博士の風変わりな研究と飯のタネ(33)

 観光都市としての側面も持つアクア・ルートには、昼の早い時間でも開いているバーなどが多数点在していた。 その中の一つに、数名の賞金稼ぎがたむろしていた。

「冗談じゃねーぞまったく・・・。なんだって“魔弾”に“二十日鼠”なんてビッグネームがそろってんだよ・・・。」

「それだけじゃなかったぞー。“城落し”に“白炎狼”も居たー。」

「マッジかよっ! 激最悪じゃん本気マジでっ!」

「だからこの街やなんだよ・・・冒険者やら賞金稼ぎなら武器持ち込み自由な変わりに、転がってる仕事がでか過ぎて洒落にならんのばっかり集まるんだ・・・。」

 それぞれ思い思いに愚痴りながら、酒を煽る賞金稼ぎたち。

 彼等の一人が言ったように、この“アクア・ルート”と言う街は、冒険者や賞金稼ぎ、傭兵であれば、どんな武器の携帯も許可されている街であった。 使用についても、一般市民に被害を及ぼさない範疇での使用なら許可されており、冒険者同士の喧嘩や賞金首狩りなどは、基本的には見て見ぬ振りをされていた。

 ならば、有象無象、実力があるモノも無いモノも。山のように集まりそうなものだが・・・実際は違った。 世界でも有数の都市であり、交通の要であり、経済、物流の拠点であるこの街には、“ずば抜けた凄腕”も集まってくる。そう言った連中を目当てにした、無茶苦茶で不可能にも思えるものの、依頼料が目が飛び出るほどの額に成る依頼も集まってくるのである。 自然、そんな依頼を受け、達成できる人間以外は、他のクイブチを求め他の街に流れていく。 うっかり自分より実力のある相手に喧嘩を吹っかけ、ボコボコにされて海に放り出されるというケースもあるが。

 兎も角。大都市で有ればあるほど、“荒事”を生業にするものにとっては、ハイリスクハイリターンな仕事が集まり易い。 故に、そんな場所をねぐらに出来る冒険者や傭兵、賞金稼ぎと言うのは、“ずば抜けが凄腕”。と、言う事に成っていく訳である。

「お前どうするよーこれから。あの額のために死にたくねーよ俺。」

「だーいじょぶだって。骨なら拾ってやるから、行って来い。」

「テメー人事だと思って適当な事ふいてんじゃねーぞ! 実際近衛騎士団とか出張ってんだから洒落になんねーよ! 生身で火葬とかされるぞ!」

「俺は“マーズ”にでも行ってみるつもりだけど。あそこ、こないだどっかとどっかの同盟崩れて、イザコザ多いらしいから。 多分、首逃げ込んでると思うんだよね〜。」

 “マーズ”とは。アクア・ルートと、レニス王国の首都があるこの星、“テラ”の隣に位置する星である。早くからテラフォーミングは施され、今では“第二のテラ”と呼ばれる水、大地、緑、空気豊かな星になっていた。

「ああ。治安悪化すると、警備甘くなるからなぁ。首逃げ込むんだよねー。良く・・・。俺も行ってみるか。」

「俺もそうしよー。」

「お。居た居た。 いやぁ〜よかった。探しちゃったよ〜。」

 唐突に。ボチボチと今後の方向性を決めていた賞金稼ぎたちに、男が話しかけてきた。 天然パーマっぽい青髪に、とろんとしたタレ目。派手な赤いアロハシャツに、ジーンズ地のハーフパンツにスリッパと言う、なんとも浮かれた格好をした男だった。種族が人間ならば、二十代終わりか三十代頭の、若く見えるタイプ。と言った年恰好である。

「ああ? なによオッサン。なんかよう?」

「おいおい。オッサンはないだろうー。俺まだそんな歳喰って見えないだろぉ? 34よ俺〜。」

「そんなことどうでも良いんだよ! 要件言え、要件!」

「ああー、そうそう! 危ない危ない忘れる所だった。 君等、ココに来る時うっかり建物引っ掛けただろ? 器物破損だよ。ちっと事情聴取だけするから、一緒に来てくれない?」

 男の言葉に、賞金稼ぎたちの表情がキョトンとしたものに成る。

「なに。おっさん。軍警? 軍警察?」

「ま、そんなとこ。 お役人さんだぁ〜ね。」

「おいおいおい。勘弁してよマジで。壊したっつっても流れ弾避けるためにでしょー。大目に見てよ〜。」

「分かってるってー。だから逮捕とかしないからさ〜。事情聴取で帰して上げるからさ〜。ね? ちょっとだけっ!」

「なんだよその人差し指と中指で作った隙間覗き込むフッルイ“ちょっとだけっ”のジェスチャー! つかマジでヤダっての! 下手したら罰金とかじゃんか!」

「ないない! ホント事情聴取するだけだって! 抵抗とかしなきゃ、御互いハッピーに仕事終るからさ! ね?!」

「そう言って免許とか剥奪された奴知ってるもんよー!」

「そんなえげつない事しないってば! 書類作るのメンドクサイだよ?! そう言うの!」

「書類作るのめんどくさがるような奴の言う事信用できるかー!」

「大丈夫だって〜。どうせ現場俺しか見てないからさ〜。幾らでも事小さく出来るし! つっても、俺もなんかやってた事にしないとアレでしょ?! この騒ぎで仕事してなかったのばれたらやばい訳よ! 人助けだと思ってさ、サクっと連行されてよ!ね!」

「しつこいなアンタも!! って・・・現場見たのあんただけなの?」

「そうだよ。」

「証拠写真とか、映像とかは?」

「ナイナイ。」

 男の言葉に、賞金稼ぎの一人がニヤリと笑った。

「じゃあ、アンタに寝ててもらってその間に国外に出ちまえばOKって訳だ?」

「まぁ、そうだけど。現行犯じゃなきゃこう言うの意味ない訳だし。」

「そりゃいいや。じゃあ、寝ててくれやおっさん。」

 言うが早いか。賞金稼ぎは戦闘用義手、拳部分を超振動させ、対象物に大ダメージを与えると言う凶器を起動させ、男に向かって振りぬいた。 予備動作の全く無い、唐突に腕が別の生き物のように動き相手に襲い掛かるこの手の技は、プロの暗殺者も用いる高等技術の一つである。

 が。 吹き飛んだのは賞金稼ぎのほうだった。

 腕が動き、男の身体に触れようとしたまさにその時だった。 男の右手が掻き消え、次の瞬間、まるでコマ落しの様に賞金稼ぎが天上に頭から激突。 木製だった天上に頭を突っ込んだまま、プラーン、と、首吊り状態で垂れ下がる事に成ったのである。

「う、うは・・・。ギャグ漫画とかでこう言うの見たこと有るよ俺・・・。」

「嘘だろおい・・・。アイツ義肢の入れすぎで体重400キロオーバーなんだぞ・・・。」

 若干引き気味ながら、叫んだりしないで冷静に成っているあたり、流石は賞金稼ぎと言った所か。

「おじ・・・いやいや。 おにいさん、なにもの?」

「ん? 俺? ああ、いてなかったっけ? レニス王国近衛騎士団、三番隊隊長。“ドレイコ・スカルホッパー”。」

 男の名前を聞いた瞬間、賞金稼ぎたちの顔色が一瞬にしてヤバイ青に変わった。

「スカルホッパーって・・・前の大戦中に、“黒龍”スカルホッパー?!」

「懐かしい呼び名知ってるなぁ〜。 って、そんなことどうでも良いんだって。このぶら下がってる奴のお陰で始末書書かなくっちゃならなくなったよまったく。 ねぇ。ホント頼むからさぁ。君等は大人しく付いてきてくれない? 絶対悪い様にはしないから!ねっ!」

 苦笑いしながら両手を合わせるスカルホッパーに、賞金首たちは顔を見合わせ、答えた。

『大人しく付いていくから、ぶたないでくださーい。』