博士の風変わりな研究と飯のタネ(24)

「あぁ〜。マービットです。 どうっすか周りの様子。」

 ハウザーとガルシャラが戦っているところから、数百m離れた、ビルの外壁。そこから飛び出している窓に機用に腰掛けながら、マービットは通話回線を上空の“イージス”に繋げた。 額や眉間に白彫りされていた魔法陣が淡い色で輝き、その効果により通話を可能にしているのだった。

『随分と賑やかでござるな。戦でも始まったような騒ぎ・・・。』

 マービットの視界の端に四角いウィンドーが開き、直立して和服を着たウサギの胸像が浮かび上がる。 無論、擬人絵ではない。映っているウサギはマービットが通信をしている相手であり、“イージス”の指揮官。王立近衛騎士団 二番隊隊長“神津 雅平(コウズ マサヒラ)”だった。兎人と呼ばれる種族である。

「戦って言えば戦だね。隊長、久しぶりに張り切ってるから。あんな嬉しそうな隊長、久しぶりだよ。 やっぱ昔ッからの腐れ縁は大切だよね。」

『腐れ縁? “要塞落し”とは長い付き合いなのでござるか?』

「まーね。俺達がまだ片田舎に飛ばされてた頃にしょっちゅうやりあってたんだよ。国境近くだったから。奴等、正規ルート通っての国境越えなんてするタマじゃないでしょう? もう隊長怒る怒る・・・。」

 楽しそうに思い出し笑いを噛み殺すマービット。 ふと、本来の目的を思い出し、咳払いを一つする。

「“城落しの”ガルシャラ・カーマイン、“白炎狼”テト・ウルフ。この二人以上の大物は居なさそう?」

『“二十日鼠”に・・・元々このあたりを根城にしている連中だけでござるな。あとは某の獲物である“七海殺戮海賊団”くらいでござろうか。 他のものは軍警や・・・。一番、三番、四番、五番隊の暇をしている連中がひっとらえている様でござるな。』

「ん? 俺も隊長もそんな指示は出してない・・・って、言いたい所だけど・・・。」

『目の前に餌をぶら下げられて、お預けの効く連中は動いてなどおらぬのでござるがな。一部のモノが自主的に騎士団の装備を使って鎮圧しているようでござる。』

「だよねぇ・・・そうなるよねぇ・・・。 まあ、そう言う連中が集まってるからこその我が騎士団、ってことだよねぇ。」

 くすくすと、にやけ笑いを浮かべるマービット。人好きのする綺麗な顔に微笑を浮かべ、スリスリと顎をさする。

 元々、軍内部、外部問わず。実力のみを見極められ選抜、編成されたのが“近衛騎士団”である。そのせいか、一人一人の色が非常に濃い。軍規も騎士道も関係なく、暴れたいから暴れると言う輩も、少なからず居る。 しかし。そう言う連中も各隊長には頭が上がらない。

 故に。“隊での行動外”である休憩、休暇中の連中は、コレ幸いと暴れている。と言うわけである。

「まあ、いいよ。うん。そろそろ隊長連中も動くと思うし。特に命令は出さないね。」

『御意。 では大物以外はそれらの者たちに任せることに。』

「うん。君は“七海殺戮海賊団”の相手してあげて。 ああ、潰さないでね? 追っ払うだけで良いから。街中で落とされたらたまったもんじゃないし。」

『は。心得てござる。』

 深々と頭を下げる神津。と、思い出したように顔を上げる。

『そうそう。部下が面白い情報をネットから拾ってきたのでござるが。』

「へぇ?」

『アッシュ。この騒動の中心賞金首なのでござるが。個人賞金会社で、特別手配が付いたようでござる。ほんの数十分前なのでござるが。』

「額は?」

『一千万。』

「一千万? なにそれ! 豪邸立つよ?!豪邸! で、誰なのそんな賞金かけたのは。」

『調べているのでござるが、どうにも・・・。今しばらく時間をいただきたく。』

「個人情報、か。信用第一の商売だもんね〜。」

『それと・・・。もう一つ。 “名も無き悪魔”Dr・フェネクスが、この件に首を突っ込んでいるようでござるな。』

 Dr・フェネクスの名を聞いたとたん、マービットの顔がグニャりと歪む。

「勘弁してよ・・・あの人・・・いや人じゃないけど・・・あの人がかかわると全部が全部大事になるんだよ・・・。 下手したら“アサシンドール”出さなくちゃいけなくなるのかなぁ。そうなると隊長の“シルブリントップ”?  ん、そう言えば、“二十日鼠”は誰かと交戦中なの?」

『は。“魔弾”と、“新田 英児”。両名と交戦中。どうやら二人対“二十日鼠”の構図な様子。』

 何かもう。居た堪れなくなって頭を抱えるマービット。

「そこ。絶対、機動鎧戦になる。断言しても良い。」

『で、ござろうな。 某等が介入致しましょうか?』

「いい。余計拗れる。 あのDrが居れば、街中で暴れる事は無いしね。 街中では。 ほかでは知らないけど・・・。 それに、下手なの持って行っても装備減らされるだけだよ。人員タダでさえ少ないんだから。あれだ、Dr関連の奴は監視付けるだけにして。」

『触らぬ神に祟り無し。 御意。 それでは某は海賊退治と参る事に。 副長も御武運を。』

 その言葉を最後に、通信が切れる。それと同時に、上空の“イージス”がユックリと動き始めた。

「それにしても一般人の退避早いなぁ。この国は・・・。戦時中の名残だね。」

 周りを見渡し、溜息を付くマービット。と。

「話は終った見てーだなぁ? 態々待ってたやったんだ。楽しませろよ?」

 横合いからそんな声が聞えてきた。 声の主は振り返らずとも分る。 “白炎狼”。

「あぁ〜。テトさん。待っててくれたついでに、見逃してくれると有り難いんスけどぉ〜。」

「なわケネーだろ。ふざけろボケ! ガルシャラばっかり楽しませてたまるかってンだ!」

 噛み付かんばかりの勢いでがなり立てるテト。

 不敵で凶悪な笑顔を浮かべるテト。それを見ながら、マービットは先ほどまでとは別人のような、頼りなさげな引き攣った笑顔を浮かべるのだった。