リンク品

「この世界の兵器についてか。」

 そうつぶやくと、レニス王は相変わらずの無表情で、器用に唸り声だけでしばしの躊躇を演出すると、手にしていたりんごをしゃりしゃりと齧った。

 その様子に、デンノスケは怪訝そうに眉をしかめた。

「どうかしたの・・・んですか?」

「前に知人にうち(レニス王国)の軍備のことを話したことがあってな。どうもそれが軍事機密だったらしくて、アルベルトにこれでもかと言うほど殴りつけられたんだ。 どうもどこからが公でどこからが機密なのか私には良く分からなくてな。」

 真顔でそう話すレニス王を見ながら、なんとなくあったことも無いアルベルト氏の事が可哀想になるデンノスケだった。

「知るとまずいことなのか?」

 言い淀むレニス王に、バルは若干眉をひそめて聞く。

「さあ。良く分からん。」

「いやいやいや! ダメだろうきっと! 機密とかなんだろう?!」

 国のトップの癖にさらりと適当なことを言うレニス王に、ついついいつもの調子で突っ込みを入れてしまうデンノスケ。普通ならば国王にこのような口を利けば、近くに居る衛兵なり側近なりが止めに入るものなのだが・・・近くに居る近衛兵は「もっと言ってやってください」とばかりにジェスチャーを飛ばすだけだった。 よほど普段振り回されているらしい。

「大丈夫だろう。機密にかかわりそうに一般的な知識をレクチャーすれば良いんだ。」

「いや。今さっき自分で公と機密の線引きが分からないって・・・!」

 これまた反射的に突っ込みを入れるデンノスケに、レニス王はまったくの無表情にもかかわらず、何故か自身あり気と分かる調子で「大丈夫だ。」と胸を張った。

「とりあえず極秘裏に開発中の移動島でも案内し」

「するんじゃねぇ!!」

 さらりと危険な言葉を口にしようとした国王の頭が突然掻き消えた。 それが突然横合いから見舞われたロケットキックのせいだったことにその場の全員が気がついたのは、レニス王がまったく同じ姿勢のまま人形がバランスを崩したように倒れた後だった。

「何千回同じこと言われてんだこのボケ王がぁ?! 鳥か?! 鳥なのかテメーは! 鳥頭なのか?! 三歩歩いたら全部忘れちゃうのかぁ?! ごら!!」

 突然王に蹴りを入れた少年はそのままの勢いで倒れているレニス王にそうまくし立てると、何故か手にしていた金ヤスリでゴリゴリとレニス王の額を削り始めた。

「うむ。私の体積が減っていく。」

「減ってねーよ! テメーが鉄で殺せるんなら誰も苦労しねぇっつんだよ!!」

「な、何やってるんだお前ー!!」

 誰一人リアクションが取れない中、最初に動いたのはデンノスケだった。少年を羽交い絞めにすると、なんとかレニス王から引き剥がした。

「はーなーせー! 今日という今日はがまんならねぇ!! こいつに国の運営が如何なる物か血反吐吐くまで言い聞かせてやるんじゃぁぁああ!!!」

「何分けわかんねーこと言ってんだお前! そこに居るのはこの国の王様なんだぞ?! 反逆罪とかで死にたいのか!!」

「ああん?!」

 デンノスケに押さえつけられていた少年は、反逆という言葉に反応してようやく暴れるのをやめると、自分を押さえつけているデンノスケの方を振り向いた。

「ああ。 君か。最近この世界に来た異世界の旅人は。 ならば知らないのも無理は無い。 俺はこの国の宰相。“アルベルト・ストライフ”だ。 でもって、俺がそこに転がってる王を殴るのは日課みたいなもんだ。寧ろ俺が殴らなきゃまともに仕事をせんのだ。この王は。」

「なっ、お前みたいな子供が宰相?!」

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに顔をしかめるデンノスケ。宰相とは、国王に次ぐ最高位の役職だ。通常はよほどの切れ者、ないし、実力の有る権力者が成るものである。 少なくとも、デンノスケの常識では、こんな子供がなれる役職ではない。

「あ。デンノスケ。それ、本当に宰相にゃ。」

「んなっ! え?!」

 アンブレラの言葉に思わず手を緩めるデンノスケ。 その隙に少年はするりとデンノスケの手から抜け出すと、衣服の乱れをてきぱきと整え、デンノスケとバルに向き直った。

「こんななりはしてるが、レニス王国の宰相をしている、“アルベルト・ストラルフ”だ。 うちの王に任せとくとどんな機密話すか分からんから、俺が付き合うことにする。要らん事聞いて、秘密漏洩回避のために殺されました。何つったら、話にもならんだろ?」

 呆れたように肩をすくめるアルベルト。 そんなアルベルトに対しデンノスケは、暫く機能停止状態に陥ったという。

 

 

「で。うちの国の兵器と社会情勢だったか?」

 とりあえず、全員改めてコタツに当たりながら話すことになったのだった。

「ああ。とりあえず起動鎧とやらは実物を見た。街で暴れていたしな。」

「そうか。じゃあ、どう言うもんかはあらかた分かってるだろうな。」

 バルの言葉に、苦笑しながら答えるアルベルト。

「見ての通り、アレは歩兵よりも機動力も戦闘能力も数段上だ。運用目的は多数。それこそ汎用兵器って奴だな。水中戦、砂漠戦、空中戦用なんて局地戦闘目的の物も有る、こっちの世界の花形兵器だ。」

「なるほど。確かに強力そうだったな。俺がアンブレラから貰ったのも、強力そうだった。」

 納得したように頷くバルの言葉に、アルベルトは「この野郎また機動鎧押し付けてやがるのか・・・。」とつぶやきながら頭を抱えるのだった。

「まあ、いい。 兎に角、戦場で一番目立つのはあれだろうな。 ちなみに。機動鎧ってのはレニス王国が使ってる総称語だ。ほかの国にいけば呼び名も違うし、大きさもまちまちだ。作った技術者、企業によっても物はまったく違ってくる。 操縦桿を握って動かすのから、意識をシンクロさせるもの。果ては機体と融合するものまで有る。」

「昔戦った国に、聖女しか乗れん全高400m強の機動鎧があったな。」

「ああ〜。あったな。 でも俺が一番ウザかったのは、玄人っぽいおっさんたちが乗ってた泥臭い5mくらいの小型機集団だったがな。ワイヤーとか出しながらローラーダッシュしてたあれ。乗り手も上手けりゃ戦争も上手かった。」

「三体合体で人型になるのも居た。」

「あれもなんだったんだろうな。 お前一人で始末しちまったから資料ものこってねーっつーの。」

 昔話をしながら頷きあうアルベルトとレニス王。

 そんな二人の話を聞きながら、「面白そうだな。」と、分かっているのか居ないのか今一曖昧な感想をこぼすバル。

「それから・・・。あれだな。移動島。こいつも見たか?」

「ああ。青白く発光する島が空を飛んでいた。」

「おお。見たか。 良く誤解されるが、アレは特別に強力な魔法使いが作ったもんじゃねぇ。 研究者連中やらが自分たちの理論を下にくみ上げた、工業機械みたいなもんだ。そうだな。なんて言えばいいか・・・。 お前さんたちの世界で言うと、“戦車”を大げさにしたようなやつか。馬が引く、例のアレだな。」

 戦車と言われて、バルたちが普通イメージするのは、大砲を積んだ装甲車ではなく、装甲した馬が引く、馬車のようなタイプの方だ。

「ん? あれも何か生物が動かしているのか?」

「物によるがな。機械仕掛けみたいに無機物だけで作ってある島もあれば・・・植物を利用したのも有る。うちにも植物を使ったのがいくつかあるんだがな。 移動島の原動力は魔力でな。その魔力の供給源を植物に頼った奴なんかは、島全体に植物が覆いかぶさってるし、大気中の魔力に頼る奴はむき出しの魔方陣が羅列してあるって寸法だな。」

「なるほど・・・。 強力なのか? 戦力としては。」

「そらーもう。 なにせアレだけでかいんだ。色々出来るってもんだ。たとえば大規模破壊魔法を予め表面に仕込んどいて、周り中から魔力かき集めてマシンガンばりに乱発したり、大規模シールド展開して機動鎧を数十機無傷で敵首都に送り込んだり、数島で連携して隕石召還したりな。 やり方しだいじゃ〜星も壊せる威力だ。 まあ、もちろん普通はやらないし、やれないがな。」

 星を消せる。その言葉に、さしものバルの表情も曇った。確かに隕石が召還出来るのであれば、それも不可能では無いだろう事は容易に予想が付く。

「あとは、小物こまごまだが・・・。 まずは歩兵。人体をマジックアイテムに置き換える奴。パワードスーツを着る奴。兵種、分担によってさまざまだが、ほかの世界以上に軍と一般では歩兵の武装に雲泥の差があるってのは言えるな。うちの世界は割かし防御魔法が進んでるから、きちんとした装備をした兵隊になら普通の鉄砲玉なんざ利かねぇ。だから超振動やら添付魔法やらで強化した剣も普通に普及してるし、魔法で貫通力を格段に上げた強壮弾入りの銃も使われる。 まあ、銃弾は物が小さいせいかかけられる魔法にも限界があってな。うちの近衛騎士団の団長あたりは、やたらどでかいランスなんて使ってやがる。」

「・・・・・・な、なるほど・・・移動島を中心に軍隊を編成する訳か・・・」

 国王が宰相にけり倒されるという、ショッキング映像からようやく立ち直ったのか、ほけーっとコタツに当たっていたデンノスケは、ようやくといった感じで口を開いた。額に浮かぶ嫌な脂汗をごしごしとぬぐうと、何度か深呼吸をして心臓を落ち着かせる。

「そう言うことだな。移動島を小さくしたようなもんで、船なんてのもあってな。こいつもやっぱり空中を進む船なんだが・・・外で飛んでる鯨見ただろ。まあ、あれのことだな。 移動島。船。機動鎧。この三つが、戦争の花形兵器になる。わけだーな。」

「どれもこれも恐ろしいな・・・。」

 眉間に皺を寄せてうなるようにつぶやくデンノスケ。

「まあ、さらに詳しく言えば、機動鎧にも大きく分けて二パターンあってな。 性能が良い機体ってのはどうしても装甲が欲しいし、外からのハッキングなんかを嫌うもんだから、外からの魔法的接触を完全にシャットアウトしちまうんだよ。 なもんだから、普通の機動鎧なら常に大気中から得られる動力源。つまり魔力を補給できねぇ訳だ。 こういう類の機体は一騎当千なエースなんだが、如何せん乗り手から魔力を取らなきゃいけねーってんで、乗れる奴がやたらすくなくなっちまうんだ。 持ってても乗れる人間が居ないんじゃ宝の持ち腐れだし、どうしてもそういう機体はコストがかさむ。 そんな訳で、そう言う特別な機体には、普通はお前見たいな“勇者殿”やら、うちのあほ王みたいな人外魔境しか乗ってないわけだわな。」

「いや。だから俺は勇者ではな・・・ありませんから・・・!」

 普通につっこみをいれようとして、寸前で相手が宰相だと思い出し凍りつくデンノスケ。断っておくが、突っ込みきれないデンノスケがチキンだとかそう言うことは消してない。普通の国ならば、一般人。それも得体に知れない異世界人が宰相閣下と同室に居るというだけで、雪崩のように兵隊が押し寄せてくるのだ。 しかし、今の状態はどうだろう。宰相どころか、国王すら居るにもかかわらず。警備の兵士たちは無表情でコタツに首まで入り、兎型に切ったりんごを咥えている国王をため息混じりに眺めているだけだった。

「さて。ラストだが・・・うちの国王に関係する話だな。 この世界には確かにむちゃくちゃな破壊力の兵器が沢山有る。だが、だ。そう言うモンを一切合切。それこそ素手で移動島を叩き割る輩が、居る。 それが・・・。」

 アルベルトは軽く手を振り上げると、寝転がっているレニス王の眉間にチョップを叩き込んだ。

「こいつら。“魔人” “勇者” “超越者”。 呼び方は色々あるんだが、まあ、兎に角なんにせよ。こいつや、それに近い化け物どもだ。 最後。つまり社会情勢の話だったな。 こいつらの存在が大きくかかわってくるんだが・・・。 さて。国家間の大まかな話。うちの国の中の話。 どっちから聞きたい?  必要ならお国柄なんかも用意するが。」

 その体躯からは想像も出来ないような、包容力のある。威厳すら漂う笑顔をデンノスケとバルに向けるアルベルト。

 デンノスケはその、おそらく年齢にそぐわぬだろう表情に若干圧倒されつつも・・・コタツから首だけ出している自国の王に、まるで親の敵のように執拗にチョップの嵐を見舞っているという事実に、目の前の宰相に底知れぬ恐ろしさを感じたのだった。