博士の風変わりな研究と飯のタネ(30)

「と、言う訳で、今私は空の上で遊覧飛行としゃれ込みながら君たちの戦闘をウォッチングしている訳なのだがね。しかし、血湧き肉踊るとはまさにこのことだと思うのだがね!
銃撃、剣撃、拳、魔法! ありとあらゆる兵器が飛び交う中で、卓越した使い手たちが凌ぎを削る! プロとプロとの駆け引きとは、本当に人を魅了して止まない物だと思うのだがね!!」

「あーそーかい。それは良かったな。で、連絡寄越したのはそれだけ言うためか? なら、ちっと遠慮してくれないか? 今割りと・・・。」

 頭部に書き込んだ魔法陣を使い、Dr・フェネクスと会話しながら。ガルシャラは手に持った短刀に力を込めた。

「忙しいんだ!!」

 地面すれすれにまで体を倒して走りながら、摩るような低さから上へ跳ね上げるように刀を振るう。逆手に持った刀の速度は、使い手であるガルシャラの体格からは想像も付かないほど素早かった。

 刀の切っ先を向けられたハウザーは、脚部に仕込んだ“フライト”系マジックを展開。背中のバーニアを僅かにだけ吹かし、まるで氷上を滑るような滑らかさと速度で後退。紙一重で刀を避けると、刀を振り上げてがら空きになったガルシャラの脇腹を狙って掌底を繰り出した。無論、打を出すその瞬間には、足場は完全に固定されている。

 確実に捉えたかに見えた打撃だった。が。ガルシャラは足に仕込んだ“フライト”系魔法。テトと同じ空間を踏みつける類の靴を使い、上に跳んで回避する。 切り上げる瞬間、足を身体に引きつけて、この回避の準備をしていたのだ。 攻撃が避けられるのも、掌底が来るのも織り込み済みだったと言う訳だ。

 空中を踏みしめ、バックステップでハウザーと距離を取るガルシャラ。リラックスしたような恰好ではあったが、一歩で2〜3mを移動するその脚力は、常人のそれとはかけ離れていると言えるだろう。

「あっちも本気で来ないから良いようなものの。 御互い得物振り回してるからなぁ。時間稼ぎも大変だまったく・・・。」

 疲れたように溜息を吐きながら、ガルシャラはさも疲れたような声を出した。

「“二十日鼠”の連中、苦戦してるんだろ?」

「ジェーンも英児も相当気に喰わない事があったかのように暴れているよ。あの二人の堪忍袋の尾は、最近の切れ易い中高生よりも切れ易いからね。カルシウム不足だと思うのだがね。」

「知らんそんなもん・・・。 全く。この化け物の相手するのがどれだけ疲れるのか分かってるのかあの連中。じゃれてないでさっさと掻っ攫えばいいだろうに。」

「アレで二人とも目聡いからね。そうもさせてくれないと思うのだがね。実際、何体か人形を裏から回したようなのなのだけれど、ことごとく破壊されていたからね。」

「始末に追えないな・・・。」

 ガルシャラは眉間に皺を寄せながら、短刀を腰に納め、大剣を引き抜いた。 それを肩に担ぐように片手で持つと、ハウザーに向かって斜めに体を向けた。

「と言うことは今一番気になるのは“七海殺戮海賊団”か。あそこには“刀翼”・・・ライエル・ザ・“ホークアイ”が居る。野郎が出てたら面倒な事に成るからな。速く片付けて欲しいもんだ。」

「ライエルなら既に部下を連れて賞金首を奪取に向かったね。」

「・・・。」

 さらりと言い放たれたDr・フェネクスの言葉に、思わずクラリとよろめくガルシャラ。

「勘弁しろよ・・・どうすんだよ・・・。」

 心底疲れたように溜息を吐き出し、ガルシャラはずれたサングラスを押し上げた。眉間に皺が寄りすぎて上手く持ち上がらなかったが、無理矢理位置を戻す。勿論その間も、視線はハウザーから外さなかった。しかし、少し前までアレだけ攻撃を仕掛けてきていたハウザーは、今は動く気配すら無く仁王立ちしていた。

「・・・あっちも大変そうだな。」

 ハウザーを眺めつつ、ガルシャラは溜息を吐いた。 相手もどうせ、此方と同じ様に通信かなにかしているのだろう。何だかんだと言って、ハウザーは“近衛騎士団 団長”である。幾ら普段から行動が直線的で何も考えて居なさそうだろうが直情的だろうが。本当にそれだけの男がそんな大役に付けるものではない。

「頼られてる訳だ。出世したもんだぜ田舎の隊長さんがよ・・・。」

 ふっ。と、ガルシャラは鼻だけで苦笑をもらした。

「ガルシャラ。」

 ふいに、ハウザーがガルシャラの名を呼ぶ。

「んん?なんだ?」

「海賊共が機動鎧出してるらしいな。」

「御互いここでじゃれ合ってるよりもしなくちゃならんことが出来た訳だ。」

「そう成るな。 ここでテメー潰そうと思ってたっつーのによ。ドコゾのバカが“めんどくせぇ物”街中に持ち込みやがった。そっち潰すのが先だ。」

「面倒臭いもの・・・?」

 ハウザーの言葉に反応するガルシャラ。

「“パーフェクト・パープル”。」

 それ以上言う必要はないとでも言うように、一言だけで反すハウザー。 しかし、実際言う必要はなかったようだった。

 ガルシャラとハウザーは、一瞬だけ表情を険しくし、視線を交わす。が、すぐに互いに顔を背け、口の端だけを吊り上げて笑った。

 同時に互いに背を向けると、正反対の方向へ歩き出す。

「次見かけたらゼッテーぶっ飛ばすからな。覚えとけよグラサン野郎。」

「じゃあ、見つからんように逃げ回るとするかな。」

 二人がそんなやり取りをしていた、そのときだった。二人の頭の上、ギリギリの位置。ビルとビルとの間を縫うようにして、数機の機動鎧が飛び去って行ったのは。