「と言うわけで四月馬鹿について語らおうと思うのだがね。」
無意味に真剣な顔で切り出すDr・フェネクスに、その場に居た全員がそれぞれの得物で突っ込みを入れた。 ちなみに面子は、ハウザー、英児、アルベルトの三名だ。
「うむ・・・。ランスやらブレードやら大鎌やらで殴られたら痛いと思うのだがね。」
「痛くしてんだよこのボケ! 様があるっていうから何かと思えば! 大体もう一日過ぎてんだよ! 一日!」
カンガンテーブルを蹴りながら喚くアルベルト。 ちなみに四人が集まっているのは、Dr・フェネクスの自宅兼研究室兼事務所であるところの、海岸沿いの廃倉庫である。
「うむ。本来ならば四月一日に過去編あたりで私とジェーンがエイプリルフールをネタに戯れるという心温まるエピソードを掲載予定だったのだがね。如何せん忙しい上に四月一日の存在自体を当日忘れてしまうというタイムリー痴呆症状を起こしてしまってね。まあ、不幸な事故だったと思うのだがね。」
「すげぇ。開き直ってやがる・・・。 流石プロフェッサーFだ・・・!」
「どの辺が流石なんだよ・・・。」
「おお。エイプリルフールっつったら、妹に引っ掛けられたぞ。当日に。今年。」
何事か思い出したのか、首をひねりながらそう言うハウザー。
「おお。あの妹さんか。おめーら父子に似ないで可愛らしかったの覚えてるが。」
「え? それがエイプリルフールのネタ?」
「うむ。ハウザーの妹さんとなると、そこらの騎士では肉体的にも精神的にも敵わないであろうと言う先入観が有ってしかるべきだと思うのだがね。」
「テメーら二人俺のことなんだと思ってんだゴラ・・・。」
若干切れかけるハウザーさんでした。
「これだこれ。 俺の妹。ほれ。」
ばさりとハウザーが机の上に置いたのは、財布から取り出した家族写真だった。 詳細は端折るが、個々最近撮ったものらしいそこに写っていたのは五人。一人は、ハウザーをそのまま数年放置したような、クリソツな父親。もう一人は、ハウザー本人。そして残る三人は・・・柔和な笑顔を湛える、美しいよりも可愛らしいと言う言葉が似合う貴婦人。まるで天使のように微笑む少女。そして、白馬に乗ればまんま“王子様”な美青年。
「・・・・・・え? なにこれ。 質の悪い合成写真?」
「王族とお付の騎士二人と言った風情だと思うのだがね。」
「すまんハウザー。知ってる俺でもそう思った。」
「テメーらマジ殴るぞ?」
言ったら本当に殴っちゃうのがハウザーさんなのでした。
「うーむ。ぬーん。遺伝子と言うのは時に混ざらず子供を産み落とすものなのだと思うのだがね。」
「いえ、プロフェッサーF。血がつながっていないと言う可能性も。」
「正真正銘実の兄弟にお袋だ馬鹿野郎が。」
超真顔で真剣に悩むDr・フェネクスと英児に、若干殺意を覚えるハウザーだった。
「実際ハウゼル卿とハウザーの血がつながってるのは間違いないんだがな。ビジュアル的に。」
「誰? ハウゼル卿。」
「ハウザーの親父さんだ。」
「あー。 で、この妹さんに何騙されたんだよ。」
「おお。あれだ。誘拐されたとか言って手紙着てな。すっ飛んで行ったんだが、要するにお袋がたまには実家に帰れとか言いたかったために仕組んだ事だったらしくてな。」
「ふむ。だからこの間血相を変えて走っていったのかね。何事かと思ったのだがね。」
「へぇ〜。 騙されたのに気が付いたハウザーの旦那の顔、拝みたかったねぇ。」
ケラケラと笑うDr・フェネクスと英児。
「うっせぇ。 しかし実際焦ったのは否めなかったな。なかなか用意周到でな。 バックアップが妙にこずるい奴だったせいもあるんだが・・・。」
「へぇ〜。誰だ? それ。」
「マービットだ。」
「うわー。オチ見えたわ。」
何か。 巨大ロボットに踏み潰される寸前の戦闘員を見つめる悲哀に満ちた目を窓の外に向け、ため息を吐き出すアルベルトだった。
その頃。ハウザーの実家から城にいたるまでの帰り道。ずーっと“アシュラ・8”の高速移動によって引きずり倒された挙句、ハウザーの気孔術によってスタボロに伸されたマービットは・・・。
城内にある近衛騎士団零番隊詰め所にて、ピクピクと痙攣していた。
ふと、それまで虫の息だったマービットが、むっくりと起き上がった。そして。
「だんだんとー あまいあじがー してきたっすー。」
どことも無い虚空を見つめ、半笑いでそうつぶやくと。またばったりと倒れこみ、今度はピクリとも動かなくなった。
マービットがハウザーの手によって、(打撃で)強制蘇生され、またハードワークに埋没していくのは、この二時間後のことである。