博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「・・・なかなか興味深い行動だと思うのだがね。」

「ん。」

「私の見立てが正しければ、それは銃だと思うのだがね? どこかから奪ってきたのかね?」

「つくった。」

「ほう! どうやってだね?」

「じしゃくでさてつあつめた。」

「ふむ。砂鉄。 まさか、材料全てそうして集めたのかね?」

「ん。」

「成型は・・・?」

「とりのつかった。」

「ふむ。確かに私の研究室にある器具で製作可能だと思うのだがね。 使い方は何時習ったのか不思議だと思うのだがね?」

「しつじ。」

「執事君が教えてくれたのかね?」

「ん。」

「ふっ・・・っはっはっはっはっは! 通りで知らない間に起動しているわけだと思うのだがね! なるほどなるほど!」

「けんじゅうのつくりかた。 ぬすんだ。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(42)

 “アクア・ルート”に幾本も通る道路上に、奇妙な光景が広がっていた。

 重武装した三十人以上の人物が、鋼鉄製のワイヤーでがんじがらめにされて転がされているのだ。 数人こそ丁寧に捕縛されているものの、大多数はまるでアニメにでも出てくるかのような大雑把なぐるぐる巻きにされていた。その大雑把ッぷりは、見るものにそれをした人物の「こんなにいるのに一人一人縛るのとかありえないからっ! 面倒くさいからっ!」と言う思いをダイレクトに伝えているようだった。

 良く見ると、縛り上げられている人物達は総じて高校生くらいの男女で、種族もまちまちだった。

 そんな彼らを縛り上げて転がしたと思しき人物が、仁王立ちで彼らを見下ろしていた。 白に赤のラインが入った、やけに御目出度いウィンドブレーカーのズボンをはき、上半身裸。恐らくウィンドブレーカーの上であろうモノを腰に巻いたそのエルフ族の男は、どういうつもりかアスファルトの上だと言うのに素足であった。 エルフでは珍しい黒髪黒瞳で、顔もどちらかと言うと東洋風の顔立ちだった。

「まったく手間取らせやがってっ! なに?! なんなのお前ら! なに、考えてるのその年で街中で暴れちゃってまったくっ!若けりゃ何でも許されると思ってるの!? 若さゆえの過ちじゃすまねーんだぞ何でもわよぉっ! そらお前人生そう上手くいくこともあるよ? あっちゃうよ人生色々だから! 何事も順風満帆世は全てコトも無しでころっと上手く言っちゃうこともあるよ?! でもそう言うのは滅多ないでしょ〜、滅多に無いでしょーよっ! オイタすりゃ俺みたいな大人にふんじばられて叱られるんだよっ! 大体なんだお前らその装備は! あれか! 今流行のあれなのか?! 政府とか裏組織とかに訓練を施された少年少女戦闘集団的なあれかぁ〜っ!」

 まるで鬼のような形相で息継ぎもせず捲し立てるエルフ族の男に、転がされている連中は竦み上がり、今にも泣き出しそうに震えていた。 どうもよほど手ひどい目に合わされたらしく、何人かは白目を剥いて気絶したり、「あ、おほしさまがみえゆー」などと現実逃避気味のものまでいる始末だった。

「そ、そんなアニメやゲームに出てくるような感じのアレじゃありません! 俺達、レニス王国の軍学校の生徒なんです!」

 転がされているものの一人が、やっとの思いと言った様子で声を上げた。

「俺ら、今年卒業で! クラスの奴らと、誰が一番実戦に出ても耐え得る実力なのかって話してたら、喧嘩になって! そしたら丁度、アクア・ルートにすげー賞金首がいるぞって話に成って!」

「それで? 誰が一番最初にそいつを捕まえるか競争になったとか?」

「そうです。」

「それも十分漫画かアニメだろうが!!」

 思い切り怒鳴りつけながら、エルフ族の男は上着のポケットに手を突っ込むと、折りたたみ式の携帯端末を取り出した。パカリと二つ折りにしていたものを元に戻すと、携帯電話のカメラ機能よろしくな位置についているカメラを、転がしている連中数人の顔に向けた。 ボタンをいくつか操作すると、中空に半透明なウィンドウが表示される。 エルフ族の男はそれをしばし眺めると、深いため息を吐き出した。

「本当に軍学校の生徒でやんのなお前ら。装備も学校の奴持ち出してんじゃねーかよ。」

「あ、あははは・・・。」

 あきれ果てたようにため息を吐くエルフ族の男に、軍学校の生徒は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「しかたねぇ。 本当はめんどくせぇから放置し一番隊の連中にでも回収してもらおうかと思ったんだが。そう言うことならそう言うわけにもいかねぇな。 お前ら、俺が補導したコトにして、一度うちの隊舎に来てもらうからな。 その後先生に連絡するから。たっぷりお仕置きしてもらえぇ。」

 こきこきと首を鳴らしながらため息を吐くエルフ族の男の言葉に、意識のある生徒達はがっくりとうなだれた。

「ときに・・・つかぬ事をお伺いするのですが・・・。」

「なんだ?」

 転がされている生徒の一人は、神妙な顔を作ると、恐ろしい相手に質問をするかのようにおっかなびっくり声を出した。 まあ、実際怖いのだから仕方あるまい。

「俺達、コレでも一応正規軍と同じ訓練受けてきたし、実際軍学校ってのだって方便みたいなモンで・・・ただの長期キャンプ見たいな学習内容でやってきたし、そうやって教えられて来たんですが・・・。 貴方、たった一人でこの人数殺しもしないで制圧しましたよね・・・?」

「ああ。それがどうした?」

 生徒の質問に、不思議そうに首をかしげるエルフ族の男。 良く見てみると、男はどこかを怪我しているどころか、服が汚れてすらいなかった。 言ってみれば、戦闘の形跡がまるでないのだ。対照的に、生徒達は白目を剥いて気絶するほどぼっこぼこにされているものまでいる始末だ。

「ど、どこの、どう言う御方でしょうか・・・?」

 その言葉を聞き、男はようやく合点が行ったと言うように手を叩いた。 そして、すっと背筋を伸ばすと、やたらと大きな挙動で手を合わせた。まるで僧侶のように合わせた手を胸元に置くと、先ほどまでとは少し違った、神妙な顔で名乗りを上げる。

「レニス王国 王立近衛騎士団 三番隊所属。 破戒僧 “良岩寺” 鉄斎。 だ。宜しくお見知りおきを。」

 それを聴いた瞬間、正気だった生徒のうち何人かが、白目を剥き気絶した。

「こ、こここここここ、近衛騎士団 三番隊ぃぃぃ?!」

「こ、殺さないで! 殺さないで下さいぃぃぃ!!」

「やさしくころしてー やさしくころしてー キルミーソフトプリーズ キルミーソフオプリーズゥゥゥ!!」

 どうにか正気を保っている生徒達も、まるで悪鬼を見るかのように震え上がり泣き叫び、中にはあっさり絶望しているものまで居た。

「なに。 何だよお前らそのリアクション。俺別に怖くねぇだろうが!」

「いんやいやぁ〜。 ビビらすには十分すぎんじゃね?」

 納得いかない様子の鉄斎に、唐突に声が掛けられる。 が、背後からかけられた声に、鉄斎は驚くどころか振り向きもせず応える。

「何処が! 何処がよ! 骨とかぽっきりいっちゃわない様に気をつけてたたんだんだぞ! 優しさを感じたりとか感謝とかするシーンじゃない?! ここは!」

「まぁ〜まぁまぁまぁ。 良いじゃないの仕方ないじゃないのぉ。何せあたしらあれだ・・・。」

 鉄斎に声をかけた人物は、いかにもダルそうに鉄斎の肩に肘をかけると、皮肉気な笑顔を顔に貼り付けた。 歳は、人間で言えば25〜26くらいだろうか。ジーンズ生地の短パンにタンクトップ姿のその女性は、左肩に大きなタトゥーを彫っていた。眠たげな表情ではあるが、ベリーショートの似合った美女であった。

「悪名高き近衛騎士団。なんだからさぁ?」

 そう言って、自分の肩のタトゥーを指差した。 それは、“レニス王国近衛騎士団”の紋章。そしてその周りを囲うように彫られているのは、彼女の名前だった。

「いいか? アムリッタ。 “アムリッタ・フォークブルース”。 お前とお前の相棒見たいのが居るから俺まで誤解受けるんだぞ! この間出張でマーズ行った時なんて偉い目に合ったんだぞっ! うわ〜、レニス王国はこの国を侵略するつもりなんだぁ〜、だから近衛騎士団なんかが来たんだぁ〜! ってよっ!! お前等コンビあの辺で何やった!」

「あぁ〜ん? あの辺はあれよ。私等じゃなくてマイキー達の・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないのよ。」

 アムリッタと呼ばれた女性はぺちぺちと鉄斎を叩くと、へらへらとした顔を崩さず続ける。

「ドレイコ隊長からのご命令よん。 通信機は使わない系のやつ。」

 その言葉に、鉄斎の表情が一気に引き締まった。 通信機は使わない。つまり、“通信機は使えない内容の命令”という事だ。

「一、二番隊に恩を売りたいんだって。 出来るだけ沢山伸して転がして・・・一番隊に回収させろってさ。手はずも整ってっからってさ。」

「・・・隊長じゃなくて副長の指示か・・・。」

「そゆこと。 他の隊の事まで気にして動く人じゃないからねぇ。 副長に言われて“じゃあ、そうしようか?”ってパターンだわねぇ〜。」

 鉄斎は「そうか・・・。」とつぶやくと、首に手を当てがい、二〜三度こきこきと鳴らした。

「じゃぁ〜あ。 俺も暴れにいくかねぇ。 お前は相棒と合流だろ?」

「そーよぉ〜ん。 で、学生さんたちはどうするの? 放置?」

「それしかあるめーよ?」

 言いながら、鉄斎は腰に巻いた上着を解くと、素肌の上にばさりと羽織った。

「という訳で〜。 お前等は一番隊の連中にみっちりしかられとけや。 人生の酸いも甘いもの酸いの部分を思うさま体感してくれぇ。」

 そんな鉄斎の言葉に、正気を保っていた残りの生徒達も、次々に昏倒していくのだった。

今週の国王様。 浴場の受け付けでマッタリ。

レニス王国のレニス王が住まう城には、共同浴場があるのは有名な話である。 ある種観光名所でもある王城にあるこの共同浴場は、騎士から普通職員、果ては宰相から観光客まで利用可能な施設である。

そんな共同浴場の受付嬢“ミーア・クロコップ”は、退屈そうに欠伸をかみ殺すと、ちらりと腕時計に目を落とした。

観光もオフシーズンで、城の一般業務に当たっている連中も仕事中なこの時間帯は、一日でもっとも暇で退屈なひと時である。 なにより、今日はいつにもまして暇だった。いつもたむろしている年寄り連中は「今日はバッケンホルムの地下ダンジョンに突撃ジャー!」と訳のわからないことを叫びながら、全員で出て行ってしまった。無事に帰って来ますように。と、ミーアは思わず合掌溶かしつつ見送ってしまったことは言うまでも無い。

さて。そんなこんなで、ミーア嬢は思わず昼寝してしまいそうなほど暇であった。なにせお客はもちろん、人っ子一人居ない惨状なのである。 掃除や湯加減などはもちろん、販売業に至るまで自動化された公衆浴場には、話し相手になるような人間は一人としていない。 売店や掃除をしているゴーレムに話しかけても良いのだが、連中は仕事が好きらしく、仕事をしたい気持ちと自分に付き合ってくれようと言う良心で板ばさみに成った切なげな顔を向けてくるので、最近では休憩中のゴーレムにしか声が掛けられなかった。 ちなみに浴場で働いているゴーレムは最新型で、ある程度のインタラクティブも可能であり、見た目もなかなかにプリティーでミーア好みだったした。

「あ〜・・・あ。そうだ。ポテチあったな。ポテチ。」

ぽむ。と、手を叩くと、ミーアは足元においてあったバックからポテチの袋を取り出した。本来は仕事中にお菓子を摘む等問題外の、上司が見たら怒られる行為トップテン上位ランカーな行為なのだが、どうせ今はだれも来ないのだ。

バリバリと袋を開けると、ミーアは「いっただきまーす。」 と手を打ち鳴らした。 と、そのときだった。

「美味そうだな。」

突然かけられたやたらと威厳と風格の漂う落ち着いた声に、ビクッ! と反応するミーア。 しかし、顔を上げても目の前に人影らしきものは見当たらなかった。

「・・・え?」

もしやと思い腰を挙げると・・・両手両足を手錠でつながれた挙句、鉄製の鎖でがんじがらめにされ転がっているレニス国王の姿があった。

「なんだ国王様ですかー。あー。びっくりした〜。 何処のお偉いさんかと思いましたよ〜。」

ほっと胸をなでおろすミーア。 無論、この国で一番のお偉いさんがレニス王であることは、彼女もわかっている。

「すまんな。脅かしたか。 アルベルトに賓客が来るから動くなと言われて束縛されてな。逃げ出したのは良いんだがどうにも魔法やら色々添付された束縛具らしくてなかなか解けんのだ。」

「国王様らしく無理やり引きちぎっちゃえばいいじゃありませんか。」

「無理やり解こうとすると爆発するように出来ておるらしいのだ。爆炎と爆音で見つかろうものなら何をされるかわからんからな。眉間を剣で連続強打くらいのことはされるかも知れん。」

「あははは。 あんまり宰相様虐めないで上げてくださいよー。 いっつも疲れきった顔でお風呂入りに来るんですから。」

「うむ。考えておく。」

「ん。あ、ポテチ食べます?」

「頂こう。」

即答した国王に、ミーアはゆるゆると近づきしゃがみ込むと、お菓子をつかみ、レニス王の口の押し込んだ。

されるがままのレニス王はもっしゃもっしゃとお菓子を噛み砕くと、ゴックリと飲み込んだ。若干蛇が獲物を丸呑みにするっぽい挙動を見せると、まったくの無表情で「うむ。美味い。」と満足そうに頷く。

「あははは! 良かったです。コレ新製品らしいんですよ。」

「そうなのか。今度買いに行ってみるとしよう。」

うむうむと頷くと、レニス王はのそのそと動き出すと、尺取虫のような挙動で出口に向かって進み始めた。

「あれ? お帰りですか?」

「うむ。汗を流そうと思ったんだが、良く考えたらこの姿では風呂に入れんからな。」

大真面目にそう言うレニス王の言葉に、ミーアは思わず噴出すと「あはははは!」 とはつらつとした声を上げて笑った。

「じゃあ、それちゃんとはずせたら、また寄って下さいね。 またお菓子用意しておきますから。」

「うむ。楽しみにして置く。 またな。」

そう言うと、レニス王はその動きからは想像も出来ないような軽やかな動きで共同浴場の自動ドアから出て行くのだった。

「相変わらず面白い人よねぇ〜。」

思わずくすくすと笑いながら見送るミーア。 と、腕時計に目をやり、あわてたような声を出した。 もうすぐ、城警備の一部所のローテイションの時間である。一日の疲れを癒しに来る兵士達のために、準備を始めなくては成らない。

「さ、みんな〜! 疲れたお客が来るわよ〜! 準備してぇ〜!」

『ぷいにゅ〜!』

大声で指示を出すミーアに、良くわからない声で答えるゴーレムたち。 そんな様子に、思わず口元をほころばせ、目を細めるミーアだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「ん。 ん。 んん。」

「ふむ・・・。 いつになく真剣な顔だと思うのだがね。」

「なんだこれ。」

「それは拳銃だね。」

「つよいのか?」

「うーむ。普通は剣よりも強いと言われていると思うのだがね。ちょっとした防具で簡単に防がれてしまうから、なんともいえないと思うのだがね。 まあ、使うものの力量次第だと思うのだがね。」

「りきりょう。」

「力の量。 要するに使う力が有れば強いと言うことだね。」

「ちからがある。 と、つよい。」

「うむ。」

「・・・・・・・・・ん。」

「はっはっは! それには弾が入っていないからね。ポケットにしまっても意味が無いと思うのだがね?」

「たま。」

「銃は弾を飛ばして敵を倒す武器なのだがね。 ふむ。食事が終わったら、一つ銃について講義しようと思うのだがね。 こう見えて私は昔、大学の教授もしていたのでね。」

「あ〜・・・・・・ん。 たべもの。おわったら、じゅう。」

そういえばエープリルフールって四月バカって意味だけど、“釣りバカ”とかその辺の流れで考えるとやっぱり

「と言うわけで四月馬鹿について語らおうと思うのだがね。」

 無意味に真剣な顔で切り出すDr・フェネクスに、その場に居た全員がそれぞれの得物で突っ込みを入れた。 ちなみに面子は、ハウザー、英児、アルベルトの三名だ。

「うむ・・・。ランスやらブレードやら大鎌やらで殴られたら痛いと思うのだがね。」

「痛くしてんだよこのボケ! 様があるっていうから何かと思えば! 大体もう一日過ぎてんだよ! 一日!」

 カンガンテーブルを蹴りながら喚くアルベルト。 ちなみに四人が集まっているのは、Dr・フェネクスの自宅兼研究室兼事務所であるところの、海岸沿いの廃倉庫である。

「うむ。本来ならば四月一日に過去編あたりで私とジェーンがエイプリルフールをネタに戯れるという心温まるエピソードを掲載予定だったのだがね。如何せん忙しい上に四月一日の存在自体を当日忘れてしまうというタイムリー痴呆症状を起こしてしまってね。まあ、不幸な事故だったと思うのだがね。」

「すげぇ。開き直ってやがる・・・。 流石プロフェッサーFだ・・・!」

「どの辺が流石なんだよ・・・。」

「おお。エイプリルフールっつったら、妹に引っ掛けられたぞ。当日に。今年。」

 何事か思い出したのか、首をひねりながらそう言うハウザー。

「おお。あの妹さんか。おめーら父子に似ないで可愛らしかったの覚えてるが。」

「え? それがエイプリルフールのネタ?」

「うむ。ハウザーの妹さんとなると、そこらの騎士では肉体的にも精神的にも敵わないであろうと言う先入観が有ってしかるべきだと思うのだがね。」

「テメーら二人俺のことなんだと思ってんだゴラ・・・。」

 若干切れかけるハウザーさんでした。

「これだこれ。 俺の妹。ほれ。」

 ばさりとハウザーが机の上に置いたのは、財布から取り出した家族写真だった。 詳細は端折るが、個々最近撮ったものらしいそこに写っていたのは五人。一人は、ハウザーをそのまま数年放置したような、クリソツな父親。もう一人は、ハウザー本人。そして残る三人は・・・柔和な笑顔を湛える、美しいよりも可愛らしいと言う言葉が似合う貴婦人。まるで天使のように微笑む少女。そして、白馬に乗ればまんま“王子様”な美青年。

「・・・・・・え? なにこれ。 質の悪い合成写真?」

「王族とお付の騎士二人と言った風情だと思うのだがね。」

「すまんハウザー。知ってる俺でもそう思った。」

「テメーらマジ殴るぞ?」

 言ったら本当に殴っちゃうのがハウザーさんなのでした。

「うーむ。ぬーん。遺伝子と言うのは時に混ざらず子供を産み落とすものなのだと思うのだがね。」

「いえ、プロフェッサーF。血がつながっていないと言う可能性も。」

「正真正銘実の兄弟にお袋だ馬鹿野郎が。」

 超真顔で真剣に悩むDr・フェネクスと英児に、若干殺意を覚えるハウザーだった。

「実際ハウゼル卿とハウザーの血がつながってるのは間違いないんだがな。ビジュアル的に。」

「誰? ハウゼル卿。」

「ハウザーの親父さんだ。」

「あー。 で、この妹さんに何騙されたんだよ。」

「おお。あれだ。誘拐されたとか言って手紙着てな。すっ飛んで行ったんだが、要するにお袋がたまには実家に帰れとか言いたかったために仕組んだ事だったらしくてな。」

「ふむ。だからこの間血相を変えて走っていったのかね。何事かと思ったのだがね。」

「へぇ〜。 騙されたのに気が付いたハウザーの旦那の顔、拝みたかったねぇ。」

 ケラケラと笑うDr・フェネクスと英児。

「うっせぇ。 しかし実際焦ったのは否めなかったな。なかなか用意周到でな。 バックアップが妙にこずるい奴だったせいもあるんだが・・・。」

「へぇ〜。誰だ? それ。」

「マービットだ。」

「うわー。オチ見えたわ。」

 何か。 巨大ロボットに踏み潰される寸前の戦闘員を見つめる悲哀に満ちた目を窓の外に向け、ため息を吐き出すアルベルトだった。

 

 

 その頃。ハウザーの実家から城にいたるまでの帰り道。ずーっと“アシュラ・8”の高速移動によって引きずり倒された挙句、ハウザーの気孔術によってスタボロに伸されたマービットは・・・。

 城内にある近衛騎士団零番隊詰め所にて、ピクピクと痙攣していた。

 ふと、それまで虫の息だったマービットが、むっくりと起き上がった。そして。

「だんだんとー あまいあじがー してきたっすー。」

 どことも無い虚空を見つめ、半笑いでそうつぶやくと。またばったりと倒れこみ、今度はピクリとも動かなくなった。

 マービットがハウザーの手によって、(打撃で)強制蘇生され、またハードワークに埋没していくのは、この二時間後のことである。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

 その日。たまたまDr・フェネクスを訪ねてきた彼の古い友人。“悪魔騎士”ラキュードは、実に奇妙な光景を目にしていた。

 「悪魔である前に一人の騎士である。」と公言してはばからない、変わり者の大悪魔であるラキュードは、蝙蝠の様な皮膜の片翼を背に背負った、絶世の美丈夫である。 見たものを魅了し堕落させると言う魔性を持つ外見は、幾数重にも魔法防御を施した兜と鎧で隠しているため、その表情を知るのは非常に困難だった。

 “身の丈程もある大剣を背負った、全身鎧の片翼の悪魔”である所のラキュード。そんな彼が今目にしている光景とは・・・。

 自分の仲間である所の、同じ大悪魔“フェネクス”が、自宅である倉庫の屋上で、真夏にもかかわらず段ボール箱に詰まって高笑いをしていると言う、思わず精神科医を紹介してしまいそうになるような場面だった。

 

「フェネクス・・・貴様何をしている。」

「む。ああ。久しぶりだと思うのだがね。相変わらず暑苦しそうな格好だと思うのだがね。 まあ、歌や目線ではなく外見そのものが効果を及ぼすのが君だからね。仕方がないことだとは思うのだがね。」

「余計なお世話だ。そんなことより人の話を聞け貴様は。質問されている内容には最低限答えるようにしろと何度言えばわかるのだ。 まあ良い。一体何事なんだ本当に。この暑い中屋根の上でダンボールだぞに詰まっているというのは。卵でも産み落としたか?」

「はっはっは。そこに居る私の同居人の提案でね。今日はここで温まることにしたのだよ。」

「あったかい。」

「んなっ・・・! んだ・・・! フェネクス貴様ぁ!! ついに幼女誘拐なぞに手を染めたのか! 昔から良識の欠如したやつとは思っていたがよもやここまでとは! 二度と悪行が行えんように叩き切ってくれようかっ!」

「うむ。悪魔の口から出るとは思えない台詞だと思うのだがね。」

「あー。」

「彼女は街なかで買い物中、私の食料を狙って私の家に侵入し力尽くで食べ物を奪っていく・・・いわば居座り強盗のようなものなのだがね。」

「戯けが! 聞く耳持たんわっ! 我等二人! 私は武芸で!貴様は知能で彼の方を御支えする事を約束したはずであろうが! それをよりにもよって犯罪になぞ手を染めおってからにっ!」

「清く正しい悪魔というのもどうかと思うのだがね。 だから落ち着いて欲しいのだがね。 実際彼女は・・・」

「いすわりごーとー。」

「ふむ。気に入ったかね?」

「ん。 ごはんうばう。」

「どんな会話だ! フェネクス! 一体何をこの少女に吹き込んだのだ!」

「落ち着いてくれると有難いと思うのだがね。私は今ダンボール箱から出られないのだよ。はまってしまってしまったようでね。いやいや。これでなかなか切羽詰っているのだがね。はっはっはっはっは!」

「ん。」

「阿呆か貴様は・・・! んん? 少女よ。どこに行く! ここは屋根の上だぞ!むやみに動いてはいけない!」

「とり、うごけない。」

「なに?」

「ごはんぜんぶうばう。」

「なっ・・・! って、うをぉぉぉぉぉ?! なんだあの少女は?! 屋根から飛び降りて倉庫の中に駆け込んでいったぞ?! ここの屋根は地上10m強あるんじゃないのか?!」

「そうだったと思うのだがね。彼女はマジックも使えるようだからね。この程度なら問題無いのだよ。」

「な、なにものなのだ・・・! あの少女は!」

「同居人で・・・居座り強盗。だのだがね?」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(40)

「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! いやぁ! 実に楽しいと思うのだがね! 移動島! 超大型戦艦! そして何よりも機動鎧!! 扱う面子もまさに最上級!! これほどの戦闘をお目にかかる機会は滅多に無いと思うのだがね! いや! 寧ろこの“アクア・ルート”以外では有り得ない状況だといえると思うのだがね! ああぁ! やはりこの町に来て良かった!!」

 まるで悪役のような高笑いを上げながら、Dr・フェネクスは目の前に浮かぶ複数の画面に目を走らせた。

 Dr・フェネクスが居るのは、愛機“パーフェクト・パープル”のコックピットだった。 内部は一面に外の様子が投影されており、形と色をなして見えるのはソファーが一脚だけだった。 そのソファーにどっかりと座り足を組むDr・フェネクスの目の前には、複数のモニターが展開されていた。そこに写っているのは、今“アクア・ルート”中で行われている様々な賞金首争奪戦の様子だ。

「英児が出ないのが残念仕切りだと思うのだがね! しかしそれを補って余りある兵器! メンツだと思うのだがね! レニス王国近衛騎士団が出張ってきたのもそそられるモノがあると思うのだがね! 一人一人が超一級の戦士であり戦略家である近衛騎士団が湯水のように投入されているこの状況!!まさにマニア垂涎! 此れを見ずに戦いは語れないと思うのだがね!! ああ! 堪らないと思うのだがね! この映像だけでご飯四杯! いや! ご飯八合は行けると思うのだがね!!」

「Dr。 お楽しみの所申し訳有りませんが、ご報告が御座います。宜しいでしょうか?」

「うむ。聞こうと思うのだがね。」

 突然真後ろに現れた執事の言葉に、其方を見ようともせず続きを促すDr・フェネクス。 執事はDr・フェネクスが自分の方を見ていないにも拘らず恭しく一礼すると、手元の資料を見ながら報告を始めた。もっとも執事はプログラムである訳だから、そんなプリント状の物を見る必要は無い。と言うより、執事の外見は映像データでしかない訳だから、無駄と言えば無駄な処理な訳だが。

「賞金首“アッシュ”がこのアクア・ルートに来るまでの足取りを追ってみたのですが、此れがまあ・・・なんと言いますか・・・。」

 言いよどむ執事に、Dr・フェネクスは始めて関心を持ったようにモニターから目を外すと、其方を振り返った。

「何か面白い事が分かったようだと思うのだがね?」

「面白いといえば面白いのですが・・・。」

 なんとも言えない微妙そうな表情を作る執事に、Dr・フェネクスは「続けて欲しいと思うのだがね。」と続きを促した。

「は。なんとも冗談のような話なのですが。 例の高額賞金をかけた主が分かりまして。その人物と言うのが・・・“ガルダリア”の王女なようでして・・・。」

「・・・・・・は?」

 暫し黙って硬直した後、思わずと言った様子で呟くDr・フェネクス。

 “ガルダリア”。正確には“神聖ガルダリア王国”と言う名のその国は、広大な国土と肥沃な土地を元に、大量の食料を生産する国として世界に名を轟かせる大国である。 技術向上の代償として、または元々食料が作れる環境ではない、などの理由から、食料を海外からの輸入に頼る国が多いこの世界において、食糧生産能力の高さは、そのまま外貨獲得能力であるといって良い。 そんな中、ガルダリアは様々な食料ニーズに応えた、例えば安価な量産品から超高級食材までと言う豊富な品揃えを持って、此方の世界における石油産出国のような莫大な富を得ていた。

「それが・・・ですね。どうも賞金首はガルダリアの“ゲート”を通って“アクア・ルート”に来たらしいのですが・・・道々、お忍びで森を散歩している王女と鉢合わせしたそうでして。 そのとき、怪我をして困っていた王女を賞金首が手当てをしたのだそうです。」

「ふむ・・・。と言うことは。 本当に例のおまじないの延長線上的な意味で金を掛けられた。と言うことに成ると思うのだがね・・・?」

「額的に俄かには信じられませんでしたが、その線かと。」

 Dr・フェネクスは「ふむ。」と呟くと、暫く考え込むように目を閉じて眉をしかめた。 そして、唐突にやたらと楽しそうな顔で高笑いをあげ始めた。

「ハーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! まさかそこまでベタな展開だとは思わなかったのだがね! 御姫様を助けた王子様に賞金がかかって追い回されるようでは始末に追えないと思うのだがね! それで?ほかには何がどうなっているのかね? キモの事だからここまで程度のことならば顔色一つ変えずに報告するだろう? と言うことはこの先にはまだ私のツボを付いてくるような面白い事があるのだと思うのだがね?!」

「ご推察感服いたします。」

 執事は深々と御辞儀をすると、再び手元の資料に目を落とした。

「本日この後、午後三時。“神聖ガルダリア王国”の使節団がレニス王との謁見のため、レニスに入る予定になっております。無論のこと、移動には“アクア・ルート”の“ゲート”が使われる事になっています。」

 眉をひそめながら報告する執事の報告を聞き、Dr・フェネクスは待ってくれと言うように手を上げると、真剣な表情を執事に向けた。

「まさかとは思うのだがね。その使節団のに、王女が居たりするのではないかと思うのだがね?」

「お察しの通りです。」

 執事のその返事を聞いた瞬間、Dr・フェネクスはその外見にそぐわぬ実に邪悪な笑みを浮かべると、まるで何かを企んでいるような低い笑い声を上げ始めた。

「今日は実に実に良き日だと思うのだがね・・・! まさに神に感謝したく成ると思うのだがね・・・! もっとも本当にして良い物かどうかは分からないのだがね・・・。」

 Dr・フェネクスは暫くブツブツと呟くと、パンッと一回手を叩き、晴れ晴れとした笑顔で顔を上げた。

「執事君。そうと分かれば一つ二つ仕掛けをしようと思うのだがね。 戦闘中の連中には悪いと思うのだがね。美味しい所を総取りしたくなってしまったのだがね!」

 含みの有る、外見にそぐわない無邪気な邪悪さを湛えた笑顔でそう宣言するDr・フェネクスに、執事は先ほどまでの冴えない表情を消し去り、柔和な笑顔をで深々と頭を垂れた。

「は。全てDrの悪巧み通りに。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(39)

 閉じこもる賞金首。それを狙って戦う賞金稼ぎ。 ココまでならば、まだ若いループでも何度か見たことの有る、在り来たりな風景と言えなくも無かった。 ただ、賞金首が閉じこもっているのが通話ボックスで、戦っている賞金稼ぎが“冒険屋”“海賊”“傭兵”“戦士団”となれば、話は別だ。

「無茶苦茶だぁ・・・。だから僕嫌だったんだ。本当なら今頃宿屋でテレビ見ながらアイス食べてるはずだったのにぃ〜。」

 しゃがみ込み、頭を抱えてぼやくループ。若干十九歳。エルフとしてはまだまだ義務教育も終らない年齢である彼の思考は、限りなく小学生のそれに近いのであった。

「もう帰っちゃおうかなぁ本当に。 どうせ僕誰の目にも映ってないんだから帰っちゃってもばれないよねぇ〜。これ。なんか適当に戦闘が激しくて間に入れませんでしたーとか言って置けば平気なんじゃないかな・・・。」

 とは言いつつも。そう言うわけにも行かない事を重々承知なループだった。本当に帰ろうものなら、シュナになにをされるか分からないのだ。 とりあえず少し様子を見ようと物陰に身体を隠しつつ、盗み見る事にする。

 案の定、シュナ、英児、ジェーンの三人は、今にもブチ切れんばかりの表情でライエルの機動鎧を睨みつけていた。 ライエルの事は、ループも資料で読んだ事があった。“七海殺戮海賊団”の機動鎧乗りで、元は正規軍に所属していた騎士だったという。 基本的に直接かかわりのない事は面倒臭がって調べも覚えもしないループでさえ、名前を知っている有名人である。あの三人がライエルの事を知らないはずが無い訳だが、全く物怖じした様子も無く、歯を剥いて睨みつけている。恐らく、相手が誰だろうと、もう関係無くなっているのだろう。

 三人とも苛立たしげな表情を隠そうともしない中、ジェーンが口を開いた。

「野郎ふざけやがって・・・! 目にはモノアイ、歯には掘削機だ!!」

 言いながら帽子を深く被り直すと、上着の胸部分に止めてある弾丸を外し、拳銃に装填する。

 一発だけ弾を込めた拳銃の銃口を空に向けると、ジェーンはボソリと呟き、引き金を引く。

「サモン。“デュエン”。」

 打ち出された弾丸は一直線に空に向かって昇って行き・・・周りのビルを追い抜いた当たり。ちょうど上空200mほどで、突然爆ぜた。その瞬間、地面と平行に巨大な円形魔法陣が弾丸を中心に、水にインクを垂らしたように広がった。一瞬で展開されたその魔法陣は、見るモノが見ればすぐにソレと分かる召喚魔法陣だ。そして、魔法陣が展開しきったのとほぼ同時に。黒い塊が魔法陣から地面に向かって落下してくる。

 かなりの落下速度だったせいか、落下中には何か判別の付かなかったソレは、ジェーンの真後ろ付近に着地して、ようやくその正体を現した。 人型の、黒い機動鎧である。

 跪き、頭部もうつむいているためはっきりとは言えないが、全長は10〜12m。機動鎧としては中型程度に分類されるソレは、まるでテンガロンハットを被ったような頭部形状をしていた。一見するとマントにも見えるが、上半身を覆っている布状のものは、恐らくポンチョか何かだろう。なにかの幾何学模様が刻み込まれているのを見る当たり、ソレもただのポンチョには見えない。

「“デュエン”ウェイクアップ。」

 消して大きくは無いジェーンの言葉に、人型鎧の目に緑色の光が灯る。ユックリとした挙動で立ち上がると、良く見えなかった脚部が露になった。カウボーイが乗馬の際、脚を保護するために付ける脚用の革鎧状のもので覆われたソレは、スラリとしていて長い。腰にはやはり、左右一丁ずつ、二丁のリボルバー拳銃がマウントされていた。

「機動鎧出してきたっ・・・!」

 ループは自分の身体から、サーっと血の気が引けて行く感覚に襲われていた。この展開から考えるに、絶対にシュナは黙っていないだろう。

 案の定、シュナは真横で機動鎧を召喚されたと言うのに見向きもせず、据わった目でライエルの“刀翼”を睨みつけたまま声を張り上げる。

「ナップ!! 聞えてるでしょ!! “カルテット”出すわよ!」

 シュナの声を合図にしたように、突然地面が揺れ始める。かなりの振動と共に聞えてくるのは、甲高いドリルのような金属音だ。 徐々に大きくなってくる音と揺れは、数秒後にシュナの真後ろにその元凶が現れると同時に消え去った。

 地面から空中に勢い良く飛び出したのは、高速回転をしている、黄金の楔形だった。全長15mはあろうかと言うその物体は中空で突然膨らみ、弾けた。 が、はじけたように見えたソレは、布のように閃くと、その面積を急激に小さく変化させた。金色の布の中から現れたのは、ジェーンのソレと同じ位のサイズの、金色の機動鎧だった。 どうやら身体を覆っていたのはマントだったらしく、今は適当なサイズに縮み、機体の背中ではためいていた。

 まるで体重が一切無いような優雅な仕草で、シュナの後方に着地する金色の機動鎧。細身の真っ黒なマネキンに、軽鎧を着込ませたようなその機動鎧の装甲には、様々な金細工のような宝飾が施されていた。 戦闘兵器よりも寧ろ、美術品のようにすら見える機体の腰には、丁度ループが使っているのと同じ様な双剣がマウントされている。

「ああ・・・。面倒臭いなぁ・・・。」

 心底面相臭そうにそう吐き出すループ。自分達の機動鎧が出てきた以上、もうループには逃げるという選択肢は無くなっているのだ。

「厄介なんだよなぁ〜・・・。」

 諦めたようにそう呟いた次の瞬間、ループの目に映る景色はまるで別の光景になっていた。 と言っても、居る場所は先ほどとさして変わりはしない。 ループが今見ているのは、金色の機動鎧。“カルテット”の視界なのだ。 召喚術が発達により、一部の機動鎧は入り口を無くし、操縦者を直にコックピットへ召喚する形を採用していた。 Dr・フェネクスの作品であるこの機動鎧。正式名称“ゴールド・カルテット”は、召喚と、乗り手と機動鎧のシンクロをほぼ同時に一瞬で完了してしまえるという特徴を持っていた。

「とにかくあの鳥とアホ冒険屋とバカ傭兵より速く賞金首捕まえるのよ! 分かった?!」

「わかったよー。やるよぉ〜。」

 耳元で聞えるシュナの声に、情けない声で答えるループ。 機動鎧は普通、乗り手と魔術師が二人で乗る事が多い。魔法技術の塊である機動鎧に魔力を供給と、出力調整や必要なマジック選定などのエンジニアとして、魔術師は必要不可欠なのである。 特に魔力の供給源としての要素は強い。なにせ魔力は戦闘可能時間とイコールなのだ。 この“ゴールド・カルテット”には、シュナ、ナップ、“パペッター”と、三人の魔術師が乗り込むように設計されていた。つまり、三人分の魔力を使って動いているのだ。 これには単に使用できる魔力が三人分になるという以外にも、様々な利点があったいるするのだが・・・。

「三人とも乗ってたら、手抜けないし逃げられないよぅ〜。」

 今のループにとっては不利なことしかない様子である。

「さー! “カルテット”出したからには負けられないわよ!」

 異様にやる気満々なシュナの言葉に、思わず溜息を吐き出しうつむくループ。もっとも、今実際に動いているのはループの身体ではなく、“カルテット”なのだが。今ループの身体は“カルテット”の内部にあり、行動は全てカルテットが行っている。“シンクロ”などと呼ばれる、一番ポピュラーな操縦法の一つだ。

 と、うつむいたループの目に、妙なモノが飛び込んできた。

「あれ? どうしたんですか? 英児さん。」

 外部スピーカーを作動させ声を掛けた先には、全身を細かく震わせながら、剣を支えに膝ま付く英児の姿があったのだ。

「くそ・・・! 俺としたことが油断したぜ・・・。」

 やたらと熱が篭った英児の声に、思わず息を呑むループ。鬼気迫るようなオーラを放ちながらも、英児は身体に力が入らない様子だった。

「どうしたんだ?」

 まだ機動鎧に乗り込まず、英児の横に居たジェーンが訝しげに尋ねる。

「飯が・・・。」

「ああ?」

「ここ何日か飯喰ってないのがここに来て効いた・・・! 腹が空き過ぎて動けねぇ・・・・!」

 妙に力強くそう言うと、英児はまるで糸が切れたようにがっくりと倒れこむと、「ぐっ・・・!」と呟き、そのままピクリとも動かなくなってしまった。どうやら腹の空き過ぎで気絶してしまった様子である。

「・・・・・・マジで?」

 額に脂汗を浮かべ、信じられないものを見る目で英児を見るループ。

「・・・あほか・・・。」

 納得したように頷くジェーンの言葉は、その場にいた全員の総合見解だったという。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(38)

 ジェーンの戦い方は、実にシンプルだった。衣服に張り巡らせた肉体強化魔法陣を発動させた後、ただの弾丸として打っていた弾に、“振動粉砕”と“貫通”系統の付加魔法を施して撃つ。当たり前の戦術の部類に入る行動だが、相手が相手だけに、「何コイツ本気になっちゃってるの?」的なことを思われるのが癪だったので、使わなかった手段でもあった。他の事は兎も角として、自分の得意分野でごり押すと言うのが気に喰わなかったのだ。そんなこと気にしなくてもとっくにごり押し戦術になっているのだが、そんな些細な事には気が付かないのがジェーンと言う冒険屋なのだ。

 英児の戦い方も、実にシンプルだった。尋常では考えられない防御力と剣風をも巻き起こす強力を生む代わりに、足回りを犠牲にした“アーマー・オブ・ディープレッド”。その足の遅さを補おうための“乗り物”。獅子型のゴーレム“ヒートレッド”を呼び出し、それに乗り戦った。人馬一体の例え通りと言うかなんと言うか。“ヒートレッド”の防御制御系は、“アーマー・オブ・ディープレッド”のそれと連結していた。難しい話を省いてつまる所、防御力破壊力はそのままに、やたら小回りの効く素早い獅子に跨っている。といったところか。そんな便利なものがあるなら初めから使えと言いたい所だが、相手が相手だけに、「何コイツ本気になっちゃってるの?」的なことを思われるのが癪だったので、使わなかったのだ。

 

 箍が外れたジェーンは、自分の弾丸がきちんと通用するのを確かめると、2丁のリボルバーにそれぞれ一発ずつの魔力結晶弾頭弾を込めた。その間にも、周りの“人形”を蹴り壊す事を忘れない。

 数体の“人形”の胸部分を蹴り壊しながら、背中から襲い掛かってきた人形の頭をジャンプして踏みつけ、上空に跳躍した。

 中空に踊る自分に注目する人形たちを眺めながら、ジェーンは腕をクロスして拳銃を構えた。そして、まるで蛇の威嚇音の様な高速詠唱の後、呟く。

「“ピンホールグラビティー”」

 それと同時に銃口から吐き出された二発の魔力結晶弾頭は、人形たちの中に飛び込んで行くと、それまで並行に進んでいたにも関わらず、突然進行方向を直角に変えてかち合った。 人形たちの、丁度胸の辺りほどの高さで弾丸同士がかち合った瞬間、突然嵐のような暴風が巻き起こった。 銃弾がかち合ったその場所は、空間に穴でも開いたかのように黒く染まり、その黒に吹き込むように。いや、吸い込まれるように風が吹き荒れたのだ。

 やや後方からそれを見て取った“パペッター”は、急いで“人形”たちにその場から離れるよう指示を出したが、殆ど無駄だった。 人形たちはまるで吸い込まれるようにその黒い穴に吸い込まれ、逃げようとするものも引力に吸い寄せられるように吸い込まれていくのだ。

「ちょっと! 何なのよあれ?!」

 あまりの轟音に振り返り、シュナは叫び声のような声を上げた。風の影響が、50m以上離れた位置にいるシュナにも有るらしく、髪や衣服がたなびいている。

「ああ。ありゃジェーンの“ピンホールグラビティー”だ。」

「“ピンホールグラビティー”? 針穴の重力?」

 不思議そうに聞き返すシュナに、英児は腕を組んで「そうだ。」と頷いた。どうやら“ヒートレッド”の制御には手を要しないらしく、ずっと手放しで戦っていたりした。

「魔力結晶弾頭二発の魔力をフルに使って異常重力。要するにブラックホールみたいなもんを形成して、周りの物をごっそり吸い込むんだよ。」

「でたらめね・・・。」

 眉をひそめるシュナに、英児はブスッとした様子で声を掛ける。

「おお。デタラメだ。この後がな。」

「この後?」

「“ピンホールグラビティー”の異常重力は長時間持続しない。魔力が切れるのと同時に蒸発するように効果は消える。つまり・・・」

「吸い込まれたものも高速で元の大きさに・・・要するに大爆発?」

「だな。」

 頷きながら、身を屈め剣を地面に刺す英児。

 近距離で“ピンホールグラビティー”の影響をいけている“パペッター”は、まるで台風のような暴風をまともに食らっていた。なんとか周りの人形たちをかき集めて自分の身体を地面に繋ぎとめようと、折り重なるように覆いかぶさせ、地面に手足を突き刺させてはいたが、次々に吸い込まれ続けていた。

 そんな様子を、ジェーンは空中で空間固定魔法で足元を固めて眺めつつ、口の端を吊り上げていた。

 銃をホルスターにしまい、空いた片手でテンガロンハットを押さえ、片手を顔の横に持ってきて、指をぱちんと鳴らす。

 それと同時に、それまで猛烈な吸引力を誇っていた黒い穴が吸引を止めた。そして・・・。大爆発。

 20〜30m範囲のものを傍若無人に吸引していた穴が、今度は凄まじい爆風をと轟音を放って爆発したのだ。今まで散々吸引した人形の残骸を、まるで散弾のようにばら撒き、半径60〜70mを蹂躙する。

 吸引力には耐えていた路面や街路樹、付近の建物のガラス窓なども、流石にこれには耐えられなかったらしく次々に捲れ返り、吹き飛ばされていく。 丁度道路の中央辺りで魔法が展開されたのが良かったのか、建物自体には窓ガラスが割れる程度の損害しか出なかったのは幸いだったといえるかもしれない。

「無茶苦茶だわ・・・! 頭悪いんじゃないのあのコスプレ女!!」

 暴風と爆風を、何とか捕まえた街路樹にしがみ付いて凌ぎきったシュナは、杖で身体を支えて立ち上がると、苛立たしそうに喚いた。 吹き飛ばされてきた“人形”の破片やらなんやらで、服や髪の毛はぼろぼろだ。

「近くにいる自分が悪いのよ。」

 喚いているシュナを一笑しつつ、ジェーンは空中に固定した足場を解除すると、ストンと地面に降り立った。 爆発の近くにいたはずだったが、特に被害は被っていない。あらかじめ自分だけシールドを張っていたのである。自分でやっただけあって、何をどのタイミングでどう防ぐのかが分かる分、守るに易しと言うわけだ。

「さーて。これでようやくすっきりしたじゃない? これでやり易くなったわね。」

 言いながら、ジェーンはぐるりと周りを見回した。あれだけ居た“人形”が、殆ど全て全壊か半壊。少なくとも、戦える状態ではなくなっていた。

 そんな“人形”の残骸が転がる中。真っ黒なローブで全身を隠した人物。“パペッター”も、同じ様に転がっていた。爆風と散弾をまともに喰らったらしく、周囲に転がった“人形”の残骸と同様、無残にもピクリとも動かなかった。

「自分の周りに配置してた人形が、爆発のせいで逆に凶器になっちゃった。って?」

 言いながら、ジェーンは転がった“パペッター”に銃口を向けた。慈愛に満ちた天使のような微笑を湛えた表情ながら、やっている事はその真逆だ。

「“パペッター”!!」

 慌てて立ち上がり、“パペッター”を援護しようと動くシュナ。だが。

「コッチがお留守だぜ? ええ?! おい!!」

 突然の声に驚き、振り返るシュナ。そこには、大上段に剣を振りかぶった英児の姿があった。

「もらったぁぁぁ!!」

 渾身の力を込めて剣風を放とうと、迸るほどの感情とともに声を上げた英児だったが、剣が振られる事はなかった。

「んなぁっ?!」

 突然、英児の剣が横合いから何かに殴りつけられたような衝撃に襲われ、甲高い金属音とともに弾かれた。振り下ろす事に集中していた英児はバランスを崩し、たまらずタタラを踏む。

「ん?」

 英児の奇妙な声に、ジェーンは英児のほうに顔を向ける。と、同時に、素早く後にバックステップ。数瞬前までジェーンのいた場所は、カマイタチのような剣風に切り刻まれていた。

 英児もジェーンも、すぐさま周りを見回すが、自分達以外の人影は確認できない。と、ジェーンがハッとしたような表情に成り、英児に声を飛ばした。

「! ループだ! 迷彩で透明化してる!」

 その言葉に、舌打ちする英児。ループの装備は消音、熱光学迷彩。真昼間の公園でサイレントキルをやってのけるほどの腕だ。と言う、噂を思い出し、英児はさらに顔をしかめた。

「隠れてやがったか。大した腕だが、そう簡単にこの俺の“アーマー・オブ・ディープレッド”は貫けねぇぜ!!」

「言ってろ。 面倒臭いわね。すっかり忘れてたわ・・・。」

 眉をしかめ、テンガロンハットを直すジェーン。“パペッター”の方に顔を向ければ、案の定居なくなっている事に溜息を一つ吐き出す。

「素早い事・・・。」

 と。そのときだった。一機の鳥型の機動鎧が低空飛行で、ジェーン、英児、シュナの三人が戦っている場所を目指し、接近してきたのだ。

 僅かな機動音を敏感に察知した三人は、それぞれ表情を引き締め、身構えた。自分達以外の賞金稼ぎが現れたと察知したのだ。

 が。機動鎧は三人の事を避けるように迂回すると、賞金首、アッシュが閉じこもっている通話ボックス上空でホバリングを始めたではないか。

 咄嗟に動こうとする三人だったが、唐突に機動鎧から響いた声に、凍りついた。

「あ! 居た居た。君が賞金首さんだよね?! ぼくの名前は、ライエル。いまぼくのウチ、お金なくて大変なんだ。だから、君を捕まえてお金稼がなくちゃいけないんだって、シャムリース君が言ってたんだ!」

 一様に眉間に皺を寄せ、同じ様な表情を作るジェーン、英児、シュナの三人。要するに切れかかっているのだ。

「だから、これから君を捕まえるねっ!」

 機動鎧からその台詞が響いた瞬間、三人の声がハモった。

『舐めてんのかテメー!!』

 奇しくも、三人の心は同じであった。人が必死にやりあってンのに何参加しないで首掻っ攫おうとしてんだ。 基本的に三人とも自己中であった。自分が苦労しているのに他人がそれを何の苦労もせず持っていこうとするのを我慢できない性なのだ。

「って言うか、僕の立場は・・・?」

 移動鎧に向かって叫ぶ三人を眺めつつ、木陰に隠れ、ぼやくループだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

みかんばこ

 

 

「・・・なにをしているのか聞きたいところだと思うのだがね。」

「はこ。」

「うむ。」

「あったかい。」

「ふむ。たしかにダンボール製のミカン箱は暖かいとは思うのだがね。この真夏の日差しの中、わざわざ我が家である港沿いの大型倉庫屋上でその中に篭っているというのは、聊か場違いな気がすると思うのだがね・・・?」

「あー。」

「ふむ。“熱い時にカレーを。寒いときにアイスを無償に食べたくなるのと同じ様なものだ”。と。」

「ん。」

「ふむ。それはわかったのだがね。何故私まで段ボール箱に入っているのだろうね?」

「あったかい。」

「暖かいね。」

「ん。」

「・・・はっはっは! まあ、凍えるのよりは幾分かましだとは思うのだがねぇ。」

「ん。」