レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(5)

 脅威の温泉パワーでなんとか生気を取り戻すと、アルベルトはフラフラと自室に戻った。まだまだ終っていない面倒な仕事が大量に残っているのだ。

「それもコレも全部あの連中のせいだ・・・。殲滅してやろうかマジで・・・。」

 不穏当な事を呟きつつ、アルベルトの目は真剣そのものだった。実際、事と場合によっては、本当に殲滅も有り得る事態だった。

 この世界の国々には、どんな国であっても守らなくてはならない、いくつかのルールが有った。“大条約”。そう呼ばれる、絶対不可侵の決まりであった。もし違反すれば、他の国々は宣戦布告無く攻撃を開始することが許され、違反国の国務に携わる人間は皆殺しにすることが義務付けられる。無論国土は他国に分配され、根本から違反国は抹消される事になるのであった。

 あまりにも魔法が発達してしまったこの世界において、一番恐るべきはその魔法であった。星を作り変え、新しい生命体を作り出し・・・やり様によっては時間の流れさえも捻じ曲げる。 その、本当に恐ろしい魔法を制限し、“この世界を守る”事を目的にした取り決め。それが、“大条約”。と言う訳である。

 今のアルベルトの悩みの種。それこそが、“大条約”に関わるものなのであった。

 “大条約”のなかの一つに、“天使を召喚してはならない”と言う物が有った。 天使。神の使いの事である。

 なぜ、天使を召喚してはならないのか? 理由は簡単である。脅威だからだ。

 過去に、ある国が国家の総力を挙げ、天使を召還した事があった。 宗教国家であったその国は、自分達の信仰の対象。その使いである天使との謁見を望んだのだ。 しかし。謁見は彼等の思い描いていたものとはかけ離れたものになった。

 召喚された天使は、召喚された瞬間、動物を殺しだしたのだ。 人も家畜も野生のものも区別なく。一切合切目に付く限り、だ。

 天使の力は凄まじく、数千と言う兵士があっという間に消し飛ばされてしまったのだ。 天使曰く。“欲を持った物は全て悪しき物。見ただけで虫唾が走る。故に視界から滅却する。” どんな生物にも、本能的な欲求は有る。それすらも、その天使は“悪”と言い、断罪すると言い放ったのだ。

 自ら人間に近づく天使は、往々にして人間に好意的である。実際、天界と呼ばれる世界から来た天使は、何体か確認されては居た。しかし、天使が全て、人間に好意を持っているとは限らなかったわけである。

 その事件の後、天使よりも世界に存在が確認されている個体数が多い悪魔たちからの総合見解が、各国に発表された。“天使は確かに神の使い。されど、人の味方であるとは限らない。我等の中の変わり者のように人を愛するものも居れば、我等の中の多くのものよりも人間が嫌いなものも、確かに居る。” 因みに、個々が集まる事の殆ど無い悪魔たちの意見をまとめ、各国に配信したのは、誰あろうDr・フェネクスなのだった。

 この発表が有った後も、天使召喚は何度か行われた。しかし、その全てが、成功し、また失敗であった。つまり、“人間嫌い”な天使しか召喚できなかった訳である。

 数万人が犠牲になった頃。“大条約”に、天使召喚を禁ずるという項目が追加されたのだった。

 そして、つい先日。 ある宗教国家が、天使召喚実験の再開を宣言したのである。