博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーン少女とDr

「おい。とり。」

「ふむ。鳥と呼ばれることは珍しくないのだが、君に言われると新鮮だね。」

「なんでであたしをひろった。」

「ふむ。猫やテレビではあるまいし拾ったりはしていないのだがね。」

「なんであたしをやしなう。」

「ふむ。別に養っているつもりは無いのだがね。第一、この食事を作ったのは君だったと思ったのだがね。」

「そういうことをいってるんじゃない。」

「ふむ。では、こう言う答えなら満足なのかね? 私は君に私の研究を手伝ってもらっている。言わば君は私のために労働しているのだよ。 故に私は、それに見合った対価を君に支払わねばならない。本来なら相応の額の金を払うのが筋なのだがね。ある程度金が溜まると、私はどうしても研究に使いたくなってしまってね。仕方が無いから、君に衣食住を提供している。 と。」

「ぶ〜。」

「納得いかないかね?」

「あたしはべつになにもはたらいてない。」

「ふむ。そう思うのかね? 私にとっては君が居てくれるだけで随分と助かるのだがね。」

「なにに?」

「さぁ。何にだろうね。なんと言えばいいのだろうね。どうも私は語彙が少なくていけないね。 そう。強いて言えば、一人ぼっちな私にとって、傍らに居てくれて日々成長していく君の存在は、無くてはならないものに成っているのだよ。」

「きもい。」

「はっはっはっはっは! 君は賢いね! 本当に成長が楽しみだよ!」

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前の英児とDr

「君の感情の起伏は、常人のそれを大幅に上回っている。神懸って居ると行っていいだろう。この世界には心の起伏、つまり強い感情を媒介に魔力を精製する装置があってね・・・。まあ、噛み砕いて言えば怒ったり悔しかったりするだけで兵器を動かせるわけなのだがね。 君はたった一人で、数十人かがリで動かすような兵器を運用したり、机上の空論だった強化服を機動運用する事が出来るわけだね。」

「ほぉ〜・・・。 どうもこっちに来てから妙な事ばっかりだと思ってたが・・・。要するに俺に近づかれて、その手の機械はオーバーフローしてたってわけだ。」

「そうだね。 まあ、感情を魔力に変換する装置は特殊なものでね。九割九分軍事目的のモノなのだがね。 おもに魔法が使えなかったり、魔力が無い種族の騎士などが強化服を運用する時に使うのだがね。」

「で、俺にはデカイ規模の装置が動かせる才能が有るってわけか?」

「その通りだね。」

「はっはっはっは! こっち来てから面白い事ばっかりだなぁ、おい! 向こうでの生活も惜しいけどよ。こんな面白いところから向こうに帰る気になんざさらさらならねぇぜ・・・!」

「親御さんが悲しまないかね?」

「親なんざいねーよ。気が付いたら一人だった。所謂孤児って奴さね・・・。だが、だからこそここに居られる。 プロフェッサー・F。俺に鎧を作ってくれ。飛び切りの奴だ。」

「構わないよ。しかし、悪魔との契約には条件があるものでね。」

「ほう?」

「たまにここに来て整備を受けて行き給え。そしてその時には、必ず昼食か夕食に付き合ってもらうよ。」

「ああ? それと?」

「それだけなのだがね。」

「・・・いいのかよそんなモンで。悪魔としてはよ。」

「君が鎧を持ってなにをするか興味がある。それに、君と話すのはとても楽しい。君の世界には暫く行っていなかったからね。 それに、なんと言ったかね。ヒーローと言ったか。向こうの特撮と言うのもなかなか興味深そうだシね。」

「ああ。いいぞヒーローは。男の憧れが目一杯つまってるからな。」

「ああ! 激しく興味深いね! どれ。どんなモノが有るのか、聞かせてくれないかね?」

「甘いなプロフェッサー。ヒーローは知識じゃねぇ。魂で感じるものだ。目で見て。耳で聞いて。初めてその生き様が心を打つんだ。 口伝えで知ろうとするなんざ愚の骨頂よ。」

「お、おおぅ・・・! 確かに・・・! それはこの世界のヒーローにも言えること・・・! 知識ではなく文章でもなく頭で理解するものでもなく、、魂に響く存在。それぞヒーロー・・・! 有り難う。君のお陰で目が覚めたよ・・・! 礼と言ってはなんだが、いまこの感動の全てをつぎ込み、君の鎧をつろう・・・!」

「ぷ、プロフェッサー・・・!」

「英児・・・!」

「・・・・・・アンタたちウザインだけど・・・。」

「おや。居たのかねジェーン。 全く眼中に無かったよ。

「男同士の絆を確かめ合ってる時に口挟むな〜。」

「最初の話題はどこいったんだよ・・・。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(11)

「化け物って言うのは・・・! こう言う人たちの事を言うんですねっ・・・!」

 “二十日鼠”と言う4人組みの戦士団の団長にして、若干19歳の青年“ループ・ループ”は、得物である刀を逆手に持ちながら額の汗を拭った。

 若干疲れが見えてきたループの前に立つのは、肩まで届く白髪を炎になびかせる少年の姿だった。 と、は言っても、少年と言うのは見た目の評価である。実年齢は二十代後半である。ヒューマン。要するに普通の人間であるからして、その外見は不釣合いといわざるを得まい。 この外見だけ少年の名前は、“テト・ウルフ”。 超が付く凄腕の冒険屋として有名な男である。

 ループは今、その超凄腕冒険者と戦っている真っ最中だった。 噂を信じちゃいけないよ。そんな言葉が頭を過る。 あの言葉は当たりだ。だって噂より手に負えないんだもん。 ハイエルフであるせいか、見た目より若干幼い精神年齢のループは、顔には出さないものの非情に困惑していた。 ちなみに。精神よりも肉体の方が先に成熟するハイエルフである彼は、人間で言えば15〜6最程度の精神年齢である。

「ていうか、何で戦う事になったんだっけ・・・?」

 問題はそこである。

 “二十日鼠”と言う、父がリーダーをしていた戦士団を次いだのが、もう五年ほど前になる。 エルフでありながら筋骨隆々、下手をするとティターンにも間違えられたループの父は、ひょんなことから隠居生活に入ってしまったのだ。 急にやめるわけにも行かん。と言う、父の無茶な押し付けのせいで、当時軍学校の学生だったループにリーダーの座がゆだねられたのだった。

 父の仲間たちの事を知っていたループは、「土下座して勘弁してもらおう」と言う、非情に消極的な決意を胸に“二十日鼠”の集会場に向かい・・・凍りついた。 そこに居たのは、父の仲間たち。の、“娘さんたち”だったのだ。

 彼女等の強烈な“押し”に合い、ループは強制的に“二十日鼠”を受け継ぎ、リーダーとして奔走するようになったのだ。

 戦士団とは要するに、雇われ戦士である。傭兵との違いは、“戦争”を専門にしていない所。 戦士団は、闘技場から賞金首まで、手広くカバーしているのだ。

あの賞金首ポスターがいけなかったんだよぁ〜・・・。」

 溜息を付くように吐き出すループ。 彼が言っている賞金首と言うのは、無論“アッシュ”の事である。

 “二十日鼠”が定宿にしている酒場に、そのポスターが張り出されていたのだ。 彼以外のメンバーはそのポスターの前に集まりボソボソと話し合いを始めると、そそくさとアッシュ探索を始めたのである。 半ば引きずられる形で付き合わされたループであったが、まあ、金は有って困るものではない。 探索を続けるうち、自分達以外にもその首を追っている人たちが居る事がわかってきた。そして、ついに同じアッシュ狙いの冒険者に出くわした瞬間・・・悲劇が起こった。

 邪魔者は排除とばかりに、ループ以外の三人が相手に襲い掛かったのだ。なぜか三人とも焦ったような表所をしていた事を、アッシュは覚えていた。

 仕方なく攻撃の手に加わるループだったが、今まで築き上げてきた自信と自負を徹底的にぶち壊された気分だった。 ドラゴンも倒した必殺剣を素手で止められ、仲間達とのコンビネーションを簡単に見切られ、今は魔法使いに打撃戦で押されているのだ。 人形使いと強化魔法使いである仲間とも分断され、今は炎使いの幼馴染と共闘状態である。

「おいおいおいおい!! こんなもんだとか抜かすんじゃねーだろうなぁ?!ああ?! テメーツエーっつーからガルシャラにあっち任せてきたんだろうが?! ふざけてッと一瞬で五体ばらすぞボケェ!!」

 まるでヤクザか何かのような怒号を飛ばすテトに、思わず怯むループ。外見だけとは言え少年に怒鳴られてビビルと言うのも情けないモノがある。

「ちょっと・・・! なにビビッてるのよ! しゃきっとしなさい!」

 呪文を構築しながら、ループに檄を飛ばす少女。炎使いと呼ばれる、火炎属性の魔術師である彼女の名は“シュナ”と言った。 ループの幼馴染で、“二十日鼠”の一員である。

「そ、そんな事言っても・・・! 相手はテト・ウルフだよ? 超至近距離魔法を使わせたら右に出るモノがいないって言う!」

 へたれ度全開で訴えるループ。 鎧を纏わず、ライダースーツのような強化服に身を包み、逆手に刀を構える姿こそ勇ましいものの、心の中は卑屈なのだった。

「頼りないわねぇー! あんただってもう素人じゃないんでしょ?! 少しは自信持ちなさいよ!」

 膨れるシュナ。 胴衣のような服を着て、荘厳さすらある大型ロッドを装備した彼女は、あくまで交戦の構えらしい。

「も〜。なんであの賞金首に拘るのさぁ〜。 諦めようよ〜。」

「何言ってるの?! 諦められるわけ無いじゃない! あの首を誰が一番最初に捕まえるか勝負してるんだから!」

「はた迷惑な・・・。で?勝ったら良い事あるの?」

「そうよ。勝ったら明日の買出しにループとふた・・・。」

「ふた?」

「・・・と、兎に角! あの人を倒すの!」

「ん〜?」

 今一釈然としないまま、剣を構えなおすループ。

「相談は終ったか? じゃ、こっからちっとは楽しませろよ?!」

 言い放つと、大きめなローブを翻すテト。 ジーンズにシルバーレザーのコートと言う出で立ちから、一見魔法使いには見えないものの、その実力は折り紙付きである。

 三人がそれぞれの構えを取った、そのときだった。

 頭上から、少年特有の甲高い、それで居て妙に大人びた高笑いが聞えてきたのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ 番外編 ちょっと前のジェーンとDr

「なぁ。Dr。」

「白米を食い散らかしながら喋るのはどうかと思うのだがね。」

「Drって幾つよ?」

「肉体で言えば494歳だが。 魂と記憶と魔力に関して言えば、そうだねぇ。四〜五万歳程度だと思うのだがね。」

「程度じゃねーだろそれ・・・。」

「なにせ不死鳥だからね。 もっとも生まれた時から今のような姿ではなかったがね。 ちゃんと鳥の形をしていたのだよ。」

「今の姿って変身してるわけじゃないの?」

「違うね。当時私は科学に関する知識の悪魔だったせいか、悪魔そのものにも興味があってね。肉体が滅んでも魂は滅びず、再生するという自分の力を利用して、ある実験を行ったのだよ。もっとも私一人ではなく、複数の賛同悪魔の力も借りたのだがね。」

「物々しいな。」

「私が転生する直前。肉体を構成しているときに、様々な悪魔の魔力、契約、血肉などを投げ込み、煉獄の炎でさらに焼いたのだよ。 いや、実際はもっと様々な事をしたのだが、君にこの話をすると試されそうだから止めておこう。」

「ちぇ〜。」

「兎も角。そうすることで私は様々な悪魔の特徴を得たのだよ。 故に、今の私はフェニックスの亜種、フェネクスでは無くなったと言うわけだね。」

「だから、“ただの悪魔”なんだ。」

「この体になる時軍団も解散させてしまったし、爵位も返上してしまったからね。今ではただのしがないどこにでも居る悪魔と言うわけなのだがね! はっはっはっは!」

「悪魔どこにでも居たら困るっての・・・。 ん? 悪魔ってことは、Dr魂とか食べるのか?」

「ふむ。仙人じゃあるまいし、そんなモノを食べても腹は膨れないと思うのだがね。」

「アンタ悪魔だろうに・・・。 人陥れて魂取れよ〜。」

「無茶苦茶を言うね君は。そんなコソコソと相手を陥れる事を考えるくらいなら、魔法か何かで吹き飛ばせば良いと思うのだがね?」

「悪魔なら頭脳戦しろ〜。頭脳戦。」

「そんな実りの無い事を考えるより、この“ねこねこ肉球超振動粉砕グローブ”の似合う猫人の少女を探す方がよほど健康的だと思うのだがね。」

「プライドねぇー悪魔だなぁ〜。おい。 つか、そんないらんモン捨てちまえよ・・・。」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(10)

このとき、“ガルシャラ・カーマイン”は、非情に釈然としない心中を、黙々と押し殺していた。

 身長二メートル、体重82キロと言う引き締まった体躯を、黒Tシャツに黒いパンツで包み。背中には自分の身長と同じほどの大剣と、五メートルを越える巨大な鞭。そして、二振りの片手剣を装備。髪は短く切りそろえられ、目を覆い隠すような丸サングラスをかける。 一見統一性がなさそうな装備だが、コレが“要塞落し”と呼ばれるガルシャラの戦闘服だった。

 彼が戦闘服が着ているということはつまり、戦闘の仕方を人に見せるのを嫌うガルシャラが、フル装備で戦わなければならないような相手と戦っている証拠だった。

「セェイッ!!」

 背中に止めていた鞭に手をかけ、引き抜きながら横一線に振るう。 ゴオウ と言う、まるで大木でも振るったような轟音と風圧を巻き起こしながら、鞭は恐るべき正確さでガルシャラの周りの敵をなぎ払った。 一体の例外も無くガルシャラの間合いに誘い込まれていた敵たちは、見るも無惨に粉々に打ち砕かれた。

 ガルシャラがいま戦っているのは、“二十日鼠”と呼ばれる冒険者グループの一人。“パペッター(人形遣い)”。 二つ名しか名乗らず、それ以外は一切言葉を発さないと言う、実に不気味で薄気味悪い奴。それがガルシャラの評価だった。

 どうやら魔法でマジックアイテムである“人形”を動かし攻撃を仕掛けると言う戦闘スタイルらしい。 珍しくない戦い方だが、驚いたのはその精密さと力強さ。そしてなによりも、その数だった。 マジックアイテムとしての“人形”と言うのは、ゴーレムなどと違い全てを術者が制御しなければならない。例えば平衡感覚。体重移動。それは正に、体が二つになった感覚と良いだろう。したがって、普通の場合ならば人形は多くて二体。三体同時に扱えれば、恐るべき魔術師として尊敬を集められるだろう。 それがどうだ。目の前の人形遣いと来たら、優に20以上の人形を楽々と操っている。 一度に複数の人形を使うために、コマンドを簡略化した人形と言うのも有るにはあるが、そんなものは熟練の戦士にぶつけても何の役にも立たない。 反応速度やパワーに難があるためだ。 しかしガルシャラが屠った人形はどれも、そんな簡略品とは思えないような出来と動きだった。

「人形って一体4〜5万下らないだろうに・・・。何で3万の賞金首追ってんだよ・・・。」

 元来生真面目で苦労症なガルシャラは、持病の胃痛を感じながら、相手に妥協案を提示する事にした。

「なぁ、パペッター! お前さんの人形だいぶ潰れちまっただろ! 良い所諦めて、引いちゃくれないか?! これ以上やりあって賞金首捕まえたとしても、割に合わないだろう?!」

 武器を背中に括り付けなおし、避けに入るガルシャラ。相手の返答を待っているのだが。が、しかし。当のパペッターはふるふると顔を振るだけで、話すつもりは一切無い様子だった。 黒いフードつきのローブを着込み、真っ黒な手袋をしたパペッターの体の動きはわかりにくいのだが、はっきりと否定の意が伝わってくるほど首を振っている様子を見て。「こりゃ駄目か・・・。」と、キリキリと痛む胃を抑えるガルシャラだった。

 交渉決裂。ならば、相手に遠慮している場合ではなくなった。ガルシャラとその相棒。“テト・ウルフ”には、今すぐにでもカネが必要だったのだ。

 丁度小一時間ほど前の事である。 この街に来た必ず寄る食堂に入ったときのことだった。注文した品を食べ終え、いざお会計となったとき。悲劇は起こった。 財布を落としていたのである。 怒った店の主人は、「金が出来るまで車は預かる。」と言って、彼等が移動に使ってる四輪駆動のジープを物質に取ったのである。元近衛騎士団長と言う恐ろしい経歴の持ち主である店の主人に逆らう事も出来ず、二人はしぶしぶテゴロな賞金首を探す事になったのだ。しかし・・・。

「ここら一帯に居る賞金首は・・・“アッシュ”とか言う少年一人なんだよなぁ・・・。」

 好き好んで人が多く、治安組織がワンサカ居るアクアロードに来る賞金首は居ないのである。

「あ。やばい。ちょっと泣けてきた。」

 基本的にネガティブシンキングなガルシャラだった。 が、今はそんな事を考えている場合ではない。 早く賞金首を捕まえないと、愛車が色々な事に利用されてしまうのだ。出前持ちとか。 最悪、飯代のかたに売り飛ばされるかもしれない。それだけは本気で勘弁してもらいたい。

 こんな事を考えながらも、ヒョイヒョイと人形の攻撃を交わし続けるガルシャラ。潜って来た修羅場の数が違うのだ。避けるだけならば、無意識にも出来た。

 普通、人形を使う相手を倒す時のセオリーは、頭を叩く事である。つまり、術師本人狙いだ。 しかし、恐ろしい数を同時に扱うパペッターに近づくのは、容易な事ではない。 さっきから方端から人形を潰してはいるのだが、次々に増えてきるため、手が減らないのだ。

「こりゃ〜・・・どっかにサポートしてる奴が居るな。 神経鋭敏化に思考力強化・・・あと、本人の身体能力強化。」

 昨今の戦闘では当たり前に行われているそれらの強化では有るが、術者の優劣がここまではっきりするものも無いといえた。 元々優秀な人形の使い手に、同じ位優秀な強化魔術使い。 ガルシャラは相手をそう判断すると、武器を鞭から片手剣二刀流に切り替える事にした。

 “二十日鼠”は、“双剣士”“人形遣い”“強化魔法使い”“炎使い”の4人だと言う噂は聞いている。 恐らく確定情報であろうそれを考慮に入れれば、恐らく間違った推測ではないだろう。

「となるとテトの相手は“炎使い”だけじゃ無い訳か・・・。 アイツなら大丈夫だろうが・・・やりすぎてねーだろうなぁ。」

 キリキリと痛む胃を抑えながら、片手剣を左右の手に握るガルシャラ。

「さて。じゃあ、悪いが。早々に決めさせてもらうとしますかね。」

 そう口の中で呟いた、そのとき。突然空から、子供のものと思われる妙に大人びた高笑いが聞えてきたた。 その声に、背中に寒いものを感じ、ぎこちなく顔を上げるガルシャラ。 目に飛び込んできた人物・・・いや、悪魔の姿に、持病の胃痛がキリキリと痛んだのはいうまでも無い。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(9)

「ふむ。 ゾクゾクと集まってくるねぇ。」

 高層ビルの上から下界を見下ろしながら、Dr・フェネクスはもしゃもしゃとスナック菓子を食い散らかしていた。 タバコを吹かしながらしこたま体に悪そうな菓子をドカ食いするその様は、とてもPTAには見せられるものではなかった。

「しかし選り取りみどりだね。ここまでの面子をそろえるとしたら、相当な額の報酬を出さねばならないと思うのだがね。 3万。円に直せば精々360万。その程度ではとてもとても賄えないと思うのだがね。」

 Dr・フェネクスの言うとおり、戦争をしようとして今ここに集まっている面子を集めようとしたならば。とても3万と言う金額では集められないだろう。そもそも、たった3万では、ここに集まっている誰一人として戦地には赴かないだろう。

「それが、賞金首を追うためだけにゾクゾクと集まり、互いを牽制し始めている。なかなかに興味深いね。 このまま行けば戦闘が起こるね。どの程度のものになるのかまでは想像出来ないが、大惨事に成りかねないと思うのだがね。」

 眼鏡の望遠機能だけでは追いきれなくなったのか、懐から双眼鏡を取り出し覗き込むDr・フェネクス。

 彼としては、この街が戦場になるのは避けたかった。 常識的には街中で兵器を使って賞金首を奪い合うなど論外だ。 しかし、ここに今集まっている面子ならば、そんな常識なんぞ吹き飛んでしまいかねない。 特にDr・フェネクスの愛弟子であるジェーンは“撃ちたがり”や“ハッピートリガー”と呼ばれるほど喧嘩っ早いのだ。

「しかし。 ジェーン以上に喧嘩っ早いのも集まってきているね。仕方ない。本来私は争いごとを好まないタイプなのだがね。ジェーンとも連絡が取れなくなったことだし、一つ現場に出向いてことの収拾に勤めてみる事にしてみようと思うのだがね。」

 誰にとも無くそう言うと、Dr・フェネクスはゆらりと立ち上がり・・・そのままビルの屋上から身を空中に躍らせた。 そして、懐から黒いランドセルを取り出すとそれを背負う。

「さて。久しぶりの空中散歩だね。」

 その言葉に合わせるように、ランドセルの上の部分かぱっかりと開き、内部からハンググライダーが飛び出してきた。 上手く風に乗り機体が水平になると、今度はランドセルの後ろの部分が開き・・・ふろぺらが出てくるのだった。

「ふむ。“超多機能ランドセル” なかなか楽しいね。しかしコレはやはり小学生程度の少年少女が着用すべきだね。私のような老鳥には心臓に悪いよ。」

 は〜っはっはっはっはっは と、気持ち良さそうに高笑いを飛ばすDr・フェネクス。 向かうは、一路“ガルシャラ・カーマイン”と“テト・ウルフ”コンビの元である。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(8)

「な、なんで僕、おわれてるんですかぁ〜?!」

 アクアロードの裏道や表通りを駆け抜けながら、悪魔族の少年、“アッシュ”は、今までの自分の行動を振り返っていた。

 

 彼がこの大陸に渡ってきたのは半年ほど前。 飛行機やら船が発達した今となっては、大陸間の移動など珍しくないわけだが、そのときの彼にとって見れば実に緊張する出来事だった。 なにせ彼は、この大陸に冒険者になるために来たのだ。

 彼が住んでいたのは、国と言うより集落と言った方が良い様な、実に小さな小さなものだっが。彼と同じ悪魔族だけが集まり生活していたそこには、約200人ほどが住んでいた。

 あまり近代的な魔法道具が無かった集落に住んでいた彼が冒険者になろうと決意したのは数年前。 一人の冒険者の出現が原因だった。

 アッシュ達の種族は魔法に優れ、その外見が伝説に出てくる悪魔に似ていることから、近隣諸国から疎まれていた。 それでも彼等の高い能力を警戒してか、攻めてくる事はなかった。そのときまでは。

 機動鎧。浮遊船。終いには空中要塞までもが持ち出され、悪魔族を根絶やしにしようとする遠征軍が編成された。参加したのは、悪魔族が住まう森を取り囲む五つの国。 中には悪魔族と友好関係にあった国もあったのだが・・・悪魔族討伐は、国同士の外交と駆け引きと、見せしめと力の誇示に恰好の場所だったのだ。

 数千の敵を前に、そのとき戦う事が出来た悪魔族の戦士は、百にも届かなかった。残りは子供や、年老いた老人たちだった。

 遠征軍が自分達の森に近づいてくるのを、悪魔族は身を寄せ合い見守るしかなかった。 散り散りに逃げようともしたが、その時には既に森は軍勢に囲まれていたのだ。 当時まだ10歳だったアッシュも、その時の事は良く覚えていた。怖くて怖くて、堪らなかった。大人たちの言う事は良くわからなかったが、怖いモノが近づいてきていると言う事だけは、良くわかった。

 空中要塞と浮遊船による砲撃が始まり、最初の魔法が森を焼こうとした、正にそのときだった。 たった一人の軽装の青年が、数百にも及ぶ戦争用魔法を全て解除したのは。

 小柄で、腰まで届く黒髪をたなびかせ、明らかに大きすぎる紫色のタートルネックの上着を着たその青年は、困ったように眉をハの字にしながら、苦笑いのように目と口元だけで笑っていた。

 村の中央に陣取ったその青年は、次々に投下される機動鎧や兵士たちを一発ずつの魔法で全て無力化していった。 最後には空中要塞や浮遊船までもを破壊し、遠征軍を完膚なきまでに叩き潰したのだ。 しかも驚いた事に、その戦闘での死傷者は全くの皆無だったと言う。

 呆然とする悪魔族を前に、戦いを終えた青年は困ったように眉をハの字にして笑った。 そして、数時間をかけて一人一人の安否を確認していったのだ。

「大丈夫でしたか?」「怖かったね。もう大丈夫だよ。」「周りの国には、僕から話を付けておきますから。」「こんなことは、二度と起こさせません。」「こんなこと起きる前に止められれば良かったのに・・・。不甲斐なくて御免なさい。」

 そう言いながら歩き回る彼の顔を、アッシュは今でも忘れなかった。そして、彼にかけられた言葉も。

「君は・・・凄く魔法が上手になるね。僕よりもずっと。そしたら、みんなを守ってあげてね。」

 まあ、興味があればなんだけどね。 そのときだけにっこりと微笑んだ顔が、今でもアッシュの脳裏に染み付いて離れないのだった。

 後からわかったことだったが、その青年の名は“黒”の“トレット・レラルム”と呼ばれる、現状最強と歌われる魔法使いであり、戦士であり・・・冒険者だったと言うことがわかった。

 その日から、アッシュには目標が出来たのだ。 いつか、みんなを守れるような、凄い魔法使いに。

 

 アレから数年。故郷を出、ついに大都会であるこのアクアルートに辿り着いたのだ。

 ことここに付くまでにも、様々な出来事があった。 獣に襲われている人を助けたり、怪我をしている人を助けたり。 野宿をしようとしているところを、親切な人に出会い一夜の屋根を借りた事も会った。

 そんな経験をするうち、少しずつだが冒険者として自信を持ち始めた矢先に・・・この有様だ。

 どうやら賞金をかけられているらしいのだが、全く身に覚えが無かった。まだ悪魔族としては子供で、冒険者としても未熟な自分にそんなものを書ける理由なんて、全くないだろうと思う。

 しかしながら実際、恐ろしくド派手な赤いパワードスーツに追い掛け回され、今は常識外れにタフなガンウーマンに追い掛け回されていた。 悲しい事に、一目でどちらにも叶わない事がわかった瞬間。アッシュは反射的に全力疾走で逃げ出していた。 ある意味、半年間の放浪生活の賜物と言えよう。

「いいいいい、いったい、なにがどうなってるんですかぁ〜?!」

 誰にとも無く敬語で叫びながら、半泣きで走り回るアッシュ。さっき振り返ってみたのだが、追ってくる女性のあまりの形相に、見なかった事にしていた。

 ちなみに。彼が自分に賞金がかけられた理由を知るのは、もう暫く後である。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(7)

「ジェーン。聞えるかね?」

 高層ビルの縁に立ちながら、Dr・フェネクスは通信機片手に咥えタバコの煙を吐き出した。 肉体年齢的にはまだ喫煙してはいけないのだが、魂年齢的には全然OKなので気にしない方向で決めている。

「聞える。つか、なんだろうねあの子。 追ってこないでくださいぃ〜! とか半泣きで行ってるくせに、すんごい早いよ? つか、あの背中の羽役に立たんでしょ〜。ちっさ過ぎるってのぉ〜。」

「まだ少年だから小さいのだろ? 今さっきネットで調べてみたのだがね。彼等の成人年齢は50歳前後だそうだよ。まだまだつるっつるのお子様と言うわけだね。」

「また不穏な事を・・・。 それで。あの熱血バカはなんだって?」

 呆れたように溜息を付きながらも、全く速度を緩めず追跡しているらしく、スピーカーから聞えてくる風切り音は緩んでいなかった。 追いかけっこをしている二人をDr・フェネクスは眼で追っていた。 勿論普通の視力では探す事さえ不可能だろうが、フェニックス系統の彼には造作も無かった。なにせ鳥な訳だし。

「ふむ。熱血バカ。 英児の事かね。確かに彼は熱血体質で馬鹿だが、熱血バカと言っては可哀相だと思うのだがね。ダブルパンチはいかんと思うよ。」

「そんなこたーどうでも良いんだよ!」

「わかっているよ。 彼に聞いたのだが、どうやらアッシュ少年を追っているのは、我々だけでは無い様だよ。少なくとも20組は彼を追っているようだね。」

「はぁ?! 20?!」

「ふむ。脚の動きが悪くなったようだね。 真面目に追わないと追いつけないと思うのだがね。彼はなかなか早いよ?」

「わかってるっての! つか、他にも追ってる奴が居ると思ったからDrに手伝ってもらおうと思ったのは確かだけどさ。 20って・・・。」

「ふむ。この通話をしながらあたりを見回してみたんだがね。 ビックネームだらけだよ。 例えば・・・。 “ガルシャラ・カーマイン”と“テト・ウルフ”のコンビ。」

 事も無げに言ったDr・フェネクスの言葉に、スッコーンとスッ転ぶジェーン。 あまりの気持ちの良いこけっぷりに、わざとではないかと思うほどだ。 しかし、よほど賞金首が欲しいのだろう。根性で転がりながら立ち上がると、再び走り始めた。

「おお! 素晴らしいね! 今の動き! 白米だけでそれだけの機動が出来るとは驚愕に値するよ!! 今の映像を私の日記に付けておこうと思うのだが、良いかね?」

「よくあるか、ボケ! つか、カルシャラとテトって、あの“要塞落し”の戦争屋コンビか?!」

「彼等自身は冒険者を名乗っていと思ったのだがね。 まあ、確かにあの活躍では戦争屋と呼ばれても仕方ないね。確かに彼らは優秀だしね。 優秀ついでに、“二十日鼠”傭兵団の面子も全員出張ってきているようだね。動きから見てアッシュ少年を狙っているのは間違いないと思うのだがね。

 事も無げに言ったDr・フェネクスの言葉に、ドッコーンと民家の壁にぶち当たるジェーン。 曲がり損ねとは思えないほどのタイミングのよさに、わざとではないかと思うほどだ。 しかし、よほど賞金首が欲しかったのだろう。そのまま根性と魔法で民家を貫通すると、再びターゲットを追いかけ始めた。

「おお〜! 実に素晴らしいね! 本当に白米だけであそこまでの力が出てしまうものなのだね! 今の映像を私の自分史に記録しようと思うのだが、良いかね?」

「よくあるか、ってか、書くな!自分史!永遠に続くだろうが! つか、二十日鼠って4人組みの本物の戦争屋じゃねーかよ!!戦場魔法使いの魔女三人に、剣士兼機動鎧乗りの!! 市街戦でもおっぱじめる気か!!」

「ふむ。年下、同い年、年上。3パターンの女性に囲まれた19歳の彼は実に羨ましいね。個人的には順に、クマ、ネコ、ウサギと言う動物耳の兵器を着用させてその機能美を愛でるのがベストだと思うのだが、どう思うかね?」

「しらねーよ! つか、Drあいつらと知り合いなのか?」

「彼らに機動鎧をあてがったのは私なのだがね。」

 機動鎧とは。全長10mを越える、大型のゴーレムのような兵器の事を指す言葉だ。製作方法や設計思想。機動にどんなエネルギーを要するか、どのような目的に使うのかによって名称は千差万別。統一した呼び方はないものの、一緒くた似せれがちな兵器の総称の一つである。 無論兵器開発者であるDr・フェネクスもいくつかの作品を世に排出していた。

「機動鎧“カルテット”。私の製作した中でもなかなかの出来だと言って良い部類に入ると思うのだがね。久しぶりに見たその雄姿はなんとも言えず魅力的だと思うね。」

「来てんのかよ!出てるのかよ機動鎧!! 兵器を使うな!何考えてんだボケどもが!!」

「兵器と言えば、空賊船も見えるよ。 浮遊攻撃艇“ジェノサイドホエール”。かの名高き空賊、“ガトリング”ミリル船長率いる“七海殺戮海賊団”の旗船だね。」

「・・・何で海賊にまで追われてんだよ・・・。 もう良い。そう言うビックリ人間ズがこっちに気が付く間もなく、賞金首ふんじばって引き渡す!!

「私もそれがベストだと思うんだがね。 そう言うわけにもいかないようだと思うのだがね。」

「あぁ?! 今度は誰?!」

「王立近衛騎士団 騎士団長“ハウザー・ブラックマン”。 まあ、これだけ暴れていれば気が付かれるのも当然だと思うのだがね。」

 事も無げに言うDr・フェネクスの言葉に、ズダーンっと走ってきた車と正面衝突するジェーン。 何かもう神がかり的なタイミングで惹かれる様は、わざとではないかと思うほどだ。もっとも咄嗟に防御魔法を使ったのか、全く怪我は無かったらしい。 しかし、今回は流石に精神的に効いたのか、暫くうずくまったまま動かなかった。慌てた運転手が飛び出してきた所で・・・。

「ザケンナ、ボケェ!!」 と、通信機を使わなくてもDr・フェネクスのところまで届きそうな大声で叫ぶと、弾丸のような速さで走り始めた。

 そんなジェーンを眺めながら。

「は、白米を食べただけでアレだけの力が出せるとは・・・! これは私も明日からは白米のみの食生活に切り替えなくてはならないかも知れないね! 今の映像を世界の全てが記録されていると言うアカシックレコードの最重要項目に永久保存するよう神に要請したいのだが、どう思うかね?!」

 通信機に向かって興奮気味に話すものの・・・。ジェーンは既に通信機を握りつぶしているのだった。

博士の風変わりな研究と飯のタネ(6)

「一閃! 気合斬!!」

 アクアルートの中心街。相当な人通りと車のある表通りのど真ん中で、赤いパワードスーツを着込んだ剣士の絶叫が轟いた。その声に続いて響くのは、盛大な爆発音と悲鳴の大合唱だ。

 大量の魔方陣を書き込み、気力や気合いといった心的エネルギーを魔力に変換、使用する事を可能にした装置を積んだパワードスーツ。“アーマー・オブ・ディープレッド”。 それが、この赤いパワードスーツの名前だ。 それを駆る青年の名は、“新田 英児”16歳。 幸か不幸か、“科学が発達した普通の世界”から、この“剣と銃と魔法の発達した世界”に迷い込んできた、異世界人である。

 彼が特に理由も無く、本当にただ単に“迷った”だけでこの国に来てはや1年。 妙に適応力の高かった彼の今の仕事は・・・傭兵だった。

 金を稼ぐために戦いを生業とし、稼ぐために戦い、戦うために稼ぐ。それが英児の語る傭兵の姿だった。 故に、戦って稼げる事から賞金稼ぎも兼任したりしている。 そう。彼は今、仕事の真っ最中なのだ。

「よっしゃ! 吹っ飛んだか?!」

 爽快に叫びながら、楽しそうな声をあげる英児。フルフェイスヘルメットを被っているため表情は見えないが、ニヤリと笑っていること請け合いだ。が、すぐに肝心な事に気が付き、動きが止まる。

「・・・だ、駄目じゃん・・・。肉片に賞金でねぇーよ・・・!」

 そう。彼は今、殺してはいけない賞金首を追っている真っ最中なのだ。 勘の言い方ならばお分かりだろう。 彼が追っているターゲット。それは・・・。

「アッシュ〜! 賞金首のアッシュー! テメー吹っ飛んで無いだろうな!」

 オロオロと周囲を見回しながら、叫ぶ英児。 ちなみに、魔力を流し込む事で衝撃波を発する彼の剣と、パワードスーツの腕力を持って放たれる彼の技。“一閃・気合斬”の破壊力は、文字通り岩をも砕く。なにせこうして道のど真ん中に撃っただけで、道路陥没に水道管破裂、魔力伝達線は寸断され、人々は逃げ惑うという軽い地獄絵図が出来上がるほどだった。

 英児的には、この技は確実に賞金首を捉えていた。 これは非常にまずい状況である。 なにせここ暫くろくな仕事にありつけず、一週間もまともに飯を食べていないのだ。

「あぁ〜!! くっそぉぉ!! 反射的にぶっ放すんじゃなかったぁ!!」

 がしがしとヘルメットを掻き毟る英児。街中で攻撃魔法を使った事に関する感想は特に無いらしかった。

 と、そのときだ。突然英児の耳元で、ピーピー、と言う電子音のような音が響いた。 彼のパワードスーツには様々な仕掛けが施されており、この音は通信が入ったときの合図だった。

「ふったく・・・! 誰だよこんなときに・・・。」

 苛立たしそうに相手を確認した英児だったが、表示された名前を見て表情が変わる。 すぐに通信をONにして、連絡を入れてきた相手に声を掛ける。

「プロフェッサー・F! 御久しぶりです!」

「ふむ。君は相変わらずだね。 なに、私のいる位置から君の一閃・気合斬が見えてね。連絡を取って見た訳なのだがね。」

 通信の相手は、どう聞いても子供の声だったにも拘らず、異様なほどに落ち着き払った、大人びたものだった。 言うまでも無く、Dr・フェネクスである。 自分の名前は無い。そう語るDr・フェネクスには、様々な呼び名があった。プロフェッサー・Fと言うのは、その中の一つなのだ。

「あははは・・・。つい興奮してしまって、街中でやってしまいました。賞金首を追っていたもんで。 でもちょっとやりすぎちゃったかなぁ〜。路駐の車、何台かおじゃんですよ。 人死には無いんで、大丈夫なんですが。」

 苦笑交じりに言う英児。 彼は自分が戦うとき、絶対に一般人を巻き込まない事をポリシーにしていた。今さっきも我を忘れて道路を吹き飛ばしただけのように見えたが、五万と言う高ランクの賞金首を街中で安全に。つまり、一撃で仕留める為の、彼なりの最善策だったのだ。 それが証拠に、彼は今まで、一人の巻き添えも出していなかった。戦争屋とも呼ばれる傭兵と言う職にありながらのその数字は、彼の傭兵としての実力を物語って余りあるものである。

「しかし、まずいんですよ。殺しちゃいけない賞金首だったんですけど、フッ飛ばしちゃったみたいで。今探してるんですが・・・。」

「その必要は無いよ。 君の探してる賞金首“アッシュ”は、既に逃げ延びて居るのだからね。」

「はぁ?! 俺の攻撃から?! マジですか? 気合斬は拳銃弾より早いんすよ?」

「ふむ。まじだね。 今ジェーンが逃げ切ったアッシュ少年の後ろにぴったりつけているよ。 実は私達も彼を追っていてね。」

「プロフェッサーたちもですか?!」

「ああ。 しかし、なんだね? も、と言うのは。私達以外にも追っている人物が居るのかね?」

 Dr・フェネクスの言葉に、英児は驚いたような表情を作る。

「知らないんですか? 今この街に集まってる俺たちの同業者約20組。全部が全部あの首追いかけてるんですよ?」

博士の風変わりな研究と飯のタネ(5)

「ターゲットの名前は“アッシュ”。 種族はデーモン族で、年齢は16歳。 ま、あの種族は寿命がエルフ並だから、まだまだガキってところだね。賞金がかかった理由は不明。ただ、この依頼主がビックリ。」

 携帯通信機を片手に、ジェーンは人通りの多い大通りを歩いていた。 高層ビルの立ち並ぶ場所であるだけに、彼女のように携帯通信機を使いながら歩く人物は少なくなかった。

「デーモン族にしては随分すっきりした頭をしていたね。あの種族は頭に羊っぽい角が生えていたと思ったのだがね。」

 通信機から聞えてくるのは、やたらと大人びた少年の声。無論。Dr・フェネクスだ。

 ちなみに、彼等が持っている通信機は割とポピュラーなもので・・・平たく言えば携帯電話のような普及した通信機器である。

「ま、デーモン族って言っても、Drみたいな悪魔ってわけじゃない見たいよ? ただ、伝説に出てくるデーモンにクリソツの外見で、魔力のある種族ってだけでさ。 コウモリ系の翼に、羊系の角。それに、鋭い八重歯。 それに彼まだ若いから、角は生えて来て無いみたいね。」

「ほぉ〜。 で。そのびっくりな賞金をかけた依頼主とは、誰なのかね?」

「それがね。個人じゃないんだよ。 元々この賞金はデットオアライブじゃないのよ。生かしたまま捕まえて欲しいってものなの。多分ポイントはそこだと思うんだけど。 この金額は賞金狩ギルドに出された同じ依頼をまとめた結果の金額なんだとさ。 つまり。複数人が同じ人物を捕まえてくれと依頼してるってこと。」

「ほぉ〜。大勢の人間に生け捕りにされそうになっているわけだね。 なかなかエキサイティングな人生ではないかね。 それほどまでにうらまれるような事をしたのか・・・はたまた大勢の元恋人たちに追われているのか。 彼はなかなか魅力的な顔をしていたからね。世の女性陣がころりとやられてもおかしくないと思うね。 ふむ!彼にならば“子悪魔くんの触覚型多機能ヘッドセット”を託せると思うのだが、どう思うかね?」

「知らん。つか、またそんなピンポイントなアイテムを・・・。」

「ふっふっふ。 で、私はナニをすれば良いのかね?」

「上から見て、ターゲットを探して。知らせてくれれば、こっちで捕まえるからさ。」

「ふむ。なるほど。それで・・・。」

 Dr・フェネクスは一つ頷くと、トコトコと歩き・・・。自分の足元を覗き込んだ。

「私はこんな所に上がらされているわけだね?」

 足元。地上百数十mの高層ビルの屋上から下界を眺めつつ、「しかし。この中から写真でしか見たことのない人物を見つけるというのは、骨が折れると思うのだがね。」

 そんなDr・フェネクスの言葉に、ジェーンはこともなげに一言。

「Dr、鳥だからだいじょうぶでしょ?」

「ふむ。まあ、確かに鳥ではあるのだがねぇ。」

 微妙に納得がいかないものの、引き受けたからには仕事はこなすのがDr・フェネクスの流儀だった。 仕方なく彼が掛けている眼鏡を望遠モードに切り替えようとつるの部分に手を伸ばしたその瞬間・・・。

 ドゴーン!! と言う爆音と共に、真っ黒な煙がDr・フェネクスの視界に飛び込んできた。

「お〜。 凄いね今のは。攻撃魔法だよ。」

「はぁ?! 街中で?!」

「もう一つ凄い事があるね。」

 カチカチと眼鏡を操作しながら、特に驚いた様子も無いDr・フェネクス。望遠機能を作動させてのか、その眼鏡がまるでモニターのように何分割もの画像を映し出す。

「ターゲットが爆発に巻き込まれているね。 彼を追っているのは我々だけではないようだね。」