博士の風変わりな研究と飯のタネ(13)

 アクアルートの、撃ち捨てられた倉庫街。 その中の一つ。“Dr・フェネクス研究所 兼 個人冒険小屋”に、その面子はたむろっていた。

 “ガルシャラ・カーマイン”“テト・ウルフ”の冒険者コンビ。 そして、“ループループ”“シュナ・ブリット”“パペッター(人形遣い)”そして、いまはループの膝の上で眠りこけている“ナップ・ラグタイム”の、戦士団4人組みだ。

 この六人は、それぞれテーブルを挟んでソファーに座っていた。

 ついさっきまで戦っていたのだから、御互いリラックスできる訳も無く、何となく殺気立った雰囲気を互いに放ちあっていた。 テトとシュナなどは、お互いにガンを飛ばしあっているほどだった。

「・・・で、呼び集めてどうするつもりだ? Dr。」

 にらみ合うのに疲れたかのように溜息を吐くと、ガルシャラは長テーブルのお誕生日席に陣取り足を組んでいるDr・フェネクスに顔を向けた。 賞金首を取り合って争っていた六人を止め、この場に集めた人物。 それは誰有ろう、Dr・フェネクスだったのだ。

「はっはっは。 友人同士が戦っている様と言うのは、見ていて胆が冷えてしまってね。止めに入ったのだよ。 それに、目的もあったしね。」

 Dr・フェネクスは懐からシガレットケースを取り出すと、中から葉巻を取り出し、咥える。

「その前に聞いておきたいのだが、君たちの目的はなんだね? ああ、と言っても、金が手に入ったら何をしたいのか、と言う意味なのだがね。」

「・・・・・・ああ。なるほど・・・。」

 何か合点がいったのか、大きく頷くガルシャラ。 かけたサングラスを押し上げると、リラックスしたようにソファーに深く座りなおす。

「少しミスをしてしまって、食堂の親父に車を取り上げられてな。 取り返すのに大急ぎで20ほど用立てないといけなくなったんだ。」

「って。ちょっと! あんた達たった20のために首かろうとしてたの?! 頭可笑しいんじゃない?!」

 馬鹿にしような怒ったようなシュナの売り言葉を、テトは言い値で買う事にしたようだった。 こめかみに血管を浮かび上がらせると、限界までメンチを切ってテーブルにドカンと足を乗せる。

「うっせぇ! 財布落としたんだから仕方ねーだろーが!!」

「はぁ?! 財布落としたぁ?! アンタそれでも冒険者なの?! 自己管理ぐらいしっかりしなさいよね!!」

「金なんざ落としたって稼げるから良いんだよ!! 生憎俺等はテメーらより稼ぎもいいしなぁ! 腕が良いからぁ?!」

「な、何ですってぇ?! この白髪チビ!!」

「誰がチビだ!! 焼くぞこら!! 俺は普通だっつーの! ガルシャラがでかすぎるからそう見えるんだよ!!」

「はっ! 私よりちっこいくせに良く言うわ〜!」

「うっせぇばーか! じゃあ、テメーらは何でこの首追っかけてんだよ!! テメーらがただ賞金首追ってるっつったって説得力ねーぞ?!」

「う・・・!」

 テトの突っ込みに、思わず硬直するシュナ。 彼等4人組み。“二十日鼠”は、2ヶ月前に行われた小規模な国家間戦闘に傭兵として参加していた。 狭い業界である。誰がどちら側についたかと言うのは、簡単に調べられる情報だ。 “二十日鼠”はその戦闘では勝利側に所属していたため、相当の報酬を手に入れているはずなのである。 それこそ、一年以上は遊んで暮らせる額を手に入れたはずである。 故に、いまここで3万程度の賞金首を血眼になって追っているというのは、リスク的にも金銭的にも、考え難い状況なのだ。

「そ、それは・・・。」

「さいしょにあのしょうきんくびをつかまえたひとが、るーぷおにいちゃんと、おかいものにいけるんだよぉ〜!」

 ビクゥッ。 突然起き上がり、元気良く宣言したナップの言葉に、凍りつくシュナ。ちなみに、ナップは猫人と人間のハーフであった。 手や足は毛皮に覆われ、その毛皮は顔の頬まで来ていた。耳は、お約束のように猫耳で、目も猫のそれだった。 言うなれば、リアル肉球猫耳っ子といったところか。 身長は一メートルちょっと。猫人の平均身長が140〜160cmであることを考えると、ちょうどお子様最高潮といった所だろう。

「な、なな、なにいってるのよ、ナップ?!」

 動揺して声を裏返しながらあとずさるシュナの様子に、ナップは不思議そうに首を傾げる。

「だって、やどやさんでおやくそくしたもんっ! さいしょにしょーきんくびをつかまえたこが、るーぷおにいちゃんと、ふたりっきりでおでかけなんだもん!」

 ぱたぱたと手を動かして主張するナップに呼応するように、パペッターもコクコクと頷く。もっとも真っ黒なローズに包まれたその動作は、少し解り辛いものな訳だが。

な、そ、だから、あれはその・・・!」

 ループは、挙動不審に成るシュナを眺めながら、キョトンとした顔で小首をかしげていた。 どうやらこの状況を理解していないらしい。

「・・・なぁ、Dr。たしかパペッターって女性だったよな?」

「うむ。なかなかの美人だったと思ったね。 彼女は気を許した相手の前で無いと、顔を晒さないようでね。」

「・・・う〜ん。 ループのヤローを五〜六十発ぶっ飛ばしてやりてー衝動に駆られるのは俺だけか・・・。」

 ラブコメってンじゃねーよ。そんな目で4人を睨みつけるDr・フェンクス、ガルシャラと、テトの三人なのでした。

「兎に角だよ。 ガルシャラ達の目的は“僅かな金”。 ループ達の目的は“賞金首を自分達が捕まえること”。 私の目的は、“賞金首を追う者達の攻防を見物すること”。ならば、利害は一致していると思うのだがね。」

「俺たちが周りの賞金稼ぎを足止め、“二十日鼠”の面子がクビを掴む。 Drは、周りの状況を六人全員に伝える。要するにナビゲーターになるって訳だ。」

「その通り! この条件ならば全員が満足する結果が得られると思うのだがね!」

 ぱちりと指を鳴らし、満足そうに葉巻の先を噛み切るDr・フェネクス。指先に魔法の炎を灯すと、その葉巻に火を入れる。

「そうだな。悪くない条件だ・・・。 どう思う? テト。」

「考えるのはガルシャラの仕事だろー。 俺は何でもいい。」

「じゃ、決まりだな。 俺達はOKだ。 その条件でやらして貰おう。」

「おお! 乗ってくれるかね! コレは実に有意義な時間が過ごせそうだね!」

 ガルシャラの言葉に、実に嬉しそうな笑顔を作った。

「で、“二十日鼠”の連中は・・・。」

「わたしがループおにいちゃんと、あいすたべにいくんだもん!」

「だ、だから! そんな話をしてるんじゃなくて・・・!」

「(こくこく)」

「全然話が見えないんだけど〜・・・?」

「・・・。 とりあえず、あの惨状が一段落付いてから話した方が良さそうだと思うのだがね。」

 未だにラブコメっている4人を前に、“とりあえず殴りたい”オーラを放ちまくる三人であった。