博士の風変わりな研究と飯のタネ(35)

「気合い気合い気合い気合い気合い気合いぃぃぃ!!!」

 まるで癇癪を起こしたかのように叫びながら、英児は剣を振るっていた。 剣による直接攻撃ではなく“剣風”で戦うという英児のスタイルは、一見デタラメでは有るもののリーチと破壊力と言う二つの観点からだけ見れば、実に有効なモノであった。

 なにせ、時速60キロの車に引かれてもびくともしないと言う防護スーツを纏った人形を、十数メートル吹き飛ばした挙句、いとも容易く両断、爆砕させているのだから。

「あぁぁ!! チクショウがぁ! なんなんだこの数は!! さっきより増えてやがるぞオイ!!」

 英児は苛立たしそうに舌打ちすると、剣を肩に担ぎ、とんとんと叩いた。実際肩に刺激が伝わる事は無いのだが、気分の問題である。

「増えてもらわなくちゃ困るのよ。“鼠”って言うくらいなんですからね!」

 突然背後から聞えて来た声に、咄嗟に振り向こうとする英児。しかし、振り向こうとするその動作に入る前に、突然視界が真横にスライドした。地面に突っ込むように前転し、急ブレーキをかける様に両手両足で地面を削り止った時には、先ほど待て自分が居た位置には、無数の炎で出来た数メートルはあろうかと言う杭が打ち込まれている。自分でも無意識の、脊髄反射的な野生の感だ。

「は! 人形に隠れてビビッテたんじゃねーのか?!」

 相手も確認せずにそう言いながら、英児は立ち上がると振り向きざま剣を振りぬいた。背中で感じた相手の位置は違わず、放った剣風はまるで実物の鉄槐でも有るかのような破壊力と轟音を響かせ着弾した。

「そうも行かないのよ! 私達だって賞金首、追ってるんですからね!」

 英児の剣風を受けながら、相手。シュナは、平然と立っていた。着弾の寸前、自らと剣風の間で爆炎を作り出し、リフレクトアーマーを使ったかのように破壊力を相殺したのだ。

「おお! あぶねぇそうだった! 賞金首だ!! テメーと遊んでる場合じゃねーんだよ!賞金首とらにゃ飯がくえねぇーんだゴラ!!」

 言いながら、英児は剣を地面と平行に構え、全身のバネを使って突き出した。言わずもなが、これからも放たれた剣風は、圧縮空気砲のように一点に集中した破壊力を持ってシュナに襲い掛かる。

「アンタ今忘れてたでしょ?! 賞金首追ってること! 忘れるくらいなら諦めて引っ込んでなさいよ!!」

 英児の剣風を横方向へのダッシュでかわし、シュナは手の持った巨大な杖に魔力と呪文を込め始めた。 この杖は、いわば出力機であった。シュナ自身の魔力を“エネルギー”にして、“呪文”と言うプログラム通りの現象を起こすのだ。 シュナの杖には、あらかじめ実戦向けの呪文がいくつか仕込まれている。故に、実際に口にする呪文は用意してある数種類の呪文の起動と、追加の命令式だけなのだった。 軍事用に使われる杖にもこのような形式のものは幾つもあるのだったが、シュナの使う杖は、その数倍も大きく、その大きさに比例して用意してる呪文の数も多い。コレだけのものを使いこなすには、相当の訓練とセンスを要求される。

 走りながら呪文を組み上げ、呪文を放つシュナ。 繰り出したのは、直径10cm弱の、数十にも及ぶ追跡火球。

「今思い出したから良いんだよ!!」

 言いながら、千度をに迫る火球の群れに一直線に飛び込む英児。 普通ならば接触した瞬間水蒸気爆発を起こしそうな高温の火球が、英児に向かって殺到する。 全身が炎に飲まれ、燃え尽きたようにも見えた瞬間。

「気合い!!!」

 言葉通り。英児は全身から物理現象にまで昇華した気合いを放ち、一瞬で炎を吹き飛ばしてしまった。

 英児の常識を無視した“感情”、“気合い”をエネルギーとする“アーマー・オブ・ディープレッド”の装甲は、その根源ともなるエネルギー量の絶大さを下地にして、並や普通の“重装甲型機動鎧”以上の対魔法力を誇っている。その鉄壁とも呼べる鎧の前には、一個人が咄嗟に放つ魔法など、そよ風のようなものなのだ。

「んなっ・・・! んつう装甲してんのよアンタ! そんなテレビの子供向け番組みたいなカッコしてる癖に!!」

「はっ! 羨ましいかゴラ!」

「そんな訳無いでしょ、バーカ!!」

 低レベルな口喧嘩をしながらも、シュナは既に次の呪文を構築し始めていた。 どんな壁も、絶対ではない。“アーマー・オブ・ディープレッド”の防御力の要は、英児の感情である。“アーマー・オブ・ディープレッド”の対魔道装甲は、機動鎧などと同じく、感情の高ぶりを喰らい魔力に変える人工精霊を宿す事で成形されていた。故に、魔力を浪費させ、感情を喰らい尽くさせれば、ほころびが出るのだ。 つまり、さっきのように魔法を連発し続けていれば、装甲は何れ用を成さなくなるというわけだ。 感情を喰わせ魔力を発生させる技術で作られた魔力は、実に濃厚で力強い。反面、“感情を喰わせる”と言うその性格上、“感情が枯渇”して魔力を製造出来なくなるのも早い。故に、シュナレベルの使い手で有れば、多少時間さえ掛けてしまえば、感情が枯渇するほど魔力を使わせてしまうことも可能なのだ。

 しかし。自分の装甲と同じタイプのものに対する適切な対応を見せるシュナに対し、英児は余裕の笑みを浮かべていた。

「おいおいおいおい。 “アーマー・オブ・ディープレッド”をただの戦闘服だと思うなよ?」

 意味ありげに言うと、英児は腕に付けられたパーツを口元に引き寄せ、大きく息を吸った。

「来い!! 大地の咆哮!! ヒートレッド!!!」

 言うや否や、英児の真後ろの空間に、半径2mはあろうかと言う光の魔法陣が現れた。見るモノが見ればすぐにそれとわかる、召喚魔法陣だ。 平面であるその魔法陣の中央から、火花を散らして現れたのは、二mはあろうかと言う、巨大な鋼鉄の獅子だった。 赤と黄金のメタルカラーを施されたそれは、英児の“アーマー・オブ・ディープレッド”と同系列のデザインであった。

 鋼鉄の獅子“ヒートレッド”は、英児の隣に降り立つと、まるで生あるモノのように身震いをし、空に向かって大きく一声鳴いた。機械的な外見に似合わぬ雄雄しいその咆哮は、近くの建物のガラス窓を振るわせるほどだ。

「それがなんだって言うのよ! 今更ゴーレムの一体や二体!!」

 呆れ半分怒り半分で叫ぶシュナだったが、言葉を向けられた当の英児は以前余裕の口ぶりだった。

「ヒートレッドがただの戦闘用ゴーレムだと思うなよ? これからたっぷりコイツの恐ろしさ、味合わせてやるぜぇ!!」

 英児は見得を切る用に大仰な仕草で剣を構えると、無駄に大きいその声を響かせた。

 因みにこのとき、すでに英児の頭からは賞金首の事は綺麗さっぱり忘れ去られていた。戦闘になると、目的も空腹も全て忘れて感情を高ぶらせられる。 それが、英児の傭兵としての強さの源であり・・・弱点でもあった。 この数分後。英児はこの忘却性を激しく公開する事に成るのだった。