博士の風変わりな研究と飯のタネ(37)

「降下した連中、首見つけたそうです! 場所は、アクア・ルートセントラルステーション近く!」

 通信士の声に、“ジェノサイド・ホエール”のブリッジは沸きかえった。 賞金首を捕まえなくては、ご飯が食べられない。そんな緊迫した状況で届いたその報告は、ミリーを筆頭に、手下の殆どが諸手を上げて喜ばせるに十分なものだった。

「よっくやったのだー! つーかアクア・ルートセントなんとかってなんなのだ?」

 首を捻るミリーに、砲手席に座っている手下が「あー、はいはい。」と答える。

「鉄道の駅だよ。漢字で言うと“海道中央駅”?」

 実も蓋も無い訳し方である。

「あ〜ん。ナルナル。この間アイス喰いに言った所なのだ?」

「そうそうそうそう。あそこあそこ。」

 手下の言葉に、「あーあーあー。」と、妙に納得した様子のミリーだった。

 アクア・ルートセントラルステーションは、鉄道の駅であり、そこらから様々な路線に乗り換えられる、鉄道交通の要所であった。 アクア・ルートのちょうど中央付近に位置することと、その周囲に多数のオフィスや商店が立ち並ぶことから、アクア・ルートの心臓部とも言われる駅なのである。

「丁度、駅前の大通りから百メートルくらい行った、交差点の通話ボックスに引篭もってたそうです。」

「あーあー。テレビで見たことあるのだ。あのデッカイ十字路なのだ? 六車線道路の十字路。で、土日曜祝日になると歩行者天国になる。」

「そうです。時々テレビで出てるあの交差点ですよ。」

 周りに比較的商店が多く、人が集まり易い位置にあるその交差点は、ミリーが言った様に休日などに歩行者天国。つまり、自動車通行止めの大通りになる事で有名な一帯であった。車が止められている間、出店やストリートパフォーマンスなどが行われるのである。 つまる所、英児やジェーン、“二十日鼠”が暴れても平気な広さが十分にあるということだ。

「それで。首はなんでそんな場所の、それも通話ボックスの中に引篭もっているんだ?」

 それまでジーっと様子を見ていたシャムリースが、ボソリと呟いた。 けして大きくは無いが、やたらと良く響くその声に、ブリッジにいた人間全員の動きが止まった。

「ええ。それが、なんでも他の賞金稼ぎに追い詰められてたらしくて。 “魔弾”
と“二十日鼠”と新田 英児だそうです。」

 暫しの沈黙。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

「マジですかー!!」

「おかーさーん!!」

「なんでお邪魔虫がいるのだぁぁぁ!!」

 各々思い思いの叫び声を上げるミリーと手下たち。全員、今上がったメンツの事を少なからず知っているのだ。

「不味いな。 ココで賞金首を捕まえないと本当に食料庫が空になる。 降下した全員、その場所に集まっているのだろうな?」

 呻き喚く手下と船長を尻目に、一人冷静に声を出すシャムシール。その声に、すぐさま機動鎧の管制係が返事を返す。

「さっき報告した通り、高エネルギー反応と首をレーダーで捉えてからすぐ、近衛騎士団一番隊に遭遇。散開して逃げたものの、三機攻撃を受けて戦闘不能。“ジェノサイド・ホエール”に帰還しています。残りの連中は完全に分断されて、散り散りに逃げ回っているのが現状で、近衛騎士団をまいたライエルさん一人が首と接触している状態です。」

「やはりただの賞金稼ぎだと言っても通じないか。当然だろうがな。しかし突然攻撃してくるというのはやはり妙だ。ここは“アクア・ルート”だぞ。」

 滅多に表情を変えないシャムシールだったが、このときは珍しく眉を動かし、多少なりとも不満そうな雰囲気を漂わせていた。

 アクア・ルートは、見た目こそ綺麗で、犯罪組織もなく、人も多い街ではあった。が、物流の要であり、多数の企業が立ち並び、レニス王国の一都市である街である。一筋縄ではいかない。

 アクア・ルートが武器の持ち込みや機動鎧の乗り入れを許可しているのは、“そう言った危ないものを公的に運搬できる港”だからなのだ。 普通なら密輸するしかないような兵器を運用する傭兵や冒険者に大手を振って往来できる場所を与えてやり、企業には他国ならば非合法すれすれの物を当たり前のように持ち込み輸送できる場所を与えてやる。 そうする事で、アクア・ルートには信じられないような金と人が流れ込む。

「故に、多少のイザコザは目を瞑り、度が過ぎると判断すれば徹底鎮圧をかける。 今回の騒ぎは既に鎮圧対象か。空の上に居ると地上がどうなっているのかイマイチ分からん。」

 実際、シャムリースは地上で何が起こっているのかあまり把握していなかった。どうせ、賞金首を捕まえたら速攻でトンズラを決め込むつもりだったのだ。既に数組の賞金稼ぎが小競り合いを始めているとは聞いていたものの、“魔弾”や英児のようなビッグネームが出張って、市街戦のような戦いをくり広げているとは思いもしなかった。

「目の前の移動島に気を取られすぎたか。不味い事になるなこれは。」

 機動鎧が散り散りにされたという事は、つまる所近衛騎士団も機動鎧を持ち出したという事になる。 そんな状況だと、何時までも上空に“ジェノサイド・ホエール”が居ると言う状況を、近衛騎士団は許してくれないだろう。攻撃されるとまでは言わないが、退去は確実だろう。

 さて、どうしたものか・・・。と、思った所で、シャムリースは考えるのをやめた。海賊ならどーんと行け。両親共に海賊であるシャムシールが、幼い頃より口をすっぱくして教えられてきたことである。

「こうなったらスピード勝負だ。速度、進路そのまま! このまま海に向けて進みつつ、機動鎧が首を回収して戻ってきたのと同時に潜行! 全速でアクア・ルートの領地を出て、他の港で賞金首を換金する!」

『イエス・サー!』

 てんでバラバラに叫びまくっていた手下たちの声が、シャムリースの指示を受けて一瞬でそろう。まとまりが無さそうに見えつつも、そこは船乗りだ。

「しっかし厄介な事になったのだー。なーんだって滅多にうごかねーような近衛まででしゃばってるのだ〜? 陸の連中はしゃぎすぎてんじゃねーのだ?」

 不機嫌そうにブーたれた顔をしながら毒付くミリー。その様子に、シャムリースは何時もの無表情に戻った顔を向けた。

「かもしれません。」

「ただでさえ“魔弾”やら“二十日鼠”が居るのだ? 邪魔されねーわけねーのだ。ダーリンがいくら凄腕でも連中にはてこずる筈なのだ。首尾良く首をゲットしたとして、問題は・・・。」

 むーっ。と、難しそうに唸り、眉をひそめるミリー。因みに、ダーリンと言うのは、誰あろうライエル・ザ・“ホークアイ”のことである。見た目こそミリーが年下の年の差カップルでは有るが、実年齢的にはどっこいどっこいだったりするのだった。

「近衛騎士団の動きが気になるのだ。軍警察やらなんやらはどうでもいいから、近衛騎士団の現在地だけ、アクア・ルートの地図に乗っけて。すぐ出すのだ。」

 ミリーの指示に、オペレーターの一人がすぐさま「ういっす。」と返事をする。

「細かくやる必要は無いのだ。大まかな分布だけでいいから急ぐのだ〜。」

「分かってます。画像重ねるだけなんで。 っと、出来ましたーん。」

 ぽちっとな。と言う言葉と同時に、ミリーの目の前に画面が展開された。ご所望通りの、アクア・ルートの立体地図に、蒼い点で近衛騎士の居場所を示した図である。

 その図を見たとたん、ミリーは「こりゃまじーのだぁ〜・・・。」と、苦虫を噛み潰したような顔になった。 すぐ横に居たシャムリースも、図を覗き込み、声だけで呻いた。

「近衛騎士団の連中、街の外側から中央に追い込むように動いているようですね。 今くびが居る辺りは、ちょうど台風の目のようです。」

「洒落にならねーのだ〜! 邪魔されるのは確実だわ、首ゲットして逃げ帰っても周りは近衛騎士と軍警察の群れなのだぁぁぁ!!!」

 ミリーの前の図では、弓形の海岸沿いに細長い形に広がるアクア・ルートの外側から、まるでじわじわと真綿で締め付けるように中央に向かって侵食して行く青い点が表示されいた。 完全包囲の体勢を作ってから、踏み潰すように蹂躙して行く。レニス王国王立近衛騎士団の、得意な戦術の一つである。

「多少無理してでも反転して、ダーリンを・・・あー! でも移動島がじゃまなのだー!!」

「っと、移動島から手紙が来ました!」

「見せるのだー!!」

 もはや金切り声のような声を上げるミリー。 ミリーが叫んだり暴れたりするのは何時もの事なので、特に動揺する様子もなく手下は迅速にミリーの前に画像を展開させた。

 現れた文章は、実に丁寧な書体の文章だった。どうやら手書きらしく、実に丁寧で温もりのある文字が並ぶ。

「つーか、達筆すぎてよめねーのだぁぁぁ!! あれなのだ?! 武士道?! サムライなのだぁ?! こう言うのはブロック体のワープロ文字で送るのが親切ってもんなのだ!! シャムリース! 翻訳!」

「は。」

 画面をしばらく眺め、シャムシールは口を開いた。こう言う文章をそのまま読んで伝えても、ミリーが混乱するだけと心得ているため、一度読んで噛み砕いてから内容を説明するためである。

「要するに、“てめーらが首とグルだって垂れ込みあったから、大人しく全員一回集まれや。どうせガセだろうから、すぐ済ませてやっからよ。”と言うことらしいです。」

「ジョーだんじゃねぇぇぇっつーのだぁぁぁ!!」

 最近の切れ易い若者宜しく、ガトリング砲を乱射するミリー。無論、空砲では有るが。

「そんなことしてる間に賞金首掻っ攫われるのだぁぁぁ!!!」

「向こうとしては大事にせず街の上から出してやろうという善意なのでしょうね。」

「ふざけるんじゃねーのだ! こちとら明日のおまんまにも困る有様なのだ?! 目の前の金つかまねー訳にはいかねーのだ!」

 そう言って乱暴に立ち上がると、ミリーは目の前の手摺を、ガトリング砲に改造した腕で殴りつけ、手下たちの注目を集めた。

「聞ーての通りなのだぁぁ! 近衛騎士団がなんか言ってきてるけど、聞いてたら飯にありつけねーのだ! 全力で無視して、実力行使に出られる前にケツ巻くって逃げ出すのだ! 一回逃げ出しちまえばこっちのもんなのだ! てめーら!! 今日は豪華にバーベキューと行くとするのだぁぁぁ!!」

『いえぇぇぇ!!!』

 異様な熱気に包まれるミリーと部下たちを見渡し、溜息を付くシャムシール。 そう簡単には行かないだろうな。とは予想しつつも。これがミリーのやり方である事を良く心得ている副官は、この後、いかにミリーの気に入る形で事を終らせられるかについて、考え始めるのだった。