博士の風変わりな研究と飯のタネ(23)

 真っ黒な光沢の無い布製のライダースーツ。それが一番近いだろうか。 全身を覆うそれに、同じく黒のロングブーツ。手には丈夫そうなグローブ。顔はフルフェイスヘルメットに暗視ゴーグルを取り付けたような奇妙なヘルメット。

 見るモノが見れば、一目でそれと分る“魔道添付式強化装備”で身を固めた複数の人が、いつの間にかぞろぞろとジェーンと英児を取り囲んでいた。

「おいおいおいおいおい! なんだよありゃ。 もう近衛騎士団が出張ってきたのか?」

 英児は舌打ちをしながらも、ジェーンに向けた構えを崩さなかった。 ジェーンの方も、英児に向けた銃口を微動だにしないまま、周りの状況を窺っていた。 御互い、周りを取り囲むフル装備の集団より、目の前の一人の方が危険だと判断しているのだ。

「馬鹿かお前は。近衛騎士団は大量生産の標準装備なんてしない。実働部隊は全員特性に合った一点もので固めてるんだよ。中には一人で一億近く使う奴もいるんだよ。」

「一億・・・?! ええっと、俺の世界のレートでアレが約一万円でこっちでは百だから・・・。百億円だぁ?! 何に使うんだよそんなに!!」

「知らないよそんなもん。それより目の前の状況でしょう。」

 英児は僅かにも動かないまましばし黙り込むと、苦々しそうに一言。「“コレ”生き物じゃねーな。」

「人形だね。確かに。多分・・・。“パペッター”辺り? こんなに大量に使えるのって。」

「パペッター? 人形遣い? 一人称の方か?」

「一人称の方ね。“二十日鼠”の“パペッター(人形使い)”。」

「その通り!!」

 にらみ合いながら言葉を交わすジェーンと英児の横合いから、突然宣言するような大きな声が上がった。声の主は胴衣のような服を着て、荘厳で大振りな杖を装備した少女だった。

「“二十日鼠”戦士団登場!! あんた達二人は完全に囲まれてるわ!! 大人しくその賞金首諦めて帰りなさいよ!!」

 なぜか人形の肩に足をかけ仁王立ちしつつ、シュナはジェーンと英児に向かって人差し指を付きたてた。

「・・・おい。なんか言ってるぞ。リアクションしてやれ。」

「知らないわよ。おら。あんたこそあっち向いてなんか言ってやんなさい。」

「ちょ、ちょっと! なに無視してるのよ! さっさととっとと帰んなさいよ! 賞金首のアッシュは私が捕まえるんだから!」

「あー、うっせぇ! 黙って消えろ!」

「色々面倒臭くなる前に帰んなさい。」

 完全に囲まれ、脅されているにも拘らず。動じるどころか意にもかえさない。

「ひ、人を馬鹿にして・・・!人の話聞いてるの?! さっさと! とっとと! 帰りなさいよ!!」

「うるせぇーなぁ〜。戦争屋は大人しく合戦場で金稼いでろ。あんまりはしゃぐとぶっ飛ばすぞ。」

 英児の言葉に、シュナはかぁ〜っと顔を赤くした。怒っているらしく、表情を険しくする。

「ふざけないで!! たかが冒険屋と傭兵二人が私達を無視するだなんて・・・! 頭おかしいんじゃないの?! 取り囲まれてるこの状況が分らないの?!」

 シュナが、“たかが冒険屋と傭兵”と言った瞬間だった。それまでにらみ合っていたジェーンと英児の顔が、ぐるりとシュナのほうに向いた。 表情こそにらみ合っている時と変わりないものだったが、その眼光は、見るものを射抜かんばかりに鋭いものになっていた。

「このお子様体系・・・。たかが?たかが冒険屋? どの口がそんなこと言ってくれちゃったのかしら? ああ?」

「その台詞。俺に喧嘩売ってるってことだよなぁ? こら? おい?」

 恐ろしい勢いでガンを飛ばすジェーンと英児。

 この二人それぞれにとって、自らの職の名と言うのは、神聖なものだった。決め付けられたら、「決め付けてんじゃねぇ!」と喚き、やれと言われたら、「死んでもやらねぇ!」と言い返す二人である。ともすれば職の名で括られるのも嫌いそうなものだったが、実際は違っていた。 彼等にはそれぞれ、職に対して“理想”があった。それは実現可能な理想であり、それは理想と言うより寧ろ、騎士道や武士道の様な戒律であり決まり事であり、貫くべき流儀と言うべきものだった。 それを頑なに守り貫く事を自分に課し、それを貫き続ける。その証が、職として名乗る“冒険屋”であり、“傭兵”なのだった。

 それを馬鹿にされた二人の怒りは、並大抵のものではなかった。 それはもう、さっきまで殴り合っていた相手と無言で共同戦線を張るほどである。

「その台詞吐いた事・・・体で後悔させてやる!」

「泣いて謝っても許さないから。覚悟しなさい?」

 ジェーンと英児の尋常ではない迫力に、シュナも一瞬で地雷を踏んづけてしまった事に気が付いた。 二人の実力は、シュナも良く心得ている。怒らせて本気を出されたら、かなりまずい事も良く分っていた。 が。

 今のシュナにとって一番大切なのは、“賞金首を捕まえる事”であった。そのためにはまずこの二人を速やかに排除しなければならない。現状では、このまま何事もなく帰ってもらうことは不可能だろう。ならばどうするべきか? 答えは一つである。

「ふん! その言葉、自分達の置かれた立場を弁えて言うことね!!」

 売られた喧嘩を最安値で買う。 そう。それがシュナの出した答えだった。 と言うか。シュナにしても、無視されたりお子様体系呼ばわりされてかなりご立腹だったのだ。

 まあ。ぶっちゃけた話。三人ともあまり気の長い落ち着いた性格ではなかった。と言うことだろう。