博士の風変わりな研究と飯のタネ(25)

「Dr。面白い情報を弟たちが拾ってまいりました。」

「む。聞かせてもらおうと思うのだがね。」

 モニタを楽しそうに眺めながら、Dr・フェネクスは執事に言葉を促した。

 Dr・フェネクスが見ているモニタに映っているのは、アクアルートで今行われている戦闘の数々だった。 この町には、軽犯罪防止用に、様々な所に監視カメラが設置してあった。 その開発や設計には、様々な技術者が参加していた。その中の一人がDr・フェネクスであることは言うまでも無い。 無論、そんな面白そうなものに細工をしないDr・フェネクスではない。

「アクアルートの中で起こる戦闘は、子供の喧嘩からストリートファイト! 機動鎧戦から超越者戦まで全て私のコレクションとなるのだよ!! はっはっはっは!」

「宜しいでしょうか?」

「うむ。興奮してしまったようだね。報告して欲しいと思うのだがね。」

「はい。 私達が追っている賞金首“アッシュ”に、個人的に賞金をかけた方がいらっしゃるようです。 個人賞金首会社のHPで、“生かして、一切傷つけず”を条件に一千万。 依頼人はシークレットとなっていますが、信頼度は五つ星となっています。」

 それまで、じっ、とモニターを見入っていたDr・フェネクスだったが、執事の報告にユックリと顔を動かした。視線を天井に向け顎に手を当てると、表情を真剣なものに変える。

「ほう。なるべく名を出さずに捕まえたい。と言うことだね。その額を出していると言うことは、自分の手ごまを動かすだけでは我慢が出来ないと言うことなのだろうと思うのだがね・・・。」

 額が額だけに、人一人が賞金をかけて居ると言うより、ドコゾの大企業か何かが“目的”があって金を出している可能性が強い。と、Dr・フェネクスは判断した。 確かに世の中には珍しい種族をコレクションしていたり、奴隷目的で人を捕まえようとする輩も居る。しかし、それにしては事をおおっぴらにし過ぎている。そう言う手合いは、往々にして自分の子飼いのものに始末を付けさせたがるものだ。 生かして捉えろと言うお題目もある以上、うらみ辛みの類でもないだろう。 となると。“アッシュには一千万の価値がある”と判断している、手勢が追うのだけでは待ちきれないほど逼迫した“何らかの組織”が居ると言う事にならないだろうか。

「国ではなく、匿名性の高い個人賞金首会社に掲示を依頼・・・。 彼を追っている理由が知りたい所だね。追う相手を知りもしないで捕まえるというのは、私としては実に気持ちの悪い事だと思うのだがね。」

「わたくしもそう思いまして少し調べてみたのですが、彼に特別な所は今のところ見つけられませんでした。 試しに監視用に路上に設置されている装置を使って体をスキャンしてみたり、出生・生い立ちを追って見たりもしたのですが、特別変わったところは見当たりませんでした。強いて言えば・・・一つだけ。」

「ほう。なにかね?」

「と・・・言っても、コレは彼の種の方には、珍しい事ではないのですが。 “黒の”。“黒の”トレット・レラルム様と接触されたことが有るようです。」

 トレット・レラルム。その名前を聴いた瞬間、Dr・フェネクスは眉間に深く皺を寄せた。

「トレット・・・。あの童顔で事あるごとにその笑顔で世の女性陣を虜にして、それはもう恐ろしい勢いで追い掛け回されている。彼かね?」

「はい。本人にその気が無いのに何故かモテてモテてモテまくり、挙句男性にすら好意を寄せられて引きつった顔で逃げ惑う、おおよそ超一流の冒険屋にして魔術と格闘術の権威には見えない外見で、もう“青年”と呼んで差し支えない年頃なのにもかかわらず性別不詳年齢不詳、ある人物曰く、“天使が居たらまさにこんな姿だろう”と言わしめた、彼の方でございます。」

「むう。破壊的で一撃必殺の打突を基礎であり奥義とする“魔闘士”で有りながら、ベイビーフェイスで天然の女垂らしとまで呼ばれた彼と。」

「あまり関係は無いだろうとは思うのではありますが・・・。」

「私もそう思うのだがね。兎に角気にはなるね。もう少し掘り下げて調査して欲しいと思うのだがね。コレは感なのだけれども、彼がこの街に付くまでの間に通ったルートを特に重点的に調べてみて欲しいと思うのだがね。」

「了解いたしました。仰せの通りに。」

 画面の中で、執事は恭しく頭を下げる。

「む。そうそう・・・。」

 画面から消えようとする執事だったが、Dr・フェネクスは片手を上げて呼び止めた。カタカタとキーボードを叩くと、ウィンドを二つほど開く。

「上空に居る“七海殺戮海賊団”が気になるのだがね。カメラが無くて戦闘が見れないのだよ。出来れば監視用のカメラアイをばら撒いておいて欲しいと思うのだがね。」

「は。了解いたしました。例の“ウサ耳回転式監視カメラ”のテストをする事と致しましょう。 しかし、件の方々は近衛騎士団の移動島に狙われているのでは? カメラが巻き込まれる恐れもあるのではないかと・・・。」

「むう。確かに美味くは無いのだがね。他に良い方法も思いつかないからね。 新作カメラを失うよりも、あの二つの空中戦を見逃す方が私には衝撃が大きいと思うのだがね。 それに、近衛騎士団のことだからね。海賊船と町の上でドンパチする事は無いだろうと思うからね。何らかの方法で海上に引っ張っていくだろうから、町の中のカメラでは見れないと思うのだがね。」

 難しそうな顔で唸るDr・フェネクスに、執事は人差し指を立てて提案をする。

「如何でしょう。ここは一つ、Drも機動鎧で出て見るというのは。」

「ほう?」

 Dr・フェネクスは興味を示し、顔を執事のほうに向ける。

「機動鎧“パーフェクト・パープル”でしたら、無音不可視運行が可能ですし、モニタリングの方もこの研究所を介してリアルタイムに可能です。なにより、大迫力の戦艦戦、機動鎧戦が目の前で見ることが出来るかと。」

「ふっふっふっふっふ・・・はっはっはっはっは!!」

 執事の言葉に暫くキョトンとした顔をしていたDr・フェネクスだったが、突然堰を切ったように笑い出した。 笑いながら椅子から立ち上がると、芝居がかった仕草で上に向かって大きく両手を広げ、胸を反らせてさらに大きな声で笑い声を上げた。

「そうだね! その通りだね! ここまで派手になった以上私もモニタ越しで見ているだけでは我慢できないと思っていたところだよ! 我が愛機“パーフェクト・パープル”!! 今使わずして何時起動するというのかと言ったところだと思うのだがね!!」

 顔をにやけ笑いを浮かべると、Dr・フェネクスはチャキリと眼鏡を押し上げ、モニタに背を向けて歩き出した。

「早速出撃準備を整えておいて欲しいと思うのだがね。」

「了解いたしました。 では、ジェーン様と英児様、“二十日鼠”の方々に、ガルシャラ様、テト様へのご連絡はいかが致しますか?」

「ふむ。そういえば私は連絡役だったね。なに、“パーフェクト・パープル”の機能があれば幾らでも通信も援護も可能だと思うのだがね。 ・・・・・・ん? そう言えば、ジェーンと英児の通信機は、壊れていたと思うのだがね?」

「は。そのせいで今、二十日鼠の方々と戦闘を開始しようとしているようです。どうやら利害が一致して。ジェーン様英児様 対 “二十日鼠”の方々と言う構図に成っているようです。」

「うむ。それはそれで面白そうな展開だね。ある意味良くぞ壊れた通信機と言った所だと思うのだがね。 む。そこには報告は入れなくても良いと思うのだがね。特別私の位置が変わったからといってどうなるものではない訳だしね。」

「は。では、ガルシャラ様、テト様にはいかが致しますか?」

「彼は今ハウザーと交戦中だったね。此方には知らせておいて欲しいのだがね。 テトには知らせは不要だね。気にも留めないだろうからね。」

「了解いたしました。 全てDrの思いのままに。」

 深く頭をたれる執事に背中を向けたまま、Drは歩を進め始めた。楽しげなにやけ笑いを顔に貼り付けながら、Drは考えをまとめるように一人ごちっていた。

「たった一人の少年にかけられた莫大な賞金。それを追うはずにもかかわらず、いつの間にか矛先を互いに向け合う賞金稼ぎ達。ついには指折りの都市であるこのアクアルートを蹂躙するほどの騒ぎに発展した戦闘の数々・・・。 戦うは。小銭、意地、プライド、およそ一般人が命を張るようなモノでも無いもののために、命がけで戦う“冒険屋”、“傭兵”、“戦士団”、“海賊”、“近衛騎士団”。 果たして最後に笑うのは? そして、賞金がかけられた理由とは? いよいよ舞台は・・・。」

 Dr・フェネクスは手を上に突き上げて、パチリ、と、指を鳴らす。 そして、実に実に楽しそうに、口の端を吊り上げた。

「クライマックスだと思うのだがね。」