リンク品

 アンブレラはテクテクと歩き出すと、壁の一部に手を触れた。すぐに大仰な音が響き、倉庫の壁の一部が動き出した。

 どうやらしきりになっていたらしいそれが上がりきると、今いる倉庫の広さと同じ面積ほどの部屋が現れた。

 そこには、足から頭部まで、15mはあろうかと言う大型の鳥型機動鎧だった。広げられた両翼は、優に20m以上はあるだろうか。 一番に目を引くのは、その背に取り付けられた二門の大砲だった。機体の身の丈ほどもある長い砲身を背負ったその姿は、ある種威圧的ですらあった。

「超高高度からの砲撃と、情報支援を目的に作った機体にゃ。まー、デンノスケの機体にくっ付いてる魔法と同じ様な防御機構が取り付けてあるわけにゃけど、こいつは見た目どおり空を飛ぶ事も可能にゃ。 デカイ面積がある翼には、ビルヅの能力を援護する術式が組み込んであるにゃ。相当遠くにいる相手の思考やらも聞えるはずにゃ。 他にもレーダー系なんかの索敵機器も万全完備してるにゃ。 ハッキングやらもこなせるように作ってあるンにゃけど、自分も無防備になるから、その辺を使うようになるのは馴れてからかにゃー。
兵装は見ての通り、カノンが二門。こいつは実弾と魔法、両方こなせるように特注で作ってあるにゃ。特注過ぎて専用弾頭にゃンだけど、その辺はタダで譲るから安心するにゃー。他の武装は、定番のクローと、“氷の炎”だにゃ。」

 アンブレラの口上を分かっているのか分かっていないのか微妙な顔で聞きながら頷くデンノスケだったが、“氷の炎”と言う単語に眉をひそめた。

「なぁ。氷の炎ってなんだ?」

「にゃー。金のかからないミサイルにゃんだけれども、って、にゃーぁ、ミサイルわからにゃいか! 困ったにゃー。」

 困ったといいつつ、全く困っていないような様子で、アンブレラはシルクハットを脱ぐ。端を両手で持って、ブンブンと振ると・・・。なかからミサイルランチャーが現れ、地面にドカンと落ちた。無論、シルクハットから出てくるのは、ミサイルランチャーのサイズは明らかに大きい。

「・・・四次元シルクハット?」

「そんなようなもんにゃ。」

 もはや言葉も無い様子のデンノスケであった。

「じゃ、ミサイルの説明にゃ。様は鉄の塊に色々細工して爆発物やら相手を追っかける装置つけて、ロケット花火見たく打ち出すものの事何にゃけど〜・・・。」

 ミサイルランチャーを担ぎ上げたアンブレラは、獲物を探すようにあたりをキョロキョロと見回した。と。 ちょうど近くにあった窓の外に、ダルそうに歩く人影を発見した。

「ちょうど良かったにゃ。奴に手伝ってもらうにゃ。」

 そう言うと、アンブレラは窓から顔を出し、人影に声を掛けた。

「久しぶりにゃー。相変わらず血ー吸ってるかにゃ〜?」

「おー。アンブレラー。 つーか、血ー吸うとか言うなよ。俺ぁーパックした加熱処理品しか飲まない現代っ子吸血鬼なのよ?」

 実にだらしない様子で歩いてくる吸血鬼青年に、アンブレラは笑いながら返す。

「にゃっはっはっは! まあ細かい事を気にする奴は長生きできにゃいと言うからにゃ! そうそう。ちょっと頼みがあるにゃ。」

「あによ。」

「ちょっと走ってほしいにゃ。」

「は?」

 と、青年が言ったか言わないかの刹那。ミサイルランチャーが火を噴いた。 発射されてから爆発するまで、実に様々なドラマがあった。 追跡するミサイル。必死で逃げる吸血鬼青年。唖然とするデンノスケ。特にリアクションの無いバル。大爆笑のアンブレラ。

 結局、海に逃げ込んだ吸血鬼青年だったが、すぐ後ろについてきたミサイルが大爆発。派手な水柱を上げたものの、アンブレラたちの位置からでは吸血鬼青年の安否は分からなかった。

「と、まあ、コレがミサイルにゃ。コレと同じ様なことを、空気中の水分を使ってヤルノが氷の炎にゃ。氷で本体を作って、中を水素と酸素の混合物で満たし、炎で派手に推進させる。追跡系統の魔術式も組み込めるから、バッチリミサイルって訳にゃ。 氷の炎の大きさは、バルのさじ加減で調節できるにゃ。翼に魔方陣つけてある関係上、大きさは制限されるけどにゃ。大体、最大10mから、最低50cmってところかにゃー。」

「・・・どこから突っ込もう・・・。」

 頭痛に、思わず頭を抱えるデンノスケだったという。

「にゃっはっは! 細かい事は気にしにゃーい。 さて、バル。気に入ったかにゃ?」

 さっきまでバルの居た場所に顔を向けるアンブレラだったが、いつの間にかバルの姿はそこにはいなかった。 ふと、アンブレラは鳥型機動鎧のほうに顔を向けてみた。するとそこには、何事か頷きながら機体をペシペシと叩いているバルの姿が。

「気に入っては居るみたいだな。」

「よかったにゃー。」

 満足そうに微笑むアンブレラ。もっとも、猫人の表情は、人間には多少分かり辛いのだが。

「じゃ、早速機体に名前をつけてやってほしいにゃ。」

「名前? 俺たちが付けて良いもんなのか?」

「何時もならにゃーがつけるんにゃけど、今回は特別にゃー。 それに、バルのは兎も角、デンノスケの機体には人格もあるからにゃ。名前付けてやら無いと大変にゃ。」

 アンブレラの言葉に、硬直するデンノスケ。

「じ、人格・・・?」

「機動鎧の起動を円滑にするために、添付してある全人工精霊の統合意識があるんだにゃ。 バルのはビルヅが統括するからつけてないんにゃけど、デンノスケのにはバッチリ人格ついてるにゃ。」

「そ、その人格って、性別あるのか・・・?」

「いちおうとっつき易いように、女の子にゃんだけど。」

 アンブレラの、イタズラの成功を確信した様な笑みに、思わず頭を抱えるデンノスケだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(37)

「降下した連中、首見つけたそうです! 場所は、アクア・ルートセントラルステーション近く!」

 通信士の声に、“ジェノサイド・ホエール”のブリッジは沸きかえった。 賞金首を捕まえなくては、ご飯が食べられない。そんな緊迫した状況で届いたその報告は、ミリーを筆頭に、手下の殆どが諸手を上げて喜ばせるに十分なものだった。

「よっくやったのだー! つーかアクア・ルートセントなんとかってなんなのだ?」

 首を捻るミリーに、砲手席に座っている手下が「あー、はいはい。」と答える。

「鉄道の駅だよ。漢字で言うと“海道中央駅”?」

 実も蓋も無い訳し方である。

「あ〜ん。ナルナル。この間アイス喰いに言った所なのだ?」

「そうそうそうそう。あそこあそこ。」

 手下の言葉に、「あーあーあー。」と、妙に納得した様子のミリーだった。

 アクア・ルートセントラルステーションは、鉄道の駅であり、そこらから様々な路線に乗り換えられる、鉄道交通の要所であった。 アクア・ルートのちょうど中央付近に位置することと、その周囲に多数のオフィスや商店が立ち並ぶことから、アクア・ルートの心臓部とも言われる駅なのである。

「丁度、駅前の大通りから百メートルくらい行った、交差点の通話ボックスに引篭もってたそうです。」

「あーあー。テレビで見たことあるのだ。あのデッカイ十字路なのだ? 六車線道路の十字路。で、土日曜祝日になると歩行者天国になる。」

「そうです。時々テレビで出てるあの交差点ですよ。」

 周りに比較的商店が多く、人が集まり易い位置にあるその交差点は、ミリーが言った様に休日などに歩行者天国。つまり、自動車通行止めの大通りになる事で有名な一帯であった。車が止められている間、出店やストリートパフォーマンスなどが行われるのである。 つまる所、英児やジェーン、“二十日鼠”が暴れても平気な広さが十分にあるということだ。

「それで。首はなんでそんな場所の、それも通話ボックスの中に引篭もっているんだ?」

 それまでジーっと様子を見ていたシャムリースが、ボソリと呟いた。 けして大きくは無いが、やたらと良く響くその声に、ブリッジにいた人間全員の動きが止まった。

「ええ。それが、なんでも他の賞金稼ぎに追い詰められてたらしくて。 “魔弾”
と“二十日鼠”と新田 英児だそうです。」

 暫しの沈黙。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

「マジですかー!!」

「おかーさーん!!」

「なんでお邪魔虫がいるのだぁぁぁ!!」

 各々思い思いの叫び声を上げるミリーと手下たち。全員、今上がったメンツの事を少なからず知っているのだ。

「不味いな。 ココで賞金首を捕まえないと本当に食料庫が空になる。 降下した全員、その場所に集まっているのだろうな?」

 呻き喚く手下と船長を尻目に、一人冷静に声を出すシャムシール。その声に、すぐさま機動鎧の管制係が返事を返す。

「さっき報告した通り、高エネルギー反応と首をレーダーで捉えてからすぐ、近衛騎士団一番隊に遭遇。散開して逃げたものの、三機攻撃を受けて戦闘不能。“ジェノサイド・ホエール”に帰還しています。残りの連中は完全に分断されて、散り散りに逃げ回っているのが現状で、近衛騎士団をまいたライエルさん一人が首と接触している状態です。」

「やはりただの賞金稼ぎだと言っても通じないか。当然だろうがな。しかし突然攻撃してくるというのはやはり妙だ。ここは“アクア・ルート”だぞ。」

 滅多に表情を変えないシャムシールだったが、このときは珍しく眉を動かし、多少なりとも不満そうな雰囲気を漂わせていた。

 アクア・ルートは、見た目こそ綺麗で、犯罪組織もなく、人も多い街ではあった。が、物流の要であり、多数の企業が立ち並び、レニス王国の一都市である街である。一筋縄ではいかない。

 アクア・ルートが武器の持ち込みや機動鎧の乗り入れを許可しているのは、“そう言った危ないものを公的に運搬できる港”だからなのだ。 普通なら密輸するしかないような兵器を運用する傭兵や冒険者に大手を振って往来できる場所を与えてやり、企業には他国ならば非合法すれすれの物を当たり前のように持ち込み輸送できる場所を与えてやる。 そうする事で、アクア・ルートには信じられないような金と人が流れ込む。

「故に、多少のイザコザは目を瞑り、度が過ぎると判断すれば徹底鎮圧をかける。 今回の騒ぎは既に鎮圧対象か。空の上に居ると地上がどうなっているのかイマイチ分からん。」

 実際、シャムリースは地上で何が起こっているのかあまり把握していなかった。どうせ、賞金首を捕まえたら速攻でトンズラを決め込むつもりだったのだ。既に数組の賞金稼ぎが小競り合いを始めているとは聞いていたものの、“魔弾”や英児のようなビッグネームが出張って、市街戦のような戦いをくり広げているとは思いもしなかった。

「目の前の移動島に気を取られすぎたか。不味い事になるなこれは。」

 機動鎧が散り散りにされたという事は、つまる所近衛騎士団も機動鎧を持ち出したという事になる。 そんな状況だと、何時までも上空に“ジェノサイド・ホエール”が居ると言う状況を、近衛騎士団は許してくれないだろう。攻撃されるとまでは言わないが、退去は確実だろう。

 さて、どうしたものか・・・。と、思った所で、シャムリースは考えるのをやめた。海賊ならどーんと行け。両親共に海賊であるシャムシールが、幼い頃より口をすっぱくして教えられてきたことである。

「こうなったらスピード勝負だ。速度、進路そのまま! このまま海に向けて進みつつ、機動鎧が首を回収して戻ってきたのと同時に潜行! 全速でアクア・ルートの領地を出て、他の港で賞金首を換金する!」

『イエス・サー!』

 てんでバラバラに叫びまくっていた手下たちの声が、シャムリースの指示を受けて一瞬でそろう。まとまりが無さそうに見えつつも、そこは船乗りだ。

「しっかし厄介な事になったのだー。なーんだって滅多にうごかねーような近衛まででしゃばってるのだ〜? 陸の連中はしゃぎすぎてんじゃねーのだ?」

 不機嫌そうにブーたれた顔をしながら毒付くミリー。その様子に、シャムリースは何時もの無表情に戻った顔を向けた。

「かもしれません。」

「ただでさえ“魔弾”やら“二十日鼠”が居るのだ? 邪魔されねーわけねーのだ。ダーリンがいくら凄腕でも連中にはてこずる筈なのだ。首尾良く首をゲットしたとして、問題は・・・。」

 むーっ。と、難しそうに唸り、眉をひそめるミリー。因みに、ダーリンと言うのは、誰あろうライエル・ザ・“ホークアイ”のことである。見た目こそミリーが年下の年の差カップルでは有るが、実年齢的にはどっこいどっこいだったりするのだった。

「近衛騎士団の動きが気になるのだ。軍警察やらなんやらはどうでもいいから、近衛騎士団の現在地だけ、アクア・ルートの地図に乗っけて。すぐ出すのだ。」

 ミリーの指示に、オペレーターの一人がすぐさま「ういっす。」と返事をする。

「細かくやる必要は無いのだ。大まかな分布だけでいいから急ぐのだ〜。」

「分かってます。画像重ねるだけなんで。 っと、出来ましたーん。」

 ぽちっとな。と言う言葉と同時に、ミリーの目の前に画面が展開された。ご所望通りの、アクア・ルートの立体地図に、蒼い点で近衛騎士の居場所を示した図である。

 その図を見たとたん、ミリーは「こりゃまじーのだぁ〜・・・。」と、苦虫を噛み潰したような顔になった。 すぐ横に居たシャムリースも、図を覗き込み、声だけで呻いた。

「近衛騎士団の連中、街の外側から中央に追い込むように動いているようですね。 今くびが居る辺りは、ちょうど台風の目のようです。」

「洒落にならねーのだ〜! 邪魔されるのは確実だわ、首ゲットして逃げ帰っても周りは近衛騎士と軍警察の群れなのだぁぁぁ!!!」

 ミリーの前の図では、弓形の海岸沿いに細長い形に広がるアクア・ルートの外側から、まるでじわじわと真綿で締め付けるように中央に向かって侵食して行く青い点が表示されいた。 完全包囲の体勢を作ってから、踏み潰すように蹂躙して行く。レニス王国王立近衛騎士団の、得意な戦術の一つである。

「多少無理してでも反転して、ダーリンを・・・あー! でも移動島がじゃまなのだー!!」

「っと、移動島から手紙が来ました!」

「見せるのだー!!」

 もはや金切り声のような声を上げるミリー。 ミリーが叫んだり暴れたりするのは何時もの事なので、特に動揺する様子もなく手下は迅速にミリーの前に画像を展開させた。

 現れた文章は、実に丁寧な書体の文章だった。どうやら手書きらしく、実に丁寧で温もりのある文字が並ぶ。

「つーか、達筆すぎてよめねーのだぁぁぁ!! あれなのだ?! 武士道?! サムライなのだぁ?! こう言うのはブロック体のワープロ文字で送るのが親切ってもんなのだ!! シャムリース! 翻訳!」

「は。」

 画面をしばらく眺め、シャムシールは口を開いた。こう言う文章をそのまま読んで伝えても、ミリーが混乱するだけと心得ているため、一度読んで噛み砕いてから内容を説明するためである。

「要するに、“てめーらが首とグルだって垂れ込みあったから、大人しく全員一回集まれや。どうせガセだろうから、すぐ済ませてやっからよ。”と言うことらしいです。」

「ジョーだんじゃねぇぇぇっつーのだぁぁぁ!!」

 最近の切れ易い若者宜しく、ガトリング砲を乱射するミリー。無論、空砲では有るが。

「そんなことしてる間に賞金首掻っ攫われるのだぁぁぁ!!!」

「向こうとしては大事にせず街の上から出してやろうという善意なのでしょうね。」

「ふざけるんじゃねーのだ! こちとら明日のおまんまにも困る有様なのだ?! 目の前の金つかまねー訳にはいかねーのだ!」

 そう言って乱暴に立ち上がると、ミリーは目の前の手摺を、ガトリング砲に改造した腕で殴りつけ、手下たちの注目を集めた。

「聞ーての通りなのだぁぁ! 近衛騎士団がなんか言ってきてるけど、聞いてたら飯にありつけねーのだ! 全力で無視して、実力行使に出られる前にケツ巻くって逃げ出すのだ! 一回逃げ出しちまえばこっちのもんなのだ! てめーら!! 今日は豪華にバーベキューと行くとするのだぁぁぁ!!」

『いえぇぇぇ!!!』

 異様な熱気に包まれるミリーと部下たちを見渡し、溜息を付くシャムシール。 そう簡単には行かないだろうな。とは予想しつつも。これがミリーのやり方である事を良く心得ている副官は、この後、いかにミリーの気に入る形で事を終らせられるかについて、考え始めるのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(36)

 都会と呼ばれるような環境からかけ離れた、所謂テレビも上下水道も魔力線も無い様な、所謂ファンタジーの典型のような田舎町から出てきたアッシュ少年にとって、今現在自分が置かれた状況は、恐怖そのものだった。

 何ゆえか追いかけてくる、武装した人々。彼等が口にしていた言葉から察するに、何故か自分には賞金がかけられているらしいのだ。しかも、目の玉が飛び出るほど高額の賞金であるらしい。

 無論、賞金をかけられるような事をした覚えは微塵も無い。一瞬、悪魔族が嫌われているからかとも思ったが、逃げている最中、自分と同じ悪魔族がコインランドリーで全裸に成って洗濯が終るのを待っているのを見かけたので、そう言うわけでも無さそうだと分かった。と言うか何故彼は全裸だったのだろう。やはり着る物を全て洗ったのだろうか。

 兎も角、理由はトモアレ、追われているからには捕まる訳には行かなかった。なにせ、追って来る人々と来たら、全員が全員恐ろしそうな得物やら武装やらをしているのだ。中には機動鎧などと言う、あからさまな戦争兵器まで持ち出す人まで居る始末である。

 最初こそ適当に捕まったほうが逆に安全なのではないか? きっと賞金をかけられたのだって何かの間違えなのだし、誤解を解くにしてもその方が良いのではないか。 などとも思ったものだったが、真っ赤な鎧を着た気合い気合いと連呼している人が現れた辺りから、完全に気が変わった。生かして捕まえてもらえそうに無い。と、判断したためである。

 何よりアッシュを恐怖に陥れたのは、自分を追って来る面子の豪華さであった。 “魔弾の”ジェーン。“要塞落としの”ガルシャラ・カーマイン。“二十日鼠”。よく見ればあの赤い鎧も、新田 英児。名うての傭兵ではないか。

 アクア・ルートに来るまでの道すがら、噂に聞いた冒険者や戦争屋、傭兵達である。アッシュが野球少年ならば、彼等はメジャーリーガー。三段も四段も格が違う相手である。 そんな人々を相手にアッシュが逃げ切れてきたのは、彼等が互いに戦ってくれているお陰であった。

 アッシュを追ってきた人々はことごとく、自分の仲間以外の人と争い、互いの足を引っ張り合いをし始めた。 アッシュはその隙にコレ幸いと逃げ出してきたのだ。が、今回はそうもいかないようだった。

 今アッシュが居るのは、道路沿いの通話ボックスのなかだった。透明なガラス系素材で出来た縦長の人一人入るのがやっとの個室に閉じこもり・・・周囲を途轍もない数の人形に囲まれていた。

 ジェーンと英児の戦いに、“二十日鼠”が横槍を入れたとこらへんのことである。 「このまま無防備でいたら確実に巻き添えで吹き飛ばされる」と本能的に感じたアッシュは、とりあえず人並みに使えた障壁魔法を近くの通話ボックスに施し、中に閉じこもったのである。 種族的に尋常よりも魔力の高いアッシュの張った障壁である。その尋常じゃない防御力のお陰でなんとかとばっちりを食わずに済んだものの・・・。今ではそのせいで、外に出るに出られない状況に陥ってしまった。といった所な訳だ。

「せ、選択ミスでした・・・! せめて逃げ込んだ先が車なら、移動できたんですが・・・!」

 実際にはアッシュは車の運転など出来ないから、何に逃げ込んでも一緒なのだが。黒尽くめの集団に囲まれてバチバチ叩かれている今の心理状態では、そこまで頭が回らないようである。

「とにかく、今下手に外に出たら命が危ないですよね・・・。じっとしていた方が良さそうです・・・。」

 半泣きでボックスの中央に体育座りするアッシュ。 壁に寄ると人形が沢山で怖いのだ。

 と。座り込んでいたアッシュの耳に、甲高い金属音のような音が入ってきた。アッシュの表情が、一気にこわばった。この手の音を出すのは、飛行物体。それも・・・空戦に対応した飛行できる機動鎧と相場が決まっているのだ。

 慌てて顔を上げたアッシュの目に飛び込んできたのは、予想通り、機動鎧だった。

「刀状の翼の鳥獣型鎧に・・・眼帯髑髏・・・? “七海殺戮海賊団”の“刀翼”?! ってことは、ライエル・ザ・“ホークアイ”?!」

 頭を抱えて悲鳴のような声を上げるアッシュ。悲鳴のような、と言うか、寧ろ悲鳴といって良いだろう絶叫である。

 ライエル・ザ・“ホークアイ”と、“刀翼”。この二つの言葉は、語り草になるほど有名な名である。

 元々ある小国の騎士であったライエルは、先の大戦で一騎当千の戦果を上げたにも拘らず、終結後、地位を捨て、一人の女性と駆け落ちをしたのである。その女性とは、勿論“七海殺戮海賊団”団長“ガトリング”ミリーその人である。

 レニス王国のような超大国であるならば兎も角、普通の国にとって、一騎当千とも成りえる兵は貴重も貴重。国防の要とも言える。通常ではありえない戦力であり、無ければ戦が成り立たないと行っても良い人外魔境の兵は、例え一人でも惜しいものである。 当然その国は何とかしてライエルを手元に戻そうと、あの手この手。最終的には、武力までも投入した。 ライエルを欲したのは、その小国だけではない。他の国々も、“機動鎧”と言う戦争の花形を、まるで天使か悪魔の如く使いこなすライエルを、様々な手で手に入れようとした。

 しかし、ライエルは己の判断力と、たった一機の機動鎧だけでそれら全てを払いのけたのである。今ではどの国も、ライエルに手を出そうとは考えないほどだ。

 その、“たった一機の機動鎧”こそ、鷹型機動鎧“刀翼(touyoku)”なのだ。 兎人の使う、刀と同じ技術で作り上げられた刃の翼に、装甲全てに張り巡らされた飛行魔術式。常人では、例え人工精霊によるサポートがあったとしても制御の難しい“空中高速格闘戦”と言うコンセプトの機体。それをライエルは自分の腕だけで完璧に制御し、通常の人型機動鎧では付いてこれないほどの高速で運用するのだ。

 “七海殺戮海賊団”が今日も捕まらず悠々と空を渡っているのは、ライエルが居たからだ。 本当ならば厄介者とされるような、国からマークされている側の人間であるはずの男を刺して、そう言わしめる。 ライエル・ザ・“ホークアイ”。それが、“ホークアイ(鷹の目)”の二つ名を持つ彼の実力だった。

「ま、まさか・・・。海賊の人まで、ボクを捕まえようとしてるなんてことは・・・。」

 半泣き半笑い顔で、口元を引きつらせるアッシュ。が、この淡い期待は、一瞬で裏切られた。

 ビルの間を縫うように飛行し、英児やジェーンが戦闘している場所を避けるように接近してくる“刀翼”。魔法で浮いているため、さほど派手な飛行音はせず、小さな金属音がするだけでは合ったが、流石に全長6メートルを越える巨大な鳥の出現に、戦闘の手も止まった様子であった。

「あ! 居た居た。君が賞金首さんだよね?!」

 “刀翼”から、声が響いてきた。アッシュは直接あった事も、声を聞いた事も無かったが、恐らくこの声の主こそ、ライエルだろう。

「ぼくの名前は、ライエル。いまぼくのウチ、お金なくて大変なんだ。だから、君を捕まえてお金稼がなくちゃいけないんだって、シャムリース君が言ってたんだ!」

 まるで子供のような無邪気な口調である。が、声を発しているのが“刀翼”であるが故に、逆に恐怖を煽り立てた。

「だから、これから君を捕まえるねっ!」

 なぜか少し照れたようなその声を聞き、アッシュは全身後が滝のように落下していく錯覚に陥った。 こんな事を言われて、他の人たちが黙っている訳が無い。 きっと、そう。

「れ、レッツパーティー・・・?」

 我知らずそんな単語を呟き、ああ。もうなんか。ある意味パーティーに成るんだろうなー。と、軽い絶望と共に思うアッシュであった。

近衛騎士団 一番隊〜三番隊隊長の方々とか。

 一番隊 隊長 “イフリート・ザ・ダークナイト”ミレイ・クロセッカ

 全員が黒い魔道強化鎧を着用し、機動鎧や戦闘艦、移動島などを保有。拠点制圧、対象殲滅などの直接戦闘に特化した隊。

 秩序だった行動を好む隊長に指揮された隊だけあって、作戦行動中の統率や行動の迅速さでは、団長も全幅の信頼を寄せている。その為か、敵対対象が小国である場合、この隊だけに出動命令が下る事もある。

 小細工も、戦術も、戦略も、作戦も無く。ただただ力を持って真正面から殴りつけ、全てを粉砕し踏みつけて直進する。レニス王国近衛騎士団を代表するような隊である。

 隊長であるミレイ・クロセッカは武門の名家、クロセッカ家の出であるためか、やたらと“騎士道”にうるさい。 ハウザーやレニス王など、基本的に常識とかどうでも良くなっちゃってる連中にとうとうと説教を垂れたり、アルベルトやマービットの悪巧みに真っ先に巻き込まれたりするのが趣味(嘘)。

 真面目真面目の真面目一辺倒なその性格ゆえか、他の隊長連中にからかわれる事もしばしば。もっとも、本人はからかわれているとも思っていないようだが。

 

 二番隊 隊長 神津 雅平

 複数の移動島や戦闘艦を保有する、艦艇戦のスペシャリスト集団。

 レニス王国が誇る魔道技術の粋を集めた圧倒的火力と、保有する人工衛星を介した移動召喚陣を使用した機動力を使っての、他隊の移送や大型戦闘を得意としている。

 旧大戦中、たった一隻の戦闘駆逐艦で、敵国の戦艦20隻を撃墜した名将、神津が指揮するこの隊は、個々の戦闘力こそ低いものの、情報戦、整備、観戦操舵などを特使とするモノが多い。ナカにはたった一人で移動島を操る猛者まで居る。

 最高の戦力を、最高の人員で運用する。人員数こそ少ないものの、この隊の戦力は小国のそれに匹敵する。この二番隊と一番隊が合同で作戦を行う事は殆ど無く、あるとすれば、それは敵対国完全鎮圧する事が目的といったような、国家間戦争に限られることだろう。

 隊長である神津は、元々は一歩兵であったが、戦場での功績により出世。当人は戦場を駆け回る歩兵に戻りたいと思ってはいるものの、如何せんその才能が邪魔をして艦隊指揮などの役回りを押し付けられる事となった。

 お堅い喋り方にきちんとした立ち居振る舞いから、とっつきにくそうに見えるが、元々は名も無き一兵卒。部下たちの受けもよく、細かな所に気を使う性格であるためか、隊員達からは“親方様”と呼ばれ親しまれている。

 兎人である神津だが、何故か女性隊員から“シブカワイイ”と大人気。時々ニンジンをプレゼントされるのだが、嫌な顔ひとつせず受け取ったりする好人物である。

 

 三番隊 隊長 “黒竜”ドレイコ・スカルホッパー

 隊員全員が機動鎧乗りであり、単独での諜報、強襲、他の隊への協力などを担当する、いわば傭兵部隊。

 隊員の殆どが元冒険者や元傭兵であり、その実力を買われてドレイコに引き抜かれたモノが殆ど。その為か統率、軍規、服務規定などと言った言葉とは全く無縁な集団である。

 かと言って、集団として機能していないかと言えば、話は別である。彼等はまるで隊がひとつの“ギルド”であるとでも言うように行動し、事が起こればまるで傭兵のように淡々と任務をこなすのだ。

 個々の能力は群を抜くモノの、規律だった騎士である事を嫌う。そんな連中に、隊長であるドレイコが上手く仕事を分配していく。 実力がモノを言う。そんなスタンスである近衛騎士団の、代表例とも言うべき隊である。

 隊長であるドレイコは、騎士団の隊長とは思えぬほど軽く、のらりくらりとした男である。 始末書、報告書などの書類仕事を嫌い、隊長の執務室に居る事を嫌い、形式ばった挨拶を嫌い、酒とタバコ好む。 ぱっと見、ただの不良中年にしか見えないが、元は他国の将軍であり、その実力は疑うべくも無い。

 とは言うものの、三番隊の詰め所をバーに改造して、部下の一人に運営を任せている当たり、ただの道楽男と言われても、仕方が無いのかもしれない。