博士の風変わりな研究と飯のタネ(42)

 “アクア・ルート”に幾本も通る道路上に、奇妙な光景が広がっていた。

 重武装した三十人以上の人物が、鋼鉄製のワイヤーでがんじがらめにされて転がされているのだ。 数人こそ丁寧に捕縛されているものの、大多数はまるでアニメにでも出てくるかのような大雑把なぐるぐる巻きにされていた。その大雑把ッぷりは、見るものにそれをした人物の「こんなにいるのに一人一人縛るのとかありえないからっ! 面倒くさいからっ!」と言う思いをダイレクトに伝えているようだった。

 良く見ると、縛り上げられている人物達は総じて高校生くらいの男女で、種族もまちまちだった。

 そんな彼らを縛り上げて転がしたと思しき人物が、仁王立ちで彼らを見下ろしていた。 白に赤のラインが入った、やけに御目出度いウィンドブレーカーのズボンをはき、上半身裸。恐らくウィンドブレーカーの上であろうモノを腰に巻いたそのエルフ族の男は、どういうつもりかアスファルトの上だと言うのに素足であった。 エルフでは珍しい黒髪黒瞳で、顔もどちらかと言うと東洋風の顔立ちだった。

「まったく手間取らせやがってっ! なに?! なんなのお前ら! なに、考えてるのその年で街中で暴れちゃってまったくっ!若けりゃ何でも許されると思ってるの!? 若さゆえの過ちじゃすまねーんだぞ何でもわよぉっ! そらお前人生そう上手くいくこともあるよ? あっちゃうよ人生色々だから! 何事も順風満帆世は全てコトも無しでころっと上手く言っちゃうこともあるよ?! でもそう言うのは滅多ないでしょ〜、滅多に無いでしょーよっ! オイタすりゃ俺みたいな大人にふんじばられて叱られるんだよっ! 大体なんだお前らその装備は! あれか! 今流行のあれなのか?! 政府とか裏組織とかに訓練を施された少年少女戦闘集団的なあれかぁ〜っ!」

 まるで鬼のような形相で息継ぎもせず捲し立てるエルフ族の男に、転がされている連中は竦み上がり、今にも泣き出しそうに震えていた。 どうもよほど手ひどい目に合わされたらしく、何人かは白目を剥いて気絶したり、「あ、おほしさまがみえゆー」などと現実逃避気味のものまでいる始末だった。

「そ、そんなアニメやゲームに出てくるような感じのアレじゃありません! 俺達、レニス王国の軍学校の生徒なんです!」

 転がされているものの一人が、やっとの思いと言った様子で声を上げた。

「俺ら、今年卒業で! クラスの奴らと、誰が一番実戦に出ても耐え得る実力なのかって話してたら、喧嘩になって! そしたら丁度、アクア・ルートにすげー賞金首がいるぞって話に成って!」

「それで? 誰が一番最初にそいつを捕まえるか競争になったとか?」

「そうです。」

「それも十分漫画かアニメだろうが!!」

 思い切り怒鳴りつけながら、エルフ族の男は上着のポケットに手を突っ込むと、折りたたみ式の携帯端末を取り出した。パカリと二つ折りにしていたものを元に戻すと、携帯電話のカメラ機能よろしくな位置についているカメラを、転がしている連中数人の顔に向けた。 ボタンをいくつか操作すると、中空に半透明なウィンドウが表示される。 エルフ族の男はそれをしばし眺めると、深いため息を吐き出した。

「本当に軍学校の生徒でやんのなお前ら。装備も学校の奴持ち出してんじゃねーかよ。」

「あ、あははは・・・。」

 あきれ果てたようにため息を吐くエルフ族の男に、軍学校の生徒は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「しかたねぇ。 本当はめんどくせぇから放置し一番隊の連中にでも回収してもらおうかと思ったんだが。そう言うことならそう言うわけにもいかねぇな。 お前ら、俺が補導したコトにして、一度うちの隊舎に来てもらうからな。 その後先生に連絡するから。たっぷりお仕置きしてもらえぇ。」

 こきこきと首を鳴らしながらため息を吐くエルフ族の男の言葉に、意識のある生徒達はがっくりとうなだれた。

「ときに・・・つかぬ事をお伺いするのですが・・・。」

「なんだ?」

 転がされている生徒の一人は、神妙な顔を作ると、恐ろしい相手に質問をするかのようにおっかなびっくり声を出した。 まあ、実際怖いのだから仕方あるまい。

「俺達、コレでも一応正規軍と同じ訓練受けてきたし、実際軍学校ってのだって方便みたいなモンで・・・ただの長期キャンプ見たいな学習内容でやってきたし、そうやって教えられて来たんですが・・・。 貴方、たった一人でこの人数殺しもしないで制圧しましたよね・・・?」

「ああ。それがどうした?」

 生徒の質問に、不思議そうに首をかしげるエルフ族の男。 良く見てみると、男はどこかを怪我しているどころか、服が汚れてすらいなかった。 言ってみれば、戦闘の形跡がまるでないのだ。対照的に、生徒達は白目を剥いて気絶するほどぼっこぼこにされているものまでいる始末だ。

「ど、どこの、どう言う御方でしょうか・・・?」

 その言葉を聞き、男はようやく合点が行ったと言うように手を叩いた。 そして、すっと背筋を伸ばすと、やたらと大きな挙動で手を合わせた。まるで僧侶のように合わせた手を胸元に置くと、先ほどまでとは少し違った、神妙な顔で名乗りを上げる。

「レニス王国 王立近衛騎士団 三番隊所属。 破戒僧 “良岩寺” 鉄斎。 だ。宜しくお見知りおきを。」

 それを聴いた瞬間、正気だった生徒のうち何人かが、白目を剥き気絶した。

「こ、こここここここ、近衛騎士団 三番隊ぃぃぃ?!」

「こ、殺さないで! 殺さないで下さいぃぃぃ!!」

「やさしくころしてー やさしくころしてー キルミーソフトプリーズ キルミーソフオプリーズゥゥゥ!!」

 どうにか正気を保っている生徒達も、まるで悪鬼を見るかのように震え上がり泣き叫び、中にはあっさり絶望しているものまで居た。

「なに。 何だよお前らそのリアクション。俺別に怖くねぇだろうが!」

「いんやいやぁ〜。 ビビらすには十分すぎんじゃね?」

 納得いかない様子の鉄斎に、唐突に声が掛けられる。 が、背後からかけられた声に、鉄斎は驚くどころか振り向きもせず応える。

「何処が! 何処がよ! 骨とかぽっきりいっちゃわない様に気をつけてたたんだんだぞ! 優しさを感じたりとか感謝とかするシーンじゃない?! ここは!」

「まぁ〜まぁまぁまぁ。 良いじゃないの仕方ないじゃないのぉ。何せあたしらあれだ・・・。」

 鉄斎に声をかけた人物は、いかにもダルそうに鉄斎の肩に肘をかけると、皮肉気な笑顔を顔に貼り付けた。 歳は、人間で言えば25〜26くらいだろうか。ジーンズ生地の短パンにタンクトップ姿のその女性は、左肩に大きなタトゥーを彫っていた。眠たげな表情ではあるが、ベリーショートの似合った美女であった。

「悪名高き近衛騎士団。なんだからさぁ?」

 そう言って、自分の肩のタトゥーを指差した。 それは、“レニス王国近衛騎士団”の紋章。そしてその周りを囲うように彫られているのは、彼女の名前だった。

「いいか? アムリッタ。 “アムリッタ・フォークブルース”。 お前とお前の相棒見たいのが居るから俺まで誤解受けるんだぞ! この間出張でマーズ行った時なんて偉い目に合ったんだぞっ! うわ〜、レニス王国はこの国を侵略するつもりなんだぁ〜、だから近衛騎士団なんかが来たんだぁ〜! ってよっ!! お前等コンビあの辺で何やった!」

「あぁ〜ん? あの辺はあれよ。私等じゃなくてマイキー達の・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないのよ。」

 アムリッタと呼ばれた女性はぺちぺちと鉄斎を叩くと、へらへらとした顔を崩さず続ける。

「ドレイコ隊長からのご命令よん。 通信機は使わない系のやつ。」

 その言葉に、鉄斎の表情が一気に引き締まった。 通信機は使わない。つまり、“通信機は使えない内容の命令”という事だ。

「一、二番隊に恩を売りたいんだって。 出来るだけ沢山伸して転がして・・・一番隊に回収させろってさ。手はずも整ってっからってさ。」

「・・・隊長じゃなくて副長の指示か・・・。」

「そゆこと。 他の隊の事まで気にして動く人じゃないからねぇ。 副長に言われて“じゃあ、そうしようか?”ってパターンだわねぇ〜。」

 鉄斎は「そうか・・・。」とつぶやくと、首に手を当てがい、二〜三度こきこきと鳴らした。

「じゃぁ〜あ。 俺も暴れにいくかねぇ。 お前は相棒と合流だろ?」

「そーよぉ〜ん。 で、学生さんたちはどうするの? 放置?」

「それしかあるめーよ?」

 言いながら、鉄斎は腰に巻いた上着を解くと、素肌の上にばさりと羽織った。

「という訳で〜。 お前等は一番隊の連中にみっちりしかられとけや。 人生の酸いも甘いもの酸いの部分を思うさま体感してくれぇ。」

 そんな鉄斎の言葉に、正気を保っていた残りの生徒達も、次々に昏倒していくのだった。

今週の国王様。 浴場の受け付けでマッタリ。

レニス王国のレニス王が住まう城には、共同浴場があるのは有名な話である。 ある種観光名所でもある王城にあるこの共同浴場は、騎士から普通職員、果ては宰相から観光客まで利用可能な施設である。

そんな共同浴場の受付嬢“ミーア・クロコップ”は、退屈そうに欠伸をかみ殺すと、ちらりと腕時計に目を落とした。

観光もオフシーズンで、城の一般業務に当たっている連中も仕事中なこの時間帯は、一日でもっとも暇で退屈なひと時である。 なにより、今日はいつにもまして暇だった。いつもたむろしている年寄り連中は「今日はバッケンホルムの地下ダンジョンに突撃ジャー!」と訳のわからないことを叫びながら、全員で出て行ってしまった。無事に帰って来ますように。と、ミーアは思わず合掌溶かしつつ見送ってしまったことは言うまでも無い。

さて。そんなこんなで、ミーア嬢は思わず昼寝してしまいそうなほど暇であった。なにせお客はもちろん、人っ子一人居ない惨状なのである。 掃除や湯加減などはもちろん、販売業に至るまで自動化された公衆浴場には、話し相手になるような人間は一人としていない。 売店や掃除をしているゴーレムに話しかけても良いのだが、連中は仕事が好きらしく、仕事をしたい気持ちと自分に付き合ってくれようと言う良心で板ばさみに成った切なげな顔を向けてくるので、最近では休憩中のゴーレムにしか声が掛けられなかった。 ちなみに浴場で働いているゴーレムは最新型で、ある程度のインタラクティブも可能であり、見た目もなかなかにプリティーでミーア好みだったした。

「あ〜・・・あ。そうだ。ポテチあったな。ポテチ。」

ぽむ。と、手を叩くと、ミーアは足元においてあったバックからポテチの袋を取り出した。本来は仕事中にお菓子を摘む等問題外の、上司が見たら怒られる行為トップテン上位ランカーな行為なのだが、どうせ今はだれも来ないのだ。

バリバリと袋を開けると、ミーアは「いっただきまーす。」 と手を打ち鳴らした。 と、そのときだった。

「美味そうだな。」

突然かけられたやたらと威厳と風格の漂う落ち着いた声に、ビクッ! と反応するミーア。 しかし、顔を上げても目の前に人影らしきものは見当たらなかった。

「・・・え?」

もしやと思い腰を挙げると・・・両手両足を手錠でつながれた挙句、鉄製の鎖でがんじがらめにされ転がっているレニス国王の姿があった。

「なんだ国王様ですかー。あー。びっくりした〜。 何処のお偉いさんかと思いましたよ〜。」

ほっと胸をなでおろすミーア。 無論、この国で一番のお偉いさんがレニス王であることは、彼女もわかっている。

「すまんな。脅かしたか。 アルベルトに賓客が来るから動くなと言われて束縛されてな。逃げ出したのは良いんだがどうにも魔法やら色々添付された束縛具らしくてなかなか解けんのだ。」

「国王様らしく無理やり引きちぎっちゃえばいいじゃありませんか。」

「無理やり解こうとすると爆発するように出来ておるらしいのだ。爆炎と爆音で見つかろうものなら何をされるかわからんからな。眉間を剣で連続強打くらいのことはされるかも知れん。」

「あははは。 あんまり宰相様虐めないで上げてくださいよー。 いっつも疲れきった顔でお風呂入りに来るんですから。」

「うむ。考えておく。」

「ん。あ、ポテチ食べます?」

「頂こう。」

即答した国王に、ミーアはゆるゆると近づきしゃがみ込むと、お菓子をつかみ、レニス王の口の押し込んだ。

されるがままのレニス王はもっしゃもっしゃとお菓子を噛み砕くと、ゴックリと飲み込んだ。若干蛇が獲物を丸呑みにするっぽい挙動を見せると、まったくの無表情で「うむ。美味い。」と満足そうに頷く。

「あははは! 良かったです。コレ新製品らしいんですよ。」

「そうなのか。今度買いに行ってみるとしよう。」

うむうむと頷くと、レニス王はのそのそと動き出すと、尺取虫のような挙動で出口に向かって進み始めた。

「あれ? お帰りですか?」

「うむ。汗を流そうと思ったんだが、良く考えたらこの姿では風呂に入れんからな。」

大真面目にそう言うレニス王の言葉に、ミーアは思わず噴出すと「あはははは!」 とはつらつとした声を上げて笑った。

「じゃあ、それちゃんとはずせたら、また寄って下さいね。 またお菓子用意しておきますから。」

「うむ。楽しみにして置く。 またな。」

そう言うと、レニス王はその動きからは想像も出来ないような軽やかな動きで共同浴場の自動ドアから出て行くのだった。

「相変わらず面白い人よねぇ〜。」

思わずくすくすと笑いながら見送るミーア。 と、腕時計に目をやり、あわてたような声を出した。 もうすぐ、城警備の一部所のローテイションの時間である。一日の疲れを癒しに来る兵士達のために、準備を始めなくては成らない。

「さ、みんな〜! 疲れたお客が来るわよ〜! 準備してぇ〜!」

『ぷいにゅ〜!』

大声で指示を出すミーアに、良くわからない声で答えるゴーレムたち。 そんな様子に、思わず口元をほころばせ、目を細めるミーアだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「ん。 ん。 んん。」

「ふむ・・・。 いつになく真剣な顔だと思うのだがね。」

「なんだこれ。」

「それは拳銃だね。」

「つよいのか?」

「うーむ。普通は剣よりも強いと言われていると思うのだがね。ちょっとした防具で簡単に防がれてしまうから、なんともいえないと思うのだがね。 まあ、使うものの力量次第だと思うのだがね。」

「りきりょう。」

「力の量。 要するに使う力が有れば強いと言うことだね。」

「ちからがある。 と、つよい。」

「うむ。」

「・・・・・・・・・ん。」

「はっはっは! それには弾が入っていないからね。ポケットにしまっても意味が無いと思うのだがね?」

「たま。」

「銃は弾を飛ばして敵を倒す武器なのだがね。 ふむ。食事が終わったら、一つ銃について講義しようと思うのだがね。 こう見えて私は昔、大学の教授もしていたのでね。」

「あ〜・・・・・・ん。 たべもの。おわったら、じゅう。」