せめて逃げ込んだ先が車なら、移動できたんですが・・・!」

 実際にはアッシュは車の運転など出来ないから、何に逃げ込んでも一緒なのだが。黒尽くめの集団に囲まれてバチバチ叩かれている今の心理状態では、そこまで頭が回らないようである。

「とにかく、今下手に外に出たら命が危ないですよね・・・。じっとしていた方が良さそうです・・・。」

 半泣きでボックスの中央に体育座りするアッシュ。 壁に寄ると人形が沢山で怖いのだ。

 と。座り込んでいたアッシュの耳に、甲高い金属音のような音が入ってきた。アッシュの表情が、一気にこわばった。この手の音を出すのは、飛行物体。それも・・・空戦に対応した飛行できる機動鎧と相場が決まっているのだ。

 慌てて顔を上げたアッシュの目に飛び込んできたのは、予想通り、機動鎧だった。

「刀状の翼の鳥獣型鎧に・・・眼帯髑髏・・・? “七海殺戮海賊団”の“刀翼”?! ってことは、ライエル・ザ・“ホークアイ”?!」

 頭を抱えて悲鳴のような声を上げるアッシュ。悲鳴のような、と言うか、寧ろ悲鳴といって良いだろう絶叫である。

 ライエル・ザ・“ホークアイ”と、“刀翼”。この二つの言葉は、語り草になるほど有名な名である。

 元々ある小国の騎士であったライエルは、先の大戦で一騎当千の戦果を上げたにも拘らず、終結後、地位を捨て、一人の女性と駆け落ちをしたのである。その女性とは、勿論“七海殺戮海賊団”団長“ガトリング”ミリーその人である。

 レニス王国のような超大国であるならば兎も角、普通の国にとって、一騎当千とも成りえる兵は貴重も貴重。国防の要とも言える。通常ではありえない戦力であり、無ければ戦が成り立たないと行っても良い人外魔境の兵は、例え一人でも惜しいものである。 当然その国は何とかしてライエルを手元に戻そうと、あの手この手。最終的には、武力までも投入した。 ライエルを欲したのは、その小国だけではない。他の国々も、“機動鎧”と言う戦争の花形を、まるで天使か悪魔の如く使いこなすライエルを、様々な手で手に入れようとした。

 しかし、ライエルは己の判断力と、たった一機の機動鎧だけでそれら全てを払いのけたのである。今ではどの国も、ライエルに手を出そうとは考えないほどだ。

 その、“たった一機の機動鎧”こそ、鷹型機動鎧“刀翼(touyoku)”なのだ。 兎人の使う、刀と同じ技術で作り上げられた刃の翼に、装甲全てに張り巡らされた飛行魔術式。常人では、例え人工精霊によるサポートがあったとしても制御の難しい“空中高速格闘戦”と言うコンセプトの機体。それをライエルは自分の腕だけで完璧に制御し、通常の人型機動鎧では付いてこれないほどの高速で運用するのだ。

 “七海殺戮海賊団”が今日も捕まらず悠々と空を渡っているのは、ライエルが居たからだ。 本当ならば厄介者とされるような、国からマークされている側の人間であるはずの男を刺して、そう言わしめる。 ライエル・ザ・“ホークアイ”。それが、“ホークアイ(鷹の目)”の二つ名を持つ彼の実力だった。

「ま、まさか・・・。海賊の人まで、ボクを捕まえようとしてるなんてことは・・・。」

 半泣き半笑い顔で、口元を引きつらせるアッシュ。が、この淡い期待は、一瞬で裏切られた。

 ビルの間を縫うように飛行し、英児やジェーンが戦闘している場所を避けるように接近してくる“刀翼”。魔法で浮いているため、さほど派手な飛行音はせず、小さな金属音がするだけでは合ったが、流石に全長6メートルを越える巨大な鳥の出現に、戦闘の手も止まった様子であった。

「あ! 居た居た。君が賞金首さんだよね?!」

 “刀翼”から、声が響いてきた。アッシュは直接あった事も、声を聞いた事も無かったが、恐らくこの声の主こそ、ライエルだろう。

「ぼくの名前は、ライエル。いまぼくのウチ、お金なくて大変なんだ。だから、君を捕まえてお金稼がなくちゃいけないんだって、シャムリース君が言ってたんだ!」

 まるで子供のような無邪気な口調である。が、声を発しているのが“刀翼”であるが故に、逆に恐怖を煽り立てた。

「だから、これから君を捕まえるねっ!」

 なぜか少し照れたようなその声を聞き、アッシュは全身後が滝のように落下していく錯覚に陥った。 こんな事を言われて、他の人たちが黙っている訳が無い。 きっと、そう。

「れ、レッツパーティー・・・?」

 我知らずそんな単語を呟き、ああ。もうなんか。ある意味パーティーに成るんだろうなー。と、軽い絶望と共に思うアッシュであった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(35)

「気合い気合い気合い気合い気合い気合いぃぃぃ!!!」

 まるで癇癪を起こしたかのように叫びながら、英児は剣を振るっていた。 剣による直接攻撃ではなく“剣風”で戦うという英児のスタイルは、一見デタラメでは有るもののリーチと破壊力と言う二つの観点からだけ見れば、実に有効なモノであった。

 なにせ、時速60キロの車に引かれてもびくともしないと言う防護スーツを纏った人形を、十数メートル吹き飛ばした挙句、いとも容易く両断、爆砕させているのだから。

「あぁぁ!! チクショウがぁ! なんなんだこの数は!! さっきより増えてやがるぞオイ!!」

 英児は苛立たしそうに舌打ちすると、剣を肩に担ぎ、とんとんと叩いた。実際肩に刺激が伝わる事は無いのだが、気分の問題である。

「増えてもらわなくちゃ困るのよ。“鼠”って言うくらいなんですからね!」

 突然背後から聞えて来た声に、咄嗟に振り向こうとする英児。しかし、振り向こうとするその動作に入る前に、突然視界が真横にスライドした。地面に突っ込むように前転し、急ブレーキをかける様に両手両足で地面を削り止った時には、先ほど待て自分が居た位置には、無数の炎で出来た数メートルはあろうかと言う杭が打ち込まれている。自分でも無意識の、脊髄反射的な野生の感だ。

「は! 人形に隠れてビビッテたんじゃねーのか?!」

 相手も確認せずにそう言いながら、英児は立ち上がると振り向きざま剣を振りぬいた。背中で感じた相手の位置は違わず、放った剣風はまるで実物の鉄槐でも有るかのような破壊力と轟音を響かせ着弾した。

「そうも行かないのよ! 私達だって賞金首、追ってるんですからね!」

 英児の剣風を受けながら、相手。シュナは、平然と立っていた。着弾の寸前、自らと剣風の間で爆炎を作り出し、リフレクトアーマーを使ったかのように破壊力を相殺したのだ。

「おお! あぶねぇそうだった! 賞金首だ!! テメーと遊んでる場合じゃねーんだよ!賞金首とらにゃ飯がくえねぇーんだゴラ!!」

 言いながら、英児は剣を地面と平行に構え、全身のバネを使って突き出した。言わずもなが、これからも放たれた剣風は、圧縮空気砲のように一点に集中した破壊力を持ってシュナに襲い掛かる。

「アンタ今忘れてたでしょ?! 賞金首追ってること! 忘れるくらいなら諦めて引っ込んでなさいよ!!」

 英児の剣風を横方向へのダッシュでかわし、シュナは手の持った巨大な杖に魔力と呪文を込め始めた。 この杖は、いわば出力機であった。シュナ自身の魔力を“エネルギー”にして、“呪文”と言うプログラム通りの現象を起こすのだ。 シュナの杖には、あらかじめ実戦向けの呪文がいくつか仕込まれている。故に、実際に口にする呪文は用意してある数種類の呪文の起動と、追加の命令式だけなのだった。 軍事用に使われる杖にもこのような形式のものは幾つもあるのだったが、シュナの使う杖は、その数倍も大きく、その大きさに比例して用意してる呪文の数も多い。コレだけのものを使いこなすには、相当の訓練とセンスを要求される。

 走りながら呪文を組み上げ、呪文を放つシュナ。 繰り出したのは、直径10cm弱の、数十にも及ぶ追跡火球。

「今思い出したから良いんだよ!!」

 言いながら、千度をに迫る火球の群れに一直線に飛び込む英児。 普通ならば接触した瞬間水蒸気爆発を起こしそうな高温の火球が、英児に向かって殺到する。 全身が炎に飲まれ、燃え尽きたようにも見えた瞬間。

「気合い!!!」

 言葉通り。英児は全身から物理現象にまで昇華した気合いを放ち、一瞬で炎を吹き飛ばしてしまった。

 英児の常識を無視した“感情”、“気合い”をエネルギーとする“アーマー・オブ・ディープレッド”の装甲は、その根源ともなるエネルギー量の絶大さを下地にして、並や普通の“重装甲型機動鎧”以上の対魔法力を誇っている。その鉄壁とも呼べる鎧の前には、一個人が咄嗟に放つ魔法など、そよ風のようなものなのだ。

「んなっ・・・! んつう装甲してんのよアンタ! そんなテレビの子供向け番組みたいなカッコしてる癖に!!」

「はっ! 羨ましいかゴラ!」

「そんな訳無いでしょ、バーカ!!」

 低レベルな口喧嘩をしながらも、シュナは既に次の呪文を構築し始めていた。 どんな壁も、絶対ではない。“アーマー・オブ・ディープレッド”の防御力の要は、英児の感情である。“アーマー・オブ・ディープレッド”の対魔道装甲は、機動鎧などと同じく、感情の高ぶりを喰らい魔力に変える人工精霊を宿す事で成形されていた。故に、魔力を浪費させ、感情を喰らい尽くさせれば、ほころびが出るのだ。 つまり、さっきのように魔法を連発し続けていれば、装甲は何れ用を成さなくなるというわけだ。 感情を喰わせ魔力を発生させる技術で作られた魔力は、実に濃厚で力強い。反面、“感情を喰わせる”と言うその性格上、“感情が枯渇”して魔力を製造出来なくなるのも早い。故に、シュナレベルの使い手で有れば、多少時間さえ掛けてしまえば、感情が枯渇するほど魔力を使わせてしまうことも可能なのだ。

 しかし。自分の装甲と同じタイプのものに対する適切な対応を見せるシュナに対し、英児は余裕の笑みを浮かべていた。

「おいおいおいおい。 “アーマー・オブ・ディープレッド”をただの戦闘服だと思うなよ?」

 意味ありげに言うと、英児は腕に付けられたパーツを口元に引き寄せ、大きく息を吸った。

「来い!! 大地の咆哮!! ヒートレッド!!!」

 言うや否や、英児の真後ろの空間に、半径2mはあろうかと言う光の魔法陣が現れた。見るモノが見ればすぐにそれとわかる、召喚魔法陣だ。 平面であるその魔法陣の中央から、火花を散らして現れたのは、二mはあろうかと言う、巨大な鋼鉄の獅子だった。 赤と黄金のメタルカラーを施されたそれは、英児の“アーマー・オブ・ディープレッド”と同系列のデザインであった。

 鋼鉄の獅子“ヒートレッド”は、英児の隣に降り立つと、まるで生あるモノのように身震いをし、空に向かって大きく一声鳴いた。機械的な外見に似合わぬ雄雄しいその咆哮は、近くの建物のガラス窓を振るわせるほどだ。

「それがなんだって言うのよ! 今更ゴーレムの一体や二体!!」

 呆れ半分怒り半分で叫ぶシュナだったが、言葉を向けられた当の英児は以前余裕の口ぶりだった。

「ヒートレッドがただの戦闘用ゴーレムだと思うなよ? これからたっぷりコイツの恐ろしさ、味合わせてやるぜぇ!!」

 英児は見得を切る用に大仰な仕草で剣を構えると、無駄に大きいその声を響かせた。

 因みにこのとき、すでに英児の頭からは賞金首の事は綺麗さっぱり忘れ去られていた。戦闘になると、目的も空腹も全て忘れて感情を高ぶらせられる。 それが、英児の傭兵としての強さの源であり・・・弱点でもあった。 この数分後。英児はこの忘却性を激しく公開する事に成るのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(34)

「きりが無いって言うか面倒臭いって言うか・・・。どうしろって言うのよこれ。」

 わらわらと蟻の様に群ってくる人形を破壊しながら、ジェーンは誰に言うでもなく毒付いた。

 英児との賞金首をめぐる戦闘の最中、“二十日鼠”が横槍を入れてきて、もう数分が経とうとしている。 その間に、数十隊の人形を破壊しているが、一向に人形の数が減っているようには見えなかった。 “人形”を操る。と言うのは、簡単な事ではない。簡単に言ってしまえば、自分の身体とは別に、もう一つ“体”を操らなくてはなら無いからだ。 故に、普通の術者が通常操れるのは、多くて二体から三体。この人形を全て操っている“パペッター”は、異常と言えるだろう。

「“パペッター”を直接狙えれば一番楽・・・って、言ってもしょうがないわね。」

 人形を潰すには使い手を潰せば良い。 人形遣いと戦うときの基本だ。実際、“パペッター”は姿を隠すでもなく、大量の人形をはさんで此方をじっと見ている。だが、だからこそ面倒臭くもあった。 姿を晒していると言っても、間には無数の人形がある。狙いに行った所で、すぐに人形に囲まれる。だからと言って、すぐそこに居る術者を無視する事も出来ない。

「全く・・・。」

 ジェーンは一度大きく溜息を付くと、愛器“オルトロス”で帽子の唾を押し上げた。

「もうどうなっても知らないわよ・・・。」

 ポツリと一言、呟く。 すると。ジェーンの衣服の表面に、まるでネオンサインのような幾何学模様が青白く浮かび上がってきた。そして、なにかの法則があるかのようにその模様が服の上を這うように動き始めた。

 無造作に銃を持ち上げると、一番近くの人形一体に向かって引き金を引く。弾丸は的確に人形の胸部に着弾すると、人形の身体を粉砕。一瞬にして腹と胸を消し飛ばすと、そのまま直進。後方に有った人形の左肩を首ごと消し飛ばし、その後方に有った人形の上半身を諸とも吹き飛ばし、さらにその後方に有った人形の左腕と頭だけを残し、残る上半身を諸とも消し飛ばした。そのようにして、最終的にはたった一発の弾丸で、十数体の人形を完全破壊してしまった。

 あまりにあっけなく人形が破壊された事に反応してか、“パペッター”の体が僅かにぶれる。

「“魔弾”て言うからには、ただの鉛弾撃ってる訳にも行かないでしょう?」

 ニヤリと軽薄な笑いを顔に貼り付けると、ジェーンは二兆一対の拳銃“オルトロス”を構えた。銃を寝かせ、掌を地面と水平にするように持ち、腕をクロスさせる。

「さーてと・・・。ショーターイム。ってか?」

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

じゅーすとこーひー

 

 

「ん。」

「ふむ。ポンジュースは気に入ったかね?」

「ん。おいしい。」

「それは良かったと思うのだがね。 わざわざミカンを買って来て絞り上げた会が有ると言うものだと思うのだがね。」

「しぼりあげた。」

「うむ。絞り上げたね。それはもう日本てぬぐいに包んで此れでもかと言うほど。はっはっはっは!」

「どくたーはなにをのんでるんだ?」

「私はコーヒーだね。やはり徹夜の友と言えば、コーヒーだと思うのだがね。これから仕事を片付けなくては成らないからね。目覚ましだね。」

「それ。 おいしいのか?」

「うーむ。難しい質問だね。人それぞれ好みがあるから一概にはいえないと思うのだがね。まあ、私にとって見れば、美味しいと思うのだがね?」

「ん。」

「ほう。飲んでみるのかね? まぁ、ぬるいから大丈夫だとは思うのだがね。火傷には気を付けると良いと思うのだがね。」

「ん。 ・・・・・・。」

「味はどうだね?」

「・・・・・・・・・あ”ぁぁぁ〜〜。」

「おお。御気に召さなかったようだね。苦かったかね?」

「ん。 ・・・・・・。」

「む? また飲むのかね?」

「・・・・・・・・・あ”ぁぁぁ〜〜。」

「・・・ふっ! はっはっはっはっはっは! 怖いもの見たさとかそう言う類の感情なのかも知れんと思うのだがね・・・!」

「にがい。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(33)

 観光都市としての側面も持つアクア・ルートには、昼の早い時間でも開いているバーなどが多数点在していた。 その中の一つに、数名の賞金稼ぎがたむろしていた。

「冗談じゃねーぞまったく・・・。なんだって“魔弾”に“二十日鼠”なんてビッグネームがそろってんだよ・・・。」

「それだけじゃなかったぞー。“城落し”に“白炎狼”も居たー。」

「マッジかよっ! 激最悪じゃん本気マジでっ!」

「だからこの街やなんだよ・・・冒険者やら賞金稼ぎなら武器持ち込み自由な変わりに、転がってる仕事がでか過ぎて洒落にならんのばっかり集まるんだ・・・。」

 それぞれ思い思いに愚痴りながら、酒を煽る賞金稼ぎたち。

 彼等の一人が言ったように、この“アクア・ルート”と言う街は、冒険者や賞金稼ぎ、傭兵であれば、どんな武器の携帯も許可されている街であった。 使用についても、一般市民に被害を及ぼさない範疇での使用なら許可されており、冒険者同士の喧嘩や賞金首狩りなどは、基本的には見て見ぬ振りをされていた。

 ならば、有象無象、実力があるモノも無いモノも。山のように集まりそうなものだが・・・実際は違った。 世界でも有数の都市であり、交通の要であり、経済、物流の拠点であるこの街には、“ずば抜けた凄腕”も集まってくる。そう言った連中を目当てにした、無茶苦茶で不可能にも思えるものの、依頼料が目が飛び出るほどの額に成る依頼も集まってくるのである。 自然、そんな依頼を受け、達成できる人間以外は、他のクイブチを求め他の街に流れていく。 うっかり自分より実力のある相手に喧嘩を吹っかけ、ボコボコにされて海に放り出されるというケースもあるが。

 兎も角。大都市で有ればあるほど、“荒事”を生業にするものにとっては、ハイリスクハイリターンな仕事が集まり易い。 故に、そんな場所をねぐらに出来る冒険者や傭兵、賞金稼ぎと言うのは、“ずば抜けが凄腕”。と、言う事に成っていく訳である。

「お前どうするよーこれから。あの額のために死にたくねーよ俺。」

「だーいじょぶだって。骨なら拾ってやるから、行って来い。」

「テメー人事だと思って適当な事ふいてんじゃねーぞ! 実際近衛騎士団とか出張ってんだから洒落になんねーよ! 生身で火葬とかされるぞ!」

「俺は“マーズ”にでも行ってみるつもりだけど。あそこ、こないだどっかとどっかの同盟崩れて、イザコザ多いらしいから。 多分、首逃げ込んでると思うんだよね〜。」

 “マーズ”とは。アクア・ルートと、レニス王国の首都があるこの星、“テラ”の隣に位置する星である。早くからテラフォーミングは施され、今では“第二のテラ”と呼ばれる水、大地、緑、空気豊かな星になっていた。

「ああ。治安悪化すると、警備甘くなるからなぁ。首逃げ込むんだよねー。良く・・・。俺も行ってみるか。」

「俺もそうしよー。」

「お。居た居た。 いやぁ〜よかった。探しちゃったよ〜。」

 唐突に。ボチボチと今後の方向性を決めていた賞金稼ぎたちに、男が話しかけてきた。 天然パーマっぽい青髪に、とろんとしたタレ目。派手な赤いアロハシャツに、ジーンズ地のハーフパンツにスリッパと言う、なんとも浮かれた格好をした男だった。種族が人間ならば、二十代終わりか三十代頭の、若く見えるタイプ。と言った年恰好である。

「ああ? なによオッサン。なんかよう?」

「おいおい。オッサンはないだろうー。俺まだそんな歳喰って見えないだろぉ? 34よ俺〜。」

「そんなことどうでも良いんだよ! 要件言え、要件!」

「ああー、そうそう! 危ない危ない忘れる所だった。 君等、ココに来る時うっかり建物引っ掛けただろ? 器物破損だよ。ちっと事情聴取だけするから、一緒に来てくれない?」

 男の言葉に、賞金稼ぎたちの表情がキョトンとしたものに成る。

「なに。おっさん。軍警? 軍警察?」

「ま、そんなとこ。 お役人さんだぁ〜ね。」

「おいおいおい。勘弁してよマジで。壊したっつっても流れ弾避けるためにでしょー。大目に見てよ〜。」

「分かってるってー。だから逮捕とかしないからさ〜。事情聴取で帰して上げるからさ〜。ね? ちょっとだけっ!」

「なんだよその人差し指と中指で作った隙間覗き込むフッルイ“ちょっとだけっ”のジェスチャー! つかマジでヤダっての! 下手したら罰金とかじゃんか!」

「ないない! ホント事情聴取するだけだって! 抵抗とかしなきゃ、御互いハッピーに仕事終るからさ! ね?!」

「そう言って免許とか剥奪された奴知ってるもんよー!」

「そんなえげつない事しないってば! 書類作るのメンドクサイだよ?! そう言うの!」

「書類作るのめんどくさがるような奴の言う事信用できるかー!」

「大丈夫だって〜。どうせ現場俺しか見てないからさ〜。幾らでも事小さく出来るし! つっても、俺もなんかやってた事にしないとアレでしょ?! この騒ぎで仕事してなかったのばれたらやばい訳よ! 人助けだと思ってさ、サクっと連行されてよ!ね!」

「しつこいなアンタも!! って・・・現場見たのあんただけなの?」

「そうだよ。」

「証拠写真とか、映像とかは?」

「ナイナイ。」

 男の言葉に、賞金稼ぎの一人がニヤリと笑った。

「じゃあ、アンタに寝ててもらってその間に国外に出ちまえばOKって訳だ?」

「まぁ、そうだけど。現行犯じゃなきゃこう言うの意味ない訳だし。」

「そりゃいいや。じゃあ、寝ててくれやおっさん。」

 言うが早いか。賞金稼ぎは戦闘用義手、拳部分を超振動させ、対象物に大ダメージを与えると言う凶器を起動させ、男に向かって振りぬいた。 予備動作の全く無い、唐突に腕が別の生き物のように動き相手に襲い掛かるこの手の技は、プロの暗殺者も用いる高等技術の一つである。

 が。 吹き飛んだのは賞金稼ぎのほうだった。

 腕が動き、男の身体に触れようとしたまさにその時だった。 男の右手が掻き消え、次の瞬間、まるでコマ落しの様に賞金稼ぎが天上に頭から激突。 木製だった天上に頭を突っ込んだまま、プラーン、と、首吊り状態で垂れ下がる事に成ったのである。

「う、うは・・・。ギャグ漫画とかでこう言うの見たこと有るよ俺・・・。」

「嘘だろおい・・・。アイツ義肢の入れすぎで体重400キロオーバーなんだぞ・・・。」

 若干引き気味ながら、叫んだりしないで冷静に成っているあたり、流石は賞金稼ぎと言った所か。

「おじ・・・いやいや。 おにいさん、なにもの?」

「ん? 俺? ああ、いてなかったっけ? レニス王国近衛騎士団、三番隊隊長。“ドレイコ・スカルホッパー”。」

 男の名前を聞いた瞬間、賞金稼ぎたちの顔色が一瞬にしてヤバイ青に変わった。

「スカルホッパーって・・・前の大戦中に、“黒龍”スカルホッパー?!」

「懐かしい呼び名知ってるなぁ〜。 って、そんなことどうでも良いんだって。このぶら下がってる奴のお陰で始末書書かなくっちゃならなくなったよまったく。 ねぇ。ホント頼むからさぁ。君等は大人しく付いてきてくれない? 絶対悪い様にはしないから!ねっ!」

 苦笑いしながら両手を合わせるスカルホッパーに、賞金首たちは顔を見合わせ、答えた。

『大人しく付いていくから、ぶたないでくださーい。』

博士の風変わりな研究と飯のタネ(32)

 世界有数の交易都市であり、観光都市であり、富と名声が集中し、人と金とが交錯するこの街。アクアルートは今。大変な混乱状態にあった。

 なぜか巨額の賞金が掛けられたたった一人の悪魔族の少年をめぐり、多数の賞金稼ぎが激突。あまつさえ、海賊やら軍警察まで動き出し、にっちもさっちも立ち行かない、まさにカオスな状態に陥っていたりする訳である。

 そんな最中、嬉々として治安活動にせいを出す集団が居た。非番、もしくは休暇中であるにも拘らず、レニス王国国有装備であるはずの重火器、機動鎧、大型魔法陣まで引っ張り出し暴れまわるその様は、後に“大乱闘! 近衛騎士団” と言う謎のフリーゲームまで製作される事になるほどであった。

「くっそ・・・! なんなんだよこいつ等!!」

「無駄口叩くなら撃ってくれるとマジ助かるんですけどー!!」

 大声を張り上げながら、二人組みの冒険者が細い路地を走り抜けていく。態々大きな声を出しているのは、そうしないと相手に聞えないからだ。 なにせ、走りながら大火力の魔法を連発しているのだから。

 腕に、魔力を込めるだけで指定の魔法を発動してくれると言う便利アイテムを装着したこの二人組みは、今必死になって逃げ回っている最中なのだ。

「なんなんだよ!!」

 後手に、“レイ”と呼ばれる収束エネルギー砲を連発していた一人が、チラリと後ろを振り返った。そこにいたのは、真っ黒な重鎧に、これまた真っ黒なマントを羽織った集団だった。恐らく鎧は強化服なのだろう。信じられないような軽やかさで迫ってくるその集団は、マシンガンのように連発しているレイを真正面から受けつつも、全く動じる様子もダメージを受けている様子も無く追いすがってきていた。 厚さ三センチの鉄板も貫くレイを受け微動だにし無いとなると、コレはもう逃げるしかないわけである。

「撃っても撃っても当たらないからこんな路地に来たってーのによぉ! これじゃぁ追い込まれてるだけじゃん!! なんなんだよマジあいつ等!」

「レニス王国の近衛騎士団の一番隊だよ! あいつ等たち悪いらしいからな!!捕まったら、っつか、追いつかれたら殺されるかも知れんぞ!!」

「冗談じゃねーぞマジでー! 死にタクねーっつのー!!」

 半べそで泣き叫びながら、二人組みの片方が高速で指先を空中に躍らせながら、シュー、と言う低い音を口から発し始めた。 指先が描き出すのは、通常の二次元魔方陣、縦横に、奥行きと言う第三要素を加えた“三次元魔方陣”と呼ばれるもの。低い音は、数千文字から連なる呪文を圧縮して発音する“圧縮呪文”であった。どちらも並の術者なら、相当の集中と時間を要する芸当である。とても二つを同時に、しかも走りながら製作するなど出来ないだろう。このことから、この二人の力量が窺えた。

「おいおいおい! そんなもんどうするんだよ!」

「捕まるよかまし! 吹っ飛べ近衛騎士団!!」

 ドリフトのように靴底を地面で削りながら振り返ると、躊躇なく魔法を放った。 術式の名は“対機動鎧貫通レイ”複雑な過程を経て放たれる、大抵の防御魔法を無効化する、大口径のレイである。因みに彼が放ったこのレイの太さは、半径一メートルは優に越えていた。

 細い路地が一杯になるほどの極太のレイが、黒い鎧を来た近衛騎士達を直撃した。元々破壊力を有した光である。発射口が敵に向かった瞬間に打ち出せれば、避けられる道理などないのだ。

 突然の高熱により膨張した空気が、爆風となって路地を突き抜けた。閉鎖空間で爆風が吹いたのだから、銃の砲身の中にあるようなものである。二人組みの冒険者は元々そのつもりだったたのか、発射と同時にバリアーを発動させ、全くの無傷でその場にうずくまっていた。

「必中ー!!」

「コレは効いたでしょうがよー!」

 爆風が収まったのを確認し、バリアーを解いてガッツポーズを取る二人組み。だが、爆風で舞い上がったちりが晴れるうち、その表情が見る見る青くなっていった。

 そこには、一番見たくない光景があったのだ。

 先頭に立つ一人の騎士が手にひらを此方に向け、悠然とマントをたなびかせている姿と・・・その背後に並ぶ、2丁の大型自動拳銃を構えた騎士の姿。

「冗だ」

 んにしても笑えネェー・・・。 そう続けようとしたが、不可能だった。 騎士達が構えた銃が一斉に火を噴き、弾丸が冒険者の身体に容赦なく叩き込まれる。

「いっぎゃー!! いってー!!」

「イタイイタイイタイイタイ!!」

 のた打ち回る冒険者二人組み。しかし、一向に身体に穴が開く様子は無かった。それもそのはず。騎士達が撃っているのは、弾丸は弾丸でも、非致死性のゴム弾なのだ。とは言っても、大口径のゴム弾である。直撃すれば相撲取りも三十センチは動く威力がある。

「打ち方やめ。」

 一番先頭に居た騎士が片手を挙げ、銃撃を終らせる。 足早に転がっている二人組みに近づいていくと、越から引き抜いた日本の大型ナイフを逆手に持ち、それぞれの顔の横に付きたてた。

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

「まったまったまった! もう抵抗しないからマジで!!」

 ビビって命乞いを始める二人を一瞥すると、騎士は兜に手を添えた。 ロックが外れる音と、シュー・・・、と言う空気が漏れ出す音と共に、兜が外された。中から現れたのは、腰に届きそうなほどの赤髪をポニーテールに束ねた、女性の顔だった。

 年のころは二十代半ばだろうか。意志の強そうな目に、一文字に結ばれた唇。まるで絹のように白い肌は、その髪の色と相まって、実に栄えていた。 彼女の名は、“ミレイ・クロセッカ”。レニス王国近衛騎士団 一番隊隊長であり、“イフリート・ザ・ダークナイト”と呼ばれる女傑である。

「街の中での兵器の携帯は、冒険者である君たちには許可されている。しかし、その運用となれば話は別だ。しばらく牢屋ででも頭を冷やすのだな。」

 冷たく言い放たれたその言葉に、転がっていた二人組み冒険者はしばしぽかーんとすると、顔を見合わせ頷きあった。

「おねーさん、お茶しない?」

「俺等面白いよー?」

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

ジェーン(幼体) / 体長・約100cm 特徴・腰辺りまで届く髪に、やたら鋭い目。眉は常にV字に近い角度で、眉間に皺が寄っている。 備考・二丁拳銃と蹴り、ガン・カタを使う。訳も無く、主な攻撃方法は“かみつく”。 好物は“食物”。見境は無い。人だろうが動物だろうが“かみつく”で捕食しようとする。

 

Dr・フェネクス(完全体) / 体長・約180cm 特徴・白衣。ベリーショートの銀髪。紫の瞳。妙齢の美青年然とした風貌とその微笑は、天使を思わせるとか無いとか。 備考・行動は基本的に現代と変わらない分、違和感ダウン変態度アップ。なんでジェーンを拾ったのかは今のところ不明。ただ、気まぐれに見えて目的以外のことには関心を持たないこのボンクラの行動だけに、意味有りげ。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(31) なんか編集できなくなったから続きをコッチに書いて見たすぺしゃ

「うむ。 しかし、これ以上面倒ごとが起こらねば良いのだがなぁ。」

 手元のモニタを眺めながら、難しそうな顔をして溜息を吐く神津。そこに映っているのは、いまアクアルートで暴れている、賞金稼ぎと近衛騎士団員の姿だった。

「下はいま祭りのような騒ぎですからなぁ。厄介ごとは、これから増える一方でしょう。」

「そうならぬように願うのみよな・・・。」

 知れッとした副官の言葉に、心の底からの溜息を吐く神津だった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(31)

「さてさて。某等も役目を果たさぬとな。他の隊の長連中に何を言われるか分からぬ。」

 近衛騎士団所属 移動島“イージス”のブリッジ。その指揮官席に座り、“神津 雅平”は目の前のパネルに指を走らせていた。 兎人は指が余り器用な様には見えないのが、実際には滑らかによく動くのだった。

「非番の者たちも参戦しているようです。仕事熱心で結構ですな。」

「連中は仕事をしているわけではあるまいて。戯れで戦を楽しむような連中よ。某には格好の玩具にじゃれ付いているだけにしか見えぬは。」

 背後からの言葉に、振り向きもせず答える神津。 彼が腰掛けている斜め後方に居る、白髪をの人物が声の主である。 近衛騎士団 二番隊副隊長“オーグスト・グランベル”。 種族こそハイエルフで、歳も既に初老とされる域に達してはいたが、ガッシリとした面に真っ白な髭を湛え、一部の隙も無く軍服を着込み、微動だにせず直立し後手に腕を組んだその姿は。まさに古強者とでも言った風情だった。

「我々は兵隊でありますからなぁ。戦いが大嫌いだ、と言うよりは、幾分はましかと思いますが。」

「そう言う問題でもあるまいに。」

 おどける様に肩を竦めて言うオーグストに、思わず苦笑を漏らす神津。 見た目に反し意外にも冗談を言うこの副官は、神津にとって貴重な部下の一人であった。

「して、オーグストよ。海賊どもが送ってきた通信。どう見る?」

 神津は腕組みをしながら、画面に映し出された文面を眺め、難しそうに溜息を吐き出した。 

「言っている通りでしょうなぁ。 “我が国では”連中が海賊では有りませんから。賞金稼ぎでも、最近はああ言った軍事兵器を運用しますし、危険な船を街中で飛ばしているからと言って、攻撃は出来ませんからなぁ。」

「我が国では許可を得た賞金稼ぎであれば、街中での兵器の使用も許可されておるからな。いやはや副団長殿は、その建前も考えろと仰せな様よ。 こう言った面倒臭いことは某、苦手で御座ると申しておいたはずなのだが・・・。」

 唸る神津を尻目に、落ち着き払った顔のオーグスト。ブリッジ正面の大型スクリーン。真正面に顔を向けたまま、視線だけを神津に向けた。

「して。いかがなさいますか? 隊長殿。」

「そうさな。 連中が賞金首の逃亡を手助けしている疑いがある。と言うのでどうだ。」

「と、言いますと?」

 意外そうな顔をするオーグストに、神津は懐から煙管を取り出しながら言葉を続ける。

「連中は確かに賞金稼ぎだが、レニス王国での実績は殆ど無い。なにせ活動拠点がこの国では無いからな。ゆえに、連中が賞金首と接触が有り、賞金稼ぎの立場を利用して賞金首を捕まえるフリをして首を逃がそうと画策していたとしても・・・。不自然では無いと言う訳よ。」

「隊長殿。流石にそれはいささか強引過ぎるのではありませんか?」

「しかし、“善意の通報”を無下にする訳にも行くまいて。とりあえず砲を使われても危険の無い海上に連中を誘導した後、危険が無いと分かれば開放してやろう。無論、抵抗を見せるようであれば“撃墜せぬ範囲での戦闘”も止む得ぬで御座ろうなぁ。」

 肩を竦めて言う神津に、オーグストは口元を少しだけ吊り上げる。

「成るほど成るほど。そのような“善意の通報”が来ている以上、念のためにも調べぬ訳には行きませんなぁ。我等騎士団は、民を守る事こそが至上命題。賞金がかかるような危険な人物を助けようとするようなやからが乗る船を、民の頭の上に浮かべておく訳にも行きますまい。」

 さも当然と言う顔で言うオーグストに、思わず笑みを浮かべる神津。

「では、通報が来るのを暫し待つとするか。」

「は。すぐにも“善意の通報”が来るかと思います。」

 言うと、オーグストは軽く咳払いをする。そして、振り向いた情報戦担当官に、頷いてみせる。 その行動に、有翼の担当官はニヤリと笑って見せた。 すぐさま思考感知式の情報端末を頭にセットすると、作業に取り掛かった。

「後は待つばかり、ですな。」