カテゴリー : レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ
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Jan 31, 2007
レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(6)
「例のサンプル。ご推察通りの品でした。」
車椅子に座ったその女性は、どこか焦点のはっきりしない目を泳がせながら、目の前の執務机に座るアルベルトに報告を続けた。
「“テラ”時間、3042年2月3日に“アルビオル・D・グッドフォース”博士が召喚に成功した“天使”。その体組織の一部。“羽”であることを確認しました。」
がらがらに掠れた、振り絞るような声にも拘らず、女性はうっすらと笑みすら浮かべて、何か見えないものでも目で追っている様にゆるゆると視線と首を泳がせていた。
そんな女性の態度を気にした様子も無く。寧ろ一瞥もくれることなくキーボードを叩いていた指を止め、アルベルトは深い溜息をついた。
車椅子の女性。彼女の名は、“レブラフラ・クイルドレイ”。 近衛騎士団 四番隊隊長にして、“邪眼の”レブラフラと呼ばれる、齢600を越える大魔女だ。
光を吸収するように黒い瞳と、同じ色の長いウエーブのかかった髪。そして、病的なまでに白い肌をした彼女は、一見すると実に美しい女性だった。年齢不詳のその外見は実に魅力的であったが、暫く眺めていると、何故か背筋が冷えるような錯覚に陥る。そう言う類の、ある種幽鬼じみたこの女性は、アルベルトの数少ない側近。腹心の一人だった。
「やはりか・・・当たって欲しくない“ご推察”だったんだがなぁ。」
首を振りこめかみを押さえながら立ち上がると、アルベルトはとても13歳と言う年齢にはそぐわない態度で舌打ちをした。
「わたくしには理解致しかねます。あのように貴重な希少な物を使って“絵の具”を作るとは。」
ゆるゆると視線を泳がせながらそう言うレブラフラに、アルベルトは「俺もそう思うがな」と頷いた。
「アルビオル・D・グッドフォース。道楽な猫人で、興味を持ったら突き進むタイプ。その男が召喚に成功し、その後“絵の具”を作るために同人が何らかの手段で召喚した天使を捕獲、殺害した事件。俗に“リゴドアバレー・天使解体事件”。 そのとき作られたっつー“エンジェルホワイト”って“絵の具”。知ってるな?」
「は。 例のサンプルの事かと。」
「そうだ。 恐らくな。 お前に解析を頼んだサンプルは、“マブレー・クワリフ”作・絵画“廃頽”に使用されていた絵の具だ。」
アルベルトの言葉に、レブラフラは感心したような、面白い事でも見つけたような声を出した。
「リゴドアバレーの件は、確か今だに不可解な点が多いと聞きます。曰く。何故天使を捕まえられたのか。何故絵の具にしたのか。そして、術式自体はそう難しくも無いとはいえ、なぜ天使を、“医者であるアルビオル博士が”召喚したのか。」
「それに付け加えて、作った絵の具はどこに消えたのか。」
アルベルトはそう言うと、自分の机の引き出しに手を書け、一枚の白紙を引き出した。机の上にそれを置くと、いつの間にか真っ赤な液体塗れになっている人差し指をそれに押し当てる。
「天使召喚は行われたものの、暴れないうちに絵の具なんかにされた事件だ。約40年前の事件だが、今でも時々騒がれるからな。」
「謎が謎のまま四十年前に消えた絵の具が、画家の手で使われていた。と、言う事ですか。」
「そう。そう言うことだ。」
「今この時期にわたくしにこのサンプルを調べさせたと言う事は。なにか有るのですか?」
紙の上に押し当てられた指に付いた真っ赤な液体。自身の血が徐々に紙に吸い込まれていくのを眺めながら、アルベルトは不機嫌そうに眉をしかめた。
「あって欲しくないんだがな。 マブレー・クワリフって男は、なかなか腕の良い絵師なんだが、数ヶ月前白い絵の具を持った人物が、“此れを使って絵を描いてくれ”と依頼して来たらしい。 今まで見た事も無いような白に、マブレーは1も2も無く飛びつき、“廃頽”を僅か一週間で書き上げた。完成したそれは暫くマブレーの仕事部屋に飾られた後、依頼人の手に渡った。」
紙の中央に、十センチほどの血で出来た円が形作られた所で、アルベルトは紙から指を離した。
「そのさらに一週間後。マブレーは何ものかに“頭だけ齧りとられて”殺された。遺体が見つかったのは、公園のブランコだったらしい。」
「“廃頽”は今どこに?」
「それがな。どう言う訳か“天使を召喚する”とか言い出した国に向かって運ばれてる。それも堂々と。客船の美術館に展示されてな。」
アルベルトの言葉を聴きながら、レブラフラは楽しそうにくつくつと笑いをこぼす。
「きな臭い。気に入らない。調べて来い。」
心底楽しそうに宙に目を泳がせながら呟くレブラフラ。
「そうだ。それが俺の命令だ。お前はマブレーに絵を描かせた奴を徹底的に調べろ。根掘り葉掘り。全てだ。」
アルベルトは自分後の染みた紙をレブラフラに突きつける。レブラフラはその紙に視線全く動かさないにも関わらず、正確にそれを受け取る。
「絵自体の方には別の奴を付ける。お前は四番隊を使って、手段問わず仕事を片付けろ。良いな。」
十三歳の少年の言葉に、齢600を越える美しい大魔女は、実に楽しそうにくつくつと笑い声を上げると、その車椅子が示すように体が動かないのか首だけをコクリと動かした。
「はい。お師匠様の命とあれば。」
Nov 02, 2006
近衛騎士団 一番隊〜三番隊隊長の方々とか。
一番隊 隊長 “イフリート・ザ・ダークナイト”ミレイ・クロセッカ
全員が黒い魔道強化鎧を着用し、機動鎧や戦闘艦、移動島などを保有。拠点制圧、対象殲滅などの直接戦闘に特化した隊。
秩序だった行動を好む隊長に指揮された隊だけあって、作戦行動中の統率や行動の迅速さでは、団長も全幅の信頼を寄せている。その為か、敵対対象が小国である場合、この隊だけに出動命令が下る事もある。
小細工も、戦術も、戦略も、作戦も無く。ただただ力を持って真正面から殴りつけ、全てを粉砕し踏みつけて直進する。レニス王国近衛騎士団を代表するような隊である。
隊長であるミレイ・クロセッカは武門の名家、クロセッカ家の出であるためか、やたらと“騎士道”にうるさい。 ハウザーやレニス王など、基本的に常識とかどうでも良くなっちゃってる連中にとうとうと説教を垂れたり、アルベルトやマービットの悪巧みに真っ先に巻き込まれたりするのが趣味(嘘)。
真面目真面目の真面目一辺倒なその性格ゆえか、他の隊長連中にからかわれる事もしばしば。もっとも、本人はからかわれているとも思っていないようだが。
二番隊 隊長 神津 雅平
複数の移動島や戦闘艦を保有する、艦艇戦のスペシャリスト集団。
レニス王国が誇る魔道技術の粋を集めた圧倒的火力と、保有する人工衛星を介した移動召喚陣を使用した機動力を使っての、他隊の移送や大型戦闘を得意としている。
旧大戦中、たった一隻の戦闘駆逐艦で、敵国の戦艦20隻を撃墜した名将、神津が指揮するこの隊は、個々の戦闘力こそ低いものの、情報戦、整備、観戦操舵などを特使とするモノが多い。ナカにはたった一人で移動島を操る猛者まで居る。
最高の戦力を、最高の人員で運用する。人員数こそ少ないものの、この隊の戦力は小国のそれに匹敵する。この二番隊と一番隊が合同で作戦を行う事は殆ど無く、あるとすれば、それは敵対国完全鎮圧する事が目的といったような、国家間戦争に限られることだろう。
隊長である神津は、元々は一歩兵であったが、戦場での功績により出世。当人は戦場を駆け回る歩兵に戻りたいと思ってはいるものの、如何せんその才能が邪魔をして艦隊指揮などの役回りを押し付けられる事となった。
お堅い喋り方にきちんとした立ち居振る舞いから、とっつきにくそうに見えるが、元々は名も無き一兵卒。部下たちの受けもよく、細かな所に気を使う性格であるためか、隊員達からは“親方様”と呼ばれ親しまれている。
兎人である神津だが、何故か女性隊員から“シブカワイイ”と大人気。時々ニンジンをプレゼントされるのだが、嫌な顔ひとつせず受け取ったりする好人物である。
三番隊 隊長 “黒竜”ドレイコ・スカルホッパー
隊員全員が機動鎧乗りであり、単独での諜報、強襲、他の隊への協力などを担当する、いわば傭兵部隊。
隊員の殆どが元冒険者や元傭兵であり、その実力を買われてドレイコに引き抜かれたモノが殆ど。その為か統率、軍規、服務規定などと言った言葉とは全く無縁な集団である。
かと言って、集団として機能していないかと言えば、話は別である。彼等はまるで隊がひとつの“ギルド”であるとでも言うように行動し、事が起こればまるで傭兵のように淡々と任務をこなすのだ。
個々の能力は群を抜くモノの、規律だった騎士である事を嫌う。そんな連中に、隊長であるドレイコが上手く仕事を分配していく。 実力がモノを言う。そんなスタンスである近衛騎士団の、代表例とも言うべき隊である。
隊長であるドレイコは、騎士団の隊長とは思えぬほど軽く、のらりくらりとした男である。 始末書、報告書などの書類仕事を嫌い、隊長の執務室に居る事を嫌い、形式ばった挨拶を嫌い、酒とタバコ好む。 ぱっと見、ただの不良中年にしか見えないが、元は他国の将軍であり、その実力は疑うべくも無い。
とは言うものの、三番隊の詰め所をバーに改造して、部下の一人に運営を任せている当たり、ただの道楽男と言われても、仕方が無いのかもしれない。
Aug 20, 2006
レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(5)
脅威の温泉パワーでなんとか生気を取り戻すと、アルベルトはフラフラと自室に戻った。まだまだ終っていない面倒な仕事が大量に残っているのだ。
「それもコレも全部あの連中のせいだ・・・。殲滅してやろうかマジで・・・。」
不穏当な事を呟きつつ、アルベルトの目は真剣そのものだった。実際、事と場合によっては、本当に殲滅も有り得る事態だった。
この世界の国々には、どんな国であっても守らなくてはならない、いくつかのルールが有った。“大条約”。そう呼ばれる、絶対不可侵の決まりであった。もし違反すれば、他の国々は宣戦布告無く攻撃を開始することが許され、違反国の国務に携わる人間は皆殺しにすることが義務付けられる。無論国土は他国に分配され、根本から違反国は抹消される事になるのであった。
あまりにも魔法が発達してしまったこの世界において、一番恐るべきはその魔法であった。星を作り変え、新しい生命体を作り出し・・・やり様によっては時間の流れさえも捻じ曲げる。 その、本当に恐ろしい魔法を制限し、“この世界を守る”事を目的にした取り決め。それが、“大条約”。と言う訳である。
今のアルベルトの悩みの種。それこそが、“大条約”に関わるものなのであった。
“大条約”のなかの一つに、“天使を召喚してはならない”と言う物が有った。 天使。神の使いの事である。
なぜ、天使を召喚してはならないのか? 理由は簡単である。脅威だからだ。
過去に、ある国が国家の総力を挙げ、天使を召還した事があった。 宗教国家であったその国は、自分達の信仰の対象。その使いである天使との謁見を望んだのだ。 しかし。謁見は彼等の思い描いていたものとはかけ離れたものになった。
召喚された天使は、召喚された瞬間、動物を殺しだしたのだ。 人も家畜も野生のものも区別なく。一切合切目に付く限り、だ。
天使の力は凄まじく、数千と言う兵士があっという間に消し飛ばされてしまったのだ。 天使曰く。“欲を持った物は全て悪しき物。見ただけで虫唾が走る。故に視界から滅却する。” どんな生物にも、本能的な欲求は有る。それすらも、その天使は“悪”と言い、断罪すると言い放ったのだ。
自ら人間に近づく天使は、往々にして人間に好意的である。実際、天界と呼ばれる世界から来た天使は、何体か確認されては居た。しかし、天使が全て、人間に好意を持っているとは限らなかったわけである。
その事件の後、天使よりも世界に存在が確認されている個体数が多い悪魔たちからの総合見解が、各国に発表された。“天使は確かに神の使い。されど、人の味方であるとは限らない。我等の中の変わり者のように人を愛するものも居れば、我等の中の多くのものよりも人間が嫌いなものも、確かに居る。” 因みに、個々が集まる事の殆ど無い悪魔たちの意見をまとめ、各国に配信したのは、誰あろうDr・フェネクスなのだった。
この発表が有った後も、天使召喚は何度か行われた。しかし、その全てが、成功し、また失敗であった。つまり、“人間嫌い”な天使しか召喚できなかった訳である。
数万人が犠牲になった頃。“大条約”に、天使召喚を禁ずるという項目が追加されたのだった。
そして、つい先日。 ある宗教国家が、天使召喚実験の再開を宣言したのである。
Aug 13, 2006
レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(4)
アルベルトの朝は早い。基本的に日が昇ると起きてしまう体質である彼は、明け方ごろには、城内の自分の執務室のソファーから起き上がる。
宰相と言う重役な彼が、何故ソファー? と、思う人も多いだろう。 あまりに多忙すぎる彼は、基本的にベッドで寝る時間も無いほど働きづめているのだ。寝る直前まで仕事をし、気絶しそうになったらソファーに転がるのだ。
「・・・はぁ〜・・・。 ・・・宰相なんざ辞めてやる・・・。」
一日に四十回以上口にする台詞と共に、起き上がる。何時もの事である。
起き上がるとすぐ、のろのろとした動きで執務室を出て、城の中の兵士たちが使う大浴場へ向かう。 普通、宰相クラスにもなれば自分の個室があり、浴室も専用のモノが有ったりするものだが、「そんなもん作る金あんなら路上募金にでもくれてやれ。」と、アルベルト本人が設置を頑なに拒否したのだった。故に、城内で彼の部屋と呼べるのは、唯一執務室のみなのだった。
さて。兵士たちの使う大浴場は、基本的に二十四時間営業だった。城の庭を掘ったら出てきたと言う温泉を使用しているため、城とは別棟に組んであったりした。 ちなみにこの浴場、一般にも公開されていたりした。そのために、ほぼ共同浴場と化しており、卓球台やらマッサージ器まで置いてある始末である。
“おいでませ大浴場 〜国王の湯〜”と書かれた暖簾をくぐり、受付に立っている女性に小銭を渡す。内装はやたらと小奇麗で、完全に観光地化されているような様子だった。
まぁ、疲れを癒す場である。汚いより、綺麗な方が良い。そんなことを思いながら、なれた様子で、アルベルトは受付嬢からタオルを受け取った。
「宰相閣下・・・。お仕事も良いですが、お休みに成られないと・・・。今にも死にそうなお顔をされていますよ?」
「そう簡単には死なねーよ。つか、俺が居なくなったら誰があのアホ王のお守りすんだよ・・・君やってくれる?」
「お断りします。私、この受付カウンター気に入っていますので。」
何時ものように軽口を交わし、アルベルトはよろよろとした足つきで男湯の方向に歩いて行く。途中何度かこけそうに成るものの、なんとか体制を立て直して歩くのだった。
May 30, 2006
レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ(3)
アルベルト。 アルベルト・ストラルフ。 若干十三歳にしてレニス王国と言う、世界随一の戦闘国家の宰相を務める男である。
“英雄王”“勇者”とも呼ばれる現レニス王を、冒険者時代から支えてきたアルベルトにとって、今こうして宰相の地位に居る事は予定外以外の何ものでもなかった。
ほんの一昔前のことである。
この世界には、レニス王国と並ぶ巨大国家が存在していた。もっとも、それは核力があって、人工が多く、国土が広いと言うだけの事であって。軍事力の面で言えば、レニスには及ばないものであった。 比較的穏やかで温厚な気質であったその巨大国家は、他国に食糧を輸出する事で成り立つ国であった。しかし、そう言った国の常とは反し、裕福な国でもあった。 国王が良制を敷き、他国との交渉も匠だったためである。
莫大な量の食料を武器に交渉のみで他国を退け、飄々と外交をくり広げる様は、多くの政治家を目指すものの手本とも言われる程だった。 しかしその評価は、ある日を境にがらりと変わる事になる。
その巨大国家が、世界の覇権を握ろうとした事が発端になり、その“大戦”は幕を上げた。今から約、10年前のことである。
その大戦で、アルベルトはレニス王国の一軍人として戦場に赴く事になった。当時三歳であったアルベルトだが、彼自身のとある“特殊能力”により実年齢の数十倍の年齢を経たものの如き知識と魔力を有していた。それにより、彼は多大な功績を残す事になった。 現在のレニス王との、現在にも至る友情を育んだのはこのときである。
度重なる戦乱が終結し、世界に再び安息が訪れた時。 それまでアルベルトと同じ一軍人であった“レニス・スタッカート”は、前王の意思により、後任の王として玉座に着いた。
この大戦が始まるきっかけともなった人物であり、“魔人”とされていた人物と、その側近たちを、たった“五人”で殲滅した“勇者”の一人に対する、前レニス王からの最大級の賛辞であった。
この日を境に、アルベルトの進む道は決まった。
「戦いが終ったら冒険者になる。」
口癖のようにそう語っていた少年が、世界最年少の宰相として、世界最強の国“レニス王国”の舵を取ることになったのである。
Feb 10, 2006
レニス王国宰相 アルベルト・ストラルフ ハウザーとアルベルトのファーストインパクト
アルベルトが始めて“ハウザー・ブラックマン”と言う男に出会ったのは、彼が宰相の地位について間もないときだった。
現在の王である“レニス・スタッカート”が王位に付いたと当時に、一介の冒険者から一気に宰相になった彼には、腹心と呼べる人物が殆どいなかった。 故に、当時のアルベルトにとって“使える人材”を探す事は最重要且つ、最初にしなければならない仕事だったのだ。
“ハウザー・ブラックマン”。 その男に関する報告書は、にわかには信じがたいものだった。
曰く。 魔力駆動の車輪を付けただけの対魔法鎧と、モーターを取り付けたドリルそっくりな槍一本で、敵対国の小隊を全滅させたという。 しかも相手は、精鋭と名高い強化魔道歩兵のみで構成された部隊だというのだ。
どんな化けモンだよそいつはよ・・・。
呆れ半分で資料に目を通していたアルベルトは、世の中には意外とバケモノが多いのだな。と、思い知る事に成った。
ハウザーが戦っていた映像、証言。 どれをとっても、ハウザー・ブラックマンがたった一人で敵部隊を全滅させたとしか考えられないものばかりだった。 いや。正確には彼の部下がいたということだったが、その人物は終始逃げ回っていたという。
会って見よう。 アルベルトがそう思い立ってから実際に会うまで、さして時間は掛からなかった。
「なんだこのチビ。 お偉方に呼び出されたんじゃねーのか?」
第一声。ハウザーはアルベルトを睨みつけると、実に自然な口調でさらりと言い放った。 嫌味でもなく、ボケている訳でもなく、ナチュラルにそう言ったのだ。
「ああ?! お前上司の顔もしらねーのか! 俺がそのお偉方、“アルベルト・ストラルフ”さんだぼけ!」
「アスファルト・ストライプ? 聞いた事ねーぞ。」
「アルベルト!! アルベルトだ!! つか、マジで言ってのかてめぇ!!」
「テメーさっきから聞いてりゃボケだの何だの抜かしやがって、このチビ助が! ぶっ飛ばしてやるからそこに直りやがれこらぁ!!」
アルベルトに殴りかかるハウザーだったが、すんでの所で彼の部下が後ろから破壊締めにするのだった。
「隊長! 落ち着いてください隊長!! この人マジで宰相閣下っすよ! 洒落にならないっす〜!」
「ああ?! この生意気なガキが宰相?! まじでか?」
「まじっす。」
「じゃあ、このミニマム宰相に言葉遣い教えてやらぁ!!」
「上等だこのボケ騎士野郎が! テメーみたいなへなちょこに殴られたってへでもねーってンだよ!!」
「何挑発してんすか〜?!」
そんなこんなで、一時間後。
アルベルトはハウザーの足元に転がる事に成ったのだった。
「ご、ごはぁっ・・・! つ、つか・・・俺こう見えても、“大陸中央戦争”じゃブイブイ言わせてたんだぞ・・・! その俺に、剣一本で・・・?!」
「ああ?! なにほざいてんだボケ! 俺は騎士だぞ?! 魔法だろうがなんだろうが、テメーくらいの錬度の奴なら効きゃしねーってんだよ!!」
騎士だから云々と言う問題では無い。 アルベルトは間違いなく、この国でも十本の指に入る使い手であり、その彼は今、ハウザーと言う男を倒す気で戦い、ものの見事に負けていた。実戦経験も魔法技術も、体術さえ兼ね備えた一騎当千の“歴史に残る天才”と呼ばれる“アルベルト・ストラルフ”が、剣を持っただけの騎士に負けたのだ。
「て、テメー。ほんとに人族かよ・・・。」
「ああ?! 他に何に見えるってンだこのチビ!」
「って、隊長?! まずいっすよ! 俺たちタダでさえ場末の超極小部隊の、っつか、たった二人しかいない部隊なのに、こんなことしたらただじゃすまないっすよ?!」
「安心しろマービット。ここより最低の場所に飛ばされる事はねぇ!」
「飛ばされる以前に首切られるッス・・・! つか、二人の喧嘩で隊舎フッとンだっすよ! 周囲五百メートル更地ですよ!」
「うるせーっつってんだろばーか! 元々この当たりは何も無かっただろうが!」
「・・・それはそれで寂しいッス・・・! つか、宰相閣下も無茶苦茶ッス! お忍びでこんなど田舎に来るわ兵舎フッとばすは・・・!」
「まぁ。良いじゃねーか・・・。 それよりハウザー。」
「さんを付けろこのミジンコチビ!」
「黙って聞けよ・・・。 お前に兵隊くれてやる。」
「ああ?」
釈然としなさそうな顔のハウザーだったが、この後に続く台詞を聞いて、表情が変わる。
「俺には腹心があんまりいなくてな。 特にお前みたいな奴が一切居ない。 だから、お前に部隊をくれてやる。俺の手の届く範囲。アクアルートに来て、国の中枢に近い所で仕事をしてくれ。
つまるところ、大昇格である。 ハウザーはそれまでのヤクザかチンピラのような表情とは違う顔をしていた。 完全に怒りに満ちた顔。
「じゃあ、この村はどうなる。」
「ああ? 元々お前等がここに来たのは嫌がらせみたいなもんだ。ここには元々、隊の駐屯予定はないか・・・」
当たり前のように言ったアルベルトの言葉に、ハウザーは全身から怒気を放つように叫ぶ。
「ザケンなくそぼけがぁぁ!!! 俺が!! 騎士が守るべきは国なんかじゃねぇ!!
「はぁ?!」
「テメー、宰相!! 良く聞け!! テメーが食べるパンは誰が作る?! テメーが住んでる場所は誰が建てた?! いつもいつも当たり前に飲んでる水は誰が井戸から汲んだ?! 全部民だ!! 俺たちもお前も、王も!! 皆民に食わせてもらってるんだよ!! そして俺達はその代わりに!! 命に代えても民を守る!! 俺はこの村で二年過ごした!! 二年間、俺はこの村の土と森と畑と、民に食わせてもらってきた!! だから俺はこの村を命に代えても守る!! そう決めた!! 大体、この村は一度襲われてるんだぞ?! それも敵国の精鋭にだ!! いつ敵が来るとも知れないのに、騎士が守るべき民を置いて別の所にいけると思ってやがるのか!!」
「隊長〜。そう興奮しないでくださいよ〜。」
「喧しい!! 勘弁ならねぇ! マジでぶっ殺してやる!!!」
「あぁ〜!! 落ち着いてくださいっす〜!!」
暴れ狂うハウザーと止めようとする彼の部下を眺めながら、アルベルトは馬鹿のようにぼけーっとしていた。 やがて肩をガクガクと震わせると、大声で笑い始めた。
「なんだ? 殴る前に頭悪くなったか?」
「違うわ!! 気に入った! 気に入ったぞ“ハウザー・ブラックマン”!! テメーに王立近衛騎士団をくれてやる!! 好きに使え!! だか、この騎士団が守る管轄はここじゃねぇ!!」
「ああ?! テメー話聞いてなかったのか?!」
「騎士団が守るのはこの国全部だ!! この国全ての騎士への支持系統がテメーの下に入る!! 好きに使え!!」
「はぁ?! テメーマジで言ってのか?!」
「あたりメーだボケ!! テメーの心意気気に入った!! だが、この村を守るだぁ?! ちまいこちってんじゃねぇ!! 守るなら徹底的に守って見せろ!! この国と、この国の民全部をなぁ!!!」
アルベルトとハウザーがであって、約一時間と数分。 こうして、“ハウザー・ブラックマン”と言う、田舎騎士は、一瞬にして国の顔とも言うべき地位に納まったのだった。
ハウザーは騎士団長に成るに当たって、部下を一人連れて行きたいと言い出した。 彼が田舎の弱小部隊に飛ばされる、ずっと以前から下にいた男で、アルベルトに襲い掛かるハウザーを必死になって止めた人物だった。
名は、“マービット・ケンブリッジ”。
“ハウザー・ブラックマン”の懐刀にして、見た目に反して優秀な副官である。
“城落しの”ガルシャラ・カーマイン
字の通り城を一人で落としたこともある化け物。
種族、年齢一切不明。
二本一対のショートソード、巨大なブレード、規格外の金属鞭を操ることから、“四つ牙”とも呼ばれていたが、今では殆ど“城落し”。
得物や服装はすべて黒一色。別に意味があるわけじゃなく、単に冒険屋と言う家業柄汚れが目立たないようにする為らしい。
常にグラサンを掛けているが、理由はこれまた不明。本人に聞くと、「眩しいから」「バジリスクの血が混じっているから」「目が無いから」と適当な答えが返ってくる。
愛剣である巨大なブレードは“動魔剣・餓躯”と言う銘の業物。ガルシャラの意思一つで、実は30m級の機動鎧である所のその正体を晒す。
行動、思想ともに基本的には穏やかな常識人ではあるが、そう言う人間の常か、怒るとむちゃくちゃ怖い。
実際に彼を怒らせた国が、一つ地図の上から消えている当たり、その怖さのハンパ無さは推し量れる。
“聖剣使い”レニス・スタッカート
魔剣を扱うものを魔剣使いと言うように、聖剣を使うものを聖剣使いと呼ぶ。レニスは複数の聖剣を持ち、それらすべてを使いこなす聖剣使い。
聖剣は普通の魔剣と違い、使用者の力を触媒として力を発動させるものが多い。詰まるところ、強い奴が使えば強く、弱い奴が使えば弱い。 レニスが“不可視の手 インビジブルパワーズ”と呼ばれる、一定範囲内のものに対してサイコキネシスのような不可視の力を加えられる聖剣を要した場合。周囲五キロ圏内のありとあらゆるモノを粉砕することが可能だ。発生源から近いほど力を発揮する為、もし半径一キロ圏内であるならば、移動島クラスのシールドも意味を成さない。
どんなときでも崩さない無表情は、実際に生まれてからこの方ピクリとも動いたことが無い。別にそう言う種族と言うわけではないのだが。
当人が宣言してはばからない通り、思考は基本的に冒険屋だ。「あまり動かないからついに腹に来たのか。脂肪が。メタ・・・メタ・・・メタ何とかになるぞ。」とかほかの国の国王に平気で言っちゃうその胆力は、冒険を生業にしていた頃に付けた物。
“黒の”トレット・レラルム
死して未だに恐れられる男、“ホーリー・クライス”の唯一の弟子。
台風を拳で吹き飛ばし、移動島を宇宙に放り投げる破天荒で常識無視なしな師匠に付いていたせいか、実に温和で常識に満ちた人物。髪が長いのと整った顔立ちから女性に間違えられるが、一応男性。
彼の戦闘スタイルである“魔闘術”は、“拳にありったけの魔力を込めて殴りつける”と言う、シンプル且つダイナミックな技、“魔拳”を基礎にして奥義としており、その破壊力はまさに“一撃必殺”。 ちなみに、トレットが掲げる看板は、“多撃必勝 一撃必殺”である。要するに一撃必殺を乱発して必ず勝つ。と言うこと。
基本的に曲がったことが大嫌いで、困っている人がいたら助けるのが当たり前だと思っている類の天然善人。 普通ならば「青二才が!」などと悪役に一蹴されるような青臭い正義感をかざすものの、本気になれば機動鎧をまとめて十数機吹き飛ばす拳撃を乱発するトレットを一蹴出来る悪役は滅多にいない。
そのルックスと人柄から無闇にモテるが、本人はおんなっけゼロ。 一人前に成る為には、まだまだ色恋に現を抜かしている暇は無い。と、言うのが本人談。
自分の実力を極端に過小評価しているご様子。 まあ、師匠や周りの人間がトレットに輪を掛けて人外だったゆえに、仕方ないか。
ホーリー・クライス
数年前に死んだ人族の男。
どぎつい三白眼と、チンピラ口調から、町のアンチャンにしか見えない風貌であるにもかかわらず、その実力はいまや教科書に乗るほどであった。
拳を振るえば大地が割れ、空気が震えたと言われるほどの豪腕の持ち主。実際に割られた大地が、今では数箇所観光地に成っている。
どこの国にも所属せず、道路工事と喧嘩を生きがいに生涯を過ごした。どういう訳か肉体労働、それも主に“働くお父さんお母さん”を非常に好み、労働者の地位向上に無駄に尽力を腕力で尽くしたりしていた。
その一方、国家間戦争が起こりそうになったと見るや、両方の国に一人で乗り込み、軍隊に壊滅的打撃を与え無理やり交渉の席を設けさせるなど、その行動原理は謎に包まれている。
彼が死んだとき、殆どの者がその死を信じなかったと言う。 彼ほどの魔力の持ち主ならば、不死法もたやすく習得出来ていただろうと考えたからだ。 しかし、クライスは三十台後半と言う若さで亡くなった。 先に逝った彼の妻との間に出来た一人息子は、どう言う訳か“勇者”を名乗り、父と同じように自由気ままに世界を放浪している。
彼の友人の中には、未だに彼が尋ねてくるのを待っているモノもいる。あいつが一回死んだぐらいで落ち着くはずが無い。そのうちあっちに飽きたら、こっちに顔を出しに来るだろう。と、彼らの談。 実際、次元の壁を素手で引き裂いたと言う実績のあるクライスだけに、本当にやってしまいかねないところが怖い。
彼があの世から遠征に来る時が来るのも、遠くないのかもしれない。