レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ ハウザーとアルベルトのファーストインパクト

 アルベルトが始めて“ハウザー・ブラックマン”と言う男に出会ったのは、彼が宰相の地位について間もないときだった。

 現在の王である“レニス・スタッカート”が王位に付いたと当時に、一介の冒険者から一気に宰相になった彼には、腹心と呼べる人物が殆どいなかった。 故に、当時のアルベルトにとって“使える人材”を探す事は最重要且つ、最初にしなければならない仕事だったのだ。

 

 “ハウザー・ブラックマン”。 その男に関する報告書は、にわかには信じがたいものだった。

 曰く。 魔力駆動の車輪を付けただけの対魔法鎧と、モーターを取り付けたドリルそっくりな槍一本で、敵対国の小隊を全滅させたという。 しかも相手は、精鋭と名高い強化魔道歩兵のみで構成された部隊だというのだ。

 どんな化けモンだよそいつはよ・・・。

 呆れ半分で資料に目を通していたアルベルトは、世の中には意外とバケモノが多いのだな。と、思い知る事に成った。

 ハウザーが戦っていた映像、証言。 どれをとっても、ハウザー・ブラックマンがたった一人で敵部隊を全滅させたとしか考えられないものばかりだった。 いや。正確には彼の部下がいたということだったが、その人物は終始逃げ回っていたという。

 会って見よう。 アルベルトがそう思い立ってから実際に会うまで、さして時間は掛からなかった。

 

「なんだこのチビ。 お偉方に呼び出されたんじゃねーのか?」

 第一声。ハウザーはアルベルトを睨みつけると、実に自然な口調でさらりと言い放った。 嫌味でもなく、ボケている訳でもなく、ナチュラルにそう言ったのだ。

「ああ?! お前上司の顔もしらねーのか! 俺がそのお偉方、“アルベルト・ストラルフ”さんだぼけ!」

「アスファルト・ストライプ? 聞いた事ねーぞ。」

「アルベルト!! アルベルトだ!! つか、マジで言ってのかてめぇ!!」

「テメーさっきから聞いてりゃボケだの何だの抜かしやがって、このチビ助が! ぶっ飛ばしてやるからそこに直りやがれこらぁ!!」

 アルベルトに殴りかかるハウザーだったが、すんでの所で彼の部下が後ろから破壊締めにするのだった。

「隊長! 落ち着いてください隊長!! この人マジで宰相閣下っすよ! 洒落にならないっす〜!」

「ああ?! この生意気なガキが宰相?! まじでか?」

「まじっす。」

「じゃあ、このミニマム宰相に言葉遣い教えてやらぁ!!」

「上等だこのボケ騎士野郎が! テメーみたいなへなちょこに殴られたってへでもねーってンだよ!!」

「何挑発してんすか〜?!」

 そんなこんなで、一時間後。

 アルベルトはハウザーの足元に転がる事に成ったのだった。

「ご、ごはぁっ・・・! つ、つか・・・俺こう見えても、“大陸中央戦争”じゃブイブイ言わせてたんだぞ・・・! その俺に、剣一本で・・・?!」

「ああ?! なにほざいてんだボケ! 俺は騎士だぞ?! 魔法だろうがなんだろうが、テメーくらいの錬度の奴なら効きゃしねーってんだよ!!」

 騎士だから云々と言う問題では無い。 アルベルトは間違いなく、この国でも十本の指に入る使い手であり、その彼は今、ハウザーと言う男を倒す気で戦い、ものの見事に負けていた。実戦経験も魔法技術も、体術さえ兼ね備えた一騎当千の“歴史に残る天才”と呼ばれる“アルベルト・ストラルフ”が、剣を持っただけの騎士に負けたのだ。

「て、テメー。ほんとに人族かよ・・・。」

「ああ?! 他に何に見えるってンだこのチビ!」

「って、隊長?! まずいっすよ! 俺たちタダでさえ場末の超極小部隊の、っつか、たった二人しかいない部隊なのに、こんなことしたらただじゃすまないっすよ?!」

「安心しろマービット。ここより最低の場所に飛ばされる事はねぇ!」

「飛ばされる以前に首切られるッス・・・! つか、二人の喧嘩で隊舎フッとンだっすよ! 周囲五百メートル更地ですよ!」

「うるせーっつってんだろばーか! 元々この当たりは何も無かっただろうが!」

「・・・それはそれで寂しいッス・・・! つか、宰相閣下も無茶苦茶ッス! お忍びでこんなど田舎に来るわ兵舎フッとばすは・・・!」

「まぁ。良いじゃねーか・・・。 それよりハウザー。」

「さんを付けろこのミジンコチビ!」

「黙って聞けよ・・・。 お前に兵隊くれてやる。」

「ああ?」

 釈然としなさそうな顔のハウザーだったが、この後に続く台詞を聞いて、表情が変わる。

「俺には腹心があんまりいなくてな。 特にお前みたいな奴が一切居ない。 だから、お前に部隊をくれてやる。俺の手の届く範囲。アクアルートに来て、国の中枢に近い所で仕事をしてくれ。

 つまるところ、大昇格である。 ハウザーはそれまでのヤクザかチンピラのような表情とは違う顔をしていた。 完全に怒りに満ちた顔。

「じゃあ、この村はどうなる。」

「ああ? 元々お前等がここに来たのは嫌がらせみたいなもんだ。ここには元々、隊の駐屯予定はないか・・・」

 当たり前のように言ったアルベルトの言葉に、ハウザーは全身から怒気を放つように叫ぶ。

「ザケンなくそぼけがぁぁ!!! 俺が!! 騎士が守るべきは国なんかじゃねぇ!!

「はぁ?!」

「テメー、宰相!! 良く聞け!! テメーが食べるパンは誰が作る?! テメーが住んでる場所は誰が建てた?! いつもいつも当たり前に飲んでる水は誰が井戸から汲んだ?! 全部民だ!! 俺たちもお前も、王も!! 皆民に食わせてもらってるんだよ!! そして俺達はその代わりに!! 命に代えても民を守る!! 俺はこの村で二年過ごした!! 二年間、俺はこの村の土と森と畑と、民に食わせてもらってきた!! だから俺はこの村を命に代えても守る!! そう決めた!! 大体、この村は一度襲われてるんだぞ?! それも敵国の精鋭にだ!! いつ敵が来るとも知れないのに、騎士が守るべき民を置いて別の所にいけると思ってやがるのか!!」

「隊長〜。そう興奮しないでくださいよ〜。」

「喧しい!! 勘弁ならねぇ! マジでぶっ殺してやる!!!」

「あぁ〜!! 落ち着いてくださいっす〜!!」

 暴れ狂うハウザーと止めようとする彼の部下を眺めながら、アルベルトは馬鹿のようにぼけーっとしていた。 やがて肩をガクガクと震わせると、大声で笑い始めた。

「なんだ? 殴る前に頭悪くなったか?」

「違うわ!! 気に入った! 気に入ったぞ“ハウザー・ブラックマン”!! テメーに王立近衛騎士団をくれてやる!! 好きに使え!! だか、この騎士団が守る管轄はここじゃねぇ!!」

「ああ?! テメー話聞いてなかったのか?!」

「騎士団が守るのはこの国全部だ!! この国全ての騎士への支持系統がテメーの下に入る!! 好きに使え!!」

「はぁ?! テメーマジで言ってのか?!」

「あたりメーだボケ!! テメーの心意気気に入った!! だが、この村を守るだぁ?! ちまいこちってんじゃねぇ!! 守るなら徹底的に守って見せろ!! この国と、この国の民全部をなぁ!!!」

 アルベルトとハウザーがであって、約一時間と数分。 こうして、“ハウザー・ブラックマン”と言う、田舎騎士は、一瞬にして国の顔とも言うべき地位に納まったのだった。

 

ハウザーは騎士団長に成るに当たって、部下を一人連れて行きたいと言い出した。 彼が田舎の弱小部隊に飛ばされる、ずっと以前から下にいた男で、アルベルトに襲い掛かるハウザーを必死になって止めた人物だった。

 名は、“マービット・ケンブリッジ”。

 “ハウザー・ブラックマン”の懐刀にして、見た目に反して優秀な副官である。