博士の風変わりな研究と飯のタネ(15)

「さてさて。五人とも出て行ったことだし、私はそそくさと自分の仕事をする事にしようと思うのだがね。」

 うむうむと頷きながら、Dr・フェネクスはぱちりと指を鳴らした。それを合図に、彼が座っている周りの床が抜け、下から大掛かりなモニターがせり上がって来る。

 Dr・フェネクスはその様子を満足げに眺めながら、自分の仕事机の上に乗せていた猫耳付きのカチューシャをガシーンと装着する。

「“猫耳型思考感応装置”。 通常のイメージフィードバック装置を改良! 猫耳を模する事で性能を約3倍にする事に成功したのだよ。角をつけて赤くするのと同じ倍率と言うのが、実に素晴らしいと思うのだがね。」

 そんなどうでも良い事をのたまいながら、脚を組み、頬杖を突くDr・フェネクス。絵的には激しく悪役っぽいが、言っていることと装備がからっきしである。

 巨大モニターは一度点滅すると、まるでパソコンのデスクトップのような画面を映し出した。 そしてそれは、まるで、と言うか、そのままデスクトップなのだった。

 魔法文明と科学文明が発展したこの世界には、電子回路と魔法回路を併用したコンピューターがあった。 通話用のケーブルや専用ケーブルを使用したインターネットまである。 いまDr・フェネクスが準備しているのは、彼専用のスーパーコンピュータなのだった。 Dr・フェネクスが今装備しているカチューシャで思考を読み取り入力する事により、その入力スピードと量は、驚くべきものになるのだった。

「このアクアルートはいたる所に監視カメラなどがあるからね。ハッキングすれば、居ながらにして様々なことが出来ると言う寸法だね。 街に転がっている工事用機械もコンピュータ制御だからね。此方も利用させてもらおう。壊してしまうかもしれないが、働くお父さんお母さんお兄さんお姉さんには諦めてもらうしかないね。私の楽しみのためである訳だしね。」

 無茶苦茶な事を言いながら、眼鏡を掛けなおすDr・フェネクス。 そんな彼の前のモニターのなかに、突然人の姿が浮かび上がる。 まるで執事のような服に身を包んだその男は恭しく頭を下げると、ゆったりと落ち着いた笑顔を浮かべた。

「御久しぶりです。Dr。 このごろ私が呼び出されて居ない所を見ますと、どうやら篭りきりで研究をされていた御様子。 偏った食生活などされていませんか?」

「久しぶりだね執事君。 いやいや。偏った食事と言うが、白米だけの生活で恐ろしい力を発揮する人物も居るこの世の中だよ。それも悪くはないと思うのだがね?」

「ジェーン様のことですか。しかし彼女は特殊も特殊。 数千年もお世話をさせて頂いてきたわたくしの経験から言って、Drがそのような事を仰られる時は、何も召し上がっていらっしゃらない時と判断せざるを得ないのですが?」

「はっはっはっは! 見抜かれているね! まあ、その事についてはあとでしかられる事にして、仕事をしなくてはならなくてね。サポートを頼みたいのだがね。」

「は。すぐに準備を整えましょう。この街の大半のカメラと工事機械に流したウィルスは健在なようですので、すぐさまお仕事を始めていただけるものと思います。」

 とたんに、モニター上から執事が消え、画面が目まぐるしく動き出す。 倉庫街、道路、店の中。ありとあらゆる映像が次々と映し出されたはきえていく。

「さてさて。今日は情報化社会での冒険者の渡り方と言うのを、ご覧に入れようと思うのだがね。」

 ニヤリと笑うDr・フェネクス。が、頭の猫耳カチューシャが全てを台無しにしている事は・・・言うまでも無い。