博士の風変わりな研究と飯のタネ(32)

 世界有数の交易都市であり、観光都市であり、富と名声が集中し、人と金とが交錯するこの街。アクアルートは今。大変な混乱状態にあった。

 なぜか巨額の賞金が掛けられたたった一人の悪魔族の少年をめぐり、多数の賞金稼ぎが激突。あまつさえ、海賊やら軍警察まで動き出し、にっちもさっちも立ち行かない、まさにカオスな状態に陥っていたりする訳である。

 そんな最中、嬉々として治安活動にせいを出す集団が居た。非番、もしくは休暇中であるにも拘らず、レニス王国国有装備であるはずの重火器、機動鎧、大型魔法陣まで引っ張り出し暴れまわるその様は、後に“大乱闘! 近衛騎士団” と言う謎のフリーゲームまで製作される事になるほどであった。

「くっそ・・・! なんなんだよこいつ等!!」

「無駄口叩くなら撃ってくれるとマジ助かるんですけどー!!」

 大声を張り上げながら、二人組みの冒険者が細い路地を走り抜けていく。態々大きな声を出しているのは、そうしないと相手に聞えないからだ。 なにせ、走りながら大火力の魔法を連発しているのだから。

 腕に、魔力を込めるだけで指定の魔法を発動してくれると言う便利アイテムを装着したこの二人組みは、今必死になって逃げ回っている最中なのだ。

「なんなんだよ!!」

 後手に、“レイ”と呼ばれる収束エネルギー砲を連発していた一人が、チラリと後ろを振り返った。そこにいたのは、真っ黒な重鎧に、これまた真っ黒なマントを羽織った集団だった。恐らく鎧は強化服なのだろう。信じられないような軽やかさで迫ってくるその集団は、マシンガンのように連発しているレイを真正面から受けつつも、全く動じる様子もダメージを受けている様子も無く追いすがってきていた。 厚さ三センチの鉄板も貫くレイを受け微動だにし無いとなると、コレはもう逃げるしかないわけである。

「撃っても撃っても当たらないからこんな路地に来たってーのによぉ! これじゃぁ追い込まれてるだけじゃん!! なんなんだよマジあいつ等!」

「レニス王国の近衛騎士団の一番隊だよ! あいつ等たち悪いらしいからな!!捕まったら、っつか、追いつかれたら殺されるかも知れんぞ!!」

「冗談じゃねーぞマジでー! 死にタクねーっつのー!!」

 半べそで泣き叫びながら、二人組みの片方が高速で指先を空中に躍らせながら、シュー、と言う低い音を口から発し始めた。 指先が描き出すのは、通常の二次元魔方陣、縦横に、奥行きと言う第三要素を加えた“三次元魔方陣”と呼ばれるもの。低い音は、数千文字から連なる呪文を圧縮して発音する“圧縮呪文”であった。どちらも並の術者なら、相当の集中と時間を要する芸当である。とても二つを同時に、しかも走りながら製作するなど出来ないだろう。このことから、この二人の力量が窺えた。

「おいおいおい! そんなもんどうするんだよ!」

「捕まるよかまし! 吹っ飛べ近衛騎士団!!」

 ドリフトのように靴底を地面で削りながら振り返ると、躊躇なく魔法を放った。 術式の名は“対機動鎧貫通レイ”複雑な過程を経て放たれる、大抵の防御魔法を無効化する、大口径のレイである。因みに彼が放ったこのレイの太さは、半径一メートルは優に越えていた。

 細い路地が一杯になるほどの極太のレイが、黒い鎧を来た近衛騎士達を直撃した。元々破壊力を有した光である。発射口が敵に向かった瞬間に打ち出せれば、避けられる道理などないのだ。

 突然の高熱により膨張した空気が、爆風となって路地を突き抜けた。閉鎖空間で爆風が吹いたのだから、銃の砲身の中にあるようなものである。二人組みの冒険者は元々そのつもりだったたのか、発射と同時にバリアーを発動させ、全くの無傷でその場にうずくまっていた。

「必中ー!!」

「コレは効いたでしょうがよー!」

 爆風が収まったのを確認し、バリアーを解いてガッツポーズを取る二人組み。だが、爆風で舞い上がったちりが晴れるうち、その表情が見る見る青くなっていった。

 そこには、一番見たくない光景があったのだ。

 先頭に立つ一人の騎士が手にひらを此方に向け、悠然とマントをたなびかせている姿と・・・その背後に並ぶ、2丁の大型自動拳銃を構えた騎士の姿。

「冗だ」

 んにしても笑えネェー・・・。 そう続けようとしたが、不可能だった。 騎士達が構えた銃が一斉に火を噴き、弾丸が冒険者の身体に容赦なく叩き込まれる。

「いっぎゃー!! いってー!!」

「イタイイタイイタイイタイ!!」

 のた打ち回る冒険者二人組み。しかし、一向に身体に穴が開く様子は無かった。それもそのはず。騎士達が撃っているのは、弾丸は弾丸でも、非致死性のゴム弾なのだ。とは言っても、大口径のゴム弾である。直撃すれば相撲取りも三十センチは動く威力がある。

「打ち方やめ。」

 一番先頭に居た騎士が片手を挙げ、銃撃を終らせる。 足早に転がっている二人組みに近づいていくと、越から引き抜いた日本の大型ナイフを逆手に持ち、それぞれの顔の横に付きたてた。

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

「まったまったまった! もう抵抗しないからマジで!!」

 ビビって命乞いを始める二人を一瞥すると、騎士は兜に手を添えた。 ロックが外れる音と、シュー・・・、と言う空気が漏れ出す音と共に、兜が外された。中から現れたのは、腰に届きそうなほどの赤髪をポニーテールに束ねた、女性の顔だった。

 年のころは二十代半ばだろうか。意志の強そうな目に、一文字に結ばれた唇。まるで絹のように白い肌は、その髪の色と相まって、実に栄えていた。 彼女の名は、“ミレイ・クロセッカ”。レニス王国近衛騎士団 一番隊隊長であり、“イフリート・ザ・ダークナイト”と呼ばれる女傑である。

「街の中での兵器の携帯は、冒険者である君たちには許可されている。しかし、その運用となれば話は別だ。しばらく牢屋ででも頭を冷やすのだな。」

 冷たく言い放たれたその言葉に、転がっていた二人組み冒険者はしばしぽかーんとすると、顔を見合わせ頷きあった。

「おねーさん、お茶しない?」

「俺等面白いよー?」