博士の風変わりな研究と飯のタネ(4)

 Dr・フェネクスは悪魔である。 悪魔の中でも、不死鳥フェニックスの亜種と言う、兎も角変わった種類の悪魔だ。

 フェニックスとしての例外にもれず、彼も死と転生を繰り返す。 彼の場合のそれは500年周期で、転生して五百年経つと地獄の業火で己が身を焼き、その炎の中から転生。また五百年経つと、その身を焼き、また転生。この繰り返しだ。

 Dr・フェネクスはこの転生の時、記憶と魂、魔力をそのまま新しい体に受け継ぐ。 要するに、生まれ変わるのは体だけなわけだ。

 倒されても蘇り、その魂は滅ぼす事も不可能。五百年経つたびに新しい体を得、記憶はそのまま残り続ける・・・。 これほど厄介な悪魔が居るだろうか。

 まぁもっとも。 彼が人類の天敵になる事は無いだろうから。それほど脅威に感じる事も無いのだが。

 

「頂きまーすっ!」

 バシンッ!! と手を合わせ、大声を張り上げるジェーン。 気合を入れて茶碗を持つと、恐ろしい勢いで丼飯をかっ込み始める。 美女がオカズもなしに白米だけをかっ込んでいる姿と言うのは、実に滑稽な図である。

 もっとも。滑稽と言う意味では、それを眺めている人物の方が大幅に滑稽ではあったが。

 その人物とは勿論、Dr・フェネクスの事である。 頬杖を付いて美味しそうにご飯を食べるジェーンを眺めるその姿は・・・。 ませた小学生のようだった。

 紺の半ズボンに、よれよれのワイシャツ。お約束のように羽織った白衣に、オールバックに固められた髪形。 時々ずれ落ちる眼鏡は、明らかに大きすぎるサイズだ。

 元来鳥の形であるDr・フェネクスだったが、「人の形が一番研究し易いから。」と言う理由から、数十回前の転生からその姿をヒューマン系にしているのだった。

 彼が前に生まれ変わったのは、大体五年前だ。 つまり肉体年齢で言えば五歳児。 流石に人間の子供よりは成長が早いので既に小学校中学年サイズになっているが・・・。とても数万年もその記憶を保ち続けてきた大悪魔には見えなかった。

 そんなお子様サイズのDr・フェネクスは、呆れたように眉をひそめ苦笑すると、手にしたフィギュアを机に置いた。

「あまり急ぐと喉につかえる。 気を付けたまえよ?」

「ふぁいふぁい。わはってまふふぉ。」

 口一杯に白米を頬張りながら喋るジェーン。

「別にとりはしないから落ち着いて食べたまえよ。しかしオカズもなしに良く米だけを食べられるね。 私はどうも米自体が食べずらくて仕方が無いのだが・・・。箸が使えなくてね。 不器用だとそう言うところが困るね。米自体の味はすきなのだがね。」

「米をオカズに米を食うんだよ。この町じゃパンが主流だ合うオカズないしね。ってか、誰が不器用だって? 0.0数ミリ単位の歯車とか作ってるくせにさ。」

「はっはっは。それとこれとは別なのだよ。」

 体を反らせて笑うDr・フェネクス。 子供の外見にしては妙に落ち着いた態度と言葉遣いのせいか、どうにも独特の雰囲気を放っていた。

「で、今日は何のようなのかね? まさか飯を食いに来ただけでは有るまい? そう言ったどうでも良い理由で私の研究を邪魔した時の代償は・・・君も心得ているだろう?」

「わかってるよ。Drのアホ装備の試着しろってんでしょ?」

「アホ装備とは何かね。前にあてがった“バニースーツ型魔法発動補助スーツ”はなかなかの性能だっただろう?」

「性能は良いとして外見がアホ過ぎるんだよ。ちゃんと人前で着れる奴考えなよ」

「失敬な。良いではないかねバニースーツ。君のように異性にとって魅力的な女性がアレを着るというのは、実に素晴らしい事ではないかね! まあ、私としては艶かしいより可愛らしいデザインの方が機能的だと思っているのだが、それは君には似合わないからここはあえて目を瞑ろう! なに、大人の女性にも合う兵器を作るというのは大切だからね、そう言う柔軟でおおらかな心は大切だと思うのだがね!」

 ぺらぺらと捲くし立てるDr・フェネクスをガンムシしてご飯をかっ込むジェーンだった。

「ふむ。聞いていないようだね。人の話は聞くようにと、いつも言っていたと思うのだがね。」

「Dr、悪魔だし。」

「まあ、その通りなのだがね。で、結局用件はなんなのだね?」

「そうそう。それよそれ。」

 ジェーンは空になった茶碗と箸をソファーに置くと、チョッキの内ポケットから一枚の紙を引っ張り出した。 そこには、気の弱そうな少年の顔写真と、“捕まえた者に賞金5万”の文字が。賞金首と言う奴だ。

「しかし本当になぜ白米だけでそれだけ食べられるのかね? 不思議でたまらないのだが。」

「それはどうでも良い!」

「少年を捕まえて五万かね? 五万といえば車が買える金額だね。一体どんな事をしたのかねその少年は。」

「そーう。注目点はそこ! 私達二人なら子供ひとり捕まえるなんて簡単!どうせ研究研究でロクに仕事してないんでしょ?」

 ジェーンの言葉に、ふむ、と、納得したような表情になるDr・フェネクス。

「確かに研究ばかりしていたせいで仕事をしていないね。いつもの冒険も良いが、賞金首を追うというのも魅力的だ。この少年がどうして賞金をかけられたのかも気になる。良いだろう。私も手伝おう。」

 頷きながらジェーンから紙を受け取るDr・フェネクス。

「ふむ。しかし・・・なかなか波乱万丈そうな少年だね。」

「そう? 可愛くて、なんか保護良くそそる顔立ちしてるし。結構良い生活してンじゃん? ま、もっとも賞金かけられるくらいなんだし。そう言うわけでもなさそうだけどねぇ〜。」

「いやいや。私が言いたいのはだね。もっとこう、女難の相。とでも言えば良いのかな・・・。」

 う〜む。 と、難しそうな顔で唸るDr・フェネクス。 「なにそれ〜。」と、このときはジェーンに笑い飛ばされるのだったが・・・後でその感があたっていた事を、嫌と言うほど思い知るのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(3)

「ちーっす。Dr、飯食わせてよ。飯。」

 ドアを開けて開口一番。ダルそうに壁によりかかりながら言うジェーン。

 目を開けるのもだるいと言わんばかりに半分眠りかけたような顔で体を引きずりながら、ずりずりと倉庫の中に入っていく。 彼女は、ここ三日間、なにも口にしていなかった。 その間不眠不休で、自分の銃に使うための、弾丸を作っていたのだ。 魔力を物質化、結晶にし、弾丸の形に加工する。魔力と体力がイコールな彼女にとっては、文字通り身を削って製作する武器なわけだ。

 故に、今の彼女は弱りきっていた。流石に三日間で弾丸30個は作りすぎだったようである。普通一流魔術師として世に出ている彼女と同じタイプの魔法使いが、彼女の使うのと同じ濃度の魔力結晶を作ろうとしたら。恐らく弾丸を5発製作した後、一ヶ月は寝たきりになるだろう。

「マジ腹減ってるんだよ〜。最近言い稼ぎ口無くて金も入んなくてさぁ〜。なんか食い物恵んでよ〜。」

 美しい顔立ちからは想像も出来ないような軟弱さでへろへろと動くジェーン。肉体疲労が食欲と直結している彼女にとって、今の疲労どならば丼飯五杯は軽いのだ。

 ついに立っている事を止めて、「あぁ〜う〜。」とか謎の声をあげながら、地面に突っ伏すジェーン。

「ねぇ〜。Dr? 聞いてる?」

 リアクションが全く無い事に苛立ちを覚えたのか、ジェーンはクイッ!と顔だけを起こし、いつもDr・フェネクスが座っている、倉庫中央の研究テーブルに目を向けた。 だだっ広さに反して、家具らしい家具も、道具らしい道具も無い殺風景な倉庫の内。数限られた家具の一つに、Dr・フェネクスは確かにいた。

 が。別に意味で違う所に言っていたのだった。

「くっ・・・! なんと言うことか! 猫耳スクミズセーラーと言うのはなかなか素晴らしいディティールになるでは無いかね! 奥ゆかしさ漂うジャージ姿と言うのもなかなか良い物があるがねっ・・・! ああっ! 全くいかんねこう素晴らしい物ばかり取り揃えられてはっ! 外部魔方陣を肉体強化だけでなく攻撃面でも飛び道具として、飛行器具として使用可能にすると言う新しいコンセプトを詰め込んだパワードスーツのビジュアルが決まらないではないか!」

「・・・相変わらずかよ・・・。」

 大量の、美少女や美少年、美人美男子を象ったフィギュアをはべらせ悦に入るDr・フェネクスの姿を眺めつつ。ジェーンは限界を突破して新記録を樹立しそうな感じの空腹と、無駄なものを見て痛くなってしまった頭を抱えるのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(2)

 “英雄王国 レニス”。 その外れにある港町、“アクアルート”。

 海上交通と航空交通の拠点であるこの街は、単純な町の名前の通り“水の道”であった。

 船便の他に、水上から飛び立つ飛行艇や、魔法動力を使用した飛行機などの駅として栄えるこの町には、世界中から実に様々なモノが集まる。

 それこそ物から人から・・・モンスターから厄介ごとまで・・・。

 

 

「やべぇ〜・・・。マジ目霞んできたし・・・!」

 昼間にも関わらず、人気の全く無い寂れた倉庫街を、一人のガンマンがフラフラと歩いていた。 西部開拓時代を思わせるテンガロンハットに、真っ赤なスカーフ。履き古したジーンズに、何故か迷彩柄で大量の弾丸がむき出して固定されたチョッキを着用。止めとばかりに腰に下げているのは、大きな2丁のリボルバー拳銃が固定されたガンベルトだ。

 一言では言い表し難い風貌の彼女の名は、“魔弾”のジェーン。 れっきとした女性である。 常にどこか締まりの無い緩んだ表情をしている彼女だが、それを差し引いても余りあるほどの美貌を有していた。無骨な武具とだぶついた服装にも拘らずこれでもかと自己主張しているその姿態は、艶かしいと言う言葉を使っても差し支えないだろう。

 そんな彼女は優秀な魔術師であり、自らが扱う拳銃弾に様々な魔法を添付して戦う賞金稼ぎであった。 実力の程は、彼女の二つ名が雄弁に語る通りだ。

 ぐ〜。

「うぐっ・・・! 限界へのカウントダウンが・・・!」

 緩んでいながらも、かなりヤバメな顔色で呻くジェーン。 内臓系をやられたような顔色でよたよたと歩く姿は、その装備と相まって、息も絶え絶えな負傷兵に見えなくも無かった。

 もっとも。負傷してるわけじゃなくて腹が減っているだけなのだが。それはもう、“ぐ〜”と言う音から察していただけた通りに。 まあ、別の意味で内蔵をやられている訳ではあるが。

 だだっ広く人気の無い倉庫街を、フラフラと進むジェーン。

 彼女が向かっているのは、一つの倉庫だった。 そこには彼女の師匠であり、尊敬する一人の魔道士が住んでいた。 そう。彼女は空腹のあまり、飯を集りに来たのだ。

「お。着いた・・・。相変わらず派手だねぇ〜。素通りしたくなるね。いやマジで・・・。」

 空腹のせいで幻覚でも見えているのか、誰にとも無く話しかけながら、目の前の倉庫に入っていく。

 彼女の入ろうとしている倉庫には、こんな看板が掲げられていた。

 “Dr・フェネクス研究所 兼 個人冒険小屋”

博士の風変わりな研究と飯のタネ(1)

 人と言う生き物は、自分が良しと思うことを貫く生き物だ。

 自分の良しと思うことについて詳しく理解しようとする行為の事を研究と言うのであれば、私はその“研究”を生業にしているといえるだろう。

 始めは食べ物のためと研究費稼ぎが目的だったのだが、なかなかどうして。やり始めてみれば、これほど興味をそそられる事も無いのではないかと思い始める自分を発見してしまったのだよ。

 元々魔法。取り分け強化魔法や能力添付魔法の研究をしていた私だが、勤め先の大学から追い出されてしまってね。 どうやら大学の経営陣は私の“ウサ耳状の魔動力ブースターを頭部に直接埋め込み機能させるための研究と使用例”と言う論文が気に入らなかったらしいのだよ。 アレが成功していれば、現行のパワードスーツなぞお払い箱になるほど素晴らしい性能を誇る事になったというのに。

 話しが逸れてしまったね。 私が当時勤めていたのは、国が管理する所謂軍事学校でね。兵器や戦闘用魔法の研究に携わっていたのだよ。 だからそこを追い出されては、研究の続きは出来なかった。 考えてみたまえ。一個人が兵器を作って良いと思うかね? 答えは勿論NOだ。私が国務を担当する人間だったとしたら、そんな危険人物はすぐに排除するだろうしね。

 しかし、研究はしたい。 なにせ諸君、ウサ耳だよ? 可愛いではないかね! いま流行の言葉を使えば、萌えと言う奴だよ!

 研究がしたい! 今したい! すぐしたい!

 お預けを喰らった犬状態になった私は、国外逃亡を決行した。 勿論、ビザも出国手続きも無い、自主出国だよ。 それなりに追っても来たが、騎士やら魔法使いやらでこの私がどうにかなると思ってもらっては困るよ。

 見事出国を果たした私は、目的地を一路大陸東方。“英雄王国 レニス”へと向かった。 なにせあの国は自由国家と名高い超強国だ。“蟲人”や“エルフ”、“鳥人”“バードマン”“ドワーフ”は愚か、“兎人”や“猫人”まで共存する人種の坩堝! その国では魔法の研究も自由に行われ、何よりも物流や情報の流れが我が祖国のそれが子供の遊びにしか見えぬほどに発展しているのだよ!

 期待に胸を膨らませて入国した私を襲ったのは、後悔と悔恨だった。

 ああ・・・何と言うことだと思ったとも・・・!

 何故私は今までこの国に来なかったのか!! 空も、海も、街も人も!!全てが魔道の恩恵を受け美しく輝いているではないかね! 見るもの聞くもの全てが新鮮とは正にこのことだったね! あまりの興奮に、私は思わず足として使っていた軍事用飛行機で街中にダイブしつつエクスタシーを満喫してしまったよ! 無論、私を捉えようと追いかけてきた治安組織からも逃げ切った。安心したまえよ?

 さてさて。ここからが本題だよ。

 見知らぬ土地に降り立った私には、同然ツテなど無い。今日食べるパンにも困る始末だ。

 早速仕事を探そうと歩き出した私の目に、あるモノが飛び込んできた。そう。それこそがこれ。“冒険者”組合の掲示板だったのだよ。

 大学で教鞭を振るっていた私なぞが今更実戦など・・・と、思っていた。が! これがどうして。 依頼一つ一つに、実に様々な裏話があり、私の指摘欲求を指摘するではないかね!! こんなにも興味をそそられるものを前にして、ジッとなどしていられると思うかね?! 今まで机に向かうばかりだった私にとっては、どれも輝いて見えとも! ああ、申し訳ない。輝くという言葉を多用しているが、どうも私は語彙が少なくてね。それくらいしか思いつかないのだが、私の感動を言い表すには正に“輝いて見えた”と言う言葉はぴったりと当てはまるのだよ!

 不謹慎かもしれないが、依頼人たちが困難に立ち向かうために私達を雇い、私達は力の限りその手助けをする。 その過程で起こる出来事や解決した瞬間の喜びを共有するこの充実感と言ったらないね!

 ましてだよ諸君! それら楽しいと感じる事をして、金が稼げるのだよ!私は兵器研究を趣味としていてね? 儲けた金は殆ど、その研究につぎ込んでいるのだが・・・。依頼に私が作った兵器を持って行けば・・・。 正に一石二鳥!! 仕事と趣味の両立だよ!!

 いやいや。 本当に素晴らしい国だよこの国は! 私にチャンスも楽しみも与えてくれたのだからね! いつの日かこの礼に、今開発中の“猫耳型超音波粉砕機”と、“マッタリアザラシ魔道戦車”を進呈しようと思っているくらいさ!

 

ん? 私が誰か・・・?

おお! 申し訳ない! 自己紹介が遅れたね。 私は“悪魔”。 愛称でもなんでもなく、悪魔族だから悪魔なのだがね。

 はは! 失敬失敬! 実は私には名前が無くてね! 愛称はあるから、それで呼んでくれたまえよ!

“Dr・フェネクス”。 フェニックスの亜種だと覚えておいてくれたまえ。

書き進める

科学のように魔法技術が進み、まるで未来の世界のように文明が進んだ。そんな世界。

人々は会社に勤め、学校に通い、整備された道を魔力で走る車に乗って走り、空輸や船で運ばれた商品を量販店で買い求め生活していた。

 

が、しかし・・・。

時代に逆行するように。 冒険を。戦いを。探検を追い求めるもの達が居た。

冒険者。探検家。傭兵。発掘人。名乗る名こそ違えど、彼等が求めるものは大抵この三つに限られた。

即ち。“金”。 “名誉”。 そして。飛び切りの “スリル”。

進んだ魔法文明がもたらしたのは、平和な家財道具だけではない。様々な戦闘用の道具が生み出された。

金と名誉とスリルを愛する彼等が、そんな魔法の武具の数々を見逃すなどと考えられるだろうか?

あるモノは空飛ぶ船で世界を飛び回り。あるモノは10mを越える巨大な操り人形でドラゴンを狩り。 またあるモノは己の体全身に魔法の言葉を刺青し、自らの強さを高みを目指した。

 

これは、そんな世間一般からはみ出し、自分達の好き勝手に暴れまわり、やりたいことをやって生きている無法者たちの物語。

まあ。連中のすることが物語と言うほど高尚なものになるかどうかは・・・。保障しないが。