博士の風変わりな研究と飯のタネ(17)

 王立近衛騎士団。 レニス王国においてそう呼ばれる騎士団は、団長である“白銀の重戦車 ハウザー・ブラックマン”を頂点に据えた、超好戦的な組織として存在していた。

 “近衛”とは名ばかりに、実際には国王と宰相の命令の元、様々な軍事行動に携わる王立近衛騎士団は、総員3000名以上。各地に散らばる諜報員を含めれば延べ4000名以上にもなる巨大な組織である。

 騎士団は、一番隊から五番隊。そして、団長が直々に指揮する零番隊の六つの隊に分類されていた。 それぞれ、移動要塞や空中艇を擁し、中には宇宙港を持つ隊まであった。故にその機動力は強豪列国の有する様々な軍事組織の中でも、最高。他を全く寄せ付けなかった。

 

「そう。うちの機動力は最高峰ッス。つか、ほかが付いてこれんレベルなんすよ。そりゃあんたあんだけ金と優秀な人材つっこみゃそうなるってもんで・・・。 そうっすよねぇ。そのはずっすよねぇ。 でも・・・。」

 王立近衛騎士団 副団長。“マービット・ケンブリッジ”は、隣でがっしゃんがっしゃんとロボっぽい音を立てて歩く直属の上司に、渾身の力を込めた突込みを放たんと、全身全霊、全ての勇気と根性を練り上げた。

「なんで歩きなんすか?! 乗りましょうよ移動要塞?! 大体なんで俺たち二人で歩いてるんすか?!」

 二十六歳とは思えない駄々っ子っぽい挙動で、全身を使って抗議するマービット。そんな自分の副官に、ハウザーはフルフェイス越しにも解る溜息を吐き出した。

「鉄の塊は空とばねーンだよ。航空力学無視しやがってあの移動要塞ってのはよぉ〜。大体移動なら歩きゃいーんだよ! 歩きゃよぉ!! 大体何のために俺の鎧にブースター付いてると思ってんだよ!」

「そのブースターも航空力学無視してますよ! つか、なんで騎士団長の直属部隊が俺だけしかいないんすか!! 意味わかんないっすよ!!」

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうっせーなぁーコノタコ! どうせ俺ら雑用と書類仕事しかしねーンだから、二人もいりゃ十分なんだよ!! 組織の上の方ってのは人数少ないもんだろうが!!」

「じゃぁなんで俺ら今現場にいるんすかぁ〜!」

「俺が現場に出たいから。」

「むちゃくちゃっすー!!」

 ぎゃーすとか良くわからないダメージ音を発しながら泣き崩れるマービット。 ちなみに、彼等の頭上には、王立近衛騎士団二番隊所属 移動要塞“イージス”が浮かんでいた。本来は零番隊に所属するはずのこの要塞は、「二人じゃ無理。」と言う至極最もな理由から二番隊に寄与されたのであった。

「うっるせーなーテメーはよぉ〜!! 頭潰してやろうかゴラ! ああ?!」

 ぐずるマービットにハウザーが痺れを切らせ、手にしたランスを思いっきり振りかぶった。そのときだった。

 横合いから突然、バァァァァァ!!と言う、まるで滝のような音とともに、無数の弾丸が押し寄せてきた。

「ぎゃー!なんすかこれぇ〜!!」

 転がって喚いていたにも拘らず、一瞬にしてハウザーの背中に隠れたマービットは、叫びならが弾丸の飛んで来る方に目を向けた。 そこに居たのは、全長5メートル。市街戦用の灰色掛かった迷彩を施された、中型機動鎧だった。 それも一機や二機ではない。少なくとも六機以上が、此方に銃口を向けて打ってきているではないか。

 そんな状況にも拘らず、ハウザーは両手に一振りずつ持ったランスを、まるでバトンのように高速旋回させ、弾丸をことごとく叩き落とす。

「都市迷彩にマシンガン・・・?! 傭兵とかが使う、ゴーレムタイプっすよ! それ自体にも意識があるゴーレムに人が乗れるようにしたもので、知能が有る分機動鎧が操縦の誤差修正や射角修正をしてくれたり、自動操縦も通常とは比べ物にならないレベルだっていう・・・!」

「なんで説明口調なんだよお前。」

「隊長知らないじゃないっっすか。教えといた方が良いと思いまして。」

「殴るぞこのやろー。俺だってそのくらい知ってらぁ! 知らないけどな!」

「どっちっすか! つか、何で俺ら撃たれてんすか?」

「連中が賞金稼ぎで、俺らがその仕事邪魔しようとしてるからだ。」

「あぁ〜・・・。納得っす。 でも、街中で発砲ってのはいただけないっすねぇ〜。」

「あたぼうよ。 全部スクラップにしてやらぁ!!」

 一声吼えると、ハウザーは自分の鎧を起動させた。 戦車をあしらったフルフェイスに、太股部分と背中に取り付けられた噴射装置が印象的な全身鎧である。マジックアームのように太股から生えたそれは、全方向に自由に向くことが出来る魔道式ロケットブースターだった。脚部分に施された浮遊呪式によって体を浮かし、そのブースターの推進力を持って進む事が出来るようになっているのだ。 さらに背中に取り付けられた二対の大型ブースターを併用すれば、最大戦闘速度は音速にも至る。 もっとも、直進しか出来ないため、普通の人間はあまり使わないので有るが。

 しかし。ハウザーは普通の人間ではなかった。

「喰らえボケガァ!!」

 気合い一括。計四つのブースターをフルスロットにいれ、両手に持ったランスを脇でしっかりと挟み込み、機動鎧に突撃をかけた。 無論、二本一対のランスもただの鉄の塊ではない。 様々な魔法を幾重にも施し、対魔法、対物衝撃緩和能力と言う防御方面に加え、超振動による粉砕まで可能にした、現代魔法学の粋を集めた大魔槍なのだ。

 全身鎧。そして槍。これらはハウザーが使うことを前提に、ハウザーだけのために作られた、言わばオートクチュールである。とある魔剣職人が彼の戦闘能力に惚れ込み作り上げたこれらは、全てあわせて一つの名前が付けられていた。

 “アンブレラ・レインブーツ”作 “アシュラ・8(阿修羅重威斗)”

 例え相手が巨大な筐体に複数の防御魔法を込めた機動鎧だろうとも、このアシュラ・8を装備したハウザーの直撃を受け、無事に済むものではない。

 ギャァァァン!!  金属が引きちぎれるやな音を立てて、一機の機動鎧が地面に倒れ付す。 その両手両足は無惨に引きちぎられている。無論、それをやったのはハウザーである。

「はぁっ!! 大したことねぇなぁ!! おい!!」

 倒れこむ機動鎧の後方、抉れた地面から上がる土煙とともに、ハウザーは立ち上がった。

「俺のシマ(領地)でチャカ振り回したらどうなるか! その体に刻み付けてやるからなこのボケどもが!!」

「程ほどにして欲しいっす・・・。」

 戦闘に巻き込まれないように近くのビルの陰に隠れながら、ぼそりと呟くマービット。 届かない願いだとは知りつつも、嬉々として機動鎧に飛び掛かっていく直属の上に祈らずには居られないマービットなのだった。