レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(1)

 その日も、アルベルトは自分の上司・・・と言うか。国王の首を締め上げていた。

「だからぁ!! 何度言ったら解るんだこのオオボケ! あれほど! 駄菓子屋には!行くなと! 言っただろうが!! せめて仮装していけ! 王冠を被ったまま行くな!!」

 自分の国の王を王座から引き摺り下ろし、締め上げるアルベルトを止める者は居なかった。勿論王座があるだけに、そこは王の執務室、兼謁見室だったりする。周りには当然のように警備の近衛騎士達が居るのだが、アルベルトの行動を咎めるどころか、どこと無く「もっとやれ」的な空気をかもし出していた。

「出ていない。 今日はずっと、ここに居た。」

 ガクガクと前後に揺すられながら、国王。“レニス・スタッカート”は、完全な無表情で言った。 言葉と表情からは何も察する事は出来無いが、その視線がアルベルトの顔から完全に外れているあたり、言い訳をしている意味も殆どないように見えた。

「お前、口の周りにチョコソース付けて何言ってんだ?! そんなジャンクなもんこの城にあるか?!」

「ある。 私の引き出しに・・・。」

「溜め込んでた菓子なら全部喰っただろう?! 昨日!!」

「な・・・!」

 一言発し、打ちひしがれたように倒れ付すレニス王。ちなみに、顔は無表情だ。

「解ったか! お前の口の周りのチョコソースは、外出して付いてきた以外ありえないんだよ!」

「そ、ソースせんべいが私を呼んだんだ・・・。」

「呼ぶか! ボケ! つか、警備兵に幻術をかけるな! カッワいそうに、ぶっ倒れてたんだぞ! あの二人!」

 アルベルトに指差され、激しく首を縦に振る近衛騎士二人。

「む。 今度何かお菓子を進呈しよう。」

「せんで良い!! 大人しくしてろ!」

「む。」

 アルベルトは「全く・・・。」と呟くと、近衛騎士に絶対に目を放さない様きっつーく厳命し、国王執務室を後にするの。

 宰相。“アルベルト・ストラルフ”十三歳。 八歳にして英雄と呼ばれた男の、現在の日課だった。

 

 

「御公務が終わって早々申し訳有りませんが、ご報告が有ります。」

 国王執務室から出てから数分。トボトボと歩いていたアルベルトを呼び止めたのは、王立近衛騎士団 騎士団長“ハウザー・ブラックマン”だった。

「おう。ハウザー。 ・・・っつか。でテメーが敬語使うなんて珍しいな。 悪いもんでも喰ったのか?頼みごとか?」

 大男であるハウザーを見上げながら、身長120cm弱のアルベルトは、不快そうに溜息を吐いた。

「うっせー。相変わらずクソ生意気なガキだなふったく。」

 まるでチンピラのような口調で毒付くハウザー。 コレが近衛騎士団の団長だと言うのだから驚きだ。

 ハウザーは人族でありながら、身長二mを越える大男だった。顔立ちは整っており、常に鋭く研ぎ澄まされた目と引き締まった口元。均整の取れた鎧の如き肉体が、その実力すらも見せ付けるように存在感を放ってる。まとう雰囲気は、二十八歳と言う年齢相応な若々しさと、団長と呼ばれるもの独特の落ち着きを兼ね備えていた。

 一方アルベルトは、同じく歳相応。いや。それより少し幼くすら見える外見をしていた。顔立ち的にはやんちゃっ子風でつりあがった目が特徴だったが、そのスポーティーな見た目とは不相応に彼は実に優秀な魔術師であり、魔法技師であった。

「クソ生意気でもなけりゃ宰相なんざやってられねーンだよ。 つか、お前変われよ。」

「ふざけろ。んなタルイ仕事してられっかってンだアホ。俺は騎士だぞ。民を守ることだけが仕事なんだよ。」

 大凡その顔からつむぎ出されているとは思えないような言葉遣いで言いながら、ハウザーは「そんなこたーどうでも良いんだよ」と、本題を切り出した。

「アクアルートでひともんちゃく起こってるみてーだ。」

「あそこで騒ぎがあるのは何時もの事だろ。」

「あの悪魔と“ガルシャラ・カーマイン”、“ループ・ループ”。他にももろもろあぶねー連中がたむろしてやがる。 あそこは俺の領地(シマ)でもある。好き勝手さてやるのはかまわねーが、それにしちゃーちーと面子が悪すぎる。」

「・・・。」

 ハウザーが挙げた名前に、思わず頭を抱えるアルベルト。 しばし考え込むと、おもむろに顔を上げ、ハウザーを睨みつける。

「ハウザー。お前、いまの自分の立場わかってるか? 昔の、たった二人しか隊員が居ない超弱小小隊の隊長じゃねぇ。 国王の城を守護する、近衛騎士団の騎士団長だ。 お前の下には、二百数十人の直属部下が居る。 テメーの我が侭で好き勝手出来る立場じゃねぇ。」

 アルベルトの言葉に、それまで殆ど変化が無かったハウザーの顔が、まるで怒りが爆発する寸前のように歪む。

「城も王も関係有るか。寝言は寝て言えボケが。 俺たち騎士は、俺たちに飯を分け与えてくれる民を守る。だからこそ様付けされるほど尊敬してくれる奴も居る。 民が作り、俺達はその恩恵を受けて守る。 それを忘れて・・・」

 ハウザーは拳を振り上げると、それを思い切り横に振りぬく。 グオン と言う轟音と共に、その拳が壁面にめり込む。

「騎士を名乗れるかってんだボケがぁ!! 人は石垣!人は城!! 騎士が守るべきが城だとしても、民を守る事が最優先なのには何の変わりもねぇ!!」

「興奮すんなよ・・・。 確かにその面子じゃこっちも何もせんわけにゃいかん。対応もそこに駐屯してる騎士だけじゃ力不足だろ。行ってやってくれ。」

「いわれねーでも行く。」

「だろうな・・・。 じゃ、何の用があって呼び止めたんだよ?」

「そのアクアルートに行くために俺等の詰め所を出たら、国王を拾った。ついでだったからフンじばって引きずってきた。引き取れ。」

 言いながら、ずっと手に持っていたロープを手繰り寄せるハウザー。その先には、ロープで雁字搦めにされながらも、満足そうに紐引きアメを舐めているレニス国王の姿が。

「・・・。」

 宰相。“アルベルト・ストラルフ”十三歳。上司にも部下にも恵まれない男であった。