博士の風変わりな研究と飯のタネ(40)

「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! いやぁ! 実に楽しいと思うのだがね! 移動島! 超大型戦艦! そして何よりも機動鎧!! 扱う面子もまさに最上級!! これほどの戦闘をお目にかかる機会は滅多に無いと思うのだがね! いや! 寧ろこの“アクア・ルート”以外では有り得ない状況だといえると思うのだがね! ああぁ! やはりこの町に来て良かった!!」

 まるで悪役のような高笑いを上げながら、Dr・フェネクスは目の前に浮かぶ複数の画面に目を走らせた。

 Dr・フェネクスが居るのは、愛機“パーフェクト・パープル”のコックピットだった。 内部は一面に外の様子が投影されており、形と色をなして見えるのはソファーが一脚だけだった。 そのソファーにどっかりと座り足を組むDr・フェネクスの目の前には、複数のモニターが展開されていた。そこに写っているのは、今“アクア・ルート”中で行われている様々な賞金首争奪戦の様子だ。

「英児が出ないのが残念仕切りだと思うのだがね! しかしそれを補って余りある兵器! メンツだと思うのだがね! レニス王国近衛騎士団が出張ってきたのもそそられるモノがあると思うのだがね! 一人一人が超一級の戦士であり戦略家である近衛騎士団が湯水のように投入されているこの状況!!まさにマニア垂涎! 此れを見ずに戦いは語れないと思うのだがね!! ああ! 堪らないと思うのだがね! この映像だけでご飯四杯! いや! ご飯八合は行けると思うのだがね!!」

「Dr。 お楽しみの所申し訳有りませんが、ご報告が御座います。宜しいでしょうか?」

「うむ。聞こうと思うのだがね。」

 突然真後ろに現れた執事の言葉に、其方を見ようともせず続きを促すDr・フェネクス。 執事はDr・フェネクスが自分の方を見ていないにも拘らず恭しく一礼すると、手元の資料を見ながら報告を始めた。もっとも執事はプログラムである訳だから、そんなプリント状の物を見る必要は無い。と言うより、執事の外見は映像データでしかない訳だから、無駄と言えば無駄な処理な訳だが。

「賞金首“アッシュ”がこのアクア・ルートに来るまでの足取りを追ってみたのですが、此れがまあ・・・なんと言いますか・・・。」

 言いよどむ執事に、Dr・フェネクスは始めて関心を持ったようにモニターから目を外すと、其方を振り返った。

「何か面白い事が分かったようだと思うのだがね?」

「面白いといえば面白いのですが・・・。」

 なんとも言えない微妙そうな表情を作る執事に、Dr・フェネクスは「続けて欲しいと思うのだがね。」と続きを促した。

「は。なんとも冗談のような話なのですが。 例の高額賞金をかけた主が分かりまして。その人物と言うのが・・・“ガルダリア”の王女なようでして・・・。」

「・・・・・・は?」

 暫し黙って硬直した後、思わずと言った様子で呟くDr・フェネクス。

 “ガルダリア”。正確には“神聖ガルダリア王国”と言う名のその国は、広大な国土と肥沃な土地を元に、大量の食料を生産する国として世界に名を轟かせる大国である。 技術向上の代償として、または元々食料が作れる環境ではない、などの理由から、食料を海外からの輸入に頼る国が多いこの世界において、食糧生産能力の高さは、そのまま外貨獲得能力であるといって良い。 そんな中、ガルダリアは様々な食料ニーズに応えた、例えば安価な量産品から超高級食材までと言う豊富な品揃えを持って、此方の世界における石油産出国のような莫大な富を得ていた。

「それが・・・ですね。どうも賞金首はガルダリアの“ゲート”を通って“アクア・ルート”に来たらしいのですが・・・道々、お忍びで森を散歩している王女と鉢合わせしたそうでして。 そのとき、怪我をして困っていた王女を賞金首が手当てをしたのだそうです。」

「ふむ・・・。と言うことは。 本当に例のおまじないの延長線上的な意味で金を掛けられた。と言うことに成ると思うのだがね・・・?」

「額的に俄かには信じられませんでしたが、その線かと。」

 Dr・フェネクスは「ふむ。」と呟くと、暫く考え込むように目を閉じて眉をしかめた。 そして、唐突にやたらと楽しそうな顔で高笑いをあげ始めた。

「ハーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! まさかそこまでベタな展開だとは思わなかったのだがね! 御姫様を助けた王子様に賞金がかかって追い回されるようでは始末に追えないと思うのだがね! それで?ほかには何がどうなっているのかね? キモの事だからここまで程度のことならば顔色一つ変えずに報告するだろう? と言うことはこの先にはまだ私のツボを付いてくるような面白い事があるのだと思うのだがね?!」

「ご推察感服いたします。」

 執事は深々と御辞儀をすると、再び手元の資料に目を落とした。

「本日この後、午後三時。“神聖ガルダリア王国”の使節団がレニス王との謁見のため、レニスに入る予定になっております。無論のこと、移動には“アクア・ルート”の“ゲート”が使われる事になっています。」

 眉をひそめながら報告する執事の報告を聞き、Dr・フェネクスは待ってくれと言うように手を上げると、真剣な表情を執事に向けた。

「まさかとは思うのだがね。その使節団のに、王女が居たりするのではないかと思うのだがね?」

「お察しの通りです。」

 執事のその返事を聞いた瞬間、Dr・フェネクスはその外見にそぐわぬ実に邪悪な笑みを浮かべると、まるで何かを企んでいるような低い笑い声を上げ始めた。

「今日は実に実に良き日だと思うのだがね・・・! まさに神に感謝したく成ると思うのだがね・・・! もっとも本当にして良い物かどうかは分からないのだがね・・・。」

 Dr・フェネクスは暫くブツブツと呟くと、パンッと一回手を叩き、晴れ晴れとした笑顔で顔を上げた。

「執事君。そうと分かれば一つ二つ仕掛けをしようと思うのだがね。 戦闘中の連中には悪いと思うのだがね。美味しい所を総取りしたくなってしまったのだがね!」

 含みの有る、外見にそぐわない無邪気な邪悪さを湛えた笑顔でそう宣言するDr・フェネクスに、執事は先ほどまでの冴えない表情を消し去り、柔和な笑顔をで深々と頭を垂れた。

「は。全てDrの悪巧み通りに。」