博士の風変わりな研究と飯のタネ(6)

「一閃! 気合斬!!」

 アクアルートの中心街。相当な人通りと車のある表通りのど真ん中で、赤いパワードスーツを着込んだ剣士の絶叫が轟いた。その声に続いて響くのは、盛大な爆発音と悲鳴の大合唱だ。

 大量の魔方陣を書き込み、気力や気合いといった心的エネルギーを魔力に変換、使用する事を可能にした装置を積んだパワードスーツ。“アーマー・オブ・ディープレッド”。 それが、この赤いパワードスーツの名前だ。 それを駆る青年の名は、“新田 英児”16歳。 幸か不幸か、“科学が発達した普通の世界”から、この“剣と銃と魔法の発達した世界”に迷い込んできた、異世界人である。

 彼が特に理由も無く、本当にただ単に“迷った”だけでこの国に来てはや1年。 妙に適応力の高かった彼の今の仕事は・・・傭兵だった。

 金を稼ぐために戦いを生業とし、稼ぐために戦い、戦うために稼ぐ。それが英児の語る傭兵の姿だった。 故に、戦って稼げる事から賞金稼ぎも兼任したりしている。 そう。彼は今、仕事の真っ最中なのだ。

「よっしゃ! 吹っ飛んだか?!」

 爽快に叫びながら、楽しそうな声をあげる英児。フルフェイスヘルメットを被っているため表情は見えないが、ニヤリと笑っていること請け合いだ。が、すぐに肝心な事に気が付き、動きが止まる。

「・・・だ、駄目じゃん・・・。肉片に賞金でねぇーよ・・・!」

 そう。彼は今、殺してはいけない賞金首を追っている真っ最中なのだ。 勘の言い方ならばお分かりだろう。 彼が追っているターゲット。それは・・・。

「アッシュ〜! 賞金首のアッシュー! テメー吹っ飛んで無いだろうな!」

 オロオロと周囲を見回しながら、叫ぶ英児。 ちなみに、魔力を流し込む事で衝撃波を発する彼の剣と、パワードスーツの腕力を持って放たれる彼の技。“一閃・気合斬”の破壊力は、文字通り岩をも砕く。なにせこうして道のど真ん中に撃っただけで、道路陥没に水道管破裂、魔力伝達線は寸断され、人々は逃げ惑うという軽い地獄絵図が出来上がるほどだった。

 英児的には、この技は確実に賞金首を捉えていた。 これは非常にまずい状況である。 なにせここ暫くろくな仕事にありつけず、一週間もまともに飯を食べていないのだ。

「あぁ〜!! くっそぉぉ!! 反射的にぶっ放すんじゃなかったぁ!!」

 がしがしとヘルメットを掻き毟る英児。街中で攻撃魔法を使った事に関する感想は特に無いらしかった。

 と、そのときだ。突然英児の耳元で、ピーピー、と言う電子音のような音が響いた。 彼のパワードスーツには様々な仕掛けが施されており、この音は通信が入ったときの合図だった。

「ふったく・・・! 誰だよこんなときに・・・。」

 苛立たしそうに相手を確認した英児だったが、表示された名前を見て表情が変わる。 すぐに通信をONにして、連絡を入れてきた相手に声を掛ける。

「プロフェッサー・F! 御久しぶりです!」

「ふむ。君は相変わらずだね。 なに、私のいる位置から君の一閃・気合斬が見えてね。連絡を取って見た訳なのだがね。」

 通信の相手は、どう聞いても子供の声だったにも拘らず、異様なほどに落ち着き払った、大人びたものだった。 言うまでも無く、Dr・フェネクスである。 自分の名前は無い。そう語るDr・フェネクスには、様々な呼び名があった。プロフェッサー・Fと言うのは、その中の一つなのだ。

「あははは・・・。つい興奮してしまって、街中でやってしまいました。賞金首を追っていたもんで。 でもちょっとやりすぎちゃったかなぁ〜。路駐の車、何台かおじゃんですよ。 人死には無いんで、大丈夫なんですが。」

 苦笑交じりに言う英児。 彼は自分が戦うとき、絶対に一般人を巻き込まない事をポリシーにしていた。今さっきも我を忘れて道路を吹き飛ばしただけのように見えたが、五万と言う高ランクの賞金首を街中で安全に。つまり、一撃で仕留める為の、彼なりの最善策だったのだ。 それが証拠に、彼は今まで、一人の巻き添えも出していなかった。戦争屋とも呼ばれる傭兵と言う職にありながらのその数字は、彼の傭兵としての実力を物語って余りあるものである。

「しかし、まずいんですよ。殺しちゃいけない賞金首だったんですけど、フッ飛ばしちゃったみたいで。今探してるんですが・・・。」

「その必要は無いよ。 君の探してる賞金首“アッシュ”は、既に逃げ延びて居るのだからね。」

「はぁ?! 俺の攻撃から?! マジですか? 気合斬は拳銃弾より早いんすよ?」

「ふむ。まじだね。 今ジェーンが逃げ切ったアッシュ少年の後ろにぴったりつけているよ。 実は私達も彼を追っていてね。」

「プロフェッサーたちもですか?!」

「ああ。 しかし、なんだね? も、と言うのは。私達以外にも追っている人物が居るのかね?」

 Dr・フェネクスの言葉に、英児は驚いたような表情を作る。

「知らないんですか? 今この街に集まってる俺たちの同業者約20組。全部が全部あの首追いかけてるんですよ?」