博士の風変わりな研究と飯のタネ(20)

 剣が唸り、まるで蝿でも払うかのように弾丸をなぎ払う。 棍棒でも振るうような風斬り音を上げる剣は、切り裂いた風を衝撃波として打ち出し、敵対者を襲う。

 銃を操る敵対者は、衝撃波と言う目に見えない巨大な破壊の風を、剣の動きで予測し回避すると、剣使いの背後の鉄骨に照準。引き金を引く。 打ち出された弾丸は狙い違わず、“鉄骨にあたり兆弾し、剣使いの背中に着弾する”。

 しかし、兆弾で威力の落ちた弾丸では、とても剣使いの装甲は貫けるものではなかった。

「兆弾かよ・・・。良く当てられるもんだぜ・・・!」

 剣使い。 英児は楽しげにそう呟くと、体を沈ませ、跳躍。一気に敵対者、ジェーンとの間合いを詰めると、大上段から斧でも扱うようなような大げさな動作で剣を振り降ろす。 防御を無視した動きだが、全体重と腕力を乗せた剣撃は、思いのほか速い。完全に攻撃のみに集中したためか、鋭さと言う点では不可視である衝撃波の上を行っていた。

 一瞬で間合いを詰めてきた英児に対し、ジェーンは反射的に引き金を引いていた。狙っていたのは、英児の剣である。 現在込められている通常弾では、英児の装甲を貫く事は出来ないし、速度の乗った突進のようなこの攻撃を止める事は出来ない。ならば・・・。

 ジェーンの狙い違わず、英児の剣は、“弾丸による僅かな衝撃”から起きたブレと、ジェーンの僅かな体重移動により避けられてしまう。 ジェーンの真横の地面に剣を叩き込む形になった英児。 無論、ジェーンはこのチャンスを見逃さない。土や衝撃波を避けるため横飛びに飛びながら、ジェーンは両手に持ったリボルバーの引き金を引く。

 マズルフラッシュが輝き、弾丸が英児の体に吸い込まれるように接近していく。だが。英児は地面を砕き、突き刺さった剣を無理矢理引き抜くと、裂帛の気合いと共に飛び上がる。とは言っても、落下時の衝撃と突き刺さった剣の重さで、そう高くは飛べない。だが、それで十分だった。 僅かに浮き上がった体を捻り、棒高跳びのような体勢を作る。 ジェーンの銃は、あくまでリボルバーだ。装弾数は、左右合わせても12でしかない。それに付け加えて、ジェーンの異常なまでの早撃ち。それが返って仇となり、逆に避けなければいけない“弾幕”の範囲を狭めていたのだ。

「ちっ・・・。」

 ジェーンは一つ舌打ちすると、バックステップで距離を離しながらリボルバーに弾丸を込めた。袖口の機構から弾丸がホップアップし、一瞬で装弾は終る。弾丸には全て、“不可視”と“無音”の添付魔法を施す。破壊力は期待できなくなるが、命中性を重視すれば一番良いチョイスだろう。

ジェーンが装弾を終え、再び銃口を英児に向けるのと、英児が体勢を立て直し剣を構えるのとは、ほぼ同時だった。

「面倒臭い男だなお前も・・・。」

「テメーに言われたかねぇよ。気合斬避けやがって見えねぇ癖に。」

 御互い憎まれ口を叩きながらも、得物はしっかりと相手の急所を狙っている。

 長引く。 二人がこの戦いを、そう判断したそのときだった。

 周りのビルの影から、ユラリ、と・・・。 “無数の黒装束の人影”が現れたのは。