博士の風変わりな研究と飯のタネ(31)

「さてさて。某等も役目を果たさぬとな。他の隊の長連中に何を言われるか分からぬ。」

 近衛騎士団所属 移動島“イージス”のブリッジ。その指揮官席に座り、“神津 雅平”は目の前のパネルに指を走らせていた。 兎人は指が余り器用な様には見えないのが、実際には滑らかによく動くのだった。

「非番の者たちも参戦しているようです。仕事熱心で結構ですな。」

「連中は仕事をしているわけではあるまいて。戯れで戦を楽しむような連中よ。某には格好の玩具にじゃれ付いているだけにしか見えぬは。」

 背後からの言葉に、振り向きもせず答える神津。 彼が腰掛けている斜め後方に居る、白髪をの人物が声の主である。 近衛騎士団 二番隊副隊長“オーグスト・グランベル”。 種族こそハイエルフで、歳も既に初老とされる域に達してはいたが、ガッシリとした面に真っ白な髭を湛え、一部の隙も無く軍服を着込み、微動だにせず直立し後手に腕を組んだその姿は。まさに古強者とでも言った風情だった。

「我々は兵隊でありますからなぁ。戦いが大嫌いだ、と言うよりは、幾分はましかと思いますが。」

「そう言う問題でもあるまいに。」

 おどける様に肩を竦めて言うオーグストに、思わず苦笑を漏らす神津。 見た目に反し意外にも冗談を言うこの副官は、神津にとって貴重な部下の一人であった。

「して、オーグストよ。海賊どもが送ってきた通信。どう見る?」

 神津は腕組みをしながら、画面に映し出された文面を眺め、難しそうに溜息を吐き出した。 

「言っている通りでしょうなぁ。 “我が国では”連中が海賊では有りませんから。賞金稼ぎでも、最近はああ言った軍事兵器を運用しますし、危険な船を街中で飛ばしているからと言って、攻撃は出来ませんからなぁ。」

「我が国では許可を得た賞金稼ぎであれば、街中での兵器の使用も許可されておるからな。いやはや副団長殿は、その建前も考えろと仰せな様よ。 こう言った面倒臭いことは某、苦手で御座ると申しておいたはずなのだが・・・。」

 唸る神津を尻目に、落ち着き払った顔のオーグスト。ブリッジ正面の大型スクリーン。真正面に顔を向けたまま、視線だけを神津に向けた。

「して。いかがなさいますか? 隊長殿。」

「そうさな。 連中が賞金首の逃亡を手助けしている疑いがある。と言うのでどうだ。」

「と、言いますと?」

 意外そうな顔をするオーグストに、神津は懐から煙管を取り出しながら言葉を続ける。

「連中は確かに賞金稼ぎだが、レニス王国での実績は殆ど無い。なにせ活動拠点がこの国では無いからな。ゆえに、連中が賞金首と接触が有り、賞金稼ぎの立場を利用して賞金首を捕まえるフリをして首を逃がそうと画策していたとしても・・・。不自然では無いと言う訳よ。」

「隊長殿。流石にそれはいささか強引過ぎるのではありませんか?」

「しかし、“善意の通報”を無下にする訳にも行くまいて。とりあえず砲を使われても危険の無い海上に連中を誘導した後、危険が無いと分かれば開放してやろう。無論、抵抗を見せるようであれば“撃墜せぬ範囲での戦闘”も止む得ぬで御座ろうなぁ。」

 肩を竦めて言う神津に、オーグストは口元を少しだけ吊り上げる。

「成るほど成るほど。そのような“善意の通報”が来ている以上、念のためにも調べぬ訳には行きませんなぁ。我等騎士団は、民を守る事こそが至上命題。賞金がかかるような危険な人物を助けようとするようなやからが乗る船を、民の頭の上に浮かべておく訳にも行きますまい。」

 さも当然と言う顔で言うオーグストに、思わず笑みを浮かべる神津。

「では、通報が来るのを暫し待つとするか。」

「は。すぐにも“善意の通報”が来るかと思います。」

 言うと、オーグストは軽く咳払いをする。そして、振り向いた情報戦担当官に、頷いてみせる。 その行動に、有翼の担当官はニヤリと笑って見せた。 すぐさま思考感知式の情報端末を頭にセットすると、作業に取り掛かった。

「後は待つばかり、ですな。」