博士の風変わりな研究と飯のタネ(39)

 閉じこもる賞金首。それを狙って戦う賞金稼ぎ。 ココまでならば、まだ若いループでも何度か見たことの有る、在り来たりな風景と言えなくも無かった。 ただ、賞金首が閉じこもっているのが通話ボックスで、戦っている賞金稼ぎが“冒険屋”“海賊”“傭兵”“戦士団”となれば、話は別だ。

「無茶苦茶だぁ・・・。だから僕嫌だったんだ。本当なら今頃宿屋でテレビ見ながらアイス食べてるはずだったのにぃ〜。」

 しゃがみ込み、頭を抱えてぼやくループ。若干十九歳。エルフとしてはまだまだ義務教育も終らない年齢である彼の思考は、限りなく小学生のそれに近いのであった。

「もう帰っちゃおうかなぁ本当に。 どうせ僕誰の目にも映ってないんだから帰っちゃってもばれないよねぇ〜。これ。なんか適当に戦闘が激しくて間に入れませんでしたーとか言って置けば平気なんじゃないかな・・・。」

 とは言いつつも。そう言うわけにも行かない事を重々承知なループだった。本当に帰ろうものなら、シュナになにをされるか分からないのだ。 とりあえず少し様子を見ようと物陰に身体を隠しつつ、盗み見る事にする。

 案の定、シュナ、英児、ジェーンの三人は、今にもブチ切れんばかりの表情でライエルの機動鎧を睨みつけていた。 ライエルの事は、ループも資料で読んだ事があった。“七海殺戮海賊団”の機動鎧乗りで、元は正規軍に所属していた騎士だったという。 基本的に直接かかわりのない事は面倒臭がって調べも覚えもしないループでさえ、名前を知っている有名人である。あの三人がライエルの事を知らないはずが無い訳だが、全く物怖じした様子も無く、歯を剥いて睨みつけている。恐らく、相手が誰だろうと、もう関係無くなっているのだろう。

 三人とも苛立たしげな表情を隠そうともしない中、ジェーンが口を開いた。

「野郎ふざけやがって・・・! 目にはモノアイ、歯には掘削機だ!!」

 言いながら帽子を深く被り直すと、上着の胸部分に止めてある弾丸を外し、拳銃に装填する。

 一発だけ弾を込めた拳銃の銃口を空に向けると、ジェーンはボソリと呟き、引き金を引く。

「サモン。“デュエン”。」

 打ち出された弾丸は一直線に空に向かって昇って行き・・・周りのビルを追い抜いた当たり。ちょうど上空200mほどで、突然爆ぜた。その瞬間、地面と平行に巨大な円形魔法陣が弾丸を中心に、水にインクを垂らしたように広がった。一瞬で展開されたその魔法陣は、見るモノが見ればすぐにソレと分かる召喚魔法陣だ。そして、魔法陣が展開しきったのとほぼ同時に。黒い塊が魔法陣から地面に向かって落下してくる。

 かなりの落下速度だったせいか、落下中には何か判別の付かなかったソレは、ジェーンの真後ろ付近に着地して、ようやくその正体を現した。 人型の、黒い機動鎧である。

 跪き、頭部もうつむいているためはっきりとは言えないが、全長は10〜12m。機動鎧としては中型程度に分類されるソレは、まるでテンガロンハットを被ったような頭部形状をしていた。一見するとマントにも見えるが、上半身を覆っている布状のものは、恐らくポンチョか何かだろう。なにかの幾何学模様が刻み込まれているのを見る当たり、ソレもただのポンチョには見えない。

「“デュエン”ウェイクアップ。」

 消して大きくは無いジェーンの言葉に、人型鎧の目に緑色の光が灯る。ユックリとした挙動で立ち上がると、良く見えなかった脚部が露になった。カウボーイが乗馬の際、脚を保護するために付ける脚用の革鎧状のもので覆われたソレは、スラリとしていて長い。腰にはやはり、左右一丁ずつ、二丁のリボルバー拳銃がマウントされていた。

「機動鎧出してきたっ・・・!」

 ループは自分の身体から、サーっと血の気が引けて行く感覚に襲われていた。この展開から考えるに、絶対にシュナは黙っていないだろう。

 案の定、シュナは真横で機動鎧を召喚されたと言うのに見向きもせず、据わった目でライエルの“刀翼”を睨みつけたまま声を張り上げる。

「ナップ!! 聞えてるでしょ!! “カルテット”出すわよ!」

 シュナの声を合図にしたように、突然地面が揺れ始める。かなりの振動と共に聞えてくるのは、甲高いドリルのような金属音だ。 徐々に大きくなってくる音と揺れは、数秒後にシュナの真後ろにその元凶が現れると同時に消え去った。

 地面から空中に勢い良く飛び出したのは、高速回転をしている、黄金の楔形だった。全長15mはあろうかと言うその物体は中空で突然膨らみ、弾けた。 が、はじけたように見えたソレは、布のように閃くと、その面積を急激に小さく変化させた。金色の布の中から現れたのは、ジェーンのソレと同じ位のサイズの、金色の機動鎧だった。 どうやら身体を覆っていたのはマントだったらしく、今は適当なサイズに縮み、機体の背中ではためいていた。

 まるで体重が一切無いような優雅な仕草で、シュナの後方に着地する金色の機動鎧。細身の真っ黒なマネキンに、軽鎧を着込ませたようなその機動鎧の装甲には、様々な金細工のような宝飾が施されていた。 戦闘兵器よりも寧ろ、美術品のようにすら見える機体の腰には、丁度ループが使っているのと同じ様な双剣がマウントされている。

「ああ・・・。面倒臭いなぁ・・・。」

 心底面相臭そうにそう吐き出すループ。自分達の機動鎧が出てきた以上、もうループには逃げるという選択肢は無くなっているのだ。

「厄介なんだよなぁ〜・・・。」

 諦めたようにそう呟いた次の瞬間、ループの目に映る景色はまるで別の光景になっていた。 と言っても、居る場所は先ほどとさして変わりはしない。 ループが今見ているのは、金色の機動鎧。“カルテット”の視界なのだ。 召喚術が発達により、一部の機動鎧は入り口を無くし、操縦者を直にコックピットへ召喚する形を採用していた。 Dr・フェネクスの作品であるこの機動鎧。正式名称“ゴールド・カルテット”は、召喚と、乗り手と機動鎧のシンクロをほぼ同時に一瞬で完了してしまえるという特徴を持っていた。

「とにかくあの鳥とアホ冒険屋とバカ傭兵より速く賞金首捕まえるのよ! 分かった?!」

「わかったよー。やるよぉ〜。」

 耳元で聞えるシュナの声に、情けない声で答えるループ。 機動鎧は普通、乗り手と魔術師が二人で乗る事が多い。魔法技術の塊である機動鎧に魔力を供給と、出力調整や必要なマジック選定などのエンジニアとして、魔術師は必要不可欠なのである。 特に魔力の供給源としての要素は強い。なにせ魔力は戦闘可能時間とイコールなのだ。 この“ゴールド・カルテット”には、シュナ、ナップ、“パペッター”と、三人の魔術師が乗り込むように設計されていた。つまり、三人分の魔力を使って動いているのだ。 これには単に使用できる魔力が三人分になるという以外にも、様々な利点があったいるするのだが・・・。

「三人とも乗ってたら、手抜けないし逃げられないよぅ〜。」

 今のループにとっては不利なことしかない様子である。

「さー! “カルテット”出したからには負けられないわよ!」

 異様にやる気満々なシュナの言葉に、思わず溜息を吐き出しうつむくループ。もっとも、今実際に動いているのはループの身体ではなく、“カルテット”なのだが。今ループの身体は“カルテット”の内部にあり、行動は全てカルテットが行っている。“シンクロ”などと呼ばれる、一番ポピュラーな操縦法の一つだ。

 と、うつむいたループの目に、妙なモノが飛び込んできた。

「あれ? どうしたんですか? 英児さん。」

 外部スピーカーを作動させ声を掛けた先には、全身を細かく震わせながら、剣を支えに膝ま付く英児の姿があったのだ。

「くそ・・・! 俺としたことが油断したぜ・・・。」

 やたらと熱が篭った英児の声に、思わず息を呑むループ。鬼気迫るようなオーラを放ちながらも、英児は身体に力が入らない様子だった。

「どうしたんだ?」

 まだ機動鎧に乗り込まず、英児の横に居たジェーンが訝しげに尋ねる。

「飯が・・・。」

「ああ?」

「ここ何日か飯喰ってないのがここに来て効いた・・・! 腹が空き過ぎて動けねぇ・・・・!」

 妙に力強くそう言うと、英児はまるで糸が切れたようにがっくりと倒れこむと、「ぐっ・・・!」と呟き、そのままピクリとも動かなくなってしまった。どうやら腹の空き過ぎで気絶してしまった様子である。

「・・・・・・マジで?」

 額に脂汗を浮かべ、信じられないものを見る目で英児を見るループ。

「・・・あほか・・・。」

 納得したように頷くジェーンの言葉は、その場にいた全員の総合見解だったという。