博士の風変わりな研究と飯のタネ(26)

 “七海殺戮海賊団”旗船。 “ジェノサイド・ホエール”。

 大型の空中船で有るこの船は、船と耳にして一般の人間が思い浮かべる形を完全に逸脱してた。 見た目と言う点だけで言えば、その様相はまさに“鯨”。 鯨に鎧を着せたらまさにこうなるであろうと言う外見をした、鉄の塊であった。 装甲にはびっしりと様々な機能の魔術式が書き込まれ、仄かに蒼く輝いている。

 その名に恥じぬ戦闘力を有するこの船は、単体で宙に浮いているだけにも拘らず、まるでこの大空の主は自分で有ると言わんばかりに、その存在感と威厳を放っていた。

 そんな船が、今はアクアルートの上空を悠々と漂っていた。 その姿はさながら、獲物を探して回遊しているかのようだった。

 

「しっかしあれなのだ〜。世の中キチンとよい子は報われるように出来てるもんなのだ! たんまたまネットでフリーゲーム探してる時に、ボロモーケな賞金首の情報をゲットしてしまうとは!! コレはもはアタシとダーリンの愛の力としか言い様が無いのだ〜!」

 なぁ〜っはっはっは! と、イマイチ本気なのかわざとなのか分らない笑いを高らかに響かせて、“七海殺戮海賊団”団長にして、“ジェノサイド・ホエール”船長。“ガトリング”ミリー は、ガコンガコンと右腕のガトリング砲で壁を殴りつけた。

 “天使”とも、“悪魔”とも評されるミリーの外見は、黙ってさえいれば実に美しい少女に見えた。 黒髪に、キメ細やかな肌。そして、美しさのあまり、逆に見るものに恐怖を植えつけるほどに綺麗な翡翠色の瞳。 中性的な顔立ちは、見るものの心に様々な影響を及ぼし、魅了し・・・堕落させるほど艶かしいものであった。 “例えば悪魔が天使の顔をして現れるのは、珍しい事ではない” そんな言葉が有る。もしその悪魔がお手本にするとするならば、それはまさにミリーの外見であろう。そう言い切れるほど、彼女は確かに美しかった。外見だけならば。

 グラスランナー。草原を駆け巡り旅と冒険を故郷とする種族。 そのグラスランナーの特徴に外れず、ミリーの外見はまるで幼い子供のようであった。 身長は120cm前後で、顔立ち体付きは、そのまま人間の少女のようである。 が、彼女には大きな外見的特徴が一つあった。右腕の肘から先をガトリング砲に改造しているのである。そしてそれこそが、彼女が“ガトリング”と言う二つ名で呼ばれる由縁であった。

 美しいのかゴツイのか、いまいち分らないミリーの外見であったが、その性格性質。と言うか、ノリは・・・Dr・フェネクスに近いモノであった。

「いやぁ〜。もう、なんて言うか。チャンスってゆーのは意外とその辺に転がっているものなのだ〜! それを拾え上げられるのも人徳?! こーゆーのも船長としての資質の一つなのだ〜!!」

 独り言のような内容を大声を張り上げて言いながら、小さな体をくねくねとくねらせるミリー。その後満悦の表情を見る限り、周りの事は一切気にしていないだろう。

 ミリーが今居るのは、“ジェノサイド・ホエール”のブリッジ。一番後方で全体を見渡せる、艦長席だった。 むろん彼女の他にも、その場には沢山の乗組員が居る。 周りに沢山人が居るのが分っているのか居ないのか、ひたすら自画自賛しまくミリーだった。

 無論。乗組員たちは一人でギャーギャー騒いでいるミリーに迷惑顔だった。

「船長〜! ちょっと静かにしてくださいよ!」

 堪りかねたように言った一人の声がきっかけになり、他の乗組員たちも不満の声を上げ始めた。

「そうだそうだー! 今、近衛騎士団の移動島に睨まれてんだぞー! 真面目にやれー!」

「壁叩かないで下さいよ! 壁! 傷が残るんだから!」

「船長この間ウチがとっといたアイス勝手に喰ったでしょう?!」

「タダでさえ身長低いのにそんな重そうな帽子被ってたらますます縮みますよー!」

「うるせーのだぁ〜!!」

 子分の罵詈雑言に、一瞬も躊躇うことなくガトリング砲のトリガーを引きぶん回すミリー。その短気っぷりたるや、流石海賊といったところだろうか。 勿論、部下たちの取ってはたまった物ではない。 ぎゃー、とか、わぁー、とか叫びながら、ブリッジの中を逃げ惑う。

「何考えてんですか船長?! 俺たち殺す気ですか?!」

「計器やらなんやら壊れたら墜落だぞー!」

「副長! なんとか言ってやってくださいよ!」

 子分の一人が、ミリーの隣に立っている青年、副長に泣きながら訴える。 副長。つまり副船長で有るその青年は、どこと無くミリーに似た顔立ちをしていた。違いが有るとすれば、その身長と性別、そして、雰囲気だろうか。 青年の身長は、約180cmほどであった。グラスランナーのミリーとはかけ離れた身長である。表情は、ころころと変わるミリーのそれとは違い、冷たい無表情だった。 そのせいか、ミリーからは感じられない、神秘性のような、得体の知れなさが漂っていた。

 副長、こと、“シャムリース・クワイゼン”は、未だにガトリング砲を乱射するミリーに目を向けると、しばらく凝視。何事か確認するように頷くと、また元のように視線を前に戻した。

「空砲だ。」

「当たり前なのだ。大切な船の中で誰が好き好んでチャカぶっ放すかってーのだ。」

 しれッとした顔でのたまうミリーだった。

 まるでどこかの喜劇集団張りのヘッドスライディングを決めてずっこける部下たちだった。

「なーに考えてんだよこのアホ船長!!」

「アホ!! アホ船長!!」

「空砲でも十分ビビるは!! そもそも銃口を人に向けちゃいけませんって学校で習わなかったのか!!」

「やかましーのだ! そんなこと言ってる暇が有るならさっさと戦闘準備なのだー!」

 勇ましく腰に手をあてガトリング砲を掲げる船長。不敵な笑顔を浮かべ、その姿には半ば余裕すら窺えた。 が、子分たちは対照的に意気消沈した様子だった。

「無茶苦茶だぁ〜。 相手はレニス王国の近衛騎士団すよ? かないっこねぇ〜。」

「生きたまま臓器屋に解体されるよりも三百倍おぞましいめにあわされるんだぁ〜!」

「自生の句って季語入れるっけ?」

「なに諦めムード漂わせてるのだ?! あの“アッシュ”とか言う賞金首捕まえたら、一千万なのだ!! 一攫千金なのだ! ダーリンと一緒に温泉旅行なのだー!!」

「一千万で温泉旅行って、どんな豪遊するつもりだ?!」

「幾らジェノサイド・ホエールがド級戦艦だって言っても、相手は全長一キロの戦闘移動島よ?! 敵う訳無いじゃない!!」

 ぎゃーぎゃーと喚きあう子分と船長を眺めながら、シャムリースはボソリと呟いた。

「戦闘にはならん。この町の上空に居る限りは。ね。」

 その動きに、全員の動きがピタリと止まった。 一瞬考えるような顔になり、ぱーっと表情を輝かせる。

「そ・・・そうか・・・。考えてみれば連中、俺たちには攻撃できないんだ。」

「街を守るためなら何でもやる奴等だけど、だからこそ“その上に浮いてる戦艦が墜落するような事”は出来ない・・・?」

「ましてやて対艦クラスの砲撃をかますなんてことはもってのほかってか?」

 子分たちの言葉に、シャムリースはコクリと頷く。

「近衛騎士団に入電しろ。我々はあくまで賞金稼ぎだ。って。 レニス王国は“自分達に危害を加えないものならば拒まず”が国風だ。そして我々は、“レニス国籍の船は襲わない”。だから我々の船の補給や修理もこの国で行ってこれたのだろう?」

「今回の仕事は“海賊仕事”じゃなくて、“賞金稼ぎ”だしな・・・。」

「そらとぼけてる間に首ゲットしてトンヅラって寸法か!」

「もっとも我々が堂々と表に晒して置けるようなものでもないのも事実だ。はいそうですかとほうって置いてはくれんだろう。 それにレニスの宰相は何を考えているか分らん。そこそこ名の売れている我々を捕まえて、他の国との外交の材料にしかねんから、安心はできん。だが、行き成り落とされることが無いのはまず間違いない。」

 おお〜・・・。 と、子分たちの間でざわめきが起こる。ちなみに、戦闘も感心しているのかなんなのか。ぽかーんとした分っているのか分っていないのかイマイチ分らない顔をしていた。

「ちなみに。皆には黙っていたが、我々が船の倉庫にはあと二食分の食料しか残っていない。勿論金も無い。ここで賞金首を逃すと、次のカモを見つけるまでしばらく飯抜きだ。」

「・・・!」

 子分たちと船長の表情が、筆舌に尽くしがたい驚愕を浮かべた。 恐らく、コブラに噛み付かれてもここまでの表情は出来ないだろう。

「や・・・野郎ドモ!! こうなったら一歩もひけねぇのだ!! サクッと賞金首捕まえてコキャッと逃げて、とっとと美味しいご飯をモッサリいただくのだぁぁ!!!」

『おおぉぉぉ!!!!』

 ミリーの言葉に、地響きのような大声で答える子分たち。 食の力とは恐ろしく偉大である。

「ぜってー肉買って帰るのだ! 肉!! 明日への活力なのだ!!」

「にーく! にーく!!」

「ウチ、ベジタリアンなんですけどー!!」

 思い思いに叫びながら、自分の持ち場にダッシュで戻っていく子分たち。

 そんな彼等を眺めつつ、実際は砲撃や機動鎧での攻撃はしないまでも、何かしらのアクションはすぐにでも起こすであろう移動島を睨むシャムリース。 が、「まあ、なんと無かるだろう・・・。」と呟き、視線を逸らす。彼にとってもご飯が無いのは一大事なのであった。

「じゃあ、早速行って見るのだ!! 捕まえに行く連中! へましたらおしりぺんぺんなのだー!!」

 元気良く叫ぶミリーの後に続き、シャムリースの指示が飛ぶ。

「機動鎧、水中戦用以外を全機出撃。 散開して首を捜せ。 首以外との戦闘は厳禁。何があっても街と一般人だけは傷つけるな。騎士団に袋叩きに会いたくなかったらな。 船は微速前進。 街上空を旋回しつつ、いつでも全速で逃げられるようにエンジンを暖めておく。」

『イエス・サー!』

 子分たちの返事に、満足気ににやけるミリー。が、子分たちの返事がシャムリースに対するものなのは言うまでも無い。

 ちなみに、海賊団の名前の由来は・・・“艦長がカッコイイと思う単語をくっ付けた”であった。

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