リンク品

「にゃ、にゃんてことだにゃー・・・まさかコイツとコンにゃ所であおうとは・・・!」

 硝煙と血。あと、なんか近くにあった全壊した自販機から漂うトロピカルな香りに包まれながら。アンブレラ・レインブーツは、己が強敵と認めるものと対峙していた。

 いつも常に余裕の有る、不敵な表情を崩さない彼だったが、今は眉間に皺が寄り、額からは汗が噴出していた。

「お前と最後に会ったのは・・・ちょうどこんな天気のいい日だったにゃー・・・。暖かく気持ちのいい昼下がり・・・傍らにはお気に入りのミルク・・・まさに最高だったにゃー・・・それを・・・お前が・・・お前のせいで・・・みんな無茶苦茶になったにゃー!!」

 まるで武器のように、手にした傘を突き出すアンブレラ。無論、この傘はただの雨傘ではない。武器職人であるアンブレラが、自身の持てるありとあらゆる暗器、防具知識を詰め込んで作り上げた、渾身の武具。“ナンバーズ”の一つ。“KARAKASA・10 唐傘・転(カラカサ・テン)”。

 そんな凶器を向けられながらも、対するものはあくまで静かにその場に佇んでいた。いや。動けなかった。

「ぐぬぬぬ・・・! 何空かしてるにゃーこの毛玉野郎!!」

 我慢で金といった様子で、その“物”に向かって食って掛かるアンブレラ。しかし、その言い草はあまりに酷いものだった。なにせ相手は毛玉などではなく、立派な“毛糸玉”だったのだから。

「お前を見てると、こう、思わず野生が刺激されると言うか、人としての尊厳をかなぐり捨ててじゃれまくりたくなるのにゃーぁぁぁ!!」

 なにか悔しいのか、滝のように涙を流しながら叫ぶアンブレラ。

「ん? まつにゃ? なんで理性を捨てちゃいけないのにゃ? にゃーは可愛いにゃんこにゃー。人としての尊厳なんてきにしにゃーい 余計な事など気にしにゃーい おお 愛してるんだ誰よりも強く お〜お〜♪」

 かなりの錯乱状態に陥りながら、フラフラとした足取りで毛糸玉に近づいていくアンブレラ。もう少しで指先が届く位置まで近づき、荒い息を立てながら震える手を伸ばした。しかし、今まさに手が触れようとしたその瞬間。

「あっぶにゃーい!!」

 まるで突然飛来した弾丸を避けるかのような綺麗なジャンピング回避で、毛糸玉から飛び退いた。

「あぶにぇー・・・。まじあぶにゃいっつの。焦ったのにゃー・・・。毛玉の魔力恐るべしにゃー・・・。」

 額を拭いながら、高鳴る心臓を叩くアンブレラ。何とかして興奮を抑えようとしているのだろう。

「まったく。にゃーはこんにゃことしている暇わないのにゃ! そこ!そこの青年!ちょっとこっちくるのにゃー!」

「お、俺か?」

 アンブレラに声を掛けられた青年は、驚いたように自分を指した。先ほどまでアンブレラの奇行にドン引きして硬直していた所を引き戻されただけに、反応は鈍かった。

「そうにゃー。にゃーは、君に会いに来たにゃ! デンノスケ! 本名“デン・ゼンネン”!! 自分達の故郷である追放魔獣たちの安息の地を守るため生きる戦士族の勇者にして、他の地を探索してその国が自分達の土地にとって危険で有るか無いかを調べる、放浪の旅人よ!!」

「なんだその説明的ななが台詞はっ! つか、なんでそんなこと知ってるんだ?!」

 古典的な平手突込みを入れる青年。ダメージは殆ど与えずに、パンッ、と言う小気味いい音だけを立てる当たり、相当なてだれであると言えよう。

 青年の名は、デン。大まかな説明は、アンブレラの言っている通りなので端折ろう。ぶっちゃけた事を言ってしまえば、作者がちょくちょく訪れるオリジナル系イラスト小説サイト様の看板息子さんだったりするのだが、話が生々しくなるのでその辺はあえて突っ込みを入れない方向で、後日リンクとか張ってみる方向でいってみようと思うのであった。

「にゃーっはっはっは! 君はこのレニスに来た時、異世界旅客者として入国管理局を通ったにゃ! そう言う面白い情報をにゃーが見逃すはずが無いのにゃー! ビバ情報か時代なのにゃー!!」

 断っておくが、レニス王国の情報管理体制は万全である。数多くいるプログラマやハッカーのなかでも、“人類の至宝”とか呼ばれるレベルの者が、Dr・フェネクスレベルの暇と手で書いたら二つ三つゼロを書き忘れちゃうような金を掛けてようやく侵入できるレベルなのだ。

「小真面目な性格が災いしたにゃー。お陰で今君は私やフェネクスみたいにゃ物好きに、徹底マークされてるのにゃー。」

「ぐっ・・・。」

 この世界の住人ではないデンの頭の中では。“情報化社会ってなんだろう。”とか、“二足歩行の猫って、ケット・シーじゃねーの?”とか色々な疑問が飛び交っていた。が、そんなことが同でもよくなるほど、“こんな連中にマークされてるのか。真面目に入国手続きなんてするんじゃなかったかも知れん。”と言う考えも首をもたげてきていたりしたのだった。

「ま、まぁ・・・今はそんなことはどうでも良い・・・。  俺もアンタに会いに来たんだ。機動鎧がどうとか。ッて言うんだろ?」

 デン自信も、アンブレラと接触を謀ろうとしていたのである。

「色々と聞き込みしようにも、人っ子一人いやしねぇ。 いるのは物騒な連中ばっかりだ。そこにアンタが近づいてきたみたいだったって言うからさ。」

 情報を持ち帰る事を優先にするデンにとって、聞き込みは大切な仕事である。しかし、いまのアクア・ルートは、“一般人は”歩いていない状態であった。 数年前まで戦渦にあったこの国の一般住民の退避能力は実に高いのである。

「にゃっはっはっは! そらー今は戦闘だらけで祭り見たいにゃ有様にゃ。誰も出てこやしないのにゃ〜。 誰だって、自分の頭の上に山を盆地にするような“移動島”がいたら、逃げ出したくもなるのにゃー。」

 頭上に浮かぶ移動島“イージス”を傘で刺し、高笑いを飛ばすアンブレラ。

「山を盆地・・・って、そんなに危険なのかアレ・・・!」

「そりゃそうにゃ。アレだけデカイのにゃ。バリアー、移動鎧、主砲に機関砲座。何でもおき放題にゃ。そうでにゃきゃー態々あんなでかいもん運用しないのにゃー。」

 目をむいて上を見上げるデン。自分達の土地を守る。それが至上命題であり、脅威になりそうな土地の情報を集めるデンにとってみれば、こう言う類ものもは危険物意外には見えないだろう。

「にゃ。 そんなことよりも、今日君に会いに来たのは、装備をプレゼントしようと思ってるからにゃ。」

「装備?」

「そうにゃ。言ってみれば君は威力偵察しに来ている様なもんだにゃ? 戦いながら敵の規模や装備を肌で感じるのが威力偵察にゃ。その君が装備が整わない状態でこの国をうろつくのは、非常に危ないにゃー。」

「それは・・・俺も思ってるけど・・・。 この世界はビックリ人間が多すぎる・・・。」

 額に汗とか浮かべながら唸るデン。実際はそんなにビックリ人間は多くないのだが、今この街の惨状を見ればそう思わずには居られないだろう。

「にゃっはっは! まぁともかくにゃ。僕は武器職人でにゃ。君に色々と装備を託す事にしたのにゃ。」

「本当か? しかし・・・金は無いぞ?」

「にゃ? そんなもんいらにゃいのにゃ。決まってるにゃ。」

「決まってるのか?!」

 ビックリしたような顔をして言うアンブレラに、たじろぐデン。

「にゃーは金じゃー動かないのにゃー。動く目的はただ一つ!」

 ピシリと指を立てて、背筋を伸ばすアンブレラ。

「にゃーの武器を使いこなせる人物にそれを渡す事のみ。にゃ。」

 突然真剣な顔つきで言うアンブレラ。それまでのふざけた様な雰囲気はまるで掻き消え、周りさえも凍てつかせるような意思を持ったその声は、聞いていたデンも思わず息を呑むほどであった。

「ま、とにかくだにゃ。ここじゃ話しづらいから、あそこにいくのにゃ。」

「あそこ?」

 訝しげに尋ねるデンに、アンブレラは背中を向けて歩き出しながら答えた。

「そう、あそこだにゃ。 スラムよりも薄汚くて危険。テメーの腕だけが物を言い、合法違法、様々な物が売り買いされるモノホンの“スラム”。 “冒険者横丁”だにゃー。」

「ぼ、“冒険者横丁”ぅ?」

 さっぱり分からないという顔をするデンを横目に、ニヤリと笑いズンズンと進んでいくアンブレラ。 彼が見かう先は、港の倉庫街。Dr・フェネクス等冒険者たちが住まう一区画。アンブレラの言葉通り、腕っ節が物を言い、冒険者たちが集めてきた古今東西の物品が流通する場所。“冒険者横丁”なのであった。

「なるほど・・・そこのほうが俺には合いそうだ。」

 ボソリと呟くデン。 ニヤリと口端を吊り上げると、「分かった。付いてくよ。」と、アンブレラの後ろに付いていくのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(31) なんか編集できなくなったから続きをコッチに書いて見たすぺしゃ

「うむ。 しかし、これ以上面倒ごとが起こらねば良いのだがなぁ。」

 手元のモニタを眺めながら、難しそうな顔をして溜息を吐く神津。そこに映っているのは、いまアクアルートで暴れている、賞金稼ぎと近衛騎士団員の姿だった。

「下はいま祭りのような騒ぎですからなぁ。厄介ごとは、これから増える一方でしょう。」

「そうならぬように願うのみよな・・・。」

 知れッとした副官の言葉に、心の底からの溜息を吐く神津だった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(31)

「さてさて。某等も役目を果たさぬとな。他の隊の長連中に何を言われるか分からぬ。」

 近衛騎士団所属 移動島“イージス”のブリッジ。その指揮官席に座り、“神津 雅平”は目の前のパネルに指を走らせていた。 兎人は指が余り器用な様には見えないのが、実際には滑らかによく動くのだった。

「非番の者たちも参戦しているようです。仕事熱心で結構ですな。」

「連中は仕事をしているわけではあるまいて。戯れで戦を楽しむような連中よ。某には格好の玩具にじゃれ付いているだけにしか見えぬは。」

 背後からの言葉に、振り向きもせず答える神津。 彼が腰掛けている斜め後方に居る、白髪をの人物が声の主である。 近衛騎士団 二番隊副隊長“オーグスト・グランベル”。 種族こそハイエルフで、歳も既に初老とされる域に達してはいたが、ガッシリとした面に真っ白な髭を湛え、一部の隙も無く軍服を着込み、微動だにせず直立し後手に腕を組んだその姿は。まさに古強者とでも言った風情だった。

「我々は兵隊でありますからなぁ。戦いが大嫌いだ、と言うよりは、幾分はましかと思いますが。」

「そう言う問題でもあるまいに。」

 おどける様に肩を竦めて言うオーグストに、思わず苦笑を漏らす神津。 見た目に反し意外にも冗談を言うこの副官は、神津にとって貴重な部下の一人であった。

「して、オーグストよ。海賊どもが送ってきた通信。どう見る?」

 神津は腕組みをしながら、画面に映し出された文面を眺め、難しそうに溜息を吐き出した。 

「言っている通りでしょうなぁ。 “我が国では”連中が海賊では有りませんから。賞金稼ぎでも、最近はああ言った軍事兵器を運用しますし、危険な船を街中で飛ばしているからと言って、攻撃は出来ませんからなぁ。」

「我が国では許可を得た賞金稼ぎであれば、街中での兵器の使用も許可されておるからな。いやはや副団長殿は、その建前も考えろと仰せな様よ。 こう言った面倒臭いことは某、苦手で御座ると申しておいたはずなのだが・・・。」

 唸る神津を尻目に、落ち着き払った顔のオーグスト。ブリッジ正面の大型スクリーン。真正面に顔を向けたまま、視線だけを神津に向けた。

「して。いかがなさいますか? 隊長殿。」

「そうさな。 連中が賞金首の逃亡を手助けしている疑いがある。と言うのでどうだ。」

「と、言いますと?」

 意外そうな顔をするオーグストに、神津は懐から煙管を取り出しながら言葉を続ける。

「連中は確かに賞金稼ぎだが、レニス王国での実績は殆ど無い。なにせ活動拠点がこの国では無いからな。ゆえに、連中が賞金首と接触が有り、賞金稼ぎの立場を利用して賞金首を捕まえるフリをして首を逃がそうと画策していたとしても・・・。不自然では無いと言う訳よ。」

「隊長殿。流石にそれはいささか強引過ぎるのではありませんか?」

「しかし、“善意の通報”を無下にする訳にも行くまいて。とりあえず砲を使われても危険の無い海上に連中を誘導した後、危険が無いと分かれば開放してやろう。無論、抵抗を見せるようであれば“撃墜せぬ範囲での戦闘”も止む得ぬで御座ろうなぁ。」

 肩を竦めて言う神津に、オーグストは口元を少しだけ吊り上げる。

「成るほど成るほど。そのような“善意の通報”が来ている以上、念のためにも調べぬ訳には行きませんなぁ。我等騎士団は、民を守る事こそが至上命題。賞金がかかるような危険な人物を助けようとするようなやからが乗る船を、民の頭の上に浮かべておく訳にも行きますまい。」

 さも当然と言う顔で言うオーグストに、思わず笑みを浮かべる神津。

「では、通報が来るのを暫し待つとするか。」

「は。すぐにも“善意の通報”が来るかと思います。」

 言うと、オーグストは軽く咳払いをする。そして、振り向いた情報戦担当官に、頷いてみせる。 その行動に、有翼の担当官はニヤリと笑って見せた。 すぐさま思考感知式の情報端末を頭にセットすると、作業に取り掛かった。

「後は待つばかり、ですな。」

レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(5)

 脅威の温泉パワーでなんとか生気を取り戻すと、アルベルトはフラフラと自室に戻った。まだまだ終っていない面倒な仕事が大量に残っているのだ。

「それもコレも全部あの連中のせいだ・・・。殲滅してやろうかマジで・・・。」

 不穏当な事を呟きつつ、アルベルトの目は真剣そのものだった。実際、事と場合によっては、本当に殲滅も有り得る事態だった。

 この世界の国々には、どんな国であっても守らなくてはならない、いくつかのルールが有った。“大条約”。そう呼ばれる、絶対不可侵の決まりであった。もし違反すれば、他の国々は宣戦布告無く攻撃を開始することが許され、違反国の国務に携わる人間は皆殺しにすることが義務付けられる。無論国土は他国に分配され、根本から違反国は抹消される事になるのであった。

 あまりにも魔法が発達してしまったこの世界において、一番恐るべきはその魔法であった。星を作り変え、新しい生命体を作り出し・・・やり様によっては時間の流れさえも捻じ曲げる。 その、本当に恐ろしい魔法を制限し、“この世界を守る”事を目的にした取り決め。それが、“大条約”。と言う訳である。

 今のアルベルトの悩みの種。それこそが、“大条約”に関わるものなのであった。

 “大条約”のなかの一つに、“天使を召喚してはならない”と言う物が有った。 天使。神の使いの事である。

 なぜ、天使を召喚してはならないのか? 理由は簡単である。脅威だからだ。

 過去に、ある国が国家の総力を挙げ、天使を召還した事があった。 宗教国家であったその国は、自分達の信仰の対象。その使いである天使との謁見を望んだのだ。 しかし。謁見は彼等の思い描いていたものとはかけ離れたものになった。

 召喚された天使は、召喚された瞬間、動物を殺しだしたのだ。 人も家畜も野生のものも区別なく。一切合切目に付く限り、だ。

 天使の力は凄まじく、数千と言う兵士があっという間に消し飛ばされてしまったのだ。 天使曰く。“欲を持った物は全て悪しき物。見ただけで虫唾が走る。故に視界から滅却する。” どんな生物にも、本能的な欲求は有る。それすらも、その天使は“悪”と言い、断罪すると言い放ったのだ。

 自ら人間に近づく天使は、往々にして人間に好意的である。実際、天界と呼ばれる世界から来た天使は、何体か確認されては居た。しかし、天使が全て、人間に好意を持っているとは限らなかったわけである。

 その事件の後、天使よりも世界に存在が確認されている個体数が多い悪魔たちからの総合見解が、各国に発表された。“天使は確かに神の使い。されど、人の味方であるとは限らない。我等の中の変わり者のように人を愛するものも居れば、我等の中の多くのものよりも人間が嫌いなものも、確かに居る。” 因みに、個々が集まる事の殆ど無い悪魔たちの意見をまとめ、各国に配信したのは、誰あろうDr・フェネクスなのだった。

 この発表が有った後も、天使召喚は何度か行われた。しかし、その全てが、成功し、また失敗であった。つまり、“人間嫌い”な天使しか召喚できなかった訳である。

 数万人が犠牲になった頃。“大条約”に、天使召喚を禁ずるという項目が追加されたのだった。

 そして、つい先日。 ある宗教国家が、天使召喚実験の再開を宣言したのである。

ハウザー&マービット 今日のハウザーさん

「隊長〜。飯喰い行きましょうよー。」

「隊長じゃネーッつってんだろうがコノダボが!! 団長って呼べ、団長ってよぉ!!」

「どっちでもいいじゃないっすかー。速く飯喰いきましょうよー。」

「飯は喰うが別にどこも行かんぞ。」

「へ? 弁当っすか? それとも食堂?」

「出勤途中で食パンを一斤貰ってな。」

「・・・オカズは・・・?」

「いらん。」

「隊長そう言う食生活してると何時か後悔するっすよ・・・。」

「いつもファーストフード食ってる野郎がなに言ってやがる。ほれ。お前の分も貰ったんだ。ありがたく喰え。」

「しょ、食パンっすか?」

「食パン。」

「一斤?」

「一斤。」

「う、をぉ・・・。」

「残さず喰えよ。」

「ちょ、まじっすか?!」

レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(4)

 アルベルトの朝は早い。基本的に日が昇ると起きてしまう体質である彼は、明け方ごろには、城内の自分の執務室のソファーから起き上がる。

 宰相と言う重役な彼が、何故ソファー? と、思う人も多いだろう。 あまりに多忙すぎる彼は、基本的にベッドで寝る時間も無いほど働きづめているのだ。寝る直前まで仕事をし、気絶しそうになったらソファーに転がるのだ。

「・・・はぁ〜・・・。 ・・・宰相なんざ辞めてやる・・・。」

 一日に四十回以上口にする台詞と共に、起き上がる。何時もの事である。

 起き上がるとすぐ、のろのろとした動きで執務室を出て、城の中の兵士たちが使う大浴場へ向かう。 普通、宰相クラスにもなれば自分の個室があり、浴室も専用のモノが有ったりするものだが、「そんなもん作る金あんなら路上募金にでもくれてやれ。」と、アルベルト本人が設置を頑なに拒否したのだった。故に、城内で彼の部屋と呼べるのは、唯一執務室のみなのだった。

 さて。兵士たちの使う大浴場は、基本的に二十四時間営業だった。城の庭を掘ったら出てきたと言う温泉を使用しているため、城とは別棟に組んであったりした。 ちなみにこの浴場、一般にも公開されていたりした。そのために、ほぼ共同浴場と化しており、卓球台やらマッサージ器まで置いてある始末である。

 “おいでませ大浴場 〜国王の湯〜”と書かれた暖簾をくぐり、受付に立っている女性に小銭を渡す。内装はやたらと小奇麗で、完全に観光地化されているような様子だった。

 まぁ、疲れを癒す場である。汚いより、綺麗な方が良い。そんなことを思いながら、なれた様子で、アルベルトは受付嬢からタオルを受け取った。

「宰相閣下・・・。お仕事も良いですが、お休みに成られないと・・・。今にも死にそうなお顔をされていますよ?」

「そう簡単には死なねーよ。つか、俺が居なくなったら誰があのアホ王のお守りすんだよ・・・君やってくれる?」

「お断りします。私、この受付カウンター気に入っていますので。」

 何時ものように軽口を交わし、アルベルトはよろよろとした足つきで男湯の方向に歩いて行く。途中何度かこけそうに成るものの、なんとか体制を立て直して歩くのだった。

リンク品

 猫人と言う種族が居る。 一言で言えば直立した猫。二言で言えば、やたら賢い直立した猫だ。

 基本的に孤独を好みながらも、人付き合いは好きと言う良く分からない矛盾しているようなしていない様な非常に微妙な彼等種族の多くは、発明家や研究者であった。 数が少ない種族である事と、その類稀なる探究心と頭脳から、非常に珍重される種族であった。

 そんな猫人の一人。“アンブレラ・レインブーツ”は、爆音と怒号が飛び交う“アクア・ルート”を。まるでステッキのように傘を突いて歩いていた。 ノリの効いた下ろしたてのように綺麗なペンギンを着こなし、シルクハットを被ったその姿は、なかなか様になっていた。

「都会は相変わらず騒がしいにゃー。にゃーの町にゃんかじゃー、こんなドンパチもおきにゃいにゃー。 フェネクスがうらやましいにゃー。」

 ルンルンと鼻歌を歌いながら、とことこと歩くアンブレラ。ちなみに、猫人の名誉のために言って置くが、全ての猫人の語尾が「〜にゃー」な訳ではない。寧ろそんな奴は居ないと言って良いだろう。 そう。アンブレラはわざとにゃーにゃー言っているのだ。

「でも、にゃー見たいな非力な頭脳労働タイプには、この街は危なすぎるにゃー。たまーに新人発掘に来るくらいがちょうど良いにゃー。おのぼりさんになるって言うのも、良いもんだしにゃー!」

 にゃーっはっはっはっはっは。 笑いながらも、歩みをやめないアンブレラ。その足取りは軽く、まるで遊園地に行く子供のように楽しさに浮ついている様子だった。

「にゃんたって今回来た異世界からの客人は、“勇者様”にゃー!! 英児はフェネクスに、陽二はスートに取られたにゃーけど、今回はにゃーが一番乗りして装備をプレゼントフェーユーするのにゃー!! そのために、わざわざ機動鎧まで引っ張って来たのにゃー!」

 興奮しているのか、ブンブンと傘を振り回すアンブレラ。ついでに尻尾も千切れんばかりに振り回している。 普通猫は感情表現に尻尾をあまり使わないものだが、アンブレラはそう言う常識に縛られない男なのだった。

「あ。でも、異世界からの客人にゃー。どうコッチの世界の道具の説明したもんかにゃー? 専門用語出して説明したッて分かるはずにゃいだろーし。そんな意味ナッシングな分かり難い説明しても、混乱させるだけにゃー。真に頭の良い説明は、幼稚園児でも納得できるもんだって、にゃーが言ってたにゃー・・・。」

 しばし黙考。

「ま!! にゃんとかにゃるにゃる!!! にゃーっはっはっはっは!! さー!機動鎧渡すのにゃー!!」

 高らかに笑いながら、尻尾と傘を振り回すアンブレラ。

 この、身長120cm弱。猫人の平均身長である160cmを若干下回った小柄な彼は、これでもかと言うほどご機嫌に街を歩いていた。

 勿論。彼の頭の上では弾丸が飛び交い、近衛騎士団の面々が機動鎧やら特殊装備で冒険者やら賞金稼ぎ、何故か紛れていたアサシンギルド員なんかを蹂躙していていたりしていたが・・・。 浮かれているアンブレラにとっては、“そんな些細な事”など、どうでも良かったりしたのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「悪魔と天使と言うものを知っているかね?」

「かねにかいてある、え、だ。」

「ふむ。そう言う国もあるね。」

「かねつかわない。」

「買わずに奪うのかね?」

「ん。」

「豪気だね君は・・・!  ・・・さて。悪魔と天使の話をしようと思うのだがね。 悪魔とは。その大半が天使が落ちた姿だとされているね。 実は私も、フェネクスと言う天使出身なのだよ。」

「ふぇねくす。」

「デカイ鳥の事だね。殺しても死なない、何度でも蘇る火を噴いている紫色のキモイ鳥だと思っていれば、正解だと思うのだがね。」

「んあー。」

「はっはっは! 残念だが私は喰えないのだがね。涎を出しても仕方ないと思うのだがね?」

「あー。」

「さて。悪魔と天使。この違いはなんだと思うかね?」

「あくまもてんしも、しらない。」

「ふむ。悪魔とは悪者。天使とは正義の味方、と、されているね。そしてそれは正解でもあり、不正解でも有ると思うのだがね。 例えば。他のものの命を取るのは、正義かね?」

「あー。」

「そうだね。どちらかと言えば悪い事だ。かと言って、人間は何かを喰わねば生きていけない。殺さなくては行けないという事だね。例えばその対象が植物だったとしても、植物も立派な生物である以上、そこには命があり食べるという行為はその生物、植物の命を取るという事なに成ると思うのだがね。」

「ん。」

「つまり。人間は生きながらにして何かを殺し続けているという事に成るね。極端な事を言えば、一歩歩けばバクテリア。免疫作用でウィルスを。殺しているのだね。まぁ、そこまで言われては堪った者では無いから、許してくれるモノが大半なのだがね。」

「ん〜。」

「さてさて。聖、邪。コレは人間に対して、ではない。と言うのは、分かるかね?」

「あ〜?」

「彼等は、別に人間の守護者ではなく、神様のお使いなのだね。ぶっちゃけて言えば、人間なんて居ない方が世の中綺麗に成ると思っている天使も、少なからず居るのだよ。 逆に、人間の生活を眺めるのが楽しくてたまならい手合いの悪魔も居ると言うことだね。その手合いの悪魔は、人の中に紛れて生活し。こうしてフィギュアを愛で、おにぎりを握っていたりすると言う訳だね。」

「よくわからない。」

「ふむ・・・。噛み砕いたつもりだったが、まだまだ砕き方が足りなかったね。 要するに、天使にもムカつく奴は居るし、悪魔にも私のような物好きが居ると言う話だよ。」

「ん。わかった。」

「む。 良かった。 っと・・・。 おにぎりを握っている横から手ごと米に齧り付くのは、止めたほうが良いと思うのだがね?」

「ふぶふぁ?」

「まだ作り途中だからね。完成品の方が美味しいと思うのだがね?」

「ほいほごふぁん、いっふぉいはへぁほうふぁ、うふぁい。」

「鳥とご飯、一緒に食べた方が、美味い。 かね?」

「あ〜。」

「ふっ・・・はっはっはっはっは!」

「ふあぁ〜?」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(30)

「と、言う訳で、今私は空の上で遊覧飛行としゃれ込みながら君たちの戦闘をウォッチングしている訳なのだがね。しかし、血湧き肉踊るとはまさにこのことだと思うのだがね!
銃撃、剣撃、拳、魔法! ありとあらゆる兵器が飛び交う中で、卓越した使い手たちが凌ぎを削る! プロとプロとの駆け引きとは、本当に人を魅了して止まない物だと思うのだがね!!」

「あーそーかい。それは良かったな。で、連絡寄越したのはそれだけ言うためか? なら、ちっと遠慮してくれないか? 今割りと・・・。」

 頭部に書き込んだ魔法陣を使い、Dr・フェネクスと会話しながら。ガルシャラは手に持った短刀に力を込めた。

「忙しいんだ!!」

 地面すれすれにまで体を倒して走りながら、摩るような低さから上へ跳ね上げるように刀を振るう。逆手に持った刀の速度は、使い手であるガルシャラの体格からは想像も付かないほど素早かった。

 刀の切っ先を向けられたハウザーは、脚部に仕込んだ“フライト”系マジックを展開。背中のバーニアを僅かにだけ吹かし、まるで氷上を滑るような滑らかさと速度で後退。紙一重で刀を避けると、刀を振り上げてがら空きになったガルシャラの脇腹を狙って掌底を繰り出した。無論、打を出すその瞬間には、足場は完全に固定されている。

 確実に捉えたかに見えた打撃だった。が。ガルシャラは足に仕込んだ“フライト”系魔法。テトと同じ空間を踏みつける類の靴を使い、上に跳んで回避する。 切り上げる瞬間、足を身体に引きつけて、この回避の準備をしていたのだ。 攻撃が避けられるのも、掌底が来るのも織り込み済みだったと言う訳だ。

 空中を踏みしめ、バックステップでハウザーと距離を取るガルシャラ。リラックスしたような恰好ではあったが、一歩で2〜3mを移動するその脚力は、常人のそれとはかけ離れていると言えるだろう。

「あっちも本気で来ないから良いようなものの。 御互い得物振り回してるからなぁ。時間稼ぎも大変だまったく・・・。」

 疲れたように溜息を吐きながら、ガルシャラはさも疲れたような声を出した。

「“二十日鼠”の連中、苦戦してるんだろ?」

「ジェーンも英児も相当気に喰わない事があったかのように暴れているよ。あの二人の堪忍袋の尾は、最近の切れ易い中高生よりも切れ易いからね。カルシウム不足だと思うのだがね。」

「知らんそんなもん・・・。 全く。この化け物の相手するのがどれだけ疲れるのか分かってるのかあの連中。じゃれてないでさっさと掻っ攫えばいいだろうに。」

「アレで二人とも目聡いからね。そうもさせてくれないと思うのだがね。実際、何体か人形を裏から回したようなのなのだけれど、ことごとく破壊されていたからね。」

「始末に追えないな・・・。」

 ガルシャラは眉間に皺を寄せながら、短刀を腰に納め、大剣を引き抜いた。 それを肩に担ぐように片手で持つと、ハウザーに向かって斜めに体を向けた。

「と言うことは今一番気になるのは“七海殺戮海賊団”か。あそこには“刀翼”・・・ライエル・ザ・“ホークアイ”が居る。野郎が出てたら面倒な事に成るからな。速く片付けて欲しいもんだ。」

「ライエルなら既に部下を連れて賞金首を奪取に向かったね。」

「・・・。」

 さらりと言い放たれたDr・フェネクスの言葉に、思わずクラリとよろめくガルシャラ。

「勘弁しろよ・・・どうすんだよ・・・。」

 心底疲れたように溜息を吐き出し、ガルシャラはずれたサングラスを押し上げた。眉間に皺が寄りすぎて上手く持ち上がらなかったが、無理矢理位置を戻す。勿論その間も、視線はハウザーから外さなかった。しかし、少し前までアレだけ攻撃を仕掛けてきていたハウザーは、今は動く気配すら無く仁王立ちしていた。

「・・・あっちも大変そうだな。」

 ハウザーを眺めつつ、ガルシャラは溜息を吐いた。 相手もどうせ、此方と同じ様に通信かなにかしているのだろう。何だかんだと言って、ハウザーは“近衛騎士団 団長”である。幾ら普段から行動が直線的で何も考えて居なさそうだろうが直情的だろうが。本当にそれだけの男がそんな大役に付けるものではない。

「頼られてる訳だ。出世したもんだぜ田舎の隊長さんがよ・・・。」

 ふっ。と、ガルシャラは鼻だけで苦笑をもらした。

「ガルシャラ。」

 ふいに、ハウザーがガルシャラの名を呼ぶ。

「んん?なんだ?」

「海賊共が機動鎧出してるらしいな。」

「御互いここでじゃれ合ってるよりもしなくちゃならんことが出来た訳だ。」

「そう成るな。 ここでテメー潰そうと思ってたっつーのによ。ドコゾのバカが“めんどくせぇ物”街中に持ち込みやがった。そっち潰すのが先だ。」

「面倒臭いもの・・・?」

 ハウザーの言葉に反応するガルシャラ。

「“パーフェクト・パープル”。」

 それ以上言う必要はないとでも言うように、一言だけで反すハウザー。 しかし、実際言う必要はなかったようだった。

 ガルシャラとハウザーは、一瞬だけ表情を険しくし、視線を交わす。が、すぐに互いに顔を背け、口の端だけを吊り上げて笑った。

 同時に互いに背を向けると、正反対の方向へ歩き出す。

「次見かけたらゼッテーぶっ飛ばすからな。覚えとけよグラサン野郎。」

「じゃあ、見つからんように逃げ回るとするかな。」

 二人がそんなやり取りをしていた、そのときだった。二人の頭の上、ギリギリの位置。ビルとビルとの間を縫うようにして、数機の機動鎧が飛び去って行ったのは。

ハウザー&マービット マービットの過去なのよ

 そのときマービットは、自分の姉になるという少女を見て、“なんだか弱そうだな”。と、思っていた。

 マービットは“仕事”で、“親子”の役をする事に成った。優秀だと言うマービットは、今後“子供”として実戦に投入される事に成っていたのだ。 当の本人にしてみれば、それは特に感慨のある事ではなかった。 訓練として人を殺す事も増えてきたし、そろそろかなぁ、とは、思ってたし。その程度のレベルである。

 ただ予想外だったのは、この“姉”の存在であった。 無論、マービットは姉と言うのがどう言うものなのか全く知らなかった。 知識では知ってはいた。書物やスライドで、一般知識は叩き込まれていたし、施設に後から来た子供たちの中には、兄弟姉妹もいた。だが、自分より年上の、自分を守ってくれる存在。あるいは近い存在と言うのを、マービットは肌で感じたことが無かったのである。

 姉。頼るべき存在。なにそれ? 意味わかんね。

 係官の話を聞きながら、マービットはポカンとした顔で、姉。“アリシア・ケンブリッジ“を見つめていた。

 そのときアリシアは、自分の弟になるという少年を見て、“綺麗だな”。と、思っていた。

 顔が似ている。この施設に来る前から、アリシアはマービットの姉になるのだと聞かされていた。 “親子”に成ると言うことはつまり、“そう言う役をしなければならにような仕事をさせられ”と言う意味である。要するに“人殺し”の“アサシン”に成ると言うことだ。 当の本人にしてみれば、それは途轍もなく大きな一つの転機であった。確かに訓練で人は殺してきた。始めて人を殺したときなど、発狂しかけたところを気付け薬で無理矢理正気にさせられ、悶え苦しみながらのた打ち回り、三日眠れなかった。しかし今では、もうそこまでに成ることなど無くなった。精々、食べたものを全て吐き戻して、夜中うなされて何度も目を覚ますくらいだ。

 怖かった。 殺しは、平気ではない。嫌だし、大嫌いだし、したくない事だ。でも、数をこなす内、自分はそれに成れて来ていると思っていた。現に、始めて殺したときほど、今は追い詰められた気持ちに成って居ないでは無いか。 怖かった。堪らなく。殺しに成れて来ている自分が。

 そんな様々な思いに引き裂かれそうになっているアリシアは、このとき始めてマービットにきちんとした形で紹介されていた。

 会う前は、怖くて怖くてどうしようもなかった。ガクガク足は震えるし、自室から出るときなど、まともに立てなかったほどだ。立ち上がってもすぐ目の前が真っ暗になり、クラクラと立ちくらみの様にベッドに倒れこんだりもした。

 マービットの事は、訓練の時良く見ていた。 人を殺す手際のよさ。身体能力に、状況判断力。それらに秀でたマービットの動きを、教官は口に出さずにも見習えと言うようなそぶりを見せていた。それに、自分の弟になる人物にも興味はあった。 眺めながらいつも思うことは、“彼がアサシンなのか”。自分がなる事を要求されているのは、ああ言う子なのか。だった。 そうして見ているときは、怖くは無かった。勿論、全然怖くない訳ではない。自分より優秀な“人殺し”に対する、当たり前の恐怖心は勿論合った。

 しかし、アリシアにとってマービットが恐怖の対象になったのは、別の理由だった。

「アリシアちゃんとあの子、ソックリだね。」

 今はもう死んでしまった友達が、そう言った瞬間だった。 全身の血液が突然無くなった様な、頭の中に突然石でも入れられたような。 巨大な遠心力に吹き飛ばされるような、数千Gの重力に捕まったような感覚だった。

 似ている。自分は徐々に“人殺し”が平気なアサシンに近づいてきている。

 つまりあれだ。 自分は彼のように成って来ている。

 怖かった。怖くて怖くてたまらなくなった。もう考える事もかなわず、その場でたったまま気絶するほど怖くなってしまった。

 アサシンに成った自分にソックリな男の子。

 しかし。そんな、アリシアにとってこれ以上無い筈だった恐怖の対象を前に、アリシアの心に恐怖が湧いて来ることは無かった。ただ感じたのは、“綺麗だなぁ”と言う思いと、“どこが私と似てるんだろう。と言う、そんな二つのことだけだった。

 弟。この子が?似てないのになぁ。

 係官の話を聞きながら、アリシアはポカンとした顔で、弟。“マービット・ケンブリッジ”を見つめていた。

 係官の話が終わって、最初に動いたのはマービットだった。

 本で読んだ様に、「お姉ちゃん」と呼びながら、姉の胸に飛びついてみた。

 その行動にアリシアは、慌てながらもしっかりとマービットを抱きとめていた。

 その時の事を、マービットは一生忘れない。 飛び込み、抱き締めた“姉”は、確かになんとも頼りなかったが、自分を殺そうとしていない初めての人物。マービットにとって他人が自分に当たり前に抱く畏怖やら恐怖やら忌み嫌う気持ちやらが、破片も無い。寧ろ自分に今まで一度たりとも感じたことの無かった“好意”を持ってくれている対象との、文字通りの初めての接触だったのだから。

 その時の事を、アリシアは一生忘れない。 飛び込み、抱き締めて来た“弟”は、確かに怖い存在ではあったが、自分の胸の中で感情を揺らがせている、一人の人間だったのだから。 驚いたような嬉しいような複雑な感情を入り乱せながら、ギュッ、と抱き締めてくるこの“弟”は、自分が思っていたような“恐怖”の塊ではなかったと思えたのだ。そんな“弟”が、少し、本当に少しでは有るが、自分に“好意”を持ってくれている。確かめた訳では無いが、触れるだけでそうと分かった。言い様が無い愛しさが、アリシアには込み上げて来た。理由なんて、良くわからなし、何でなのかも分からない。難しい心理学を持ってくるものも居るだろうが、関係無いと思った。 自分にこうしてじゃれ付いて来る“弟”を愛しく思ってなにが悪いと言うのだろう。

 

 それが。マービットとアリシアの、姉弟としての最初。始まりの瞬間だった。