博士の風変わりな研究と飯のタネ(27)

 黒いライダースーツに、フルフェイスヘルメット。に、見える装備。 実際には幾重にも魔術的防御加工の施されたそれらを着込んだ“人形”は、まるで人間のように素早く変化に富んだ身のこなしを見せた。 連携と呼べる動きこそ無いものの、一体一体の人形の動きの正確さや戦闘能力は、普通や並の冒険者や戦闘屋の追随を許さないであろう程に高かった。

 が。 にも拘らず、防護服を装備した“人形”たちは、次々に撃破されて行った。理由は簡単。相手が普通や並ではなかったからである。

「気合い斬! 気合い突き!! 気合い連斬!!! 気合い! 気合い!! 気合いぃぃぃぃ!!!」

 何かにとり付かれたように只管“気合い”と連呼しつつ、大剣を振るう英児。その一振りは文字通り空を裂き、“剣風”となって敵を切り裂いた。魔力を含んだ訳でもなく、剣の能力によって作り出されたのでもない、純粋に“腕力”と“剣速”によって作りだされた“剣風”。 勿論、一振りから生まれる“剣風”など、精々車を吹き飛ばす程度のものだ。それはそれで凄い訳だが、“人形”が装備している装甲から見れば、“その程度”と言う言葉を使われてしまうような代物だ。 しかし連児は、その破壊力不足を、マシンガンのような連射で完璧に補っていた。 足を固定し微動だにしないまま、デタラメに振るっているかのようにすら見える勢いで剣を振るい、嵐のような“剣風”の“暴風域”を形成していた。 “人形”達はなんとかその“暴風域”を越えようと接近を試みるものの、襲い掛かる全てが見るも無残吹き飛ばされ、粉々に粉砕されていた。

「なんてデタラメなのよあの赤鎧・・・!」

 英児の“暴風域”から離れた所で、若干引き攣った顔で唸るシュナ。 大量の人形に紛れて距離を取っているのだが、それでも風圧が容赦なく吹き寄せてくる。粉々にされた人形の破片なども、まるで竜巻に巻き込まれたガレキのように宙に舞い上がっている。

「脳みそ筋肉には筋肉なりの利点があるのね・・・どこまでも筋肉だから筋肉疲労が無いのよ。絶対・・・!」

「そんな訳ないじゃん・・・。」

 突然、シュナの真横。何も無い空間から声が響いた。

「なによループ。 こんな所に居ないでさっさととっととあの筋肉バカな赤鎧斬り伏せてきなさいよ。」

「む、むちゃいわないでよ・・・! 僕じゃああんなの近づける訳無いじゃんか・・・! 幾らステルス使って気配も姿も消したって、全包囲攻撃には無意味だよぉ〜・・・!」

 何も無いはずの場所から響くループの情けない声に、思わず溜息を漏らすシュナ。確かにループの声はするのだが、姿は全く見えなかった。光の屈折や後方の風景をそのまま前面に映し出す魔法に、熱や音を消し去る類の魔法。それら高度なステルス系の魔法が複数かけられたものを、ループは着込んでいるのだ。 シュナ呆れたような顔をしながら、ふるふると首を振る。

「情け無いわね〜。そんな大仰な装備着込んでるくせに・・・。 じゃあ、ジェーン倒してきなさいよ! あっち。」

 そう言いながら、英児とは別方向を指差すシュナ。

「あっち・・・?」

 シュナが指差した方に、ループは顔を向けた。その先に居るのは、勿論ジェーンだ。

 微動だにしない英児とは対照的に、ジェーンは地面を滑るような速さで駆け抜けていた。自分を追いかけようと動き出した人形に逆に近づくと、踏み込み足の膝に足をかけ、その動きを封じる。そのままの勢いで、膝蹴りを人形の顎に叩き込む。“シャイニング・ウィザード”と呼ばれるプロレス技だ。そうして人形を一体破壊すると、そのまま宙に身を躍らせ、ホルスターから引き抜いた“オルトロス”を発砲する。二丁一対のリボルバー拳銃。六発ずつ。計12発の弾丸は、一発の狂いも無く人形の頭を打ち抜いていた。 着地すると、ジェーンは素早く弾丸を排出させた。袖口のポップアップ式の装弾装置を起動させ、一瞬で装弾を完了させる。その間にも、近づいてきていた人形を後回し蹴りの一撃で破壊している。

 動き回るうち、いつの間にかジェーンが人形に囲まれたような状態になる事もあった。無論、人形はその瞬間を逃さず、一斉に襲い掛かる。 が。人形はジェーンに触れることすら出来なかった。 拳銃での戦闘術に、ガンカタと呼ばれるものがある。銃での戦闘を、統計学、人体力学、解剖学、その他、様々な要素を取り入れ、最大効率で敵を殲滅するための技術である。時に腕を交差させ、発砲反動すら利用して素早く次の対象に照準を合わせるその動きは、まるで計算し尽くした機械のような正確さを発揮する。ジェーンの射撃は、まさにそれだ。しかし、リボルバーと言う銃の性能上、一度に倒せるのはどうしても精々12体までだ。それ以上の敵に囲まれた場合は、ジェーンはコレをことごとく蹴りで破壊していた。銃で両手が塞がり、接近戦が不利なように見えるが、ガンカタと言う技術を体得しているジェーンにとっては全く問題が無かった。銃弾を蹴りに置き換えれば良いだけの話なのだから。

 まるで計算された“殺陣”のように鮮やかに人形を破壊していくジェーンを眺め、ループは「うへぇ・・・。」と、情けない溜息を吐いた。

「どうしても戦わないと駄目・・・?」

「当たり前でしょう?!」

 姿が見えないループの気弱な台詞に、シュナは怒鳴り声を上げた。 成るべく背の高いループの耳元に口が行くように、精一杯背伸びをしている。

「早いとこあんな連中片付けないと、賞金首が逃げちゃうでしょ! それに、“パペッター”やナップが見つかったらどうするの?!」

「・・・ん・・・。」

 それまであまりやる気が無さそうだったループの雰囲気が、突然真面目なものになった。

 “二十日鼠”の戦術は単純明快。 人形で圧倒し、ループがサイレント・キル。シュナが戦争用の大量破壊魔法で、それぞれ止めを刺す。 それゆえに、“パペッター”とナップは、全くと言って良いほど直接戦闘には向かないのだ。

「分かったよ・・・。英児さんはどうにもなら無さそうだから、ジェーンさんの方、僕が何とかする。」

「分かれば良いのよ。 じゃ、私はあの筋肉バカを燃やし尽くしてやるわ!」

 やる気満々な様子で、不敵な笑顔で握り拳を作るシュナの背中を見ながら。ループは大きく、疲れたような溜息を吐き出した。