博士の風変わりな研究と飯のタネ(7)

「ジェーン。聞えるかね?」

 高層ビルの縁に立ちながら、Dr・フェネクスは通信機片手に咥えタバコの煙を吐き出した。 肉体年齢的にはまだ喫煙してはいけないのだが、魂年齢的には全然OKなので気にしない方向で決めている。

「聞える。つか、なんだろうねあの子。 追ってこないでくださいぃ〜! とか半泣きで行ってるくせに、すんごい早いよ? つか、あの背中の羽役に立たんでしょ〜。ちっさ過ぎるってのぉ〜。」

「まだ少年だから小さいのだろ? 今さっきネットで調べてみたのだがね。彼等の成人年齢は50歳前後だそうだよ。まだまだつるっつるのお子様と言うわけだね。」

「また不穏な事を・・・。 それで。あの熱血バカはなんだって?」

 呆れたように溜息を付きながらも、全く速度を緩めず追跡しているらしく、スピーカーから聞えてくる風切り音は緩んでいなかった。 追いかけっこをしている二人をDr・フェネクスは眼で追っていた。 勿論普通の視力では探す事さえ不可能だろうが、フェニックス系統の彼には造作も無かった。なにせ鳥な訳だし。

「ふむ。熱血バカ。 英児の事かね。確かに彼は熱血体質で馬鹿だが、熱血バカと言っては可哀相だと思うのだがね。ダブルパンチはいかんと思うよ。」

「そんなこたーどうでも良いんだよ!」

「わかっているよ。 彼に聞いたのだが、どうやらアッシュ少年を追っているのは、我々だけでは無い様だよ。少なくとも20組は彼を追っているようだね。」

「はぁ?! 20?!」

「ふむ。脚の動きが悪くなったようだね。 真面目に追わないと追いつけないと思うのだがね。彼はなかなか早いよ?」

「わかってるっての! つか、他にも追ってる奴が居ると思ったからDrに手伝ってもらおうと思ったのは確かだけどさ。 20って・・・。」

「ふむ。この通話をしながらあたりを見回してみたんだがね。 ビックネームだらけだよ。 例えば・・・。 “ガルシャラ・カーマイン”と“テト・ウルフ”のコンビ。」

 事も無げに言ったDr・フェネクスの言葉に、スッコーンとスッ転ぶジェーン。 あまりの気持ちの良いこけっぷりに、わざとではないかと思うほどだ。 しかし、よほど賞金首が欲しいのだろう。根性で転がりながら立ち上がると、再び走り始めた。

「おお! 素晴らしいね! 今の動き! 白米だけでそれだけの機動が出来るとは驚愕に値するよ!! 今の映像を私の日記に付けておこうと思うのだが、良いかね?」

「よくあるか、ボケ! つか、カルシャラとテトって、あの“要塞落し”の戦争屋コンビか?!」

「彼等自身は冒険者を名乗っていと思ったのだがね。 まあ、確かにあの活躍では戦争屋と呼ばれても仕方ないね。確かに彼らは優秀だしね。 優秀ついでに、“二十日鼠”傭兵団の面子も全員出張ってきているようだね。動きから見てアッシュ少年を狙っているのは間違いないと思うのだがね。

 事も無げに言ったDr・フェネクスの言葉に、ドッコーンと民家の壁にぶち当たるジェーン。 曲がり損ねとは思えないほどのタイミングのよさに、わざとではないかと思うほどだ。 しかし、よほど賞金首が欲しかったのだろう。そのまま根性と魔法で民家を貫通すると、再びターゲットを追いかけ始めた。

「おお〜! 実に素晴らしいね! 本当に白米だけであそこまでの力が出てしまうものなのだね! 今の映像を私の自分史に記録しようと思うのだが、良いかね?」

「よくあるか、ってか、書くな!自分史!永遠に続くだろうが! つか、二十日鼠って4人組みの本物の戦争屋じゃねーかよ!!戦場魔法使いの魔女三人に、剣士兼機動鎧乗りの!! 市街戦でもおっぱじめる気か!!」

「ふむ。年下、同い年、年上。3パターンの女性に囲まれた19歳の彼は実に羨ましいね。個人的には順に、クマ、ネコ、ウサギと言う動物耳の兵器を着用させてその機能美を愛でるのがベストだと思うのだが、どう思うかね?」

「しらねーよ! つか、Drあいつらと知り合いなのか?」

「彼らに機動鎧をあてがったのは私なのだがね。」

 機動鎧とは。全長10mを越える、大型のゴーレムのような兵器の事を指す言葉だ。製作方法や設計思想。機動にどんなエネルギーを要するか、どのような目的に使うのかによって名称は千差万別。統一した呼び方はないものの、一緒くた似せれがちな兵器の総称の一つである。 無論兵器開発者であるDr・フェネクスもいくつかの作品を世に排出していた。

「機動鎧“カルテット”。私の製作した中でもなかなかの出来だと言って良い部類に入ると思うのだがね。久しぶりに見たその雄姿はなんとも言えず魅力的だと思うね。」

「来てんのかよ!出てるのかよ機動鎧!! 兵器を使うな!何考えてんだボケどもが!!」

「兵器と言えば、空賊船も見えるよ。 浮遊攻撃艇“ジェノサイドホエール”。かの名高き空賊、“ガトリング”ミリル船長率いる“七海殺戮海賊団”の旗船だね。」

「・・・何で海賊にまで追われてんだよ・・・。 もう良い。そう言うビックリ人間ズがこっちに気が付く間もなく、賞金首ふんじばって引き渡す!!

「私もそれがベストだと思うんだがね。 そう言うわけにもいかないようだと思うのだがね。」

「あぁ?! 今度は誰?!」

「王立近衛騎士団 騎士団長“ハウザー・ブラックマン”。 まあ、これだけ暴れていれば気が付かれるのも当然だと思うのだがね。」

 事も無げに言うDr・フェネクスの言葉に、ズダーンっと走ってきた車と正面衝突するジェーン。 何かもう神がかり的なタイミングで惹かれる様は、わざとではないかと思うほどだ。もっとも咄嗟に防御魔法を使ったのか、全く怪我は無かったらしい。 しかし、今回は流石に精神的に効いたのか、暫くうずくまったまま動かなかった。慌てた運転手が飛び出してきた所で・・・。

「ザケンナ、ボケェ!!」 と、通信機を使わなくてもDr・フェネクスのところまで届きそうな大声で叫ぶと、弾丸のような速さで走り始めた。

 そんなジェーンを眺めながら。

「は、白米を食べただけでアレだけの力が出せるとは・・・! これは私も明日からは白米のみの食生活に切り替えなくてはならないかも知れないね! 今の映像を世界の全てが記録されていると言うアカシックレコードの最重要項目に永久保存するよう神に要請したいのだが、どう思うかね?!」

 通信機に向かって興奮気味に話すものの・・・。ジェーンは既に通信機を握りつぶしているのだった。