博士の風変わりな研究と飯のタネ(11)

「化け物って言うのは・・・! こう言う人たちの事を言うんですねっ・・・!」

 “二十日鼠”と言う4人組みの戦士団の団長にして、若干19歳の青年“ループ・ループ”は、得物である刀を逆手に持ちながら額の汗を拭った。

 若干疲れが見えてきたループの前に立つのは、肩まで届く白髪を炎になびかせる少年の姿だった。 と、は言っても、少年と言うのは見た目の評価である。実年齢は二十代後半である。ヒューマン。要するに普通の人間であるからして、その外見は不釣合いといわざるを得まい。 この外見だけ少年の名前は、“テト・ウルフ”。 超が付く凄腕の冒険屋として有名な男である。

 ループは今、その超凄腕冒険者と戦っている真っ最中だった。 噂を信じちゃいけないよ。そんな言葉が頭を過る。 あの言葉は当たりだ。だって噂より手に負えないんだもん。 ハイエルフであるせいか、見た目より若干幼い精神年齢のループは、顔には出さないものの非情に困惑していた。 ちなみに。精神よりも肉体の方が先に成熟するハイエルフである彼は、人間で言えば15〜6最程度の精神年齢である。

「ていうか、何で戦う事になったんだっけ・・・?」

 問題はそこである。

 “二十日鼠”と言う、父がリーダーをしていた戦士団を次いだのが、もう五年ほど前になる。 エルフでありながら筋骨隆々、下手をするとティターンにも間違えられたループの父は、ひょんなことから隠居生活に入ってしまったのだ。 急にやめるわけにも行かん。と言う、父の無茶な押し付けのせいで、当時軍学校の学生だったループにリーダーの座がゆだねられたのだった。

 父の仲間たちの事を知っていたループは、「土下座して勘弁してもらおう」と言う、非情に消極的な決意を胸に“二十日鼠”の集会場に向かい・・・凍りついた。 そこに居たのは、父の仲間たち。の、“娘さんたち”だったのだ。

 彼女等の強烈な“押し”に合い、ループは強制的に“二十日鼠”を受け継ぎ、リーダーとして奔走するようになったのだ。

 戦士団とは要するに、雇われ戦士である。傭兵との違いは、“戦争”を専門にしていない所。 戦士団は、闘技場から賞金首まで、手広くカバーしているのだ。

あの賞金首ポスターがいけなかったんだよぁ〜・・・。」

 溜息を付くように吐き出すループ。 彼が言っている賞金首と言うのは、無論“アッシュ”の事である。

 “二十日鼠”が定宿にしている酒場に、そのポスターが張り出されていたのだ。 彼以外のメンバーはそのポスターの前に集まりボソボソと話し合いを始めると、そそくさとアッシュ探索を始めたのである。 半ば引きずられる形で付き合わされたループであったが、まあ、金は有って困るものではない。 探索を続けるうち、自分達以外にもその首を追っている人たちが居る事がわかってきた。そして、ついに同じアッシュ狙いの冒険者に出くわした瞬間・・・悲劇が起こった。

 邪魔者は排除とばかりに、ループ以外の三人が相手に襲い掛かったのだ。なぜか三人とも焦ったような表所をしていた事を、アッシュは覚えていた。

 仕方なく攻撃の手に加わるループだったが、今まで築き上げてきた自信と自負を徹底的にぶち壊された気分だった。 ドラゴンも倒した必殺剣を素手で止められ、仲間達とのコンビネーションを簡単に見切られ、今は魔法使いに打撃戦で押されているのだ。 人形使いと強化魔法使いである仲間とも分断され、今は炎使いの幼馴染と共闘状態である。

「おいおいおいおい!! こんなもんだとか抜かすんじゃねーだろうなぁ?!ああ?! テメーツエーっつーからガルシャラにあっち任せてきたんだろうが?! ふざけてッと一瞬で五体ばらすぞボケェ!!」

 まるでヤクザか何かのような怒号を飛ばすテトに、思わず怯むループ。外見だけとは言え少年に怒鳴られてビビルと言うのも情けないモノがある。

「ちょっと・・・! なにビビッてるのよ! しゃきっとしなさい!」

 呪文を構築しながら、ループに檄を飛ばす少女。炎使いと呼ばれる、火炎属性の魔術師である彼女の名は“シュナ”と言った。 ループの幼馴染で、“二十日鼠”の一員である。

「そ、そんな事言っても・・・! 相手はテト・ウルフだよ? 超至近距離魔法を使わせたら右に出るモノがいないって言う!」

 へたれ度全開で訴えるループ。 鎧を纏わず、ライダースーツのような強化服に身を包み、逆手に刀を構える姿こそ勇ましいものの、心の中は卑屈なのだった。

「頼りないわねぇー! あんただってもう素人じゃないんでしょ?! 少しは自信持ちなさいよ!」

 膨れるシュナ。 胴衣のような服を着て、荘厳さすらある大型ロッドを装備した彼女は、あくまで交戦の構えらしい。

「も〜。なんであの賞金首に拘るのさぁ〜。 諦めようよ〜。」

「何言ってるの?! 諦められるわけ無いじゃない! あの首を誰が一番最初に捕まえるか勝負してるんだから!」

「はた迷惑な・・・。で?勝ったら良い事あるの?」

「そうよ。勝ったら明日の買出しにループとふた・・・。」

「ふた?」

「・・・と、兎に角! あの人を倒すの!」

「ん〜?」

 今一釈然としないまま、剣を構えなおすループ。

「相談は終ったか? じゃ、こっからちっとは楽しませろよ?!」

 言い放つと、大きめなローブを翻すテト。 ジーンズにシルバーレザーのコートと言う出で立ちから、一見魔法使いには見えないものの、その実力は折り紙付きである。

 三人がそれぞれの構えを取った、そのときだった。

 頭上から、少年特有の甲高い、それで居て妙に大人びた高笑いが聞えてきたのだった。